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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年8月 7日 17:03

もう誰も信じない? 安倍総理の「経済最優先」

(2017年8月7日筆)

 内閣改造後の記者会見(8月3日)で安倍総理は、「最優先すべきは経済の再生、安倍内閣はこれからも経済最優先だ」と述べた。


「経済最優先」は支持率回復のための目くらまし?

 国会手続きを無視した共謀罪の強行採決、森友、加計疑惑隠しなどで内閣支持率が危機レベルに急落したあと、総理は支持率回復のための眼くらまし、「経済最優先」を再び持ち出した。懲りない総理というほかない。

 これまでも総理は選挙のたびに「経済最優先」を繰り返してきた。だが、選挙に勝つと特定秘密保護法、集団的自衛権を容認する新安保法制、共謀罪の新設など安倍総理ご執心の国家主義的な政治案件を強行採決する...。総理にとって「経済最優先」という言葉は支持率回復の魔法の杖に過ぎなかったのだろうか。

 今回も「経済最優先」を謳って支持率が回復すれば、総理は回復した支持率をバネに最終最後の悲願である「憲法改正」を実現するという魂胆だ...。国民はそういう総理の魂胆を見抜き始めたのではないか。改造後も内閣の不支持率が支持率を上回っている。支持しない最大の理由は依然として「総理の人柄が信頼できない」だ。総理の眼くらましはもう食わないと考えているのだろう。


求人倍率上昇、税収増加の大半はアベノミクスの成果ではない

 その安倍総理の「経済最優先」の成果誇張にも疑問符が付く。いわゆるアベノミクス(安倍内閣の経済政策)による景気回復の成果として、総理は(1)失業率の低下と有効求人倍率の上昇、(2)税収の回復に伴う基礎的財政収支赤字の縮小の2つを声高に挙げる。これらは本当にアベノミクスの成果なのだろうか。

 失業率の低下、有効求人倍率の上昇はその成果の半分以上が少子化に伴う労働力人口の減少、とりわけ若年労働力の大幅減少の結果ではないのか。若年労働力の大幅な不足が新卒就職率の急上昇、若年層不足を補う女性・高齢者の非正規雇用の拡大、失業率の低下などにつながった。

 もう一つ、税収の大幅回復はその半分以上が消費税の3%引き上げの成果と言ってよいだろう。消費税率の引き上げは民主党の野田総理(当時)が政権を賭けて実施した政策だ。その恩恵を税収増という形で安倍総理が受けたといってよい。その税収も2016年度から減少に転じている。

 ちなみに、景気回復の実態を表す実質経済成長率はアベノミクス下の4年間(2013年~2016年)の暦年平均で1.25%に過ぎない。民主党政権下では3年間平均1.86%にも達しない。他の先進国の同期間の平均成長率はドイツ1.36%、アメリカ2.06%、イギリス2.24%だ。アベノミクス下の成長率は民主党政権、米英独より低いのだ。

 失業率の上昇も税収の増加も総理が軽蔑して止まない民主党政権発足の時からすでに始まっていた。景気回復は、アベノミクスが成功したからというよりリーマンショックからの世界景気の回復が大きい。それでも日本の実質成長率は低率に止まる。半分以上は他律要因ともいえる景気回復をアベノミクスの成果として誇張するのもほどほどにしてほしい。総理は謙虚になれるのだろうか。


「3本の矢」は行き詰まり、「新3本の矢」は成長効果薄

 アベノミクスは実際うまくいっているのだろうか。初期の「3本の矢」(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略)は円安株高をもたらし企業収益などに効果を表したが、最近はいずれも行き詰まっている。

 円安株高を牽引した「大胆な金融緩和」は賞味期限が過ぎたようだ。日銀の黒田総裁は「2年で2%物価目標を達成する」と言ったが、5年たっても物価目標は達成されず達成時期は6回目の先送りとなった。今度は「2019年度ごろ」という。専門家の多くは量的・質的緩和の効果に疑いを持ち、この達成時期すらほとんど信じていない。

 機動的な財政出動も大きな限界に逢着している。借金依存財政の持続可能性に大きな不安が生じているためだ。基礎的財政収支の2020年度の黒字化達成という目標についても2%物価目標と同様、その達成を信じる専門家は全くいないといってよい。いたずらな財政出動は黒字化達成を遅らせるだけだ。

 成長戦略の代表は法人税率引き下げだった。だが、これによって企業の内部留保は増えたが成長率が高まったという証拠はない。通信や運輸、建築、不動産など成長効果のある規制緩和が一巡、残る医療、労働、教育分野などは規制緩和に適さないし、緩和しても成長に貢献するかよくわからない。

 安倍政権は15年9月から成長戦略を意識した「新3本の矢」を打ち出した。その具体策として、地方創生、女性活躍、子育て支援、一億総活躍、働き方改革、人づくり革命などが日替わりメニューのように提示されている。しかし、これらは財政出動を伴う社会政策というべきもので、成長に直接貢献するものではない。国民の多くは「新3本の矢」とは何か、ほとんど知らないのではないか。


日銀支援なければ財政破たん? 異常な金融財政の膨張も将来不安の原因

 教育の無償化を含む社会政策を実施するには膨大な財政資金が必要になる。しかし我が国の財政事情はそれを許さない。最新の内閣府試算(7月18日)によると、実質2%以上、名目3%以上という高い成長率、さらに2019年10月の消費税率2%引き上げという前提を加えても、基礎的財政収支の赤字は2020年度8.2兆円も残る。

 2020年度赤字解消は国際公約だが公約実現はほとんど不可能だ。内閣府試算の▲8.2兆円の実現すら危うい。アベノミクスの過去実績から言って成長率の前提は非現実的だ。詳しくは書かないが、国債利払いの前提になる名目金利(国債利回り)想定も低すぎ、2020年まで日銀が量的緩和を続け国債を買い支え長期金利の上昇を抑え込むことを前提にしているとしか思えない。

 しかし日銀が国債の大量買い上げ(年間80兆円)を2020年まで続ければ、日銀は900兆円近い国債発行残高のほぼすべてを抱え込むことになる。長期金利の抑圧という財政要請に応え続けるかぎり、量的緩和に出口はなく、日銀は信じられないほどの国債を抱え込み、国際的信用は大きく失墜することになる。

 国民はこの異常な財政金融政策はどこかで破たんすると恐れ、その結果、高金利・高インフレ、社会保障の大幅な削減、税と社会保険料負担の急拡大という時代が到来すると予感しているのではないか。その恐れと予感が、「将来不安」を生み出し、アベノミクスのアキレス腱でもある消費停滞の原因になっている。

 現役世代は「隠れた増税」と言われる社会保険料の増徴が大きな負担で可処分所得が増えない。育児や教育費の負担も重い。ガソリン代や電力・ガス代、通信料金負担もきつい。ベースアップも期待できない。将来の年金不安に備えるなら貯蓄を増やさざるを得ない。現役世代の消費が委縮するのは当然だ。

 一方、高齢者世代は年金給付が削られたほか、介護保険料、医療保険負担の増加で可処分所得そのものが減少している。さらなる給付削減、インフレ進行も恐怖だ。こうした「将来不安」を受け高齢者も消費を圧縮して貯蓄を温存するということになる。

 安倍総理は、アベノミクスがもたらした財政金融膨張の帰結、国民の将来不安の本質、消費停滞の現実を「謙虚に」受け止め、その実態を国民に正しく伝える必要があるのではないか。

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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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