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地域の元気講座~NPOフュージョン研究所所長日記~

2010年2月

2010年2月24日 15:49

江戸時代の水争いの教訓が、市民ミュージカルで伝えられる

■柳川からの便り
 「柳川水の会」のメンバーの堤さんから、ある便りが届いた。堤さんは柳川の水を守るためにがんばっている若手なのだが、昨年夏にお会いした後、ごぶさたしていた。
送られてきた封筒を開けると、中から「筑後市民ミュージカル東京公演彼方へ流れの彼方へ」の案内 パンフレットが出てきた。
それが、これだ。


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■水争いがあった頃の藩の対立をミュージカルに
 簡単に言うと、筑後市の市民がミュージカルをつくった。それが好評で、今年は6 月20 日に東京公演を行うことになったので是非見てください、ということなのだ。
 物語は江戸時代の矢部川が舞台。この川は久留米藩と柳川藩の境を流れているのだが、流量が少ないこともあって、両岸の農民がより多くの水を引き入れようと水争いが絶えない川だった。しかも一旦大雨が降ると水が暴れ、農民は大きな被害を被った。柳川藩の方では田尻総馬という普請役が千間土居(せんげんどい)、つまり千間もあるような堤防をつくってそれが決壊することがなくなったのだが、対岸の久留米藩ではいくら堤防をつくっても決壊する。千間土居が決壊しない秘密は、水の勢いを和らげるために川岸から流れに突き出た石の構造物(これを「はね」と言います)「隠しバネ」(おそらく見えにくい「はね」のことでしょう)にあり、この築き方は秘密になっていた。総馬の子どもの藤蔵は、対岸の久留米農民が苦しむのを見て、「隠しバネ」の秘密を教えてくれと父親に頼むが、断られる。この葛藤と、両藩の対立、武家社会の確執がミュージカルで描かれているわけだ。
 堤さんの手紙には「我らが矢部川が東京に参りますので、よろしく御願いします。矢部川の物語というよりも、川をめぐる人々、行政区内の対立や住民と河川管理者の物語として見ることができます」とある。


■愛着を生む手段
 このミュージカルの初演は2004 年。好評を博し、翌年には再演を望む署名活動が起き、2006年、2007 年にも再演された。
 こうしたミュージカル・演劇は、言葉としてあまり残っていないような知恵や葛藤の歴史を残す上で大いに効果がある。しかも、ミュージカルそのものが、ローカルアート作品となる。
 私が知っている類似エピソードとしては、滋賀県湖東町ではため池普請を伝えるために、子ども達に脚本を書いてもらい上演したという例もある。2002 年のことだ。
地域の歴史に愛着をもってもらうことの大事さは何度も書いてきたが、そのためにはストーリーが必要だ。教科書には出てこない地域の歴史にストーリーを与えるために、こうしたミュージカル・演劇に 仕立てるのはおもしろいし、大いに効果がある。
ちなみに、「彼方へ流れの彼方へ」は6月20日に、北千住の「シアター1010」で上演されるので、見に行こうと思っている。

2010年2月17日 11:59

創造のコモンスペースは文明の配電盤になるか?

■六本木ヒルズ最上階にあるクラブ
 先日、大阪の大学に勤務しているある先生とお会いした。
「東京に来ているから」ということで待ち合わせ場所に指定されたのが六本木ヒルズの49Fにある「アカデミーヒルズ」。
 フロアはライブラリー、カフェ、丸テーブルがいくつも並んでいるコミュニティスペース、個人の応接件仕事場として使える個室群に別れている。受付で手続きを済ませた私は、早めに着いたこともあって、コミュニティスペースでちょっと考え事をしていた。


20100217.jpg

 中はこんな感じ。
 なにせ「ヒルズ」なだけに、眺望は満点。周囲を見ると、ノートPC を広げている人、ちょっと休みに来ている人、打合せをしている人などで、14 時にもかかわらずテーブルはほぼ満員だ。


■知識都市に必要なコモンスペース
 都市経済学の分野では、1990 年頃から、人々が交流することで生まれる知識や情報が都市の成長に及ぼす影響が語られるようになった。そして、シリコンバレーの創業者たちが知的ネットワークで結ばれていると報告したサクセニアンの『現代の二都物語』が大前研一の翻訳で1995 年に出版されると、ネットワークをつくるクラブ機能が日本の創業支援に応用できるのではないかと考えられるようになってきた。
 その後つくられた全国の創業支援施設の多くは、こうしたコミュニティスペースを売りにして、「創造都市」の核心は、情報の交流と考えられてきた。
 この考え方は、しかし、当然ながら何も現在に特有のことではない。
 本当に大事な情報は人を通してしか得られない。これは今も昔も変わらない真理だ。
例えば、日比谷公園前にあるプレスセンタービル10Fには、日本記者クラブがあるが、ここも会員制クラブ。若い頃、何度か連れて行ってもらったことがあるが、このようなクラブにアクセスできることが、 仕事上の大きなメリットとなっていたわけだ。


