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早大教員の授業における Good Practice &Tips 集

2016年10月 1日 00:00

ハーバード流をアレンジした「ケースメソッド」で、実践的なスキルを鍛える

yamada.jpg★早稲田大学ティーチングアワード総長賞

対象科目:経営戦略
受賞者:山田 英夫(商学学術院 教授)


ケースメソッドは、世界のビジネススクールで利用されている教育手法だ。実在する企業の事例を題材に、自分が経営者ならどうするかという視点で分析、討議を繰り返す。山田教授はコンサルティング業務に従事した経験を活かし、徹底したケースメソッドの授業を行い、実社会で「使える」スキルの修得を目指している。

学者になるためではなく、経営者になるための知恵を学ぶ
 1930年代にハーバードのビジネススクールで始まったケースメソッドは、企業経営の実例をまとめた「ケース」と呼ばれる資料を読み込み、経営管理の諸問題について討議を行う教授法だ。ビジネススクールは基本的に社会人を対象とするため、座学としての「知識」よりも、実際に経営を行うための「知恵」を身につけることを目指して始まったものである。

 日本のビジネススクールの第一世代としてMBAを取得した山田教授は、このケースメソッドで学んだ後、三菱総研で大企業の新事業開発のコンサルティングに8年間従事した。「そう簡単に答えが見つからない中、必ずどこかに途は開けるという自信がついたのは、ケースメソッドで鍛えられたおかげだと感謝しています」。

 その後1989年より早稲田で教鞭をとることになり、現在は大学院経営管理研究科(Waseda Business School)で経営戦略の授業を担当している。

前段階の個人研究とグループ討議で、全体討議の発言を活性化する
 ハーバードではケースを読んだ後、カリキュラ的にはすぐに全体討議となるが、山田教授の授業では、その前に個人でのレポート、グループ討議という2つのステップを組み込んでいる。「日本の学生は、いきなり全体で討議をしても発言が出にくいので、まずは自分の意見を吐き出させる必要があると考えました」。

 第一段階の個人レポートは、事前に渡されたケースを読んだ上で、自分がその企業のトップならどう決断をするかをレポートにまとめ、48時間以内に提出する。「時間をかけて成果を出そうとするのは、日本の"残業文化"の発想です。同じ分母の中でいかに分子を大きくするか。これからはそうした世界標準の働き方に対応していく必要があります」。

 市場のデータなどをもっと知りたいと思っても情報検索はせず、与えられた情報だけで考えるのがケースメソッドのルール。「現実の経営では、常に情報も時間も不足している中で意思決定を迫られますから、あえて限られた情報で、決められた時間内に意思決定する訓練をしていきます」。

 基礎編のケースには設問も添えられることがあるが、一般にはケースには事実が書かれているのみである。何が問題なのか自分で問いを考えるところからスタートするのが、ケースメソッドの大きな特長だ。

 レポート提出後に行うグループ討議は、あらかじめ決めた5~7人程度のグループで授業時間外に集まって行う。グループは、職種や年齢、性別、国籍など学生の属性がなるべくばらけるよう配慮している。「自分自身の経験から言っても、グループディスカッションから得たものは大きかったので、このプロセスはとても重要だと考えています」。グループ討議はひとつの結論にまとめる必要はないが、話し合いの痕跡が分かるものを提出してもらう。授業ではそれを書画カメラで投影しながら、チームのメンバーに「これはなぜ?」と問いかけながら、全体討議につなげていく。

 特に日本人の場合は、討論が熱を帯びてくるまでに時間がかかるため、授業は2コマ連続で行っている。「この授業は、結論ではなく、そこに至るまでの<なぜそうなのか?>が一番大事。核心に触れるためには、このぐらいの時間が必要です。」

学生自らの力で解いたという実感を引き出す
 「ケースリーダー」として討議の進行を進める際は、教員自らが話すよりも、学生たちに気づかせ、意見を引き出すような問いを投げかける事が重要となる。教員は教える役ではなく、ファシリテーターに徹するのだ。「講師が一方的に話すことを聞く、習うのではなく、自分達でこのケースを解いたのだという実感を持つことで、初めて使える力になるのです」。

 ケースメソッドにはひとつの正解があるわけではないため、参加する学生が変われば討議の結論も変わる。集まってくる学生の質にも影響されるが、少しでもレベルの高い討議になるよう、一人ひとりの名前や所属企業、職種を覚え、いかに違う意見を引き出していくか工夫していると言う。

 この授業では、遅刻や早退にも厳格に対応しており、成績は相対評価を採用している。「実社会では自分より優秀な人がいれば社長にはなれないので、単にがんばっているからとAをつけることはしません。厳しくしないと安易な方に流れてしまい、学生の学習効果のためにも、高いレベルを保つことは重要です。高い学費を払って来ている学生に少しでも力を付けて卒業させるのは、大学として品質管理上の責任があると考えています」。

 そんな熱意が実り、この授業は学生アンケートにおいて「総合的に有意義」という項目で満点を獲得している。民間企業を経て大学に転じた「後発参入者」のため、他者とは差別化した教育スタイルが必要と考え、ケースメソッドを全面的に取り入れた山田教授。「大学教員として、自分なりの教え方を工夫し開発していくことが大事だと考えています。ケースメソッドが絶対というわけではなく、教員各自が独自の手法を開発していけるといいですね」。

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