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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年5月

2017年5月22日 15:45

トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗

(2017年5月22日)

 トランプ米大統領の愚挙は多々あるが、なかでも科学技術予算の大幅削減は将来に禍根を残す愚挙といってよい。その愚挙に議会が反旗を翻したという(日経新聞5月22日朝刊「科学軽視、米議会が反対」)。他山の石としなければならない。


バターより大砲――科学技術予算を大幅削減するトランプ氏
全米の学者・研究者が反発、米議会も与野党問わず反旗

 トランプ氏は3月の予算教書で2018年度の国防総省予算を10%、国土安全保障省予算を7%それぞれ増強する一方、国務省予算を26%、環境保護局予算を31%それぞれ削減すると発表した。バターより大砲を重視する残念な予算教書となった。

 科学技術予算では世界の生命科学研究をリードする米国立衛生研究所予算を18%(58億ドル)削減するとする一方、地球温暖化(トランプ氏は「温暖化はでっち上げ」といって否定)に関わる環境保護、新エネルギー、海洋大気、NASAなどの研究予算を削減するあるいは打ち切ると発表した。科学研究を財政支援する全米科学財団の予算も大幅に削減されるという。

 アメリカは世界一の研究大国だ。研究者が世界から集い、学術論文の発表数もノーベル賞受賞者数も群を抜いて多い。世界の科学技術の進歩やイノベーション(技術革新)の醸成に大きく貢献してきた。それを保証してきたのが豊かな科学技術予算だった。日本の研究者もその恩恵に浴してきた。

 全米の大学教員、研究者が、科学や学術に無理解、無知なトランプ大統領の予算削減方針に対する反対デモに立ち上がったのは言うまでもない。これに呼応して、上院、下院、与野党問わず多くの議員が科学予算の削減に反対する姿勢を明らかにした。

 トランプ大統領下で初の2018年度(2017年10月~2018年9月)の予算案が明日5月23日(現地)に発表されるが、軍事費を増やし科学技術予算を削減する予算案にする方針は変わらない。だが科学技術予算削減の提案はこのままでは与野党議員の反対で議会を通過できないとされている。

 米議会には与野党問わず党議拘束はなく、与党・共和党議員であってもトランプ氏の愚かな科学技術予算の削減案に賛成票を投じることはない。党議拘束がないことで大統領権限に対する議会チェック機能がここでも働いた。

 米国では行政に対する議会、司法のチェック機能の健在で三権分立が機能していることは「トランプ暴走を止めた司法と議会」(本ブログ2017年4月3日)で述べた。安倍一強下、日本でも議会と司法による行政チェック機能の確立が望まれる。


日本でも防衛予算は年々拡大、科学技術関連予算は停滞
このままでは20年後、ノーベル賞新受賞者がいなくなる

 我が国でも防衛予算は年々拡大しているが科学技術関連予算は過去十年以上3兆5000億円前後(当初予算ベース)で停滞している。安倍政権下の過去3年間は3兆4000億円台に下がった。科学技術研究の重要な担い手である国立大学への運営交付金も減少傾向が止まっていない。

 一方、防衛整備庁の軍事研究資金は16年度の6億円から17年度は110億円に急拡大する。日本学術会議は「軍事研究はしない」との声明を出し防衛装備庁の軍事研究資金提供に批判的立場をとったが、大学の研究費不足は深刻だ。軍事研究資金を拡大させる資金があるのなら国立大学運営交付金や私学補助金に回せと言いたいところだろう。

 今や東大といえども大学教員・研究員の過半近くが「特任」という名の非正規雇用者だ。公的、準公的研究機関でも有期契約の非正規ばかりで常勤は天下りの事務方役員と相場が決まっている。

 我が国は近年、自然科学分野でノーベル賞受賞者を輩出してきたが、その研究業績の多くは20年以上も前のものだ。現状の貧弱な科学技術関連予算と大学への補助金、大学を含む研究機関には「特任」「有期雇用」という名の非正規ばかりだ。20年後、日本は新たなノーベル賞受賞者がいなくなる恐れがある。

 人口減少社会の日本を救うのは科学技術によるイノベーションを置いてほかにない。アメリカと同様、与野党を問わない国会議員の科学技術関連予算の積み上げに期待したい。

2017年5月 8日 14:30

M&Aに失敗した経営者と成功し続ける経営者の違い

(2017年5月8日)

 M&A(企業買収・合併)は成長戦略の手っ取り早い手段として再び増加している。2016年のM&A金額は16.6兆円に達し1999年の18.9兆円に次ぐ規模となった。16.6兆円のうち10.4兆円は失敗例が多いIN - OUTの海外企業買収(M&A)だ。日本郵政も典型的な失敗例を提供した。


M&Aをリード、2度失敗した西室氏、52回も成功した永守氏

 日本郵政は、2015年に買収した豪州の物流大手トール・ホールディングスに絡み4003億円の減損損失を計上、民営化以来初の赤字に転落した。買収後2年で買収額6200億円の約65%を減損処理するという異常事態だ。

