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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年4月

2018年4月23日 14:12

財務官僚の弱体化で財政再建が絶望的になる恐れ

(2018年4月23日筆)

 財務省では森友文書の改ざんで事務方ナンバー2の佐川国税庁長官、女性記者へのセクハラでナンバー1の福田事務次官の首が飛んだ。この後、文書改ざんをめぐる財務省の調査、森友学園への国有地払下げをめぐる大阪地検特捜部の捜査が終わり、新たな財務官僚の処分が発表されるに違いない。

 財務官僚の不始末を糾弾するのはたやすいが、財務官僚は官庁の中で唯一、世界最悪の日本の財政状態を心配している官僚だ。この財務官僚の力が弱体化すれば予算は政治家たちのつかみ取り、歳出膨張に歯止めがかからず財政再建は絶望的になる恐れがある。海外投資家も日本の金融機関も日本国債を敬遠、買い支えるのは日銀だけとなり、日本財政の信用は失墜することになる。


麻生財務相辞任より財務官僚の弱体化のほうが影響深刻

 佐川氏、福田氏の任命責任、財務官僚の監督責任を問われ、麻生財務大臣まで辞任すれば財務省は完全崩壊すると心配する向きもあるが、財政再建にとって麻生氏はさほど重要な存在ではない。

 麻生氏は一見、財政再建に強い使命感を持つ財務官僚の味方に見える。しかし実際は、歳入の足枷になる消費増税先送りや軽減減税率導入を最終的に容認、さらに補正予算を乱発するなど歳出抑制には腰が引けている。頼りにするは日銀の国債購入と国債のゼロ金利政策という財務大臣という風に見える。

 そして麻生氏は2020年度基礎的財政収支の黒字化という国際公約を反省もなく放擲した。基礎的収支黒字化は2025年度へ5年先送りする方針のようだ。だが2025年度でも黒字化が実現できると思っている識者は少ない。

 だいいち、2025年度には安倍総理も麻生財務相もその座にはない。麻生氏は財政再建などうでもよいと思っている安倍総理と同類なのだ。財務官僚たちは、部下に責任を取らせ自分は責任を逃れる麻生氏、財政再建は見せかけだけという財務大臣など辞めてもらって結構と内心思っているのではないか。


2019年度本予算は消費増税対応の景気対策込みで100兆円突破

 それはさておき、7月の定期人事が終われば財務官僚は2019年度予算の編成に取り組むことになる。この予算編成は2019年10月の消費税率の2%引き上げを控え、財政再建にとってことのほか重要な予算編成になる。

 安倍総理はこの2月、関係閣僚に消費増税に伴う景気後退に備えた景気対策の検討を指示した。安倍総理には14年4月の3%消費増税時の景気対策(2013年度補正予算5.5兆円)が小さ過ぎ消費の反動減を補えなかったという後悔から対策規模をこれよりさらに大きくしたい、という意向があるという。

 しかも、その景気対策を補正予算として打つのではなく、2019年度の本予算に組み込んで打つという。5.5兆円以上の景気対策を本予算に組み込めば、歳出削減がなければ、2019年度の本予算は103兆円を上回ることになる。(2018年度の本予算97.7兆円に景気対策を上乗せして計算。)

 本予算と補正予算合わせた決算ベースの歳出総額の最大はリーマンショック後の2009年度の101兆円だが、これを2019年度は軽く上回る。

 消費税2%引き上げによって財源が増えるというが、その増収効果は約5兆円強にすぎず5.5兆円以上の本予算上乗せ分を下回り、財源には足りない。しかも期待の消費増税による増収分は、その使途がすでに変更されている。


膨らんだ歳出は常態化、無責任な財政運営続けば市場の反乱も

 増収分5兆円強のうち1兆円は「税と社会保障の一体改革」当時からの約束で社会保障の充実に充てることが決まっている。財政赤字の削減に充てるはずだった残り4兆円のうち1.7兆円は新たに教育の無償化の財源となった。軽減税率導入による税収減1兆円の手当てもまだ完全についていない。

