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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年4月

2017年4月17日 11:18

韓国は米軍の北朝鮮への先制攻撃に同意するか

(2017年4月17日筆)

 原子力空母・カール・ビンソンを中核とする空母打撃群が朝鮮半島近海に到着、一触即発の緊張状態の中、北朝鮮が中距離弾道ミサイルの発射実験を強行した。だが、本当の失敗なのか意図的な失敗かわからないが、実験は幸いにも失敗した。

 訪韓途上のペンス米副大統領は「失敗したミサイルに対処する必要はない」といい、米軍の北朝鮮への先制攻撃は回避された。何をするかわからないトランプ米大統領だけに、ほっと胸をなでおろした人も多かったに違いない。

 トランプ米大統領は、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射や核実験再開など自国の安全保障に直結する実験を行えば先制攻撃に踏み切るとする報道が多いが、本当にそうなのだろうか。これに関し、いくつか見過ごされている事実に触れておきたい。


全面戦争で火の海、韓国の大統領候補は米先制攻撃に反対

 まず先制攻撃について、北朝鮮から強烈な反撃を受け最も大きな損害を被りかねない韓国の本音がどこにあるかだ。はたして韓国は先制攻撃に同意するのか、米軍は韓国との事前合意なしに先制攻撃を行うことができるのだろうか。

 韓国では現在、5月9日投票のスケジュールで大統領選挙が争われている。支持率トップを競う最大野党「共に民主党」の文候補は「我が国の同意のない先制攻撃はあり得ない。米大統領に攻撃を保留させる」と主張、有力な対抗馬である「国民の党」の安候補も「トランプ大統領に戦争は絶対だめだと伝える」と語ったという(朝日新聞デジタル4月16日)。

 韓国の知識人も懐疑的だ。韓国国民大政治大学院長(元陸軍大佐)の朴氏は、日経新聞のインタビューに答え「空母3隻が朝鮮半島周辺に集中しても米軍の軍事攻撃が不可能だと北朝鮮はわかっている。韓国の首都圏には2千万人の人口が密集し、在韓米軍は2万8千人が駐留している。実質的に北朝鮮の人質と同じだ。」と述べている(日経新聞4月17日朝刊)。

 ちなみに、在韓米軍を含む在韓米国人は30万人もいる。在韓邦人は3万8000人、韓国に観光で訪れている外国人も少なくないだろう。戦争になればソウルとその近郊の2000万人の韓国人、そして米国人が最も負い在韓外国人の生命が危うい。北朝鮮は韓国民と在韓外国人を人質に取っているようなものだというのだ。


開戦90日で米国人8万~10万人含む100万人の民間人死者

 北朝鮮は韓国との国境線である38度線に数千もの旧式野砲やロケット砲を配備している。最近では国境線沿いに1万発のロケット弾を瞬時に発射できる小型ロケット砲を300基配備したという報道もある。ほかに北朝鮮は300キロ離れた地点から発射できる短距離ミサイルを保有している。

 北朝鮮の崔・党副委員長は4月15日、「全面戦争には全面戦争で」と演説した。米軍が先制攻撃に踏み切れば、北朝鮮のこれら野砲、ロケット砲、短距離ミサイルが一斉に火を噴き、全面戦争に突入、38度線から40キロしか離れていないソウルとその近郊は火の海になりかねない(横田、横須賀、岩国、沖縄など在日米軍基地への北朝鮮のミサイル攻撃による日本の被害も予想される)。

 1994年、クリントン大統領が北朝鮮核施設への先制攻撃を検討したことがある。この時、米統合参謀本部が出した戦争シミュレーションでは「戦争が勃発すれば開戦90日間で5万2000人の米軍が被害を受け韓国軍は49万人の死者を出す。戦争費用は最終的に1000億ドル(約11兆円)を越す。在韓米国人8万~10万人を含め100万人の民間人死者を出す」(辺真一コリア・レポート編集長のブログ「米国は北朝鮮を攻撃できるか」)という結論だった。

