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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年1月22日 12:27

トランプ大統領就任1年、大型減税スタートの功罪

(2018年1月21日筆)

 就任して1年、トランプ米大統領の支持率は38%、戦後の大統領の中で最低となった。一方、トランプ就任後1年間のNYダウ上昇率は31.9%、1981年のレーガン大統領就任以来、6代の大統領の中で最高だった。

 反知性で差別容認、史上最も不人気な大統領のもとでも株価は上がった。トランプ氏は、自らが選んだフェイクニュースの第一位に「トランプ以降、市場は決して回復しないだろう」としたノーベル経済賞受賞者クルーグマンのNYタイムズ紙の評論を取り上げた。株価上昇を最大の手柄としたいのだろう。


企業への大幅減税がトランプ就任後初の本格的な経済政策

 しかし、トランプ就任後、口先介入や規制緩和はあったが本格的な経済政策はなかった。NYダウの上昇はリーマン危機後8年以上も続いており、トランプ政権下だけの現象ではない。長期停滞論が世界的にささやかれる中、低成長・低インフレ、低金利(世界的な大幅緩和)という経済環境のもとでジリジリ株価が上がる「適温相場」がトランプ就任後も継続した結果に過ぎない。

 因果関係を問わず、権力者が株価上昇を自ら手柄とする性癖は洋の東西を問わないようだ。

 こうした中、昨年12月、選挙公約の5兆ドル減税案より縮小したが、10年間約1・5兆ドル(約165兆円)にのぼる大型減税案が成立、本年1月から実施された。トランプ就任後初の本格的な経済政策と評価されている。

 今回のトランプ大型減税で注目されるのは企業に対する大幅な減税だ。①連邦法人税率を35%から21%に引き下げる、②海外子会社からの配当所得課税を廃止する(現在は海外納税分を除き35%課税)、③海外に留保された現金等を米国へ還流させる際、現在は35%課税だが、一度に限り8%~15.5%の課税とする(レパトリ減税)、この三つが主なものだ。

 法人税率引き下げによって地方税を含む米国の法人実効税率は減税前の38.91%から27.75%に低下、OECD加盟国平均の24.18%には及ばないが、ライバルのドイツ(30.18%)、日本(29.97%)を下回った。法人実効税率の低下で米国の立地競争力は回復することになる。


レパトリ減税に抜け目なく反応したアップル、追随続出か

 海外子会社からの配当所得課税の廃止、レパトリ減税は海外から米国への資金還流を促す効果がある。米企業が海外にため込んだ留保資金は2.5兆ドル(約275兆円)にのぼるが、これが本国に還流し設備投資や研究開発、M&A(企業買収)など投資に充てられれば米国のサプライサイド(供給側)の強化、成長率の引き上げに貢献することになる。

 米最大の時価総額を誇るICT企業・アップルは、レパトリ減税に素早く反応、低税率国にため込んだ2500億ドル(約27.5兆円)のうち300億ドルを還流、米国内に投資、2万人の新たな雇用を生み出すと発表した。今後、アップルに追随する米系多国籍企業が増えるに違いない。

 今回の減税には、10年間で1.1兆ドルにのぼる個人所得減税も含まれる。だが、①所得税の最高税率の引き下げ、②遺産税(相続税)の課税最低限引き上げ、③個人事業主などの所得税率引き下げなど富裕層優遇が目立つ。法人減税や富裕層減税による株価上昇、賃上げの効果を中堅所得層・貧困層へのトリクルダウン効果(おこぼれによる所得増)を狙ったものとされる。

 それはさておき、このトランプ減税実施を受けFRB(米連邦準備制度理事会)は2018年の実質成長率予想を2.1%から2.5%へ0.4%引き上げた。IMF(国際通貨基金)も2%後半へ引き上げるという。成長率の上振れで2009年7月から始まった今回の米景気拡張が、2019年7月には過去最長の120カ月(10年間)に並ぶことはほぼ確実だという見方も多い。


歴史的な完全雇用状態での大型減税が「適温相場」を崩す?

 いいこと尽くめのようだが、大型減税をめぐって懸念がないわけではない。その第一は、失業率4.1%という歴史的な完全雇用状態での大幅減税となったことだ。これに10年間1兆ドルにものぼるトランプのインフラ投資拡大案が上乗せされれば米景気が過熱、インフレが高進しかねない。

 景気が過熱、インフレが高進すればFRBは想定以上の短期政策金利引き上げ、緩和縮小(長期金利引き上げ)を余儀なくされる。トランプ減税は一方で10年間1兆ドル以上の財政赤字拡大をもたらすと予想され、これも長期金利上昇の原因になりかねない。

 その結果、NY株は低インフレ、低金利、低成長によって築かれた「適温相場」が崩れるリスクを抱えることになる。PER(株価収益率)や時価総額から見てNY株の割高感が指摘されている現在、トランプ政権を支えた株高も共和党の上院過半数割れが予想される11月の中間選挙までには、反落に転じるとする市場関係者も少なくない。


米国への資金還流が中国や低税率国からの資金流出につながる

 もう一つは、海外からの配当所得減税、レパトリ減税などによる米国への資金還流が引き起こす事態だ。米国への資金還流はアジアでは中国、シンガポール、欧州ではオランダ、アイルランド、北欧諸国など低税率国からの資金流出を意味する。中国では国内で発生した利益を中国に投資する海外投資家に対する所得税減税を発表、米国への資金還流を阻止する動きを見せている。

 米国への資金還流は低税率国からの資金流出、ひいては投資の縮小につながる。中国を例に挙げれば、国内からの資金流出に伴う人民元安、株安が発生するリスクを再び抱え込むことになる。これに米国金利の上昇が加われば、新興国や低税率国からの資金流出がさらに加速、世界経済が不安定さを増しかねない。

 トランプ政権による完全雇用状態での税制、財政両面からの過剰な景気刺激が、金利上昇、海外景況の暗転を通じて米景気の寿命を縮める結果を導くパラドックスにも留意せねばなるまい。

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QuonNetコミュニティ | 2018年1月22日 14:00
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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