■配電盤機能を失ったクラブ
 このようなクラブは、都市にしか存在しなかったのだろうか?
 そんなことはない。
 地方にもあった。欧米では、大学とかパブとかがその役割を担っていたが、日本でも同様だ。クラブは、人と情報が集まる中心だった。つまり中心だったわけだが、肝心なことは、中心が栄えることではなかった。結果として中心は栄えるのだけれども、そこに集う人々は能力を磨き情報と人脈を得て、また周辺に分散して、そこでその人が新たな中心をつくっていった。
 このことをうまい言葉で表したのが司馬遼太郎だ。『街道をゆく37 本郷界隈』の中で、明治時代始めの東京を「文明の配電盤」と表現している。東京全体が一つのクラブのようなものだったという表現だ。
でも、いまの東京は何でも吸い込んで集中し成長するけれど、地方を豊かにしているだろうか?
 何でも吸い込んでしまう現代のクラブvs.配電盤機能をもった昔のクラブ。
 六本木ヒルズに集っているような人々は、自らの知識を地域に還元することはあるのだろうか?
 そんなことを、ヒルズのカフェで思ったのだった。

2010年2月10日 13:08

空港の近く-決定的に大事ではないけどまあ重要、という言い分

■かずさアカデミアパーク民事再生法手続きへ
 「1 月25 日、千葉県のかずさアカデミアパークが民事再生法手続きへ」というニュースが流れた。
 つぶれたのか・・・
 この施設についてはほとんど知られていないと思うのだが、いくらかの思い出が私にはある。この施設がオープンしたのは1994 年。木更津と君津の東方に立地し、バイオ技術を中心とした研究型リサーチパーク(要は、工業団地のことです)として千葉県が主体となって開発された。
 構想は80 年代のバブルの時期。オープンはバブル崩壊後。現在のホームページを見ると、「アクララインで東京都心から50 分」と書かれている。確かにそうなのだ。
 しかし、そのアクララインが開通したのは1997 年。オープンの3 年後だ。
 リサーチパークらしく、国際会議が開けるようにホテルやカンファレンスセンターが造られ、今も営業しているが、進出企業は数社という報道がなされていた。
 思い出というのは、ある調査の一貫として、このカンファレンスセンターを調査したことがあるのだ。


■臨空というコンセプト
会議場の稼働率は、一にも二にも立地条件だ。確か、かずさアカデミアパークは「羽田空港からアクアラインですぐにリゾート型カンファレンス施設にアクセスできる」というコンセプトだったように記憶している。
つまり、アクアラインを前提とした羽田空港の臨空施設だったのだ。
橋の通行料が安ければかなりの利用があるのではないかと、バブルの余韻冷めやらぬ私は考えた。若かったなぁ。しかし、橋が開通しても、需要は上がらなかった。
そこで臨空というコンセプトが立地政策として有効だったのかという問題が浮上する。
付加価値が高い産業ならば、空港の近くに立地した方が有利。その代表は情報通信とか知識産業だ。と、当時の通産省は考えた。でも、そうはうまくいかなかった。


■十分条件だけの夢
 同様なことは関空でもあった。1994 年に開港した関空にあわせて、対岸の泉佐野市にりんくうタウンなる工業団地を大阪府は造成した。
 このりんくうタウン計画に関わったあるシンクタンクにインタビューをしたことがある。
 1996 年のことだ。ご担当の方が言うには、企業にアンケートをとったという。その結果、企業が一番 重視するのは地価、営業上の利便性が来て、3番目とか4番目に「空港」という選択肢に丸がつけられたという。そのデータを見ながら「企業の方は、空港の存在は立地に重要だと思っているけれど、 決定的な要因とは思っていないということです」というようなことを話された。調べなくてもわかるような、まぁ、当然の話である。
 「必要条件」が満たされていないのに、十分条件が数多くあるためにゴーサインを出してしまう。
 その結果、りんくうタウンには進出企業がなかなか集まらず、第三セクターで営業されていたりんくう ゲートタワービルは2005 年に会社更生法を申請した。
 「必要条件無き夢」を語り事業を強行した時代のツケを、いまの人間が払わねばならないわけだ。  「たった」15 年、20 年前のことについて。
 かつて空港が各地で造られた時、そのすぐ近くに工業団地を造成することは、県企業局の常套手段だった。いま、空港特別会計が見直され、地方空港のありかたも見直しを迫られている。そこには、 「臨空」コンセプトで整備された工業団地等も含まれるはずだ。もっとも監督官庁は異なるのだが。
 昔の話ではあるが、開発について人間が夢を語る時の誤謬を忘れないように、教訓として今後の動きを注視したい。