 クリントン大統領はこのシミュレーションに衝撃を受け、さらに金泳三韓国大統領(当時)の強い反対もあって、先制攻撃を踏みとどまったという。

 北朝鮮の戦争準備がさらに進んだ今日、韓国軍・韓国人および米軍・米国人が被る全面戦争の損害は1994年のシミュレーションを大きく上回るに違いない。韓国政府も韓国大統領選挙の候補者だけでなく、米国が被る全面戦争での人的・物的損害を知れば米国民も先制攻撃に簡単には同意しないだろう(日本政府は事前同意を与えるのだろうか)。


米国は「体制転換をめざさない」、中国は「石油輸出停止」のシグナル

 そのことをトランプ大統領も知っているのだろう。トランプ政権は「先制攻撃を含むあらゆる選択肢を準備する」という一方、「北朝鮮の体制転換をめざさない」という方針を決定したという。北朝鮮が米国に第一に求めているのが金正恩体制の維持・承認だ。トランプ氏は「体制転換をめざさない」と決め、北朝鮮が米中2国間協議、あるいは米・中・韓、日・ロとの6か国協議に応じやすくなる誘導路を用意したといってよい。

 北朝鮮・金体制の崩壊を恐れ制裁に2の足を踏んでいた中国も、ようやく動きはじめたようだ。中国は2月中旬から北朝鮮からの石炭輸入を停止(1~3月期の石炭輸入量は51.6%減と発表)した。4月中旬には中国国際航空がすべての北京・平壌便を運航停止、中国のすべての旅行社が北朝鮮観光を中止したと伝えられる。中国は核・ミサイル開発の原資となる外貨獲得源を絶つ方策を積極化させている。

 残るは中国の対北朝鮮向け石油の輸出禁止措置だ。中国の共産党機関紙・人民日報系の「環球時報」は「中国政府は北朝鮮に、国際社会の反対を顧みなければ中国は大半の石油の供給を停止すると態度表明するべきだ」(朝日新聞4月17日朝刊)と書いた。「環球時報」の報道は、中国共産党の内部で北朝鮮への石油の供給停止が議論されている証拠になる。事実なら中国も北朝鮮問題の解決に本腰を入れていることになる。

 偶発的な戦争突入のリスクはなお残るが、こうした中国の新しい動きが、トランプ政権に先制攻撃の停止につながり、核・ミサイル開発をめぐる北朝鮮との外交交渉再開に結び付く可能性に大いに期待したい。

2017年4月 3日 13:50

トランプ暴走止めた司法と議会、米国の「三権分立」健在なり

(2017年4月3日筆)

 トランプ大統領の2つの看板政策、イスラム圏からの入国を制限する大統領令、オバマケア(医療保険制度改革法)代替案が挫折した。トランプ氏の政策遂行能力に大きな疑問符が付き大統領支持率は就任後歴代最短で30%台に低下、熱烈にトランプ氏を支持してきたコア支持層も逃げ出し始めている。


入国制限の大統領令を2度差し止めた連邦地裁

 イスラム圏からの入国制限の大統領令は2度にわたって挫折した。1度目の(2017年1月)の旧大統領令は西部ワシントン州の連邦地裁が差し止めの仮処分を命じた。大統領側は上訴したが連邦高裁はこれを棄却した。

 2度目(3月)の新大統領令は入国制限対象をイスラム圏7か国からイラクを除き6か国としたうえでビザや永住権保有者に入国を認めるなど修正を施した。だがハワイ州、メリーランド州の連邦地裁から差し止めの仮処分を命じられ再び頓挫した。

 大統領側は2度目も連邦高裁へ上訴する予定だが、「大統領令はイスラム教徒に対する差別にあたる」とする連邦地裁の判断が覆る可能性は低いという。いずれにせよ大統領令という強力な行政権力が連邦地裁など司法によって止められたことになる。

