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早稲田のゼミをのぞいてみよう ~早稲田大学ゼミ紹介~

2016年1月22日 11:00

途上国が先進国に飛躍するには何が必要なのかを学術的に考える トランゼミ

研究室DATA
トラン・ヴァン・トゥ 教授(社会科学研究科)
現代経済開発論研究演習 I・Ⅱ
所在地:早稲田キャンパス14号館
どんなゼミ?
 貧困にあえいできた国々が、いかにして経済成長の糸口をつかみ豊かな国として発展を遂げていくのか――いわゆる「開発経済学」の視点を軸に、世界経済が発展してきたプロセスを浮き彫りにしていくのがゼミの目的です。学部生向けの「ゼミナールIII(アジア経済と日本)」のレポート(http://www.quon.asia/yomimono/waseda/seminar/2015/01/23/5366.php)に、既にトラン先生には登場いただきましたが、この「現代経済開発論研究演習 I・Ⅱ」は大学院生が対象。留学生、社会人と幅広いゼミ生が開発経済学の本質に迫ります。
社会人と留学生のゼミ生が圧倒的多数を占める
 明治維新を経験して途上国から出発した日本は先進国にまで成長しました。その軌跡を今、アジアをはじめとする国々が追いかけるように発展を目指していますが、各国によって様々な問題や課題が生じているといいます。トラン先生はベトナムのご出身で、日本が高度経済成長期に差し掛かった1968年に来日して以来、50年近くにわたって日本の経済発展を参考にしながら、母国であるベトナムなどがいかにして経済発展を遂げていくべきなのかを分析しています。

 「開発経済のテーマの一つは貧困問題の克服です。世界に今、約10億人いると言われる貧困問題をいかにして解決してくかを探っていきます。それと同時に、貧困を脱却した後の中所得国の問題も考えていかねばなりません。今、世界で約50億人が中所得国に暮らしていますが、ここから飛躍して欧米並みの先進国にたどり着いたのは、アジアでは日本と韓国、台湾、シンガポールくらい。中所得段階で停滞し続けてしまう"中所得国の罠"を抜け出す方法の研究に、私たちは積極的に取り組んでいます」(トラン先生)

 修士と博士の合同のゼミということもあり、ゼミ生の顔ぶれはバラエティ豊か。開発経済はアジアの国々がまさに直面する課題だけに留学生が多いのが特徴です。現在は3人の中国人留学生が学びを深めていますし、先生の母国であるベトナム人が特別参加することもあるそうです。また、ビジネス経験が豊富な社会人院生も数多く参加しています。

 「そもそも早稲田大学の社会科学研究科は夜間大学院として発足したこともあって、社会人を数多く受け入れる文化が根付いています。私のゼミにも官公庁や民間シンクタンク、海外ビジネス支援団体などで活躍している社会人が、仕事上での知見を深めるために博士号の取得を目指しています」(トラン先生)

 それゆえ、ゼミの開催日は会社がお休みとなる土曜日。社会で活躍しているOBや他の研究科の学生も積極的に参加しており、20代から上は70代までの幅広い人たちが机を並べて開発経済の有り様を探っています。

 修士では1年目は基礎理論である経済発展論を中心に開発経済学の全容を把握することに努め、2年目からは各自の問題意識に沿ったテーマを設定、論文の作成に入ります。一方の博士課程は時間をかけて研究を進めていきます。研究のポイントごとに紀要・ジャーナルなどに投稿するほか、他の専門家からコメントを求めたり、学会に発表したりして内容を精査し続け、博士論文の提出を目指します。博士を目指しているのは社会人が多く、働きながらの研究ということになるため、博士論文を提出するまでには6年ほどの長い時間がかかると見込んでいるそうです。
ゼミ生の議論を受けて、トラン先生は理論立てて発表のポイントや修正すべき要素などを解説してくれました。
ゼミ生の論文にはたくさんの資料とデータが盛り込まれています。まさにアカデミック。
現役ビジネスパーソンならではの鋭い指摘が、学問の質を高めていく
 ある日のゼミでは、中国人の修士2年生の冉景珍さんが修士論文「中国における少子高齢化とその経済発展の影響」についての報告を行いました。中国の急激な経済発展に伴う賃金上昇の速さ、そして少子高齢化問題に伴う労働力不足などを課題として挙げ、問題点を解消するための政策提言をまとめていこうとしています。

