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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年10月

2017年10月24日 12:34

圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない

(2017年10月24日筆)

 今回の総選挙では定数が475議席から465議席(小選挙区289、比例区176)へ10議席削減された。選挙の結果、自民党は公示前勢力の284議席を維持、実質微増、総議席の61%を占有した。公明党は5議席減らし29議席となったが、自公では313議席となり3分の2の310議席を若干上回った。


小選挙区制の恩恵―自民党は得票率48%で75%もの議席を獲得

 野党勢力に大きな変化はあったが、結局、自民党の議席数はあまり変わらず、自公で3分の2議席を確保した。与党は解散前とほぼ同じ勢力だったわけで、600億円もかけて何のために解散総選挙を実施したのか、改めて問われる。

自民は公示前議席と同じ、立民が大躍進、公明、共産、維新は議席減退
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 自民党は小選挙区では289議席中218もの議席を獲得した。この勝利は1票でも多く得票すれば勝てるという小選挙区制の恩恵に浴したものだ。自民党の相対得票率は48%に過ぎないが75%もの議席を占有することになった。

小選挙区・自民党=48%の得票率で75%の議席を占有
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 野党が候補一本化に失敗、希望の党、立憲民主党(立民)・共産党、社民党、野党系無所属などが分立、自公共闘の候補に敗北した結果、野党への投票は死票となり死票率は48%に達した。今となっては空しく響くが「立民、希望、共産、社民、野党系無所属の共闘が成功していれば野党分裂型226選挙区のうち63選挙区で勝敗が入れ替わっていた」(朝日新聞10月24日)という。

 ちなみに投票に行かなかった人を含む全有権者に対する得票率は「絶対得票率」と呼ばれるが、自民党の絶対得票率は25%に過ぎず有権者4人に一人の得票で75%の議席を占有したことになる。自民党の圧倒的な小選挙区議席数は死票になった投票者、投票に行かなかった有権者などを含む多数の民意を反映するものではない。そのことを自民党、特に安倍総理は肝に銘じるべきだ。


3分裂・民進党出身の獲得議席は97、解散前87議席を上回った

 野党はどうか、「自民圧勝」の反語は「野党敗北」だが、最大野党だった民進党出身者の勢力(立民、希望、無所属)は敗北していない。

 枝野代表の立民は前職15名全員が当選、元職を含め40名の民進党出身者が当選した。岡田元代表や野田元総理など民進系無所属前職の当選19名は公示前にほぼ等しい。「野党敗北」最大の戦犯と言われる希望の党は小池代表系の候補者はほぼ全滅したが、民進党系前職は44候補中25名が当選した。

 前職・元職を含む民進党出身の当選者は希望の党38名、立憲民主党40名、無所属19名、合わせて97名だった。解散前の87議席を10議席上回っている。前回14年総選挙時の旧民主党当選者73名を大きく上回った。

 安倍一強に対抗する強力野党が求められる中、小池都知事と前原民進党代表の「排除の論理」によって引き裂かれた民進党出身者の再結集が期待される。


比例区の自民得票率は33%、立民・希望の得票率を下回る

 比例代表選挙では、得票率に応じて議席配分されるため投票者の意思(民意)をほぼ正確に反映される。今回の比例代表選の結果は下表のとおりだ。

比例区の得票率は自民33%台、立民・希望37%を下回る
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 比例区での自民党の得票率33.3%で、獲得議席は総議席数176のうち66議席にとどまる。得票率、当選者数いずれも前回14年総選挙と変わらない。比例代表選挙では自民党は3分の1の民意しか代表していないといってよい。

 一方、立民と希望を足した得票率は37.3%、獲得議席は69議席で自民党の議席を上回った。自公連立ベースの得票率は45.8%となるが、立民・希望・共産・社民の野党共闘ベースの得票率46.9%を下回っている。


死票となった48%の民意を軽視・蔑視してきた安倍総理

 「安倍1強」政治では、民意を正しく反映しない小選挙区で獲得した圧倒的な自民議席を背景に、小選挙区での死票48%、比例区の野党票約47%もの選挙民の政権への疑問、不満、反対意見を無視・軽視・蔑視してきた感が強い。

