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早大教員の授業における Good Practice &Tips 集

2016年2月25日 00:00

先端的WEBツールに基づく授業を動画としてオープン化:知の分野で世界にアピールする社会貢献―松山泰男 基幹理工学部教授

matsuyama1.jpeg松山泰男 基幹理工学部情報理工学科教授

 世界では今、インターネットを通じて大学の授業を無料で公開する動きが加速している。本学でも、2014年度よりWASEDA COURSE CHANNELというプラットフォームを通じて、一般への授業公開が行われている。松山教授はこのシステムを利用して教場で行っている授業の録画映像を公開し、他大学を含む一般社会へのアピールと社会貢献に努めている。
教場の授業を録画し、無料で学外にも公開する
 インターネットを通じて大学などの授業を公開する試みは「オープンコースウェア」(OpenCourseWare、以下「OCW」)とよばれ、本格的なものとしては2002年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)で開始された。当初はシラバスや資料を公開する程度であったものが、ICTの進化と普及により、動画と音声での公開が可能になり、現在ではアメリカやヨーロッパを中心として世界中で数多くの講義動画が無償で公開されている。そしてさらに、MOOC(Massive Open Online Course)のように試験やレポートを課したり、単位を修得させたりすることのできる、いわば無料のオンライン大学が登場して話題になっている。

 本学でもWASEDA COURSE CHANNELというOCWが設置されており、2015年末現在で、2,000以上の動画が誰でも無料で視聴可能になっている。

 松山教授はWASEDA COURSE CHANNELの開設時からこれに参加し、担当するすべての講義をビデオカメラで収録し、その動画を公開している。このような動画の収録は学内のスタッフに依頼することもできるのであるが、理工学部という離れたキャンパスにいることもあり、調整による手間を少なくするためTAに協力してもらい、ビデオカメラを設置して撮影している。そこで公開している動画は必要最低限の編集のみを行ったものであり、実際の講義の原型を忠実に保っている。このような形のOCW教材の準備にはかなりの苦労が付きまとうと、松山教授は語っている。すなわち、遅れて入ってきた学生が画面を横切ったり、咳き込んだ声になったり、独自取材による著名な研究者に関する逸話であっても一般公開するのは控えた方がよさそうな話をしている部分などはカットせざるをえないということである。

 こうした作業が必要となるため、該当授業の動画が実際に公開されるまでには、最大で3カ月程度の公開遅れが生じることもある。しかし、現在は昨年度版のほぼ同じ内容もすでに公開されているのに加え、毎回の授業を補足する資料をMyWasedaのメール機能を使って配信しているので、事情があって授業に出てこられない学生でも、オンデマンド授業のように利用している例もあるという。
自らの授業を世界に発信して貢献したい
 松山教授がこうした授業の公開に踏み切った理由の一つには、自らが行っている授業を学外に問いたいという思いがある。それは、知人であって同一分野の研究者であるスタンフォード大学の教員が、機械学習という分野で優れたMOOC教材を提供していることに触発されている。この教材とMOOCによる貢献は世界ランキングで圧倒的な第一位となり、大統領表彰を受けている。身近な知人のこのような活躍を目の当たりにすると、自分も何か社会に奉仕しなければという気持ちに駆られたというのが動機になっている。

 松山教授の授業はスライドでは英語を使用しているものもあるが、学部生への講義自体は日本語で行っている。そのため、学部レベルでの受講対象はほぼ日本人に限られてしまう。これについて松山教授は次のように語っている。「できれば、講義も英語で行って海外の人にも見てもらえるようにしたいのですが、学内の学部生の反応を見ていると難しいというのが現状です。ただし、大学院の講義では留学生が受講しているので、本学の制度に合わせて、すべて英語で行っています」。

 講義をそのまま動画でも見られるようにオンデマンド化すると、履修学生の出席率が悪くなるのではという心配がある。このことについて、松山教授は次のように語っている。「この授業では出欠を採っていないので回数を重ねるごとに出席者は少しずつ減っていきますが、50%を割ることはありません」。授業に即した資料類を充実させ、添付メールで配信している効果もあるのか、出席率による試験の出来の違いは少ないとのことである。そして、「OCWや配付資料を充実させるほど出席率が落ちてくるのは残念なことですが、最終的に試験はよくできるということは、それらを活用してくれているということなのでしょう」と、この頃の学生気質について語っている。

