QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




早大教員の授業における Good Practice &Tips 集

2017年3月 6日 00:00

iPad+ノートアプリ+WiFiを電子黒板に活用。双方向に使えて記録も残る

佐々木宏夫 商学学術院教授・大学院基幹理工学研究科(数学応用数理専攻)教授160803(佐々木先生)_顔写真.JPG

佐々木教授は数年前から、iPadのノートアプリを教室のスクリーンに投影するという形で電子黒板として利用してきた。その場でペンを使った手書きもできるだけでなく、前に書いた内容を簡単に再利用できる点も便利だという。さらに、2016年度からはゼミの学生全員にiPadを持たせ、双方向的な利用のできるアプリを使って、参加者全員で同じ画面に書き込みながら議論するという手法も導入している。

肩のケガを契機に、iPadに手書きする電子黒板を採用
160803(佐々木先生)_写真1.JPG

 佐々木教授がこうした取り組みを始めたきっかけは、2008年の末に大怪我をし、右腕が完全には上がらなくなったことだった。黒板の上半面には書けないという不自由さを補うために、当初は、PowerPointを使って作成したスライドを、教室でPCからスクリーンに投影して板書の代わりにしていた。「数式はキーボードで入力するよりも手書きの方が楽なのですが、当時のPC環境では手書きしたものを取り込むことが困難でした。しかも、実際の授業ではその場で黒板に手書きして補足したい場面もあるので、不便に感じていました」。

 その後いろいろな方法を試してみた結果たどり着いたのが、iPadとGood Notes 4というノートアプリの組み合わせだった。このアプリでは、iPad用のペンを使って画面に直接手書きできるほか、PDFや画像を読み込むこともできる。教室でiPadからアプリを起動し、その画面をスクリーンに投影する点はPCを使うときと同じだが、異なるのはその場で手書きした内容もリアルタイムに反映できることだ。

 佐々木教授は、現在このアプリを二通りの方法で利用している。まずは、事前に用意したPDFを見せて説明しながら、強調したい点に線を引いたり、図や数式などを書き足したりする方法がひとつ。もうひとつは、まったくの白紙画面に黒板を使うときのようにその場で書いていく方法だ。「どちらの方法を使うかはケースバイケースです。あらかじめ用意したものを使う場合の難点は、授業を聴いている学生の思考速度よりも速く進んでしまいがちだということです。その点、その場で書いていく方が、学生も一つひとつ理解しながら授業に参加できるような気がします」。

 その点を考慮に入れ、あらかじめPDFのスライドを用意してある場合には、授業前に学生がダウンロードできるようにしておき、印刷したものに各自でメモを書き込ませているが、その場で1から書く画面のデータは学生には公開しない。自らの手でノートを取ることが、学習効果を上げると考えるからだ。

 怪我をきっかけに黒板の代用として使い始めた電子黒板だが、実際に使ってみると、書いたものを記録しておける点を大きなメリットと感じている。「通常の黒板に書いた内容は一度消すと元には戻せません。しかし、この方法だと『さっきのあの図で言うと・・・』というように簡単に以前に書いた画面に戻って、再びその図を見ながら説明できます。これはとても便利だと思いました」。

 データとして残ることで、授業が終わった後に見直して間違いに気づくこともできるし、翌年の授業のときに昨年はどんな話をしたのか確認して参考にすることもできる。
「昨今のテクノロジーの進化はすばらしく、特にiPad Proとそれに対応したApple Pencilというペンを使うと、ほとんど紙と鉛筆に近い感覚で書けるので、まったく違和感はありません」

ゼミの学生にもiPadを使わせ、同じ画面に書き込みながら議論する
160803(佐々木先生)_写真2.png

 こうした使い方をしているうちに、もっと双方向性を持たせた使い方をしたいと感じるようになった佐々木教授。たとえば、ゼミの授業でひとりの学生がスライドを投影しながら発表をするようなシーン。それに対して教員や他の学生が「この証明はこうした方がいいのではないか?」などと意見を出す場合、いちいち黒板の前に出てきて書きながら話す必要があった。また、黒板に書いた内容は消えてしまうため、記録として残すには、それを書き写すか写真を撮る必要がある点も不便に感じていた。

 そこで、何かいいアプリはないかと探した結果、現在利用しているのがMetaMoJi Shareというアプリだ。前述のGood Notes 4は、佐々木教授が書いた画面の内容をスクリーン上で学生に見せるだけだったのに対し、MetaMoJi Shareでは、同じアプリをインストールしてある端末同士で同じ画面を共有でき、誰かがある箇所を指し示したり、図や文字を書き込んだりすると、他の共有者の画面上にもリアルタイムで反映される。

 これを使用することで、ゼミの発表者だけでなく、教員も他の学生も自分の席に座ったまま、各自の端末に書き込んだ内容を共有しながら発言できる。もちろん、Good Notes 4同様に、書いた内容を保存しておいたり、後戻りして参照したりも可能だ。なお、タブレットを所有していない学生に対しては、研究室の予算から供与し、一人一台利用できるようにした。