 安倍総理は衆院選の結果を受けた記者会見で「謙虚で真摯(しんし)な政権運営に努めなければならない。丁寧に説明もする」と神妙な面持ちで語った。死票となった48%の選挙民の意見を慮った故だろうか。しかし総理の口から過去にも何度か同じ言葉を聞かされたことがあるが、何度も裏切られてきた。総理は民意を正しく反映しない選挙制度でも、「選挙に勝てば我にすべて白紙委任」と考えている節があり、総理の「謙虚な政権運営」を信じる人は少ないだろう。

 共同通信社が行った衆院選の出口調査でも、安倍晋三首相を信頼しているかどうか尋ねたところ「信頼していない」が51%、「信頼している」の44.1%を上回った。「支持政党はない」とした無党派層の68.8%が安倍首相を信頼していないと回答、「信頼している」は25.9%のとどまったという。

 無党派層は安倍1強による政権運営上の傲慢、独善、慢心のリスクを強く懸念している。これを排し「下からの草の根民主主義」を訴えた立憲民主党の大躍進がその証拠でもある。選挙民の多くは弱体野党を避け安定政権の継続は望んだが、「安倍1強政治」の継続を望んでいるわけではない。

2017年10月10日 10:02

「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ

(2017年10月10日筆)

 小池百合子・希望の党代表は民進党リベラル派を排除したが、南京事件はなかったなどという典型的な歴史修正主義の中山成彬氏らを抱き込み右翼へ大きくウイングを伸ばした。中山氏は教育勅語を暗唱させた籠池氏の幼稚園に推薦文を寄せた人物だ。中山氏は自ら合流を希望する民進党員の「思想チェック」を担ったといい、希望の党からは九州ブロック比例名簿トップになるといわれる。

この一事をとっても希望の党は小池氏がいう「寛容な改革保守」からは程遠い。小池氏は関東大震災当時の朝鮮人虐殺事件を都知事として無視する挙に出たが、彼女も安倍総理、中山氏など歴史修正主義者のお仲間なのかもしれない。


「さらさらない」「排除する」で墓穴を掘った小池氏

 それはさておき、中山氏が、小池氏に希望の党の選挙戦の進め方を問うと、彼女は「選挙はテレビがやってくれるのよ」と話したという(朝日デジタル10月5日)。テレビが小池氏の一挙手一投足を絶え間なく報じてさえいれば小池人気は高まるとうそぶいたに等しい。

 しかし、その肝心の「小池人気」も急速に衰えた。特に希望の党の公認候補を選ぶにあたって、小池氏が「民進出身全員を受け入れるつもりはさらさらない」「民進リベラル派は排除する」と言い放った後、小池人気は一気に冷え込んだ。

 小池氏と小池人気にあやかろうとした前原誠司氏(民進党代表)氏の師匠筋にあたる細川護熙元首相(元日本新党代表)は、こういった。(リベラル勢力や首相経験者を選別することに)「排除の論理を振り回し戸惑っている」、「公認するのに踏み絵を踏ませるというのはなんともこざかしいやり方で『寛容な保守』の看板が泣く」(毎日新聞10月3日付)と。「なんともこざかしいやり方」という細川氏の言い方には小池氏への嫌悪感が漂っている。小生も同感だ。

 民主党創設時、鳩山由紀夫(元首相)氏に排除された経験を持つ武村正義(元新党さきがけ代表、元蔵相)も「政党をつくるなら排除よりむしろ吸収力、求心力を高めないと与党に対抗するパワフルな党は生まれない。排除の一件は希望の勢いをそいでしまう」(毎日新聞10月4日付)と話した。一人しか選ばれない小選挙区制のもとでは排除の論理は野党を弱くする。

 「さらさらない」「排除する」という、一時の人気に胡坐をかいた、こざかしい、思い上がった小池氏の言葉遣いに反感、嫌悪感を覚えた選挙民は少なくない。人気の衰えた小池氏にどんな価値があるのか。このままでは小池人気を当て込み希望の党に合流した旧民進党候補者たちは、大いに当てが外れることになる。


