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2018年2月13日 13:37

NY株暴落は「健全な調整」か、趨勢下落に至るのか

(2018年2月13日筆)

 世界同時の株価暴落が発生した。今回の震源地は米国だ。2月2日、NYダウは長期金利の上昇を懸念して急落した。その後、1日1000ドル以上の乱高下を繰り返し、2月5日には1175ドルもの戦後最大の下げ幅を記録した。

 ただ下落率はまだ小さい。最大の下落率を記録した2月5日でも4.6%だ。2008年のリーマンショック時は、1日で7%を上回る下落を繰り返した。その後、趨勢下落となり半年間で暴落前の高値に比べ53%もの下落率となった。

 今回の暴落前の高値比の下落率は8.5%にとどまる。現段階での下落率はリーマン暴落時に比べまだ小さいといってよい。


無視され続けたNY株への「買われ過ぎ、割高」の警告

 暴落を機に趨勢下落となるのか、買われ過ぎに対する一時的な調整下落にとどまるのか。今のところ後者の説が有力である。後講釈になるが、NY株が買われ過ぎ、割高となっていることを示す株価指標はいくつもあった。

 ひとつは世界的な投資家・ウォーレン・バフェットが考案した「バフェット指数」だ。一国の株式の時価総額は名目GDPに収斂するという経験則から割り出された指数だ。急落前、1月18日の米株のバフェット指数は均衡値の100%を大きく超え149%に達し、買われ過ぎの警告が発せられていた。

 もう一つはノーベル経済学賞受賞のロバート・シラー教授が創案した「シラーPER」だ。PER(株価収益率)は株価を一株当たり利益で割って算出されるが、シラーPERは過去10年間の一株当たり利益の平均値をインフレ率で調整した実質値で算出される。

 米国株の代表指数S&P500ベースのシラーPERは16倍台が過去平均だ。25倍以上になると株式が利益に対して買われ過ぎ、割高と判断される。暴落前の2018年1月のシラーPERは32倍に達しており、株価は明らかに割高となっていたといえよう。


インフレ懸念で長期金利が急上昇、株式の割高感が際立つ

 しかし株価はバフェット指数、シラーPERの警告を無視する形で上昇した。その背景にあったのは低インフレと大幅な金融緩和がもたらした低金利だった。それが18年1月の賃金上昇を含む「強い雇用統計」で急変する。

 「強い雇用統計」の発表は賃金上昇によるインフレ懸念を市場にもたらした。インフレ懸念の台頭で買われ過ぎていた米国債が売られ長期金利(10年もの米国債利回り)が急上昇したのだ。

 長期金利の急上昇は株式投資には逆風だ。長期金利(債券利回り)と株式益回り(1株利益÷株価、PERの逆数)あるいは株式配当利回りを比べるイールドスプレッド(利回り格差)の考え方に従えば、長期金利が上昇すれば相対的に株式の益回りや配当利回りが低下、株価の割高感(買われ過ぎ)を際立たせる。

 投資家たちはインフレ懸念の増大に伴う長期金利のさらなる上昇を懸念して、バフェット指数やシラーPERが株式の買われ過ぎに警鐘を鳴らしていることに気が付き、慌てて株式を売った。さらにコンピュータによる機械的な売りが株価暴落を加速することになった。


トランプの財政膨張路線が金利上昇圧力を強めた

 ただ、米国の長期金利は年末の2.4%倍から2.8%台へ0.4%上昇したに過ぎない。問題は今後の金利上昇テンポにあるが、それを加速する新たな要因が米国経済に加わった。トランプ政権による財政膨張がそれだ。

 一つは10年間1.5兆ドル(約165兆円)ものトランプ減税だが、この功罪については前回ブログで述べた。もう一つはインフラ投資等による歳出拡大だ。トランプ大統領は2019会計年度の予算教書で今後10年間1.5兆ドルのインフラ投資を掲げた。議会は大幅減税、歳出拡大に備え2018年度、19年度の2年間で3000億ドル(約33兆円)の歳出上限引き上げに合意した。

 トランプ政権は、大幅増益基調の企業収益、最高値連続更新の株価、2000年以来17年ぶりに低い完全失業率、貯蓄率低下による消費拡大など景気拡張が続く環境下でなお大幅減税と財政出動(歳出拡大)を上乗せするのだ。完全雇用下、景気を過熱させインフレを煽る異常な財政拡張政策というほかない。

 米国の長期金利は、インフレ懸念を強める財政膨張政策、その結果としての財政赤字拡大による国債増発(政府債務の増大)の両面から上昇圧力を受けることになる。長期金利の上昇が加速すれば株式はさらなる下落を余儀なくされる。


パウエル新議長のFRBが抱え込んだ深刻なジレンマ

 異様な財政膨張の結果、慎重に金融正常化を進めてきたFRB(連邦準備制度理事会)は深刻なジレンマを抱え込む。財政膨張によるインフレ懸念を抑制するには金利引き上げを加速する必要がある。しかし、金利引き上げを急げば今回のような株価暴落が繰り返され景気減速(雇用悪化)につながる。インフレ懸念対応と株価暴落対応のいずれを優先するのかというジレンマだ。

 今回の株価暴落に対するFRB高官の判断は、「現段階では大したことはない」(ダドリー・ニューヨーク連銀総裁)という発言に代表される。イエレン前議長を筆頭にFRBは「NY株は高過ぎる」という見方を強めており、今回の株価暴落を「健全な株価調整」(カプラン・ダラス連銀総裁)と見ているようだ。

 FRBは、NY株価は健全な調整にとどまるとして、景気過熱によるインフレ懸念対応を優先する方針を変えていないと思われる。この方針に従えばFRBは年3回の政策金利引き上げ、保有資産縮小の拡大(米国債売りの拡大)を予定通り進めることになり、長期金利は上昇を続ける。

 本当にそうなるのか、2月末に行われるパウエル新議長の議会証言が注目される。ただ、潜在成長率2%近辺と想定される米国経済が3%(現在2.8%台)を上回る長期金利に耐えうるのかどうか試される。長期金利が3%台に突入すれば、少なくとも低インフレ、低金利によって築かれたNY株の「適温相場」は崩れることになりそうだ。

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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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