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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年2月

2017年2月20日 13:49

消費低迷の原因――可処分所得が勤労者で伸びず、高齢者では減少

(2017年2月20日筆)

 2016年10-12月期の家計最終消費支出(個人消費)は前期比マイナス0.1%と伸び悩んだ。安倍総理ご自慢の「雇用の改善と3年連続の賃上げ」にもかかわらず個人消費は依然伸びず、景気の足を引っ張っている。

 その原因は何か。消費税率の3%引き上げは2014年4月、すでに3年近く経過した。消費税引き上げに伴う駆け込み需要の反動減はとっくに一巡、現状の個人消費の伸び悩みの原因を消費増税に求めていては景気の見通しを見誤る。

 個人消費の低迷は、勤労者所帯での可処分所得(税金、社会保険料支払いを除く所得)の伸び悩み、高齢者所帯での可処分所得の減少が重要な原因だ。

 国民経済計算(内閣府)によれば、2015年度の雇用者報酬(国民所得のうち雇用者の取り分を示す)はアベノミクス前の2012年度に比べ10.3兆円増加(4.1%増)したが家計可処分所得は4.3兆円(1.5%増)しか増えていない。雇用者報酬の増加が税金や社会保険料の増加に食われ、消費のもとになる家計可処分所得が伸び悩んでいることを示している。


勤労者所帯では社会保険料を中心に非消費支出が増勢
アベノミクス下でも消費支出は減少、将来不安から貯蓄

 最新の家計調査(総務省)でも、勤労者所帯では賃上げなどで実収入は増加したものの、非消費支出(所得税、住民税など直接税と社会保険料などの支出)の増加に食われ、可処分所得(実収入-非消費支出)が伸び悩んでいることが明らかになっている。

2人以上の勤労者所帯―社会保険料など非消費支出の増加が痛手(年平均、単位円)
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 上表は勤労者所帯(全国、2人以上の所帯)の1か月の収入、支出(いずれも年平均)だ。2016年の実収入はアベノミクス前の2012年に比べ8467円増加(1.6%増)したが、社会保険料、所得税など非消費支出が4775円増加(5.1%増)、可処分所得は3692円の増加(0.8%増)に止まった。

 勤労者所帯で特筆すべきは、賃上げで実収入が増加したにもかかわらず2012年に比べ16年の消費支出が4283円減少(1.4%減)している点だ。勤労者所帯では社会保険料負担の増加などに食われ可処分所得が伸びていない。

 勤労者所帯では平均消費性向(可処分所得と消費支出の割合)も消費支出の減少に伴い1.7%ポイント低下した。消費性向の低下は貯蓄性向の上昇の裏返しだ。現役の勤労者所帯では将来不安が高まり消費支出を減らし貯蓄を増やす傾向が強まっている。社会の軸である勤労者所帯がこの状態では個人消費が伸びるはずがない。


悲惨な高齢者所帯、社会保障給付の減少で実収入そのものが減少
社会保障費の圧縮優先で可処分所得の危うい状態は今後も続く

 悲惨なのは「所帯主が60歳以上の高齢者所帯」(下表)だ。2016年の1か月の実収入は2012年に比べ7444円減少(3.5%減)した。主な収入源である年金を中心に社会保障給付が8457円も減少(4.6%減)したことが響いた。この間、賃上げの恩恵に浴せなかった高齢者所帯では社会保障給付の減少で実収入自体が減少したのだ。

 親の世代の高齢者所帯のこの姿を見て勤労者所帯が自らの将来に不安を抱いても不思議はないだろう。

所帯主が60歳以上の無職所帯―社会保障給付の減少が痛手(年平均、単位円)
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 高齢者所帯の可処分所得は、社会保障給付減少の結果、この間、6025円も減少(3.3%減)した。消費支出を削って(消費支出は12年比2534円減少)も追い付かず、平均消費性向(高齢者所帯では消費支出が実収入を上回るため消費性向は100%以上になる)は130.8%から133.8%へ3.8%上昇した。高齢者所帯では貯蓄の取り崩し幅が年々拡大していることになる。

 高齢者は消費者としても巨大な存在だ。わが国では60歳以上の高齢人口は4035万人、総人口の約33%を占める。今後、少子高齢化の進展で高齢の無職所帯はさらに増加する。その高齢・無職所帯が、社会保障給付の削減→可処分所得の減少から消費支出を縮小せざるを得ない状態では、個人消費全体が伸びるはずがない。

