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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年5月14日

2018年5月14日 13:59

誰が信じるのか、安倍政権の「2つの政策目標」

(2018年5月14日筆)

 安倍総理は「信なくば立たず」と繰り返している。しかし、国民の信頼はいまや地に堕ちている。読売新聞の4月世論調査でも内閣不支持率は53%に達し、不支持の理由の第一は「首相が信頼できない」で62%にもなる。安倍総理シンパのメディアといわれる読売ですらそうだから、他は推して知るべし、だ。

 「首相が信頼できない」と多くの国民が思う理由は、森友学園、加計学園など安倍総理のお友達を優遇する不公正な行政への疑惑にある。小生にも首相が信じられない理由は多々あるが、中でも重要なのはいよいよ信じられなくなってきた安倍内閣の金融・財政に関する「2つの政策目標」の行方だ。


7度目の達成時期先送りは回避、信じられない2%物価目標の実現

 そのひとつはアベノミクスの主柱である日銀による2%物価目標の達成だ。2%物価目標の達成は安倍政権発足直後の2013年1月に公表されたの政府・日銀の共同声明で両者の共通目標になっている。

 黒田総裁は2013年4月の就任後の大規模緩和の実施に当たって2%物価目標の達成時期を2年後の2015年度に置いた。だが2年後になっても目標を実現できなかった。その後も達成時期を明示してきたが実現できず、できないことの言い訳を幾度も変えながら6度も達成時期を先送りしてきた。

 6度の先送りで専門家の中にも量的緩和(日銀による長期国債の購入)という政策手段の即効性に疑いを持つ者も増えた。いつまでも実現できない2%物価目標自身にも疑いの目が向けられるようになっている。そうした中で達成時期の7度目の先送りが発表されれば、黒田日銀への信頼も地に堕ちることになる。

 しかし、今年4月の政策決定会合で示された日銀自身の消費者物価見通しは2018年度1.3%、19年度1.8%、20年度1.8%(消費税率引き上げの影響を除く)にとどまった。2020年度になっても2%物価目標は達成できない見通しになっている。

 「2019年度頃」としていた達成時期を先送りせざるを得ず7度目の先送りが必至となっていたが、7度目の先送りは日銀の金融政策の信用を大きく傷つける結果を招く。日銀が信じられなくなれば、大規模な量的緩和によって「人々のインフレ期待に働き掛け物価目標を達成する」という日銀の金融政策そのものが疑われ危うくなる。その結果、インフレ目標も実現できなくなる。


物価目標の達成時期を削除、だらだら続き長期化する量的緩和

 それを恐れてか、黒田日銀は4月公表の「展望レポート」から2%物価目標の達成時期そのものを削除した。達成時期は削除したが、「2%の物価目標が達成されたとしても、2%以上の物価上昇率が実績値で安定的に維持されるまで量的・質的緩和を続ける」とするコミットメント(約束)は継続するという。

 だが、消費税引き上げの影響を除いたベースで2%以上の物価上昇率を「実績値で安定的に維持する」という約束を満たすのは容易ではない。大幅な円安と資源高が併存し輸入物価が持続的に上昇する―、それ以外では実績値で安定的に2%以上の物価を実現するのは難しいだろう。

 となれば出口なき量的緩和が20年度を超えてだらだら続くのではないか。量的緩和がだらだら続けば、日銀のバランスシートに日本国債の保有残高がさらに積み上がる。その見返りに民間金融機関の日銀当座預金がさらに積み上げられる。日銀は緩和の出口に想定される当座預金への金利引き上げで多大な損失が生じるリスクがさらに強まり、自らの信用が棄損される......。


基礎的収支黒字化も5年先送りだが、実現の可能性は極めて低い

 誰も信じない目標のもう一つは、税収などの歳入で国債費を除く歳出を賄える収支を表す「基礎的財政収支の黒字化」という財政再建の目標だ。

 前回のブログにも書いたので詳しくは触れないが、安倍政権は今年6月にも新たな財政健全化計画を示し、基礎的財政収支を黒字化する目標年度を2020年度から2025年度へ5年先送りする方針だという。

 18年1月に内閣府から出された「中長期の経済財政に関する試算」によれば、名目3%前半、実質2%の成長実現ケースでも国と地方の基礎的財政収支が黒字化するのは2027年度だ。名目1%後半、実質1%強という現状に近いベースラインケースでは27年度に8.5兆円の赤字が残るという試算だ。

 いずれのケースでも2019年10月実施予定の消費税2%増税による税収増加分が見込まれている。それでも27年度の黒字化すら危ういという試算だ。にもかかわず安倍政権は黒字化試算から2年前倒しした25年度に黒字化を達成するという目標を立てるというのだ。そんな目標を誰が信じるのだろうか。


総理在職中だけ景気が良ければ...、19年10月消費増税も先送り?

 2025年度に黒字化を達成するには、歳入面では19年10月の消費増税を確実に実行したうえで他に新税あるいは社会保険料の引き上げが必要になる。歳出面では高齢者を対象とする社会保障費の大幅な削減が必要になる。

 いずれも国民・消費者に大きな負担を強いることになるが、「選挙が第一」の安倍政権がそれらを財政健全化計画の中に組み込むとはとうてい思えない。2019年10月の消費増税すら危うい。安倍政権になって2度消費増税を先送りしたが、3度目の増税先送りとなる可能性も大いにある。

 つい先日、自民党の若手議員39名が「消費増税の凍結と基礎的財政収支黒字化目標の撤廃」を求める提言を発表した。提言には「首相の意向が働いている」(朝日新聞5月12日朝刊)というのが本当なら、安倍政権が策定する財政健全化計画など信じるほうがおかしい。

 安倍総理は総裁3選に成功すれば2021年9月まで総理の職にある。それまでに東京五輪後の景気後退に耐えて2%物価目標を実現できるか、微妙なところだ。しかも基礎的財政収支の黒字化達成の2025年度には安倍総理も麻生財務大臣もその職にはいない。

 総理は日銀が量的緩和(国債購入)の長期化を利用して事実上の財政ファイナンスを継続、総理在職中、好景気が持続すればいいと思っているのかもしれない。

 2%物価目標の達成、基礎的財政収支黒字化の実現という2つの政策目標はいずれも国家運営の基本の属する目標だ。しかし安倍総理が率先してその目標実現に取り組むか疑わしい。実現を約束しても空手形、総理退任後のことなど知ったことではないということなのだろうか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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