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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年9月18日 17:16

プーチン発言で露見した成果が見えない「自慢の安倍外交」

(2018年9月18日筆)

 自民党総裁選の最中、ウラジオストックで開かれたロシア主催の「東方経済フォーラム」でプーチン大統領から「年内に日ロ平和条約を結ぼう、前提条件を付けずに」という発言が飛び出した。平和条約締結の「前提条件」は北方領土の帰属問題の解決というのが安倍総理とプーチン大統領の共通認識だったと聞かされてきたが、そうではなさそうだ。


歯舞、色丹返還に止まる62年前の日ソ共同宣言へ先祖返り

 プーチン発言は北方領土の帰属問題を「棚上げ」にして、日ロの経済協力などを前進させる平和条約を先行させようという主旨だろう。これをプーチン大統領は「今思いついたのだが」と冗談めかして述べたが、どうやら思いつきや冗談で言ったのではなさそうだ。

 この発言の前段でプーチンは「1956年の日ソ共同宣言は日本の国会でも承認された。その後、日本側が実施を拒否した」といっている。改めて1956年、鳩山一郎総理とブルガーニン・ソ連大臣会議議長の間で合意され両国議会が批准した共同宣言を見てみよう。

 日ソ共同宣言では、第1項で日ソ間の戦争状態の終了、第6項でソ連(ソヴィエト連邦社会主義共和国連邦)が日本に対する賠償請求権の放棄を宣言した。さらに第9項で両国間に正常な外交関係が回復された後、「平和条約の締結に関する交渉を継続する」とした。9項では、続いて以下のように書かれている。

 「ソ連は日本国の要請に応えかつ日本国の利益を考慮して、歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソ連との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」

 平和条約の締結は、通常、戦争状態の終了、賠償請求権さらに領土・国境線の確定という3項目の合意をもって完結する。前2項は1956年の日ソ共同宣言ですでに合意している。日ロ平和条約の締結は、残る「領土・国境線の確定(北方領土の帰属)」の合意によって完結するというのが、日ソ共同宣言の主旨だ。

 ただし、プーチン大統領が改めて言及した「日ソ共同宣言」は、歯舞諸島及び色丹島を平和条約締結後に引き渡すとだけ書かれており、日本側が主張する北方4島のうち国後島、択捉島の返還には一切触れていない。プーチン氏がフォーラムで「日本側が実施を拒否した」とも述べたが、これは日本側が共同宣言に書かれていない国後、択捉を含む北方4島の返還にこだわり、平和条約の締結を拒否しているという意味だろう。


国後、択捉はロシアの軍事戦略上の拠点、返還はあり得ない

 東方経済フォーラムでのプーチン発言は、62年前の日ソ共同宣言に先祖返りしたもので思いつきでも冗談でもなかった。彼には国後、択捉を返還する気など毛頭ないのだ。

 ロシアにとって北方領土を含むクリル諸島(千島列島)は、①ウラジオストック配備の主要艦艇の太平洋への自由なアクセスを確保する、②カムチャッカ半島の先端に配備する戦略原潜の航行を防護しオホーツク海での自由な活動を確保するという意味で、戦略的重要性がますます高まっている。クリル諸島の中間に位置する松輪(マツワ)島にはロシア太平洋艦隊の基地設営のための調査が実施されているという報道もある。

 防衛省によると、ロシア軍は国後、択捉両島にそれぞれ機関銃・砲兵連隊を置き、両島合わせて約3500人の兵隊が駐留を続けている。2016年には北海道に近い国後島の駐屯地を拡充、地対艦ミサイル「バル」(射程距離130キロ)を配備した。両島連隊の師団司令部がおかれている択捉島でも新駐屯地の建設がすすめられ地対艦ミサイル「バスチオン」(射程距離300キロ)の配備が確認されている。そのほか両島合わせて392の軍事関連施設の建設が予定されているという。

 安倍政権下で導入が進められているイージス・アショアには極東ロシアがすっぽり入る射程距離のミサイルSM3が搭載される。日米の軍事連携が強化される中、日本がSM3は防衛専一の迎撃ミサイルだからといってもロシアには脅威に映る。ロシアには北方領土、とりわけ太平洋への南の出口に当たる国後、択捉の戦略的重要性は増すばかりだろう。


「領土返還の希望を与えて対ロ投資を引き出すという芝居は続かない」

 こうしたプーチン大統領の姿勢は、22回にも上る安倍総理との首脳会談でも何ら変わることがなかったのではないか。

 安倍総理は2016年12月のプーチン大統領との首脳会談では、北方4島での共同経済活動や3000億円の極東ロシアでの対ロ経済協力を実施することで、「平和条約が結ばれ北方4島が返ってくる」という期待を国民に振りまいた。

 それについては、本ブログ「エビで大きな鯛を釣れるか? 3000億円の対ロ経済協力」(2016年12月19日)で詳しく触れたので繰り返さないが、その後1年9か月たっても北方4島の共同経済活動、極東ロシアでの対ロ経済協力が進んでいる気配がない。総理自身、「スムーズにいっていない」と認めており、エビ(経済協力)で大きな鯛(北方4島の返還)が釣れる状態になってはいないということだ。

 今回のプーチン発言に関してロシアの経済紙コメルサント(電子版)は、以下のような皮肉な専門家の解説を掲載したという。

 この専門家は、『日本の協力や投資を引き出すために「領土問題がいつかは解決するという希望を与えておけばよい」という認識がロシアにはあったが、思惑どおり協力は進まず、今回のプーチン提案で「(希望を与えて投資を引き出すという)芝居は続かないというモスクワの意思を示した」』(朝日新聞9月14日付け)と指摘したとという。

 専門家の解説が正しければプーチン氏のほうは、領土返還というエビで日本から対ロ経済協力という大きな鯛を釣ろうと芝居を打ったが叶わず、領土返還に対する本来の対日強硬姿勢をむき出しにしたということになる。


成果が見えない安倍外交、幻想を与えて政権維持計る政略に限界

 だが、日本がもっと大きなエビ(大規模な対ロ開発・輸入協力)を差し出しても、軍事戦略の拠点化を進めるプーチン大統領が国後・択捉まで返還するとは考えられない。

 相手のプーチン氏は元KGBの対外諜報部員だった。クリミヤ半島を併合して国際的批判を浴びても動じない「ロシアが第一」の策謀家だ。安倍総理は、大統領に「ウラジーミル」と呼び掛け、さも「親密さ」が日ロ交渉を前進させるという他愛のない幻想を日本国民に与え続けてきたが、見苦しい。もうよしたらどうか。自身の総理在任中に北方4島が返ってくるという幻想を国民に与え続け、政権の延命を図ることも止めたらどうか。

 上智大学の三浦まり法学部教授は、自民党総裁選の望む石破茂氏に対して、対トランプの貿易交渉、北朝鮮との拉致交渉、日ロの領土交渉など「安倍外交が本当に結果を伴っているのかを問うてほしい」とし、「安倍政権にとって実は外交が最も成功していない分野なのに十分語られていない。軍事や安全保障に強みを持つ石破氏だからこそ、安倍外交の対抗軸を示してほしい」と述べている(朝日新聞9月14日)。

 石破氏だけでなくジャーナリズムにも問うというなら三浦教授の言に全く同感だ。今回取り上げた日ロ交渉だけでなく、安倍外交の成果は実に疑わしいと小生も強く感じている。

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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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