 発表を聞くゼミ生たちには、既に社会人としてリアルな経済を支えている方々も含まれています。だからこそ中国経済、ひいては世界経済の実状を踏まえた指摘が次々と入り、課題設定の仕方、根拠となるデータの有無、論文の抜本的な構成に至るまで細かくアドバイスを送っていました。冉さんがタジタジになってしまうほどの鋭さでしたが、経験豊富なゼミ生がそろっているトランゼミだからこそ、とことん質を極めていくことができるのです。

 基本的にトラン先生は、ゼミ生たちの議論を促す議長的な立ち居振る舞いをしています。問題の核心はわかっていても、あえて最後まで言いません。冉さんの発表に対しては、議論が一段落したところで、日中両国の経済成長の形の違いを踏まえて問題点を解説していました。あくまでも学生の自主性を促しているというわけです。

 「ゼミでの学びを通して自ら思考する力を高めることで、博士課程の方は立派な研究者、専門家になってほしいと思っています。修士課程の学生はそのまま就職をする人も多いですが、2年間の修士課程で経験した思考力は、社会で生きるための確かな力となるはずです」とトラン先生は学生たちにエールを送ります。

 社会人がいる関係で、長期的なゼミ合宿は開催しませんが、その代わりに年に2回「読書会」を行っているとのこと。春にはゼミ生各自が選んだ本に関して全員の前で発表し、秋には伊豆の早稲田大学のセミナーハウスを舞台に、1泊の泊まり込みで先生が選んだ本を輪読していくそうです。

 アカデミックな領域に踏み込んで、アジアをはじめとする世界の国々を見つめていくトランゼミ。国際経済や国際社会を本格的に学びたいという人にとって、最高の場が整っています。学部の"先"も視野に入れて、進路を決めてみてはいかがでしょうか?
写真右端が研究発表した冉さん。先輩ゼミ生の鋭い指摘に対して、懸命に回答をしようとしています。
年2回読書会を開催。秋の読書会は伊豆のセミナーハウスに1泊して輪読を行っています。
先生からのメッセージ
 大学院という場は、学部と比べて圧倒的にレベルの高い学問を学んでいきます。ゼミ生たちはきちんと本を読み、研究を記して行くなどして、思考能力や客観的な分析能力を高めることで、知的生産力を身に付けていかねばなりません。理論や学問を身につけて行く姿勢は、社会人にも不可欠な要素。私のゼミには多くの社会人が参加していますが、研究を通して各自が仕事上に必要な知見を深めています。学部から上がってきた学生にとっては、社会人のベテランからアドバイスが受けられる点もプラス要素として働いています。
先輩からのメッセージ
 私は食品系学科の出身ですが、トラン先生の本を拝読して開発経済に興味を持ったこと、視野を広げて文系学問に挑戦したいと思ったことからこのゼミに加わりました。トラン先生は開発経済の内容のみならず、アジアをはじめとする国々の歴史や、先生が日本とベトナムで歩んできた経験なども話してくれるので、自分の視野がぐっと広がりました。これからの人生を歩む上で役立つことを、まさに今、しっかりと学ぶことができていると実感しています。

修士1年・朱沫さん
先輩からのメッセージ
 私はあるシンクタンクで働いているのですが、担当が途上国の経済調査だけに、より深く仕事を掘り下げていきたいからと当ゼミを選びました。トラン先生の知識や経験は私の目指す方向にまさに合致しており、充実した学びを重ねることができています。ゼミには同じような社会人院生やOBも参加しており、様々な立場からのコメントをもらえる点にも素晴らしさを感じています。トラン先生は仕事と両立している社会人学生を最大限に配慮してくださいますので、学部生はもちろん、多くの社会人にも目指してほしいですね。

博士1年・青木 昌史さん
このゼミを目指すキミに先生おすすめの本
比較経済発展論-歴史的アプローチ』斎藤修 著(岩波書店)

 経済発展の長期過程を比較的視点から分析した優れた研究書で、近世から近代までの市場経済の発展、工業化の展開、生活水準の変化について経済発展の理論・歴史・統計を勉強することができます。

なぜ貧しい国はなくならないのか』大塚啓二郎 著(日本経済新聞出版社)

 貧しい途上国の貧困削減、持続的発展のための正しい開発戦略・政策は何か、限られた資源をいかに使用するか、投資すべき分野及び順序を明らかにしています。開発経済学をやさしく解説した優れた入門書です。
(取材・文/佐藤 明生 撮影/早稲田大学体験webサイト)※2015年度取材

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