「小池新党」の支持急落、排除された旧民進勢力は支持拡大

 武村氏の見る通り排除によって「希望の勢い」はそがれてしまった。読売新聞が10月7~8日に実施した世論調査では衆院比例選の投票先では希望の党は衆院解散直後(9月28~29日)の調査の19%から13%へ6%急落した。

 排除の論理に反発して枝野幸男元民進党代表代行ら民進党リベラル派によって創立された立憲民主党は投票先としていきなり7%の支持を集めた。この調査では比例投票先として解散直後34%を占めていた自民党も立憲民主党党創設後は32%へ2%低下している。希望の党が減らした6%、自民党が減らした2%のほとんどが、立憲民主党への支持に回ったことになる。

 この世論調査の後、野田・元総理や岡田・元民主党代表など民進党前職が20名で無所属ネットワークを立ち上げたという。希望の党への投票先は彼ら排除された「総理経験者ら民進前職無所属」にも食われるに違いない。

 武村氏と一緒に鳩山由紀夫氏の民主党から排除された田中秀征氏(元新党さきがけ代表代行、元経済企画庁長官)は、「岡田克也、江田憲司など自民党を源流とするメンバーが政党をつくってリベラル系を包含すれば国民の渇望に応えて大化けする可能性がある」(朝日新聞10月5日付)と話し民進党前職の無所属ネットワークに大きな期待を寄せている。


戦後保守党思想の核心から遠い安倍総理と小池「希望の党」

 田中秀征氏は新党さきがけの理論的支柱であり、さきがけ当時、今回袂を分けた前原誠司、枝野幸男両氏に影響を与えた政治家でもある。彼は戦後保守思想について以下のように語っている(以下も朝日新聞10月5日付)。

「戦後保守党思想の核心は、憲法尊重と、先の戦争は間違いだったといった歴史認識。安倍首相の路線とは大きく違います。そして希望の党は基本的に安倍路線と同じです。」

「保守党思想にはリベラルな考えを尊重する特徴もあります。吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山など戦後保守の先覚者はいずれも自身が第一級のリベラリストでした。リベラル系の民進党議員を排除する希望の党は、その点でも戦後保守の流れとは異質に見えます」

「国民の多くは、現在の自民党による政治に不安を抱き、もう一つの健全な保守の流れを渇望しています。言い換えると、大国主義に陥らず、言論の自由を守りリベラルな意見にも耳を傾ける、真の意味の寛容な保守の政治勢力が求められているのです。しかし、その渇望はどうやら今の希望の党では満たされそうにありません」

 戦後「保守リベラル」の源流の一つとなった石橋湛山(早稲田大学出身、元首相)は戦前、侵略に反対し植民地の放棄を訴える「小日本主義」を唱え、言論を武器に陸軍を筆頭とする国家権力に挑み、いち早く婦人参政権に賛成した人権重視の民主主義の政治家だった。田中氏は保守リベラルを継承した宮沢派に属し、「石橋湛山の孫弟子」と自ら言っていった。


国家主義か真の民主主義(民権主義)かの選択

 石橋湛山翁は小生の属した東洋経済新報社の先輩でもあり、小生もその政治思想に大きな影響を受けた。田中秀征氏は触れていないが、小生は「リベラル(自由主義)」の基本にはもう一つ、国家権力からの自由を訴え基本的人権を尊重するという「国民主権の思想」があると考えている。

 国民の内心の自由を取り締まる「共謀罪」を強行採決し、基本的人権を制限することを可能とする「緊急事態法」を準備している安倍総理が、民権より国権を重視する国家主義者であることは疑いない。小池氏の希望の党は国家主義なのか真の民主主義(国民主権)なのか、聞いてみたいところだ。

 安倍・自民党、小池・希望の党の間で、消費税や原発政策など政策に若干の差異が見受けられるが、公約は保守勢力内の権力争奪の道具に過ぎず、いつ変更されるかわからない。不確かな公約を信じて票を投じると後悔することになる。

 今回は、回り道だが、大国主義か小国主義か、国家主義か真の民主主義か、候補者の基本的な政治姿勢や政治思想を見極めて投票先を選ぶ時かもしれない。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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