 安倍政権は公共事業費と防衛費の伸び確保を「聖域」として譲らず、財政の帳尻合わせは社会保障費の圧縮と考えているようだ。そう考える限り、今後も勤労者所帯には社会保険料や税金の負担増がのしかかる。高齢者所帯には社会保障給付の削減が続くに違いない。可処分所得の前途は今後も危うい。

 可処分所得が危うい状態が続くようではアベノミクスの大切なキャッチフレーズである「所得から支出への好循環」など絵に描いた餅だ。中国人の爆買い消費が消えた後、頼りは個人消費だがこれが伸び悩むようでは消費景気の回復は一向に進まないという事態が今後も続くということになる。

2017年2月 6日 13:59

トランプ氏の「円安誘導」批判―アベノミクスの致命傷に

(2017年2月6日筆)

 2月10日、トランプ大統領就任後初の日米首脳会談が開かれる。首脳会談の議題は「貿易や安全保障だ」とスパイサー報道官が述べている。

 ただ「安全保障」については来日したマティス国防長官が「尖閣諸島は米国の防衛義務を定めた安保条約第5条の適用範囲である」と述べるなどオバマ政権時と変わらないことが明らかになった。となるとトランプ・安倍会談に残された未解決の主要な議題は「貿易」問題ということになる。


「日米FTA」に円安誘導を封じる為替条項を導入?
トランプ氏は日銀の量的緩和政策にも「円安誘導」批判

 これまでのトランプ氏の発言から推量すれば、首脳会議で議論される「貿易」問題は日米間の貿易不均衡の問題と日本の為替政策をめぐる問題の二つだ。この問題に関して「有言実行」トランプ氏の、大いに気になる発言が二つある。

 一つはTPPから「永久に離脱する」とする大統領令に署名した後の発言だ。トランプ氏はTPPに代わり日米の2国間FTA(自由貿易協定)交渉を始める方針を示した。これに安倍総理も前向きだが、日米FTA交渉にあたってトランプ氏は「通貨の価値を故意に下げる為替操作に対しては極めて強い規制を掛ける」(1月26日)と発言した。トランプ氏は日米FTAに通貨安(円安)誘導を監視する「為替条項」を持ち込む意向を示したのだ。

 もう一つは、1月31日、米製薬メーカートップとの会合での発言だ。トランプ氏は「他国は通貨やマネーサプライ、通貨の切り下げを利用し我々を出し抜いている。(中略)。日本がこの数年やってきたことを見ろ」(朝日新聞2月1日)と述べたという。トランプ氏は日銀が国債の大量購入によってマネー供給を大幅に拡大、為替を円安(ドル高)に誘導してきたと非難しているのだ。

 トランプ氏は選挙中にも「日本は通貨安誘導が上手だ」と言ってきた。上述の二つのトランプ発言はいずれも、金融政策を使った「巧妙な為替操作」によって日本が「円安誘導」を行っていると主張しているに等しい。トランプ氏はこうした日本の「円安誘導」を見過さず首脳会談の議題に載せるかもしれない。だからトランプ氏は為替を所管する麻生財務大臣の会談同席を求めたのだろう。


日本は中国、ドイツ、メキシコと並ぶ米国の為替監視対象国
「為替介入は行っていない」といっても聞く耳を持たない?

 参考までに、オバマ前政権は2016年4月から為替政策報告書を発表、その中で為替監視対象国リストを公表している。最新の2016年10月(年2回、4月、10月に評価見直し)の報告書では日本は中国、ドイツ、メキシコ、韓国、台湾、スイスと並んで為替監視の対象国になった。中国、日本、メキシコはトランプ氏が「貿易不均衡がある国」(1月11日会見)としてやり玉にあげたが、いずれもオバマ政権下で監視対象国リストに挙げられている国だ。

 為替監視の評価基準は(1)巨額の対米貿易黒字、(2)大幅な経常黒字、(3)外国為替市場での持続的かつ一方的な為替介入の三つだ。三つとも該当すれば「為替操作国」と認定され、米国はその国と2国間協議を開始する一方、一定の対抗措置を実施するという(みずほ総研「中国為替操作認定問題の行方」)。

 日本は(3)の為替介入を除く対米貿易黒字、経常黒字の二つの基準に抵触、為替監視国リストに入った(ドイツ、韓国も同基準に抵触)。トランプ氏が為替操作国として強く意識する中国は、巨額の対米貿易黒字の1項目だけが監視基準に抵触する(16年10月報告書)。中国は対GDP比の経常黒字が低下、為替介入も人民元安を抑制する方向で行われているからだ。