 類似アプリがいくつかある中でMetaMoJi Shareを選んだのは、利用料が年間3600円と比較的リーズナブルだったことと、同一WiFi内に接続していなくても利用できるなどの理由による。「インターネットに接続できればよいので、大学院生に頼んで理工のゼミの準備を進めてもらっている様子などを、私自身は早稲田キャンパスにいながらにしてチェックすることもできます」。

 この方法を用いたのは2016年度になってからなのでまだ日が浅いが、学生たちの反応も良く、楽しく利用できているという。「来年度からはシラバスにも書く予定なので、意欲の高い学生が集まってくる可能性はありますね」。

ハードに投資するのではなく、今あるものを有効に使う方向へ
 そもそも、このiPadとWiFiを使うというアイディアは、渡米時の飛行機での経験からヒントを得たものだったという。あるローカル線に乗ったとき、機内用エンターテインメントをWiFiで配信し、タブレットやスマホなど乗客の端末から鑑賞できるようになっていたのだ。一般に長距離線では画面サイズの大きな最新機材が導入されることが多いが、ローカル線では古い機材が使われていてそもそも各座席にディスプレイが設置されていない。これを補う方法として導入されていたものだ。これなら、座席をすべてディスプレイ付きのものに取り替えるよりもはるかにコストがかからない。

 「学内にもWiFiは飛んでいるのだから、これと同じことができないかと思いました。大学のICT化というと、専用教室を作るとか最新の機材を設置するという方向に考えがちですが、技術はどんどん進歩するので、多額の投資をしてもすぐに陳腐化してしまいます。早稲田大学でも、新棟ができるたびに多額の費用をかけて教室に最新の教育機器が設置されてきましたが、数年で陳腐化してしまい今では利用されていないものも少なくないと思います。今後はハードウェアに投資するよりも、学内のWiFiを強化し、それと汎用のソフトウェアを組み合わせて使うことを考える方が合理的だと思います。また、市販のソフトウエアで不十分な場合には大学で開発してもいいと思います。幸いなことに、大学はそういう人材の宝庫なのですから」。

 iPadなどのタブレットは、PCと比べてコンパクトな上、ほとんど設定の必要もなく、ICTに苦手意識のある人にもハードルが低い。「学生全員に使わせるにはコストなどの問題もありますが、将来的にはWiFi+タブレットという組み合わせがひとつの標準になっていくのではという気がしています。大規模な設備投資をしなくても、椅子と机さえあればどこの教室でも利用できるのですから。できるだけ既存の資源を使って、お金をかけずに素人でもほどほどのことができるという点は、大きなポイントですね」

 大学は最先端のサイエンスを扱っていながら、教育手法については未だに明治以来の黒板に頼ってきたという現状がある。しかし、今ようやく教育のあり方を変える新しいイノベーションが起きつつあると感じているという。さらに、教授自身が右腕が不自由になったときにICTのおかげで困難を克服できたという経験に照らすと、これらの手法を取り入れていくことで、障がいを持っている学生や教員も参加しやすい環境を実現できるのではという期待もしている。例えば、電子黒板をうまく活用すれば、障がいを持った学生のノート・テイキングの苦労を軽減させることができるかもしれない。「今後、ハンディキャップのある人に大学がどう向き合っていくかというのは重要な課題です。こういう新しい方法が、その解決のためのアイディアを広げるのに役立つのではないでしょうか」。

ページトップへ

プロフィール
大学総合研究センター
大学総合研究センター
教育方法研究開発部門(CTLT)
CTLTでは早稲田大学における優れた教育事例を収集し、Good Practice、
Tipsとして公開、教員間の活用を促す取り組みを行っていきます。
カテゴリーアーカイブ
01 政治経済学部 (15)
02 法学部 (3)
03 文化構想学部
04 文学部 (2)
05 教育学部 (15)
06 商学部 (5)
07 基幹理工学部 (16)
08 創造理工学部 (9)
09 先進理工学部 (8)
10 社会科学部 (5)
11 人間科学部 (10)
12 スポーツ科学部 (3)
13 国際教養学部 (2)
14 グロバールエデュケーションセンター (16)
15 日本語教育研究センター (6)
16 日本語教育研究科 (10)
17 高等学院 (5)
18 商学研究科ビジネス専攻 (2)
19 国際コミュニティセンター (1)
20 会計研究科 (6)
21 経営管理研究科 (5)
22 情報生産システム研究科 (5)
23 理工学術院 (1)
月別アーカイブ
2018年10月
2018年9月
2018年8月
2018年7月
2018年6月
2018年3月
2017年6月
2017年3月
2016年10月
2016年4月
2016年2月
2015年10月
2015年3月
2014年3月
2013年3月
最新記事
学生に身近なゲストスピーカーを招聘し、社会貢献のイメージを具体化。学生たちの「モヤモヤ」に寄り添いたい
演習重視の講義で、現状把握と改善点を学生同士で議論させる。学生が自分で研究課題を見つけることをサポート
学生からの「質問」を活用して、クラス全体の理解度向上を図る
大学院生としての研究と日本語教育の実践、両方で生かせる授業を目指す
課題の提出や小テストの実施を通して、覚えた知識を定着させる