 大統領令の差し止め命令は、米国では行政権力への司法のチェック機能が働き、行政、司法、議会の三権分立が健在であること示した。うらやましい限りだ。


オバマケア代替案を葬った「党議拘束」なき与党・共和党員

 オバマケア代替案はトランプ氏の与党・共和党内部の強い反対で撤回を余儀なくされた。トランプ政権の与党・共和党は上下院で過半数を保持、トランプ氏の政策執行を支えると思われていたが、これが機能しなかったのだ。

 トランプ大統領のオバマケア代替案は、保険加入の義務化を廃止し低所得者向けの医療制度を縮小するなどの下院共和党案をベースに作成されたものだ。

 しかし中立機関の米議会予算局は、代替案が実行されると10年後には無保険者が2400万人増えるという試算を出した。これを受け共和党内のリベラル派が反発する一方、「オバマケアの完全撤廃」を主張する共和党内の「フリーダム・コーカス(下院自由議員連盟、超保守の茶会グループ)」が猛反発、下院の過半数賛成が望めず大統領側は代替案の撤回を余儀なくされた。

 米議会では共和党、民主党とも議員に対する「党議拘束」がない。議員は自らの良心と政策思想に基づいて議案に対する賛否を表明することができる。

 フリーダム・コーカスは40名前後の議員で構成される共和党の少数派だが、共和党237議席、民主党216議席の下院の議席差は21議席しかない。少数派でもフリーダム・コーカス議員が一致して反対すれば議案は否決される。彼らはキャスティングボートを握っているのだ。

 「オバマケアの完全撤廃」の是非は別にして、与党共和党内フリーダム・コーカス議員の反対によって代替案が葬り去られた事実は、大統領の行政権力に対する議会のチェック機能が働いたことの証左になる。行政に対する議会の牽制という形で米国の三権分立が健全に機能した。これもうらやましい。


翻ってわが国の司法、議会のチェック機能はどうか

 翻ってわが国の司法はどうか、議会はどうか。原発の安全性、沖縄の普天間基地移転、各種の違憲訴訟、一票の格差など訴訟が高裁、最高裁へ上るにつれ司法が安倍一強の行政権力へなびき、権力寄りの判断が下されているように思えてならない。米国のような行政権力への司法のチェック機能は十分に働いていないように思える。

 わが国における議会の行政権力に対するチェック機能は見るも無残な状況だ。民進、共産、自由、社民などの野党の議席数は衆参両院で過半数に遠く及ばない。安倍政権の少数派軽視に抗せず野党はチェック機能を果たせていない。

 頼みは自民党内議員の良心と政策思想に基づく反対票だが、彼らは「党議拘束」に縛られて動けない。「党議拘束」に反して反対票を投じれば党から離党勧告などの処分が下される、あるいは次の選挙で自民党公認を得られないからだ。

 自民党内にも議員個人に聞けば、特定秘密保護法、集団的自衛権をめぐる憲法解釈、南スーダンの「戦闘状態」とPKO派遣5原則の問題、今国会提出のいわゆる共謀罪、それと森友学園の愛国小学校への総理夫人の関与疑惑など、安倍主導の政治案件に疑問を持つという人物はいるはずだ。安倍総理の国家主義や歴史修正主義、戦前回帰(戦後レジュームからの脱却)路線に抵抗するリベラル派がいるはずだ(と信じたい)。

 IR法案(いわゆるカジノ法案)をめぐって公明党が「党議拘束」を外し、山口代表らが反対票を投じた。自民党内にも「党議拘束」を外せば反対票を投じる議員がいたに違いない(と信じたい)。

 しかし彼ら自民党議員は「党議拘束」に縛られたまま動けない。議員の良心と政策思想を揺すぶる法案について与野党とも「党議拘束」を外し自主投票させることで、米国議会のように行政権力に対する議会のチェック機能を回復させる必要があるのではないだろうか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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