 授業内では雑談的に周辺情報の話をすることが多いが、録画の際にはさまざまな事情から削除してしまう部分も多い。そのため、そうした心を豊かにする話を聞けるのは、やはり教場に出席する学生だけの特権となる。
オンラインデータベースやツールで授業に最新情報を取り入れる
 今回のエントリー対象となっている「生命情報処理とICT」という授業は、その題目の通り、生命情報とICTの両方の知識を身に付けさせることを目指している。生命情報処理の分野では、データベースやそれを扱うためのツールが刻々と世界中で更新され続けており、これらの情報はすべてを公開することが慣例となっている。そこで、この授業では教場で教員のPCからインターネットにアクセスし、その画面をスクリーンに表示しながら行うという形を取っている。これにより、最新のデータベースやオンラインツールを通して最先端の情報を学生に伝えることができるようになっている。

 このような講義形態を維持するためには、次々に新たな内容を加えて教科書を補う必要が生じる。もちろんその手当には特有な苦労が付きまとう。これについて、松山教授は次のような驚くべき事例を語っている。「毎回の授業の前日には、ツールと授業の内容をWebで確認して予習するのですが、それでも翌日授業を行う際にはさらに新しい情報が出現することが頻繁にあるのです。遅れた情報を学生に伝えることは許されない分野であるので、そこがとても頭の痛いところです」。

 この授業を始めた5年前というのは、「遺伝子そのものを特許化することを防ごう、そしてそのようなことが起こらないように研究内容の公開を進めよう」という機運が、全世界的に起こり始めた時期になっている。その結果、現在では関連するデータやそれを扱うツールはすべて公開されることが原則となっており、この授業はまさにそれを活用して成立したものとなっている。そしてこの講義の意義について、松山教授は次のように語っている。

 「現在はまだ人間の遺伝子の配列や機能が分かるようになったという段階ですが、いずれは遺伝子に関する情報をさまざまなことに活用できる時代がやってきます。そこを見据えて、本学の学生にはぜひICTとバイオの両方の知識を備えておいてほしいのです。そのためにも、日頃から最先端の情報やツールに触れることで、来るべき新時代に対応できる人材を育成したいという思いで、この授業を行っています」。
世界の研究仲間に対抗できることをアピールしたい
 この授業で使われている『バイオインフォマティクス in silico』という教科書は、バイオとICTとの組み合わせに着目した松山教授自身が、8年かけて書き上げたものです。この教科書とWebを連動させた授業、そしてそれをOCWとして学外に公開していることが認められ、2015年には情報処理学会の優秀教材章を受賞している。この賞は毎年選ばれるわけではなくて、賞に値するものがあったときにだけ授与されることになっている。

 この受賞に関して、松山教授は「論文賞というのは何度か経験がありますが、教材を対象にした賞をいただいたのは初めてで、大変光栄に感じています。学内だけで満足していてはいけないと思うので、本学のレベルがしっかりしたものであることを学外にも発信できて、それを評価していただけたのはうれしいですね」と語っている。

 OCWやMOOCが浸透しつつある今でも、授業を無料で公開することについては賛否両論がある。このことにつて、松山教授は次のように語っている。「難しい問題ではありますが、世界中でオープンソースとオープンツールが当たり前になっている昨今においては、自然な流れだと思っています。他の人たちが有していない内容をもっているという自負がある場合には、それを対外的に知ってもらうという意味で、正当なアピール活動の一部ともいえるかもしれません」。

 松山教授は、青春時代の1974年からスタンフォード大学で受けた教育の斬新さが、今でも忘れられないと言っている。それは、PCやネットワークがまだなかった時代に、学生の机に埋め込まれた小型テレビ画面に教員の映像と音声そして教材が表示され、それと同時に講義の全体が電波により放映されるという、他をはるかに凌駕していた臨場と遠隔の同時教育でした。そして、次のようにも語っています。「私がこういう授業形態を試みているのは、そのときに体験した大きな衝撃が引き金になっています。日本でもOCWやMOOCが利用できる時代になったことで、その抱負の一部がやっと実現できるようになったのだと感じています」。 

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授業を補足する資料をMyWasedaのメール機能を使って配信。


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インターネットアクセス画面と講義風景
注釈:この図の初出は、「松山泰男、激変のさなかにある教室風景、情報処理、vol.57, no. 1, pp. 70-73」。ただし、版権は松山が所有しています。

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