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2017年4月 3日 13:50

トランプ暴走止めた司法と議会、米国の「三権分立」健在なり

(2017年4月3日筆)

 トランプ大統領の2つの看板政策、イスラム圏からの入国を制限する大統領令、オバマケア(医療保険制度改革法)代替案が挫折した。トランプ氏の政策遂行能力に大きな疑問符が付き大統領支持率は就任後歴代最短で30%台に低下、熱烈にトランプ氏を支持してきたコア支持層も逃げ出し始めている。


入国制限の大統領令を2度差し止めた連邦地裁

 イスラム圏からの入国制限の大統領令は2度にわたって挫折した。1度目の(2017年1月)の旧大統領令は西部ワシントン州の連邦地裁が差し止めの仮処分を命じた。大統領側は上訴したが連邦高裁はこれを棄却した。

 2度目(3月)の新大統領令は入国制限対象をイスラム圏7か国からイラクを除き6か国としたうえでビザや永住権保有者に入国を認めるなど修正を施した。だがハワイ州、メリーランド州の連邦地裁から差し止めの仮処分を命じられ再び頓挫した。

 大統領側は2度目も連邦高裁へ上訴する予定だが、「大統領令はイスラム教徒に対する差別にあたる」とする連邦地裁の判断が覆る可能性は低いという。いずれにせよ大統領令という強力な行政権力が連邦地裁など司法によって止められたことになる。

 大統領令の差し止め命令は、米国では行政権力への司法のチェック機能が働き、行政、司法、議会の三権分立が健在であること示した。うらやましい限りだ。


オバマケア代替案を葬った「党議拘束」なき与党・共和党員

 オバマケア代替案はトランプ氏の与党・共和党内部の強い反対で撤回を余儀なくされた。トランプ政権の与党・共和党は上下院で過半数を保持、トランプ氏の政策執行を支えると思われていたが、これが機能しなかったのだ。

 トランプ大統領のオバマケア代替案は、保険加入の義務化を廃止し低所得者向けの医療制度を縮小するなどの下院共和党案をベースに作成されたものだ。

 しかし中立機関の米議会予算局は、代替案が実行されると10年後には無保険者が2400万人増えるという試算を出した。これを受け共和党内のリベラル派が反発する一方、「オバマケアの完全撤廃」を主張する共和党内の「フリーダム・コーカス(下院自由議員連盟、超保守の茶会グループ)」が猛反発、下院の過半数賛成が望めず大統領側は代替案の撤回を余儀なくされた。

 米議会では共和党、民主党とも議員に対する「党議拘束」がない。議員は自らの良心と政策思想に基づいて議案に対する賛否を表明することができる。

 フリーダム・コーカスは40名前後の議員で構成される共和党の少数派だが、共和党237議席、民主党216議席の下院の議席差は21議席しかない。少数派でもフリーダム・コーカス議員が一致して反対すれば議案は否決される。彼らはキャスティングボートを握っているのだ。

 「オバマケアの完全撤廃」の是非は別にして、与党共和党内フリーダム・コーカス議員の反対によって代替案が葬り去られた事実は、大統領の行政権力に対する議会のチェック機能が働いたことの証左になる。行政に対する議会の牽制という形で米国の三権分立が健全に機能した。これもうらやましい。


翻ってわが国の司法、議会のチェック機能はどうか

 翻ってわが国の司法はどうか、議会はどうか。原発の安全性、沖縄の普天間基地移転、各種の違憲訴訟、一票の格差など訴訟が高裁、最高裁へ上るにつれ司法が安倍一強の行政権力へなびき、権力寄りの判断が下されているように思えてならない。米国のような行政権力への司法のチェック機能は十分に働いていないように思える。

 わが国における議会の行政権力に対するチェック機能は見るも無残な状況だ。民進、共産、自由、社民などの野党の議席数は衆参両院で過半数に遠く及ばない。安倍政権の少数派軽視に抗せず野党はチェック機能を果たせていない。

 頼みは自民党内議員の良心と政策思想に基づく反対票だが、彼らは「党議拘束」に縛られて動けない。「党議拘束」に反して反対票を投じれば党から離党勧告などの処分が下される、あるいは次の選挙で自民党公認を得られないからだ。

 自民党内にも議員個人に聞けば、特定秘密保護法、集団的自衛権をめぐる憲法解釈、南スーダンの「戦闘状態」とPKO派遣5原則の問題、今国会提出のいわゆる共謀罪、それと森友学園の愛国小学校への総理夫人の関与疑惑など、安倍主導の政治案件に疑問を持つという人物はいるはずだ。安倍総理の国家主義や歴史修正主義、戦前回帰(戦後レジュームからの脱却)路線に抵抗するリベラル派がいるはずだ(と信じたい)。

 IR法案(いわゆるカジノ法案)をめぐって公明党が「党議拘束」を外し、山口代表らが反対票を投じた。自民党内にも「党議拘束」を外せば反対票を投じる議員がいたに違いない(と信じたい)。

 しかし彼ら自民党議員は「党議拘束」に縛られたまま動けない。議員の良心と政策思想を揺すぶる法案について与野党とも「党議拘束」を外し自主投票させることで、米国議会のように行政権力に対する議会のチェック機能を回復させる必要があるのではないだろうか。

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QuonNetコミュニティ | 2017年4月 3日 14:00

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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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