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早大教員の授業における Good Practice &Tips 集

2018年9月 4日 15:00

大人数の講義でも「生の人間による『実況』」を最重視。提出ノートはきめ細かくフィードバックし、学生の将来の資産になるよう企図

【早稲田大学ティーチングアワード2017年度秋学期総長賞受賞者インタビュー】中谷.jpg

対象科目:近代建築史
受賞者:中谷 礼仁(創造理工学部教授)
「ライブ感」を重要視した講義形式
 近代建築史は建築学科の専門選択科目であり、2年生以上が履修することができる。建築学科以外の学生でも受講可能ということで、大変人気がある科目となっており、2017年秋学期の履修者は192名であった。今回のティーチングアワードにおいて、創造理工学部で候補となり得る科目における学生授業アンケートで最も高い平均評点を獲得し、「丁寧でわかりやすい」などの評価を得た。階段教室を利用して行われる大人数の学生を対象とした講義であるが、中谷教授が大切にしているのは、その場で起こった反応を見ていきながら授業をする「ライブ感」。「実況・近代建築史講義」(LIXIL出版2017年)を上梓した教授の講義に対する姿勢は、この書籍名にも使われている「実況」という言葉に集約されている。

 この科目では、講義を始めるにあたり、まず「歴史とは『少なくとも2つ以上の事象の間に発生する、想像的な時空のこと』である」、と定義をする。はるか昔から、客観的な書記官が存在したわけではないのだから「歴史を単純に信じるな」、「自分で新しい物語を描き、いずれ世に問うてほしい」と中谷教授は考える。

 実際どのような形でライブ感あふれる講義を行うかというと、教授いわく「一人ロックバンド」みたいなもの、だという。中谷教授は2007年から早稲田大学で教鞭を務めているが、この授業はそれ以前に勤めていた大阪市立大学の時から始めた。その時には比較的少人数の40人規模の授業のための濃厚なプログラムを組んだ。コール&レスポンスで、その場の雰囲気を大切にして、調子がいい時は学生からその場で話題をもらったりしながら進行していたという。それを200人規模になった今でも少しずつ調整しながら踏襲しているのだという。

 「何が変わったかというと、履修者からの反応の様子です。大きな階段教室で講義するのですが、講義がつまらないと、空気がさーーっと引いていくのがわかります。逆に、みんながおもしろいって思っていると、『目が来る』って、本当に感じます。その意味で大教室の雰囲気を握るのは無言の学生たちであり、なんとかそれに対抗して場所を作っていかなければならないのです。本来は40人規模のライブハウスでの濃い内容だったわけで、それを200人規模のハコに変えたのですから、履修生からユニークなレスポンスをもらうには色々と授業構成上の調整が必要になります。コンサートホールでいかにライブハウスのノリを保つかです」。 ライブハウスからコンサートホールになっても、以前と変わらず聴衆の反応を確かめながら発信するのが、中谷教授の授業スタイルだ。
すぐれた疑問を与えれば、学生は自然と楽しんで学ぶ
 講義は「本質をつく疑問を与えて、それを授業で考えつつ提示しながら、レビューでさらに補完して展開する」というスタイルで行われる。Course N@viにレビュー機能があるので、前回の授業のレビューは必ず見ておき、学生から反応がある場合は、改善点があれば対応している。期末の最後のレビューでは授業の改善点も問う。たとえば今年度は、授業で使うプレゼンテーション用のテキスト(文字のみ)を授業前に公開しておいてほしいという要望があった。そうすればプリントアウトしておいたものに授業で書き込めるようになるからというのが学生からの理由だった。中谷教授は確かに効率的だと考え、来年度からそのように対応することにしている。このように、改善点を提案してもらうのは大歓迎と中谷教授は言う。ちょっとしたことではあるが、学生からの意見をきめ細かく吸い上げる姿勢が、高評価につながっているのだろう。