 社会保障の充実と教育の無償化を合わせ2.7兆円は恒常的な歳出になる。加えて景気対策としていったん本予算に計上された歳出は既得権益化するのが民主主義の悪弊だ。安倍総理がトランプ大統領の取引外交に屈し、防衛兵器の追加購入や農畜産物輸入の拡大に対応する予算計上を迫られる懸念も残る。

 安倍政権は2020年度も東京五輪後の景気後退に備えた景気対策込みの本予算を組むという。103兆円にも膨らんだ本予算が常態化する可能性が高く、その削減は容易ではない。

 安倍総理と麻生財務大臣は6月に作成される経済運営の「骨太方針」でどのような絵を描くのか。恒常的な歳出の膨張にどのように歯止めを掛けるのか、不確かな成長下、税収の安定的拡大ができるのか、基礎的財政収支の黒字化はいつになるのか、が問われる。

 9月の総裁選挙で3選を実現、安倍総理続投となっても任期は2021年9月までだ。在任中だけよければいいという無責任な財政運営になっては困る。財務官僚が弱体化した現在、安倍政権による財政再建軽視の姿勢がその「骨太方針」に現れれば、国内外の金融市場のプレーヤーたちが反乱を起こす可能性がある。

 そうなると市場では日本国債が売られ長期金利が急上昇、国債利払いの急増から財政破たんが現実のものとなる。これを防ぐには投資家に売られた国債を日銀が買い続けるほかない。そうなると量的緩和の出口がなくなってしまい、日銀はインフレ転換時の引き締め手段を失うことになる。

2018年4月 9日 13:36

安倍総理はトランプの「取引外交」に対峙できるか

(2018年4月9日筆)

 安倍総理は「日米はこれまでもこれからも100%共にある」「日米同盟はかつてないほど強固だ」と繰り返し述べてきた。米国民の半分以下の支持しかなく、何をしでかすか分からないトランプ大統領を相手にそんなことを言って「安倍総理、大丈夫ですか」と心配していた国民も少なくなかっただろう。


突然の米朝首脳会談、鉄鋼の対日制裁関税と2度の「裏切り」

 その国民の心配が現実のものとなった。3月9日、安倍総理と歩調を合わせ北朝鮮とは「対話のための対話はしない」と言っていたトランプ米大統領が突如、金正恩委員長と初の米朝首脳会談を5月に開催すると表明した。安倍総理がこれを知ったのは発表の直前だったようだ。

 さらに3月22日、米通商法301条(不公正な貿易慣行への制裁)に基づく中国への制裁関税を発表した日、トランプ大統領は日本にも言及した。「日本の安倍首相らは『こんな長い間、米国をうまく騙せたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」とツイッターに書いたのだ。

 同じ日、トランプ氏は米通商拡大法232条(米国の安全保障を脅かす恐れに対する制裁)による鉄鋼・アルミの関税引き上げを発動した。その対象国として残ったのは中国、ロシア、日本の3か国だった。明らかに米国の潜在敵国である中国、ロシアならわかるが、米国と「かつてないほど強固な同盟関係にある」はずの日本が制裁関税の対象国に残ったのだ。

 米朝首脳会談の発表直前まで安倍総理は「対話のための対話をしない」という盟約を違えることの説明を米国から受けられなかったという。鉄鋼・アルミ関税では中国、ロシアと同じ制裁扱いという仕打ちをトランプ氏から受けた。

 安倍総理は「100%共にある」と信頼したはずのトランプ大統領に2度にわたって裏切られた格好だ。


在韓米軍撤退、鉄鋼制裁関税で脅し通商で利をとったトランプ

 ただトランプ大統領は、安全保障と通商の二つの外交手段を絡めた二国間の取引(ディール)を重視、手段を選ばず自ら支持者のための「アメリカ第一」を貫く。知日派のジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授が「トランプ氏は同盟関係を重視する第2次大戦後の歴代大統領とは大きく異なる。明確な戦略より取引を重視する」(「朝日デジタル」2017年10月27日)と評した異形の大統領であることはよく知られている。

