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2017年11月20日 12:23

「参院の合区解消」のための改憲など必要ない

(2017年11月20日筆)

 安倍総裁が掲げた4つの憲法改正項目(自衛隊の明記、緊急事態条項、教育の無償化、参院の合区解消)のうち、参院の合区解消についての議論が自民党憲法改正推進本部(細田博之本部長)でなされ、いちはやく成案を得たという。

 4つの項目のうち参院の合区解消は憲法改正の必要性が最も疑われる項目だと思っていた。その議論が最も早く成案を得たのは、2019年夏に行われる参院選での自民党の党利党略があるためと思われる。そうだとすれば噴飯ものだ。


投票価値の格差(一票の格差)を無視する自民党改憲案
格差解消なら参院定数の拡大必死で、議員は「改憲太り」

 少し解説しよう。参議院議員は「選挙区」選挙と「全国比例代表」選挙で選ばれる。2016年参院選からこのうち「選挙区」選挙において島根と鳥取、徳島と高知それぞれ2選挙区が1つに合区され、4議席が2議席に削減された。

 その結果、「選挙区」選挙によって都道府県から少なくとも議員が一人選出されるという体制が崩れた。これに反対しているのが自民党だ。自民党憲法改正推進本部は憲法47条に「広域的な地方公共団体(都道府県)から少なくとも一人が選出されるように定める」とする1項を加え、選挙区の合区を解消するという。

 この自民党の改憲案からは島根、鳥取、徳島、高知という自民党が強い選挙区で自民2議席を復活させる狙いが透けて見える。だが、参院の合区は2010年参院選に関する最高裁の2012年判決にもとづく。自民党の改憲案はこの最高裁の判断を覆してでも議席回復を狙おうとするものだといえる。

 2010年参院選では議員一人当たり有権者数で見て最大1対5の投票価値の格差があった。当時、神奈川県の有権者は鳥取県の有権者の5分の1の投票価値しか持たなかった。最高裁は「都道府県を選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる」として不平等状態の解消を求めた。

 憲法14条は「すべての国民は、法の下に平等であって、(中略)、差別されない」と謳っている。投票価値の格差は国民を明らかに差別するもので、「選挙区」の合区はすべての国民の「法の下の平等」を回復する措置だったといえよう。

 だが自民党の改憲案には国民にとって最も大切な投票価値の格差(一票の格差)への配慮がない。地方の人口減少、都市への人口集中が進むという趨勢は変わらず、今後も投票価値の格差は拡大する。16年参院選でも最大1対3の格差があった。

 そうした中で、「都道府県から少なくとも一人が選出される」ことを憲法47条に付記すれば、参院の議員定数が変わらない限り、ますます投票価値の格差が拡大するというジレンマが生じる。

 例えば、都道府県から最低一人選出を確保したうえで投票価値の格差を解消しようとすれば、投票価値が小さくなった都道府県からの選出議員数を増やすほかない。つまり、参院の議員定数を増やすことになり、定数削減が叫ばれる中、議員数は逆に「改憲太り」となる。議席を確保したい卑しい議員心理に便乗した改憲だ。

 参議院は憲法上、法案、予算、条約、総理指名などの議決権で衆議院に劣後する。そのうえ、議員の政党化が進み議論が衆議院のコピー、繰り返しとなりがちで、その存在価値が問われれている。参院無用論すらある中、議員定数の拡大などもってのほかというほかない。


参議院議員は都道府県の代表ではなく全国民の代表
選挙制度は憲法改正しなくても法律改正で実現できる

 さらに、都道府県に最低一人という考え方は、議員に都道府県それぞれを代弁させるという考え方が背後にある。この考え方は「両議院は、全国民を代表する議員でこれを構成する」とする憲法43条に反する。国会議員は「全国民を代表する」のであって「都道府県を代表する」ものではない。良識の府とされる参議院の議員にはとくに全国民を代表してもらいたい。

 いずれにせよ、先行すべきは選挙制度を含む参院改革であって合区解消のための憲法改正ではない。都道府県を超えた道州制導入を主張する日本維新の会や希望の党は「参院議員が都道府県を代表する」という考え方には否定的だ。公明党、共産党などからはブロック制による比例代表制を基本とする参議院の選挙制度改革案が出されている。

 参議院に存在意義があるとすれば、小選挙区制の勝利をバックに暴走しがちな衆議院を、「全国民を代表する」という良識に基づいてチェックするという役割が期待される。得票率で表せる民意を正しく反映し議論ができる場が欲しい。

 最後に自民党が改正するという憲法47条を紹介しておこう。憲法47条は「選挙区、投票の方法その他両議院の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」と謳っている。合区解消を目的とする定数増にせよ、比例代表ブロック制導入にせよ、「法律」を改正すれば実現できる。憲法改正など必要ないのだ。

 なお教育の無償化も同様に改憲など不要、法律改正で実現できることを付記しておきたい。

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QuonNetコミュニティ | 2017年11月20日 12:25
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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