 成績の評価は、試験はなく、レポート8割、平常点評価2割とシラバスに明記してあり、レポートは日々用いられている授業でのノートを基本にし、そこに考察を加えて編集したものを提出することとしている。このノートは、中谷教授の授業を受ける醍醐味とも言えるもの。教授いわく「ノートはライブの記録。ライブでどのくらい書き留めたか、それプラス、自分であとから復習して自分なりに勉強したことを書いてあったりとかすると、高いランクがつく」。学生が提出するノートは、昔ながらの大学ノートにびっしり手書きのものもあれば、プリントを切り貼りしたもの、自分なりの建築物のスケッチを加えたもの、バインダーやファイルにプリントを入れたもの、付箋を使って工夫したものなど、さまざまなものが集まっている。

レポートS.jpg
 ノートが提出されると、TA(ティーチングアシスタント)と中谷教授とで、まず注目すべきところに線を引く。誤字を見つけたらそれも指摘する。これには二つの意味があって、まず教える側が読んでいるという意思表示、それから、ここおもしろいねっていうレスポンスを返すことができるからだ。学生はその気づきをさらに伸ばしてみればいいという。さらにその後、教授が総合的なコメントを書いて点数をつけている。

 また、先にも触れたCourse N@viのレビュー機能では、一定数以上の投稿をした場合は成績に加点することにもしている。このレビューは名前を非公開にして共有もしており、学生は別の学生が書いたものを見ることができるため、授業の客観的評価を増すためにこの機能はとても役に立っているという。「レビューでいい指摘があったときには、次の講義でそれをまず皆で確認するわけです。この指摘はおもしろい、とか。また、いくつか共通の疑問が出た場合も解説します。そうすると学生も反応が得られて納得しますよね」。
「歴史はこれから作るものである」というメッセージを発信しつづける歴史の講義
 講義でもよく映画を素材として使用している中谷教授だが、講義自体も1時間30分の映画のようなものでもあるという。興味の湧く謎解きのようなイントロダクションを作って、その答えをどのようにクライマックスにしていくか、そういったことも授業をしつつ頭の中で終始書き換えながら行っているそうだ。また、現在の講義の構成はすでにほぼ完成しているが、その意味で細部はだんだんと変わっていく。あとは的確なマイナーチェンジを重ねていこうと考えている。現在では、YouTubeなどの動画サイトの情報源が頻繁に更新されるので、例えばルネッサンスを扱っているときに、ちょうど参考になる資料として適切な映像がアップロードされていれば、それに差し替えたりするなどして、最新の情報も取り入れているという。

 講義のある日の朝は、関連する最新動画をチェックして、例えば外国のテレビ局や美術館などが配信しているものがよいと判断すれば、そちらに差し替えたりもしているそうだ。たまに学生のレビューから授業を彩る興味深い動画の存在を教えられて、それを採り入れることもあった。たとえば20世紀最大の建築家の一人であるル・コルビジェの名作住宅「サヴォア邸」をパルクールたちが駆け回る動画。これはサヴォワ邸の持つ速度感を存分に表していたので次年度から授業での定番になった。

 歴史に唯一はないし、権威に敬意を払いつつ、自分で歴史をデザインしてみよう、作ってみよう。講義を通じてそういった能動的な歴史へのアプローチを学生に身につけてもらうのが教授の希望だという。「歴史とは、倫理性を高く置けば、基本的に自由な想像空間です。その中で今とはなにか、過去とはなんだったのか、そして未来はどうすべきかをゆっくり考えていく、そういう学問です。歴史を暗記モノという先入観で、ずっと嫌いなまま生きるのはもったいない。だって、自分自身も楽しんで講義しているからです。歴史が想像的な空間だとすれば、サイエンスフィクションと歴史は案外近いのです。そんな視点で近代世界や建築の成り立ちについてゆっくり考える癖をつけてもらう。そうしたら、ちょっと歴史を勉強してもいいかなと思う学生もいるかな、と。そんな気持ちでネットもいいですがそれ以外の情報の探し方も教え、さらにそれらからの想像的な時空間、つまりは物語の組み立て方の実例を示しているつもりです」。

実況近代建築史講義S.jpg














中谷先生著書
「実況・近代建築史講義」(LIXIL出版2017年)

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