 トランプ氏は「取引」のためなら安全保障上の恐れがない同盟国でも容赦がない。韓国との米韓FTAの再交渉がその好例だ。トランプ氏は北朝鮮と緊張関係がある同盟国・韓国に対して、①在韓米軍の撤退をほのめかす、②鉄鋼、アルミ制裁関税の適用除外を餌にするなどして、韓国側から米国基準のまま米車の韓国内販売枠を倍増させるなどの譲歩を引き出した。再交渉の付随文書で韓国側に通貨安誘導を封じる「為替条項」も飲ませたという。

 しかもトランプ氏はFTA再交渉の最終合意を先送りした。合意先送りは、韓国の文在寅大統領が南北首脳会談で北朝鮮包囲網を崩す融和策に踏み切るのを牽制するためだという。トランプ氏には米韓同盟すら取引材料なのだ。


安倍総理もトランプ「取引外交」の餌食になるのか 

 4月17日、18日、マイアミのトランプ大統領の別荘で6度目となる日米首脳会談が開かれるが、ゴルフでのスキンシップを過信すると安倍総理は韓国の文大統領と同様、トランプ大統領の「取引外交」の餌食になる恐れがある。

 3月25日の「ワシントン共同」によると、河野外相が米朝首脳会談開催の前提条件として「日本が射程に入る中距離弾道ミサイルの放棄と日本人拉致問題の解決を北朝鮮に追加で約束させるよう要請した」と報じている。これに対して北朝鮮の実質交渉担当者と見られるポンペオCIA長官(次期国務長官)は「現実性が落ちる」と河野氏の要請を一蹴したという報道もある。

 首脳会談で安倍総理も中距離弾道ミサイルの廃棄や日本人拉致問題の解決をトランプ氏に持ち掛けるのだろう。しかし米国にとって米朝交渉の最優先は「北朝鮮の核と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の米国への脅威除去」だ。米国への脅威にならない中距離弾道ミサイルの廃棄や安倍総理自ら北朝鮮と交渉すべき問題である日本人拉致問題などお門違いだろう。

 それよりトランプ氏にとって重要なのは対日貿易赤字対策ではないか。韓国、中国に続いて日本との2国間通商交渉で成果を上げればトランプ氏は支持率を回復させることができる。苦戦が予想されている「中間選挙」にも勝つことができる。だからこそわざわざ「米国は長い間、安倍総理にうまく騙されてきた」とツイートした。


自動車、農畜産物の市場開放、最先端兵器購入を迫られる

 今回のトランプ・安倍首脳会談では取り上げられなくても、近い将来、中国に対するのと同様、不公正取引の是正を迫る通商法301条の適用をちらつかせ自動車や農畜産市場の開放に焦点を当てた日米の2か国間FTA(自由貿易協定)を迫られるに違いない。

 対日貿易赤字解消という名目で弾道ミサイル防衛システムやステルス戦闘機など米国製の最先端兵器の購入を迫ってくることもあるだろう。韓国に対するのと同様、日本の円安誘導を封じる「為替条項」の設定などが取り上げられる可能性もある。

 トランプ大統領のほうには対日取引材料は豊富にある。鉄鋼、アルミの制裁関税からの適用除外という餌だけでなく、中距離弾道ミサイルの放棄、日本人拉致問題など日本が要請する対北朝鮮対策すらトランプの取引材料になり得る。

 これに対し、安倍総理の側にトランプ氏が持つ取引材料に対抗できる取引材料がどれぐらいあるのか。制裁に対する対抗措置もとらず、スキンシップにだけ頼ってトランプ大統領からお目こぼしを頂戴するだけの安倍外交ではトランプの「ディール外交」に押しまくられるだけになる。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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