 買収を推し進めたのは西室泰三前社長(東芝出身)だ。西室氏の出身母体・東芝はいま解体・倒産危機にあるが、西室氏はその元凶である米原発メーカー・WH社買収を決めた当時、相談役としてベーカー駐日米大使(当時)に働きかけ買収を実現したとされる。西室氏はWH、トールと2度も海外M&Aに失敗、会社(東芝)と日本郵政の株主である国民に大きな損失を与えたことになる。

 日本郵政の現社長・長門正貢氏(みずほ銀行出身)は「不本意ながら(買収企業の)査定が甘かったのではないか。少し買収価格が高かった」と4月25日の記者会見で批判を交えながら前経営陣(西室氏ら)の誤りを認めた。日本郵政の株価は一時1278円の安値を付け公開価格1400円を大きく下回った。

 同じ25日、日本電産の永守重信会長兼社長は53件目(独家電部品大手のセコップグループ)の企業買収を発表した。永守氏は、これまで国内外で52件ものM&Aを手掛けて成功、株価は右肩上がりで上昇、日本電産は1万円銘柄となった。今も成長企業の代表だ。


「シナジー効果なし」の「高値づかみ」、経営は現地任せでは...

 永守氏は、「52回の買収で1度も減損損失を計上していない」と胸を張った。そして「日本企業の海外のM&Aの88%は失敗している。10%は成功でも失敗でもない。成功しているのは2%だけ」(日経4月26日朝刊)とも述べた。

 88%の失敗例の中に西室氏のWH、トール買収が含まれるのはもちろんだが、日本板硝子による英国のガラス大手・ピルキントン、第一三共によるインドの後発薬メーカー・ランバクシー社、キリンHDによるブラジルのビール大手・スキンカリオール社の買収など失敗例に枚挙のいとまがない。

 永守氏はM&Aに成功するには、「高値づかみをしない」「シナジー効果(相乗効果)を高める」「買収後、経営への関与をおろそかにしない」の3つが大切だとしている。

 日本郵政のトール社買収では、トール社の将来収益力を見誤り、日本郵政とトール社間の国際物流展開でのシナジー効果を過大評価して「高値づかみ」をした。そのうえ経営を現地トール社任せにした。西室氏ら日本郵政の経営陣は永守氏のM&A3原則に反した買収をしていたことになる。


院政を敷き人事を篭絡、公職を欲しがる老害のサラリーマン経営者

 企業は人なりと言われる。特に経営者の能力が問われる。2度にわたり海外M&Aに失敗した西室泰三氏と52回のM&Aに今のところ成功している永守重信氏はいったいどこが違うのか。

 西室氏は慶応大学経済学部出身、東芝に入社して社長まで駆け上がったサラリーマン経営者だ。ノートパソコンの育成、DRAMからフラシュメモリーへの転換などに成功、後の半導体と原発の両翼経営の原型を築き評価された(その両翼経営が自らリードしたWH買収の失敗によって崩壊しつつある)。社長退任後は会長、相談役、「指名委員会」委員長に就任、人事権をバックに院政を敷いた。

 西室氏は院政を敷く傍ら経団連副会長に就任、財界活動に踏み出す。その後、東京証券取引所会長(出身母体の東芝が粉飾決算を行ったことから西室氏も東証会長として批判されたが生き延びた)、民営化後の経営を監視する「郵政民営化委員会」委員長を経て安倍内閣の推挙を受けて日本郵政社長に横滑りした。

 安倍総理とも関係が深く「戦後70年談話に関する有識者会議」の座長を務めた。座長に就任した同じ2015年2月、豪トール社の買収を決めたが、功を焦った独断だったという。西室氏は当時、80歳だった。

 西室氏の場合、少々の成功を得たことから自己を過大評価することになったようだ。その結果、サラリーマン経営者が辿るお決まりのコースを歩いた。会長、相談役になって院政を敷き、自らは名誉と権力を求めて財界活動を展開、時の政権・総理に近づき準公職、公職に就き勲章をいただければ幸い...。


「全部(大学への寄付に)使ってあの世に行く」という創業経営者

 これに対して永守氏は、京都の洛陽工業高校、職業訓練大学校を経て音響機器メーカー・ティアックに就職、その後29歳で独立、精密小型モーター生産の日本電産を立ち上げた創業経営者だ。72歳の現在も日本電産の社長兼会長として独立独歩、財界活動や公職とは無縁の経営者である。

 その永守氏が私財を投じて京都の大学を相次いで支援するという。2014年、70億円の私財を投じ京都府立大学にがん治療のための陽子線施設を寄付した。京都大学には次世代モーターに基礎研究のための寄付講座を開講、今後5年間で2.1億円を寄付する。

 さらに2020年に工学部を新設する京都学園大学を支援、100億円以上の私財を投じると発表した。来春には自ら大学の理事長に就任、大学名も変えて人材教育に乗り出すという。

 永守氏は、京都学園大学支援の記者会見で「税金はどう使われるか分らんが、寄付なら使い道がはっきりする。全部使ってあの世に行くということや。教育が一番良い」(4月20日、朝日新聞デジタル)と述べた。

 同じ経営者でも、「全部(大学への寄付に)使ってあの世に行く」という永守氏と老害批判にも応じずM&Aに失敗した経営者とではこんなに違うものかと、改めて感慨に浸っているところだ。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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