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2018年6月11日 10:53

スルガ銀行はマイナス金利が生んだ異形のあだ花

(2018年6月11日筆)

 地銀の中堅、沼津市に本店があるスルガ銀行は日銀の超低金利政策(今はマイナス金利)が響いて多くの地銀が利益低下に悩む中、6年連続で増益を記録、金融庁の覚えもめでたい銀行として知られていた。6年前まで600円台だった株価も2600円台に上昇した。


「優良株」の株価が半値以下に、投資用アパマン融資に多額の焦げ付き

 ところが一転、スルガ銀行の株価は急落、1月高値2569円から6月8日終値1085円まで58%も下落した。下落の始まりは女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社がオーナーに約束した賃借料の支払いができていないことが判明したことだった。スルガ銀行は「かぼちゃの馬車」のオーナーに建設資金を融資していた。

 オーナーの多くは副収入目当ての30~50歳のサラリーマンだったが、スルガ銀行は審査書類を改ざんして1億円~2億円もの建設資金を融資していたという。融資金の返済原資となる運営会社からの賃借料収入が途絶えてしまえばサラリーマン・オーナーは返済不能になる...。

 その後、「カボチャの馬車」の運営会社は破たん、シェアハウス・オーナーに返済不能者が続出した。スルガ銀行は融資焦げ付きに備え貸倒引当金を積み増さざるを得ず、前2018年3月期決算で異例の修正を行う結果となった。修正前210億円だった連結純利益を69億円に修正、84%もの大幅減益(17年3月期純利益426億円)となった。

 貸倒引当金はまず、シェアハウス・オーナー向け融資(総額2035億円)に対して420億円が計上された。さらにシェアハウス向け以外の投資用アパート・マンション融資にも問題融資があることが分かり、これに対しても155億円強の貸倒引当金が追加計上された。

 スルガ銀行の増益の牽引者となっていた融資案件に大きな疑念が生じ貸倒引当が急増したのだから、株価が半年で半値以下になって当然だった。


中堅のスルガが地銀最大・横浜銀行を上回って本業利益トップ、なぜ

 スルガ銀行のそれまでの業績は目を見張るものがあった。週刊東洋経済「銀行員の不安」特集(18年6月2日号)の「地銀105行本業利益ランキング」が興味深い。本業利益は預貸業務と手数料等役務業務の利益合計で示されるが、このランキングでスルガ銀行は16年度、17年度連続してトップだった。

 2017年度、スルガ銀行は643億円の本業利益を挙げた。2位は538億円の横浜銀行だが、横浜の17年度末貸出金残高は10.7兆円と地銀最大だ。これに対してスルガ銀行の貸出金残高は3.2兆円と横浜の3分の1程度に過ぎない。そのスルガ銀が規模で3倍の地銀の雄・浜銀の本業利益を100億円以上も上回ったのだ。

 本ランキングは地銀単体ベースの数値で持ち株会社ベースではわからない地銀105行の本業利益が示されている。ちなみに2017年度は105行のうち半分近い48行が本業赤字だ。経営に不安のない信用力が支えの地銀だが、その半数近くが赤字というのは由々しき事態だというほかない。

 スルガ銀行は東の地銀最大・横浜銀行、西の地銀最優良と称された静岡銀行(本業利益5位275億円、貸出金残高8.2兆円)に挟まれた、預金残高ランクで30位前後の中堅地銀に過ぎない。そのスルガ銀行がなぜ、浜銀、静銀という両隣の有力銀行を上回る本業利益を稼ぎ出すことができたのか。


貸出金利回りは地銀平均の3倍以上、高い貸出金利のアパマン融資で稼ぐ

 その秘密は、3.61%(18年3月末)にもなる高い貸出金回りにある。地銀平均の貸出金利回りは年々低下し現在は1%強に過ぎない。スルガ銀行は中小企業向けや自治体向けなど貸出金利引き下げ競争が激しい融資から撤退、高い貸出金利が期待できる個人向けローンに傾斜した。現在、個人ローン比率は90%超に達している。これが地銀平均の3倍以上の貸出金利回りを実現する原動力になった。

 スルガ銀行の個人ローンの主力は通常の住宅ローン(融資残高2兆円超)だが伸びが鈍化、それを補うため単身女性や転職者、非正規社員向け信用力は低いが高い貸出金利となる分野へも住宅ローンを拡充したという。その結果、通常の住宅ローンでも3.45%(17年9月末)の貸出金利回りを確保している。

 その一方、「パーソナルローン」と称する個人ローンを拡販、融資残高約9084億円(17年9月末)の規模に育て上げた。パーソナルローンの貸出金利回りは5.79%にもなる。その中核が「有担保パーソナルローン」と称する今回の問題となったシェアハウス向けを含む個人向け投資用アパート・マンション融資だった。この「有担保パーソンローン」は住宅ローンを上回る高い貸出金利となり、スルガ銀行の増益に貢献していた。


地銀の半数近くが本業赤字の中、スルガ銀行ひとりが儲けるなどあり得ない

 地銀の経営環境は厳しい。少子高齢化で地域人口が大きく減少、新規融資先が減っている。日銀の超低金利政策もあって地銀の平均貸出金利は直近0.95%と1%割れだ。国債への運用利回りもゼロ%近辺、前期は米国債の下落で国債等運用損益は大幅赤字となった地銀も少なくなかった。

 教科書には貸し倒れリスクの高い融資案件の貸出金利が高くなるのは理にかなっているとある。スルガ銀行がハイリスク融資先の審査・管理を徹底して貸倒れリスクを小さくして高収益を上げたのなら評価される。しかし実際、スルガ銀行は融資先の返済能力や担保を評価するための貸出審査書類を改ざんしてまで貸し込んできたのだ。高い貸出リスクを偽って高い貸出金利を設定してきたのだ。

 すべての地銀が苦しんでいる中、ひとりスルガ銀行だけが高利回りビジネスモデルで成功するなどあり得えるのか。都心部ですら空き家が問題になっている住宅の過剰供給時代に、高利回りアパート・マンション融資が持続できるか疑わしい。スルガ銀行のアパマン融資による高利回り経営は、日銀の量的金融緩和によるバブル融資の一角、マイナス金利がもたらした異形のあだ花だったようだ。

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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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