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早大教員の授業における Good Practice &Tips 集

2018年7月 2日 17:05

オリジナルの参加型シミュレーション演習を導入し、抽象度の高いモデル実験を可能に

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経営システム工学入門実験A
創造理工学部経営システム工学科設置科目)

中島 悠
早稲田大学非常勤講師

菱山玲子
理工学術院 教授



 「経営システム工学入門実験A」は、創造理工学部経営システム工学科に入学した1年生が春学期に初めて出会う実験科目である。この実験科目で学生達は参加型シミュレーション演習を通じて非常にユニークな「大規模アクティブラーニング」を体験する。抽象的な経営システム工学分野のモデル概念を学ぶ機会を与えるこのシミュレーションは、教員により独自にシステム設計・開発がなされたもので、国際会議の査読付論文やデモンストレーションを通じて学外へも紹介されており、対外的な評価も高いという。

大学で実験に参加する環境を整えることから始まる
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  実験の遂行・結果の整理、分析と考察、発表活動は理工系学生の基礎的なアカデミックリテラシーに位置付けられる。経営システム工学入門実験A(必修科目)はいくつかの実験から構成されており、入学したばかりの新一年生がこれらのリテラシーを学ぶ機会を提供している。経営システム工学科ではノートPCが必携と
なっており、授業では学生たちが各自のPCを大学のネットワークに繋げて各種設定を行うことからスタートする。設定後は実験テーブルのグループ単位での実験が始まり、グループワークを介して大学での学びを深度化してゆく。この科目は春学期の月曜4限・5限の2限連続で行われている。

 この科目は10年以上の長い歴史を持つ実験科目として設置されているが、2013年度に大幅なカリキュラム変更を行った。その際に取り入れたのが「コロッケ工場ゲーム」と「最後通牒ゲーム」というWebブラウザ上で行える参加型シミュレーションゲームである。「経営システム工学という学問領域では、抽象度の高いモデルを扱いま
す。そこで、学科に進学した初期段階で、そのような抽象度の高い問題のイメージを体験から獲得できるようにするための方法を開発しよう、ということで取り入れました(菱山教授)」。
抽象度の高いシミュレーションにゲーム感覚で参加できる
 「コロッケ工場ゲーム」は、経営における人、モノ、金、情報の流れを時間軸のあるシステムとして体験できる、マルチエージェント指向のゲーミングシミュレーション(ゲーム性を有するシミュレーション)である。「エージェント」とは自律性を持ち、意思決定機構、問題解決や学習機構を有する知的な振る舞いを実現するソフトウェア(オブジェクト)である。この演習ではジャガイモ農家、コロッケ工場、小売店、消費者といった立場に、人やエージェントとしての役割(ロール)が付与される。この計算環境で、学生たちは3人で1つのグループを組み、それぞれが「コロッケ工場」「小売店A」「小売店B」のいずれかの役割を持つプレイヤとして参加し、時間軸のある文脈(シナリオ)を体験する。

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 学生たちは各自PCのWebブラウザを介してこのシミュレーションゲームに参加できるため、特別な独自ソフトウェアをローカルなPC環境にインストールする必要がなく、準備のコストがかからない。また、欠席した学生がいた場合でもそのグループのみオンデマンドで、メンバー各自が自宅から追実験に参加できるというメリットもある。

 コロッケ工場のシミュレーション演習は、まず配布されるゲームの概要を記したシナリオを読み、グループで議論し戦略や仮説を立て、実験を行い、その結果を分析し発表資料として提出するという流れで進行する。教員側は仮説を立てる際、発注しても在庫がなければ売れない、冷凍すれば長期保存ができ商品を廃棄せずに済む(機会損失、損失ロスの概念)、過剰な在庫はコスト要因となる等の基本的な経営管理の概念に加え、顧客需要の小さな変動が工場や原料調達では大きな需要変動になる(ブルウィップ効果)といったサプライチェーン上の理論を想起させる仮説を期待する。しかし、1年生にはなかなかイメージができない。「学生たちは、最初は『コロッケ屋なら簡単だ!』とバカにしますが、実際やってみると予想外のことが次々と起こり、思ったように商売ができない。たかがコロッケ、されどコロッケ、みたいなところがあります。」(菱山教授)。

 「コロッケ工場ゲーム」の実験演習プロセスは、次のとおりである。実験ではPC上で小売店A、Bがそれぞれ独自に販売価格を設定し、需要に応じて揚げたてコロッケを販売すると同時に冷凍コロッケを工場に発注する。工場は農家にジャガイモを発注し、冷凍コロッケを生産し在庫としてストックし、各小売店からの受注に応じて出荷する。小売店は工場からのコロッケ納入数やコロッケ販売数、コロッケ在庫数に加え、売上高や一般管理費などの財務データも分析し、反省をふまえて次期の価格設定や発注を見直し、これを10期分繰り返したところで1回の実験が終了する。

 実験終了後、学生たちは各自の実験データをExcelで分析し、PowerPointでプレゼンテーション資料を作成し、Course N@vi上のレポートボックスへアップロードして提出する。翌週の授業では、経営成績が良好だったグループや、逆に悪かったグループを教員が適宜選んで指名し、グループの3名(工場、小売店A、Bをロールプレイした学生)が1組となってプレゼンテーションする「業績報告発表会」を実施する。

