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早稲田のゼミをのぞいてみよう ~早稲田大学ゼミ紹介~

2016年11月11日 11:00

シェイクスピア文学の最高峰『ハムレット』を原文で学ぶ ~セリフから得る人生への力~

研究室DATA
冬木 ひろみ 教授(文学部)
英文学演習3 C(戯曲)
所在地:戸山キャンパス31号館
どんな演習?
 シェイクスピアの代表的な悲劇である『ハムレット』を取り上げて、さまざまな観点から作品の世界を読み解いていく授業です。最初の数回は、時代背景や当時の演劇事情を学ぶと共に、原文にあたることで翻訳だけではわからない台詞の意味や意図などを考えていきます。その後は、個人またはグループごとにテーマを決めて『ハムレット』に関する発表を行い、ディスカッションを通してさらに考察を深めます。『ハムレット』を自分なりに解釈できるようになることが、ひとつの到達目標です。
原文にあたることで、『ハムレット』の台詞の神髄に触れられる
 『ロミオとジュリエット』や『マクベス』『オセロ』など、誰でも一度はシェイクスピアの作品を読んだことがあるのではないでしょうか。また、活字ではなく映画や芝居で観たという人もいるでしょう。多くの人が知っているシェイクスピアの作品、その中でも『ハムレット』を演習で学ぶ意味はどこにあるのでしょうか?

 「『ハムレット』はシェイクスピアの最高峰だからです」と冬木ひろみ先生。「人間の存在とは何かを深く考えている作品で、いつの時代にも関わってくる問題を取り上げています。英文科の学生と言っても、4年間の中でいくつものシェイクスピア作品を学べるわけではありません。であれば、一度は『ハムレット』に、しかも原文にあたって深く考えてみることには意味があります」。ちなみに、実はハムレットは大学生。年齢は30歳とやや上ですが、同じ学生であるところから身近に感じてもらえるのではないかと冬木先生は言います。

 また、「演習」という位置づけのため、先生の話を聞くだけではなく、学生が自らテーマを設定して発表を行い、ディスカッションを行うのもこの授業の大きなポイントです。「自分たちで発表することで、作品により真剣に向き合うことになるからです。学生の新鮮な視点に私自身が刺激を受けることも多く、発表は毎回楽しみにしているんですよ」。

 授業を取材した秋学期の第3回目は、『ハムレット』の原文を読みながら台詞の意味や意図を考えていこうという内容でした。たとえば、第一幕の"I am too much i'th'(in the)sun"というハムレットの台詞。翻訳ではかなり意訳されている場合もありますが、授業では冬木先生が原文の単語ごとに意味を細かく検証。sunには「太陽」あるいは「太陽のような王」の意味、さらにはすぐ前に叔父が「息子よ」と発言していることから、同じ発音の「son(息子)」の意味も考えられると解説していきます。『ハムレット』は言葉遊びも非常に多いということで、原文を読むことで翻訳ではわからない作品の奥深さを知ることができるそうです。

 さらに、毎回映画や舞台などの映像作品を紹介するのもこの授業の魅力のひとつです。この日は、ケネス・ブラナーが監督・主演した1996年の映画『ハムレット』の一部を紹介。映像を見ると、「ハムレットはこのときどんな色の服を着ていた?」「ハムレットはどこに立っていた?」といった、文字だけでは伝わりにくい事柄を視覚的にとらえることができると言います。「もちろん、映画や舞台はひとつの解釈しか表すことができませんが、原文と比べながら見ていくと面白いのではないでしょうか」。
第一幕のハムレットの心情について触れたところで、映画『ハムレット』の戴冠式のシーンを上映。ハムレットが一人だけ黒い服を着て国王の喪に服していることや、立っている位置、表情などをみんなで確認していきます。
「この単語には、どんな意味が考えられるでしょうか?」。ときにはクイズ形式も交えながら、『ハムレット』の台詞の意味を熱心に解説する冬木先生。「授業の後で質問に行ったときも、いつも親身に教えてくださって、冬木先生のおかげで英文学に対する興味が高まりました」(2年・小寺雄大さん)。
発表では、各自の視点・切り口で『ハムレット』を読み解く
 さて、すでに述べた通り、この演習で大きな位置を占めているのが学生たちによる発表です。15回の授業のうち、実に約3分の2近くの回数を使って、『ハムレット』をテーマにした研究発表を行います。「何人かのグループでやるのか、それとも個人個人で発表するのか、今年はそこがまだ決まっていません。希望に応じて、どちらでもいいということにしようかなとも考えています」と冬木先生。

 『ハムレット』に関することであれば、テーマはかなり自由に考えてよいそうです。その理由は、「自分の好きなことからアプローチするのがいちばんよいと思うからです。まだ何人かが相談に来ている段階ですが、切り口として比較的多いのは、ハムレットがなかなか復讐できないのはなぜなのかを考察しようというものや、ハムレットとオフィーリアの関係に注目しようというものなどですね」。

 また、次のようなテーマを考えている人も。大谷望桜さんは「まだ最終決定ではないので、変わるかもしれません」としつつ、『ハムレット』の原作となったデンマークの『アムレス王子の伝記』との比較に取り組んでみたいと話してくれました。冬木先生によると、原作との比較を通してシェイクスピアの独自性を探ることも、非常に大切なポイントのひとつなのだとか。