 日本政府は「2011年以来、(政府が円安維持のためドルを買い支えるような)為替介入は行っていない」と三つ目の基準認定を否定している。だがトランプ氏にとって重要なのは米国の雇用を奪う「日本の対米貿易黒字」とその原因の一つである「円安誘導」なのだ。いざとなればオバマ政権が作った「持続的かつ一方的な為替介入」というような認定基準など簡単に捨て去るに違いない。


むなしく響く政府・日銀の「金融政策は為替を目標としない」発言
「トランプのドル高」がアベノミクスを救ったが、円安誘導の影も

 トランプ氏が「日本が数年にわたって金融政策を利用して円安誘導を行っている」と主張していることに対して、黒田日銀総裁は「(量的緩和などの)金融政策は為替水準の安定を目標としていない」と繰り返し述べてきた。安倍総理も「2%の物価安定目標のために適切な政策を日銀に委ねている。円安誘導の批判は当たらない」(2月1日衆院予算委員会)と強く反論している。

 ところが、安倍総理、黒田総裁が懸命に反論している最中、為替政策を所管する麻生財務大臣が「円高による状況を是正するために金融政策を緩和した」と思わず漏らしてしまった(2月3日の記者会見)。財務省の事務当局は、「デフレ状況を是正するため」と慌てて麻生発言を訂正したという(日経新聞2月4日)。

 麻生財務大臣は嘘を言ったわけではない。「行き過ぎた円高を是正する、つまり円安を推し進めデフレを克服するために金融緩和した」と本当のことを言ったにすぎない。安倍総理も「アベノミクスが始まって行き過ぎた円高が是正されました」(14年11月、衆院解散時の発言)と何度も円高是正を自慢している。

 実際、黒田日銀の量的質的緩和政策は、想定していた貸出増加や物価上昇期待の好転などによる物価安定への波及経路はほとんど作動しなかった。作動したのは総裁が否定してやまない為替レートの経路、円安の効果だった。円安は輸出企業に輸出代金の増加というタナボタ利益をもたらす一方、円安による輸入物価の上昇(と消費増税の転嫁値上げ)が一時、インフレ期待を高めた。

 しかし、円安が円高に再び転じればアベノミクスは元の木阿弥、輸出企業の利益も物価上昇期待も吹き飛ぶ。米大統領選の前、昨年11月までの100円へ接近する円高進展はアベノミクスを危機に追いやったが、それを救ったのが「トランプのドル高(円安)」だった。

 今回の「トランプのドル高(円安)」は大減税や巨額のインフラ投資への期待による米長期金利の上昇から始まった。日本の金利に対して相対的に高くなった米金利をめがけてドル買い(ドル高)が発生したためだ。トランプ氏の保護主義による貿易赤字の縮小、米企業の海外保留利益の対米還流税制案もドル高要因になる。今回の円安が日本初でないことは明らかだ。

 しかし、日銀はイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)によって国債を大量に買い入れ長期金利(10年物国債の利回り)をゼロ%近辺に釘付けしている。そうすることで日銀は日米の金利差拡大を容認、円安を助長しているとトランプ氏は言うかもしれない。


世界最悪の政府債務国が世界最強の国に「経済援助?」の手土産
それでトランプ氏の円安誘導批判に「お目こぼし」がいただけるのか

 トランプ氏はこれらすべてを見透かし「日本は通貨安誘導が上手だ」と言っていると思われる。トランプ氏は口先介入で「行き過ぎた円安」(OECDやIMFは100円台前半が対ドル円の適正レートと見ているフシがある)にブレーキを掛ける程度に終えるつもりなのだろうか。ともあれ安倍総理や麻生財務大臣が貿易・為替問題で正論や理屈をこね回してもアメリカファーストのトランプ氏を説得するのは容易ではない。

 だからだろう。安倍総理は「日米成長雇用イニシアティブ」と名付けた対米経済協力提案を「手土産」に首脳会談に臨む。新幹線など米国のインフラに日本のメガバンク資金や公的資金を投融資して70万人もの米国人雇用を生み出すという提案を携えトランプ氏のご機嫌をうかがうことになるという。

 世界最大の政府債務残高を抱える日本が世界最大・最強の米国に「経済協力(援助?)」を行うという提案にトランプ氏の自尊心は傷つかないだろうか。高速道路や航空路が発達した米国で新幹線計画が果たしてフィージブル(採算可能)だろうか。日本人の預金や保険料を費やした日本の投融資は回収できるだろうか。そんな金があるのなら、なぜ日本の成長や雇用に使わないのか。

 以上、安倍総理の対米経済協力提案には様々な疑念があるが、「手土産」がトランプ氏のお気に召せば貿易不均衡と「円安誘導」の問題についてお目こぼしいがだける...、そんな下心をトランプ氏に見透かされないか、気になるところだ。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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