2010年2月 2日 10:27

ブルーゴールド-水の政策思想が必要だ

■映画「ブルーゴールド:狙われた水の真実」
 2003 年に集英社から『水戦争の世紀』という新書が発行された。原書のオリジナルタイトルが「Blue Gold」(2002)。水の商品化を押し進める企業を非難し、水を地球の共有財とすることを強く主張している。
 この書の内容を、著者であるモード・バーロウ、トニー・クラーク、その他にもヴァンダナ・シヴァといっ た世界各国の水研究者や市民を登場させることでドキュメンタリー映画としたのが「ブルーゴールド: 狙われた水の真実」だ。
 現在、東京では渋谷で公開していると聞きつけ、見に行ってきた。


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 ドキュメンタリーといっても、マイケル・ムーアのようなあざとさは無く、水の商品化がもたらした現実の姿を解説とともに淡々と流していく。
 ちなみに、ナレーションはマルコム・マクダウェル。「その人、誰?」という人も、スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』で悪逆をつくした恐るべき青年アレックスと言うと「あー、あの 役者か」と思い出す人もいるかもしれない。1943 年生まれだから、66 歳か。こちらも歳をとるわけだ。これは余談。
 映画では、原作出版後もさらに進んだスエズやヴェオリア、ネスレなどといった水企業による水道民営化の負の側面を描いており、映画としての出来云々よりも、水に関心のある方はぜひ見ておくべきだろう。

■水へのアクセスは基本的な権利だから、水はタダであるべき 
「見ておくべき」という意味は、「この映画の主張に全面的に賛成しているから」という意味ではない。水はコモンズ(共有資源)であるべきという主張は同感だし、私自身、このことは2002 年頃から ずっと言い続けてきた。ただ、「水をコモンズとして守る」というのはゴールであって、そこに至る道は 多数ある。そこには、企業協力が欠かせないケースもあるし、政府を市民が監視しなければならない ようなケースもあるだろう。譬えれば富士登山に登山経路がいくつもあるようなものだ。
 この映画で描いているのは、水が公正に分配されない事態だ。といっても、望む人に最も効率的に 資源が分配される価格メカニズムがうまく機能していない(市場の失敗)ということではない。それ以 前に、商品経済が暴力的に持ち込まれた地域で暮らす貧困層から、生きる術を奪い取るという、かつてマルクスが問題視した収奪の世界像である。
ではどうすればよいのか?
 この映画では最後に、「水循環を自分たちで守りいたる所で涵養して、稀少な商品でなくなるようにすればよい」という発言を紹介していた。
 つまり「水は基本的人権だからタダが良い」ということで、バーロウやクラークにとって日本はよい国と映っているのだろうか?


■人は水に価値を見いださないと守る気にならない
 私たちは、水が豊富で「水はタダ」と思ったために、水をゴミ箱のように汚染したり、過剰揚水で地盤沈下を起こした経験をもっている。さらに公営水道が場合によっては効率的ではないこともよく知っている。
 実は、水問題は「ブルーゴールド」が企業悪玉論の二項対立で描くような単純問題ではない。
 水の商品化が悪なのではなく、企業・政府・市民の三者が共有資源としての水を守る制度を状況に 応じてつくりえなかったことが問題なのだ。行きすぎた水ビジネスはその一つに過ぎない。
 したがって、水をどのように守るか、という政策思想にはいくつもの立場がありえる。「水商品化絶対 反対論」と「水ビジネス振興論」という両極の間に、解くべき課題に応じて様々な思想が広がってい る。そのことを注意深く腑分けしていかないと、政策立案はできない。
 ただ一つわかっていること。
 それは、現代人は水に価値を見いだすから守る誘因が生まれるし、それ故に囲い込みたい欲求に もかられるという様々な当事者による課題の構造をもっているということ。
 構造を踏まえない政策は意味をなさない。
 水の政策思想が必要だ。

プロフィール
中庭光彦
中庭光彦 NPOフュージョン研究所所長・多摩大学総合研究所准教授
1962年生まれ。大田区居住ながら、1998年から多摩ニュータウンに通い続けている。経営の視点から、全国の地域づくりケースを収集。「コミュニティはツールだ」「水文化を知るとコミュニティがわかる」が持論。
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