 年度毎の学生数により多少の違いはあるが、多い年では50以上のグループが一度にシミュレーションゲームに参加することになるため、授業時は菱山教授が実験室の学生への作業指示を担い、中島先生が実験システムの運行管理を行いながら連携して実験を進行する。また、この参加型シミュレーション形式の実験は「コロッケ工場ゲーム」に加え、後続する「最後通牒ゲーム」と合わせて2回の実験演習を、演習として年間カリキュラムに組み入れている。大規模な演習時には一時的にコンピューティング環境に負荷がかかる。そこで、この演習ではコンピューティング環境の変化に合わせて容量をスケールアップないしスケールダウンできるアマゾンウェブサービス(Amazon Web Service)の仮想サーバサービス(Amazon Elastic Compute Cloud 、EC2)上で展開している。クラウド上のサービス利用は実際に使用した分のみの課金体系であり、演習を行わない学期・期間はコストの発生を抑えられるため経済性が高い。

創造理工学部ならではの学びに触れられ、学生からも好評
 この科目では以前より米国マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発された「ビールゲーム」と呼ばれる著名な机上シミュレーション演習も実施している。ビールゲームと比較して「コロッケ工場ゲーム」は多人数が一度にオンライン上で参加でき、机上の実験で生じやすいデータ記録ミス等の間違いが発生せず、結果の把握も容易である点が好評だという。学生へのアンケート結果では、90%の学生がこの演習を通じて経営システム工学に非常に興味を持ち、「(抽象度の高い)モデルのイメージがつかめた」という感想もみられる。「アクティブラーニングとして価値が高く、実学を指向する創造理工学部ならではの学びも与えられているのではないでしょうか(菱山教授)」。「早稲田が開発したオリジナルのコンピューティング基盤ですが、簡単なプログラミングで他の参加型シミュレーション演習をすることができるので、学内や学外にもアピールしたいものです(中島講師)」.

 このツールは、MAGCruise(Multiagent Gaming Cruise)(https://www.magcruise.org/)と呼ばれる菱山教授・中島先生を含む研究グループが2012年に開発したコンピューティング基盤上で動作している。この基盤はJST RISTEX(国立研究開発法人 科学技術振興機構社会技術研究開発センター)問題解決型サービス科学研究開発プログラムの支援を得て開発されたが、プログラム終了後に基盤の発展的利用を検討する中でこの演習プログラムを開発した。コンピューティング基盤は現在、Web上で無償公開されており、ブラウザ上で気軽に利用してみることが可能である。コロッケ工場ゲームの他、公共財ゲームなど別なシナリオも開発しており、これらの成果は国際会議における査読付論文として、IEEE Xplore Digital Library(IEEEの電子版論文データベース)をはじめとして学外へ発表・公開されている。

 なお、「コロッケ工場ゲーム」と共に演習に導入した「最後通牒ゲーム」は、行動経済学・心理学分野で扱われる非常に有名なゲームで、ゲーム理論に基づくものである。こちらもMAGCruiseでプレイすることができる。実際にやってみると理論上の結果にはならず、利他性や互酬性に関して深い洞察を与えてくれる。実験ではネットワークを利用した大規模な実験クラスならではの取組みとして、一般的な最後通牒ゲームの対照実験として、学生からみて誰が誰とペアになっているかわからない匿名実験を行うなど、実験計画の断片を体験させる実験プログラムも提供している。

学ぶ意欲が高い学生の要望に応えたい
 2013年度に「コロッケ工場ゲーム」と「最後通牒ゲーム」のシミュレーションを取り入れるまでは、この科目のカリキュラムの中でExcelやPowerPoint等の操作説明に時間を割いていた。しかし、高校の科目「情報」必修化や高大接続の高度化により、高校時代に既にこれらのビジネスソフトを経験し操作できる学生が増えてきた。そこで、2013年度以降はExcelやPowerPointを実験結果の分析の「道具」と割り切った。ビジネスソフトの扱いに自信がない場合は、理工メディアセンターのコンピュータセミナー(動画コンテンツ)を自主的に受講すれば補える。「早稲田の学生は自分で学ぶ力があり、学科の学生は問題なくついてきてくれています(菱山教授)」。

応用可能なオリジナル教材として、今後の活用に期待が高まる
 「コロッケ工場ゲーム」は、時間の流れを包含する「経営システム」という、企業での経験がない学生たちにとって捉えづらい学習対象を、Webベースでの参加型シミュレーションを通じて体験できるようにしたという点で、画期的なオリジナル開発教材といえる。先に記したように、コンピューティング基盤の機能は現在すべて無償で、日英版サイトの両方で公開しており、インターネット上で世界のどこからでも利用することができる。また、Web上で言語選択機能が用意されており、参加者にとっての母国語でシミュレーションゲームに参加することも可能である。これは、母語が違う人々が同時に演習へ参加することを可能とするもので、遠隔環境で中国から中国人学生が参加し、日本から日本人学生が参加する、といった使い方が可能である。

 通常こうしたシミュレーションの開発には多大なコストや手間がかかるが、MAGCruiseをコンピューティング基盤として利用することで、シナリオに相当するスクリプトを書き換えるだけで、他のシナリオに変更することができる。実際に今まで、大学に限らずほかの教育機関で利用された実績も多々ある。理工キャンパスでは、キャンパス見学で来訪された小田原白梅ライオンズクラブの小中学生向けの模擬実験授業(2015年7月20日)での利用実績もある。今後もプログラミングを専門的に扱わない分野での研究活動を含む、文理を超えて様々な場面での応用の可能性を秘めているツールである。 
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