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早大教員の授業における Good Practice &Tips 集

2016年2月25日 00:00

Skypeを通じて海外の日本語教師の生の声を聴き、教科書や文献とは異なるインプットで理解を更に深める ―毛利貴美 日本語教育研究センター准教授

mohri1.jpeg毛利貴美 日本語教育研究センター准教授

 日本語教育研究センターの毛利准教授は、海外における日本語教育をより身近に感じ、理解を深めるために、海外の現場で活躍する日本語教育専門家の生の声を取り入れた教育実践を行っている。Skypeを使った遠隔セッションを組み込んだその授業の実践と成果を紹介する。
海外からの生のセッションで刺激を与える
 今回エントリーの対象となった「海外の日本語教育を考える」という授業は、海外における日本語教育の現状や課題を知り、自らその問題を考察することで問題意識を明確にして理解を深めることを目的にしている。

 しかし、日本国内で得られる教育情報は限られている上、トピックが身近ではない各国の言語政策や言語教育に偏りがちであるという問題があった。これを補うには、実際に海外で活躍する日本語教育の専門家を招くことが望ましいが、経費やスケジュールの点で実現は難しい。

 この問題をクリアするために着目したのが、一般的にも利用者の多い遠隔交流ツールSkypeを活用し、海外の専門家にリアルタイムでセッションを行ってもらうという方法だ。本格的なビデオ会議システムを利用するには、先方にも対応ソフトをダウンロードしてもらうなど手間がかかるが、Skypeなら多くの人がすでにアカウントを持っているので、手軽に使えるのがメリットだ。「もし私が学生だったら、下を向いてずっとハンドアウトを読んでいる授業よりは、海外で活躍している方たちに話を聞いたり、質問をしてみたいと思うので、それを実現したくて作った授業でもあります」。

 2015年度後期の授業では、フィリピン、アメリカ、ブラジル、韓国に在住の日本語教育専門家にゲストスピーカーを依頼し、Skypeを通じて約1時間ずつ話をしてもらった。海外在住者との時差を考慮し、授業は月曜日の一限目に設定。ゲストスピーカーには各地域における日本語教育の現状を語ってもらうだけではなく、文化の問題や現地で起こりがちな課題など、各回であらかじめ決めたテーマにフォーカスして話してもらっている。

 遠隔セッションの前週にまずは毛利准教授自身が教場で講義を行い、その地域やテーマに関連する基本的な知識の教授を行う。その上で翌週の授業時間内にゲストスピーカーの話を聞き、その場で直接質問もするなどリアルタイムな交流を行う。さらに、その翌週には、ゲストスピーカーから提示された課題について4人一組となってディスカッションを行う。すなわち、1つのテーマについて授業が3回行われ、これを1ユニットとして授業期間内に合計4ユニット実施される。

 この組み立ては、あらかじめ基礎知識や予備知識をつけて遠隔セッションに臨むことによって、リアルタイム接続時の限られた時間の中で説明部分を大幅に減らし、具体的な内容に時間を割けるのと同時に、ゲストスピーカーと学生とのインターアクションの時間を増やそうという工夫だ。その結果、問題点についてより深く掘り下げて話し合うことができ、最終回のディスカッションはいつもストップをかけないと終わらないほど盛り上がるという。「もっと話し合いたかった、他の人の意見が聞きたかったという意見もあったので、今後はCourse N@viのBBS機能などを使って、授業時間外でも話し合いを深められるよう検討しています」。

 ゲストスピーカーとの間では、授業で使うPPTの資料などを事前に見せてもらうなど、あらかじめ内容の確認を行っている。「ここはこういう質問が来ることが予想されるので、もう少し詳しくして欲しいなどとお願いしたりすることもあります」。

 授業時間内にゲストスピーカーが十分な時間が取れないときもあったが、PPTを用いた講義の一部をあらかじめ動画として録画しておいてもらい、これを遠隔セッションの前に自宅などで見ておくという反転授業方式で補った。外部の専門家への委託を授業として有効に活用するには、担当教員としてのこうした工夫も欠かせないようだ。