 前年度の発表でユニークだったテーマには、『ハムレット』とディズニーの『ライオン・キング』を比較したもの(ディズニーは公式に『ハムレット』を下敷きにして『ライオン・キング』を制作したと認めています)や、心理学の側面からハムレットの心情を解き明かしていくものなどがあったそうです。「他にも、多数ある映画や舞台の『ハムレット』を取り上げて、そこにテーマを求める学生は毎年います」。

 発表の持ち時間は、1グループあるいは一人約15分程度を予定。発表は、作成したレポートを読むだけでなく、スライドを作ったり映像を使ったりさまざまな方法を工夫する学生が多いそうです。「最初は『ハムレットはよくわからない』と言っていた学生が、言葉の問題や生き方、哲学、時代背景などを突っ込んで発表する様子を見ると、その成長ぶりに私自身も本当にうれしくなりますね」。

 そして、発表後には毎回ディスカッションを行います。どちらかというと大人しい学生が多いそうで、ときには質問者を設定して質疑応答を盛り上げる工夫をすることもあるとのこと。さらに、それぞれの発表の後だけではなく、授業の最終回には全員でのディスカッションをする予定になっています。とは言え、議論を尽くしても、意見がまとまるとは限らないと冬木先生。

 「ただ、無理に総括しなくても構わないと考えています。文学系全般に言えることですが、解釈の幅がとても広いのでひとつだけが『正解』というのはないからです」。特に、演劇では主人公のプロフィールや、物語が展開する場所や状況などがほとんど書かれていないこともよくあります。「だからこそ、原文を読み込んで自分なりに想像力を働かせることが重要です。また、時代や国が変われば、受け止め方もまったく変わってきます。さまざまな解釈の可能性があることを実感してもらうだけでも、発表とディスカッションの意味は十分にあると考えています」。
毎回の授業では、冬木先生が作成したオリジナルの資料を使用。授業で使う箇所の原文や翻訳文をはじめ、『ハムレット』の世界を知るための参考になる図版や絵画、考え方のポイントなどが2~3枚にまとまっています。
学生の机の右端に置かれた緑の紙に注目! 実は出席カードなのですが、冬木先生の授業では出席カードの裏に授業での「質問」や「意見」を書いてくる学生が少なくないのだとか。「次の授業で、出席カード裏の質問や意見に答える時間を設けることもあるんですよ」(冬木先生)。
先生からのメッセージ
 シェイクスピア作品は、言葉が古いですし登場人物も多く、少々難しいと感じる人もいるかもしれません。ただ、じっくり向き合うと、どん底に落ちたときや恋に悩んでいるときなど、さまざまなシーンで心に響くいい言葉にたくさん出会えます。一種のシミュレーションとして作品で描かれている事柄を体験し、その素晴らしいセリフを楽しむことは、あなたの「人生の力」になると思いますよ。とっつきにくい高尚な古典と考えずに、舞台や映画も含めてもっと身近なものとしてシェイクスピアを体験して欲しいですね。
先輩からのメッセージ
 高校までは理系志望でしたが、自分の適性を見つめ直して文系に転向。予備校でジェーン・オースティン(英文学者)を研究している先生に出会ったことが契機となって、文学部を目指すことにしました。シェイクスピアに触れたのは大学入学後です。原文は読むだけでも苦労しますが、夢中になって読んでいたら何時間も経っていたこともあります。受験は大変だったけれど、今は大学で自分が興味を持ったことを存分に学ぶ楽しさを味わっています。

2年・小寺 雄大さん
先輩からのメッセージ
 中学1年のときに、シェイクスピアの劇を現代風にアレンジしたような内容のテレビ番組を見ました。それがきっかけでシェイクスピアの世界観に強く魅かれて、「大学ではぜひシェイクスピアを勉強したい」と思うようになりました。そして、どうせならなるべくレベルの高いところで学びたいと早稲田大学を志望しました。『ハムレット』には哲学的な部分も多く、まだまだ精読の余地があると思うので、この演習で学ぶことをとても楽しみにしています。

2年・大谷 望桜さん
この演習を目指すキミに先生おすすめの本/映画
シェイクスピアのたくらみ』喜志 哲雄/著(岩波新書)

 シェイクスピア研究で知られる高名な先生が書いた本です。シェイクスピアがどんな意図を持って作品を書いたのか、観客にどう思わせようとしていたのかなどを、独特の視点から深く、鋭く読み解いています。シェイクスピアの本を読んで学ぼうと考えている人だけでなく、これからシェイクスピアの舞台を見てみたいという人にとっても最適な一冊です。

リチャードを探して』アル・パチーノ/監督・出演(ドキュメンタリー映画)

 俳優アル・パチーノが、シェイクスピアの『リチャード三世』を舞台化するまでの過程をドキュメンタリー風に描いた映画。アル・パチーノのシェイクスピアへの情熱と解釈の深さは、差し挟まれる『リチャード三世』の映像と同様に素晴らしいものです。また、街の人へのインタビューなどからは、アメリカ人がシェイクスピアをどうとらえているのかが浮かび上がってきます。シェイクスピアの面白さを、どんな映画よりも雄弁に語っている一本と言えるでしょう。
(取材・文/肥後 紀子 撮影/早稲田大学体験webサイト)※2016年度取材

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