 4ユニット終えた後は、ゲストスピーカーと遠隔で結ぶ代わりに早稲田大学内の外国人留学生を教室に招きインタビューを行う。ここではなるべくさまざまな地域の留学生に来てもらって日本語学習経験を聞き、理想とする日本語教師像を学生たちに探ってもらう。最後には、その内容をグループ内でまとめて発表するという流れになっている。「日本語教師のあり方は、単に文法などを上手に教えればいいということではなく、人間性の部分にも行き着いていきます。それを私が教えるのではなく、いろいろな人の話を聞くことによって、学生が自ら気づいて欲しいと考えています」。
セッションで感じたことをレビューシートに書かせる
 学生の理解を深めるため、遠隔セッションを終えた後は、質問や感想をCourse N@viのレビューシートに記入させている。最低文字数のノルマを設けていないにも関わらず、常時1000文字以上書いてくる学生もいるなど、積極的な反応が返ってきている。「もしも、学生の意見がステレオタイプな方向に傾くなど、国や民族に対して誤解している部分があるときはきちんとフォローしておかないといけないので、レビューシートの内容はしっかり読んで、できるだけ次回の授業に反映をするようにしています」。ときには内容や授業の進め方について厳しい意見を書いてくる学生もいるが、反応が分かるのはよいことだと前向きに捉え、改善できる点は取り入れるなど参考にしているという。

 また、レビューシートの内容は学生の名前が分からないようにして、学生の了解を得た上でゲストスピーカーにもすべて見せている。ゲストスピーカーからは、学生との直接交流やレビューシートを通じてフィードバックが得られることで、自分の教育活動を振り返り、現地の課題について改めて考えるきっかけとなったとの報告もあり、「遠隔セッションをやってよかった」という感想が寄せられているそうだ。

 「私自身が海外にいたときの経験からしても、日本にいると分からない、現地ならではの声を伝えたいという思いは強いのですが、実際にはそれを発信する機会はあまりありません。同じように感じている海外勤務者は多いのではないでしょうか」。現在は、早稲田大学大学院日本語教育研究科の第二言語習得研究室在籍時の同じゼミ生で、海外で日本語教育に従事している仲間にゲストスピーカーを依頼しているが、「遠隔セッションを希望している人は他にもたくさんいるから紹介します」という声も聞かれるという。

 成績はレビューシートの提出状況や平常点に加え、期間中に2回レポートも提出させているが、その多くは学部や専門領域といった受講者の背景に関係なく、目標としたレベルに到達できているという。「この授業の目標は、海外における日本語教育の目的や現状、課題を知り、考察することで自らの問題意識をさらに深め、意見を明確にすることです。ここでいろいろな人と触れあうことが刺激になって、広い視野を持ち、新たな考えが生まれてくるという過程がレポートの中にも見られるという点では、手応えを感じています」。
生の声ならではのインプットで考えを深化させる
 この授業を通じて毛利准教授が伝えたいのは、日本語教育の専門的な知識に限らず、自分以外の人の意見に触れ、自分自身の考えを深化させていくことの重要さだ。これは自身が2年間赴任していたアメリカのリベラル・アーツ大学の教育方針に影響を受けているという。「コミュニケーション能力がなければグローバル人材として活躍することはできません。この授業では、文献の理論や教科書の知識だけでなく、ゲストスピーカーやいろいろな文化背景を持つ人々とディスカッションし意見を交わす過程で、これまでに想像もしていなかった海外の実情を知り、気づきや刺激を受け、自分のスキーマ(Schema)を広げていくプロセスを体験して欲しいと思います」。

 Skypeを使ってゲストスピーカーの遠隔セッションを導入するというこの手法は、日本語教育にかかわらず、さまざまなジャンルで利用できるのではと、毛利准教授は提案する。「世界中のいろいろな研究者の生の声を聞いて、その場で質問したり意見を聞いたりできるのは、学生にとってより広い視野で考え、知見を得られる機会になると思います。運営面では、遠隔支援のIT担当者が技術的なトラブルなく授業が進められるようにサポートしてくれました。私のようにこれを中心に授業を組み立てるというのではなくても、授業の中に1回組み込むというような使い方も可能なのではないでしょうか」。
ICTによる学びのコミュニティ作りを目指して
 「この一年、SkypeとCourse N@viを使って授業を行ってきましたが、ICTの技術の進歩によって、時間や空間を越えた『学びのコミュニティ』作りが当初考えていたよりも容易にできるようになっていると感じました。また、このクラスは留学生も多く履修しているので、文化や歴史の認識についても率直な意見を聞くことができます。日本国内か国外か、専門家かそうでないかという枠を越えて、この授業に携わる全ての人たちが、それぞれの立場から『海外の日本語教育を考える』ことができればと思っています」。 

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海外の専門家とSkypeを活用しながらのセッション。疑問や質問にすぐに回答が得られるというメリットがある。

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早稲田大学内の外国人留学生にインタビューを行う。 様々な取り組みからの「気づき」を大事にしている。

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