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大西良雄ニュースの背後を読む

2016年10月

2016年10月17日 15:08

ノーベル医学生理学賞受賞・大隅良典教授の嘆き

(2016年10月17日筆)

 日本人がノーベル賞を受賞すると安倍総理は決まって電話して受賞者に祝いをいうが、人気取りが透けて見える。ノーベル賞受賞者に「祝い」を述べ「未来への投資」を訴えるのなら、公共事業費を積み上げるのではなく、大学や研究機関、研究者への国家的支援を充実させるのが筋だが、その現実はお寒い限りだ。


大隅教授、ノーベル賞賞金で若手研究者の研究費支援
基礎研究支える国立大学への運営費交付金の削減続く

 ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典教授はノーベル賞の賞金約9500万円をもとに民間企業からも出資を仰ぎ、長期にわたって若手研究者に研究費を提供する仕組みを作るという。大隅教授は「社会全体で大学を支えるという認識が広がらないと、科学者は育たない」(朝日新聞デジタル10月5日)と訴え国家(社会全体)がやるべき仕事をほんの一部だが肩代わりする覚悟なのだ。

 大隅教授がノーベル賞受賞の対象となった「細胞のオートファジー(自食作用)」の解明は、すぐに役に立つわけではない「基礎研究」に属する研究だった。企業はすぐ役に立つ「開発研究」に7割以上の研究費を投じているが、大学は研究費の5割超を「基礎研究」に投じ日本の基礎研究を支えてきたという。

 しかしその大学の研究体制が崩壊しかかっている。その第一の要因が国立大学への運営費交付金の縮小だ。運営費交付金は国立大学が独立法人化された2004年度の1兆2415億円から年々削減され2016年度には1兆0945億円になった。12年間で1470億円の減少、約12%の削減だ。

 その結果、北海道大学では「来年度から5年間に教授205人分に相当する人件費削減案を出した」(朝日新聞10月5日「経済気象台」)という。国立大学だけではなく受験者、入学者数が減少、財政難に陥っている私立大学でも同じような現象が発生している。


ボーナスなし、退職金なし、有期雇用の大学教員が急増
東大でも若手研究者中心に非正規の「特任」教員が約4割

 第二は、非正規・有期雇用の研究者の急増だ。文科省「科学技術・学術政策研究所」が主要な11研究大学について「大学教員の雇用状況に関する調査」(平成27年)を行った。その結果は研究者の非正規化が急速に進んでいることを示しており、研究者が腰を据えて研究する体制にはない。

 調査によれば、大学教員のうち「任期なしの無期雇用」の教員数は平成19年度では1万9304名だったが平成25年度には1万7876名に減少した。一方、この間、「任期付きの有期雇用」の教員数は7255名から1万1541名へ59%の大幅増加となっている。

 大学の「任期付き有期雇用」という非正規教員は、ボーナスなし、退職金なし、5年契約の有期雇用が一般的だ。肩書の前に「特任」が付いた教授、准教授、助教は非正規教員を表している。特に若手教員において「任期なし雇用」が顕著に減少する一方、「任期付き雇用」が大幅に増加していると調査は指摘している。

 参考までに東京大学では、教授から助手までの無期雇用教員の総数は3888名、一方、特任教授から特任専門職員まで「特任」の総数は2571名だ(平成27年5月現在)。総教員数に占める「特任」の比率は39.8%を占める。特任のうち「特任講師」「特任助教」「特任研究員」「学術支援専門職員」「学術支援職員」など若手研究員は2154名と「特任」の83%を占める。


有期雇用と「競争的資金」で疲弊する若手研究者
20~30年後、日本人のノーベル賞受賞は減少

 「特任」研究員たちの中には、文科省の競争的資金など外部資金によって大学に有期雇用されるケースも少なくないという。ちなみに「競争的資金」は文科省の科学研究補助金(科研費16年度総額2097億円)のうち、研究者から研究テーマを公募して競わせ、選ばれた研究者に交付する資金だ。

 若手研究者は身分不安定なうえ激しい競争の中、研究費を勝ち取ってこなければならない。そんな過酷な状態が続いていることから研究者予備軍の博士課程への進学率は2000年度の15%台から2015年度には8%台へ大きく低下した。大隅教授は「研究室を支える博士課程の学生が減っており、深刻な問題だ」(日経新聞10月5日)と語った。

 これまで日本人の自然科学系のノーベル賞受賞の多くは20年~30年前の研究成果に与えられている。20年~30年前は大学にも研究者にも基礎研究に取り組む身分的、財政的、時間的余裕があったのだろう。その余裕が失われ若手研究者が疲弊している現在、20年~30年後にノーベル賞を受賞する研究者は大きく減少するのではないだろうか。

 大隅教授は「次から次へと(ノーベル賞をとるような)若い人が生まれる体制をつくってくれないと、日本の科学は空洞化する」(朝日新聞デジタル10月5日)と嘆いた。

 安倍総理は「未来への投資」と謳った28兆円もの経済対策を打ち出し「非正規という言葉をなくしたい」とまで言った。だが総理は、基礎研究を支える国立大学の運営費交付金の削減の問題や非正規化が進む若手研究者の悲惨な現実について、「未来への投資」と謳いながら一顧だにするふうがない。

 総理、ノーベル賞受賞者に人気取りの「祝い電話」する暇があったら、大隅教授の嘆きに応え、次世代のノーベル賞受賞者の育成策を考えたらどうか。

2016年10月 3日 14:03

「わからない日銀用語」で国民の期待に働き掛ける?

(2016年10月3日筆)

 ジャーナリストの池上彰氏が『「市場に流す」でわかる?』(朝日新聞9月30日「新聞ななめ読み」)で今回の日銀の金融政策変更について新聞記事のわかりにくさを嘆き、「読者を置いてきぼりにする原稿を書いていては、民主主義の危機を招きかねない」と新聞記者を叱咤しておられる。


わかりにくさ増す「マイナス金利付き」、「長短金利操作付き」
フォワードルッキング、イールドカーブ、オーバーシュートって何?

 しかし金融政策は専門性が高く、もともとわかりにくい。特に日銀が「マイナス金利付き質的・量的金融緩和」に踏み切ったころからわかりにくさは増し、今回の「長短金利付き量的・質的金融緩和」に至っては専門家である市場関係者でも「よくわからない」とする人が少なくなかった。

 日銀の担当記者でも日銀当局から事前に丁寧な説明を受けなければ、これを咀嚼することは難しかったにちがいない。しかし、当局が内容を事前に説明し記者がこれを外部に漏らすと株価、為替、金利が急変する。インサイダー取引まがいのことも起きる。当局の事前説明はありえず、記者は発表された日銀文書と3時30分からの黒田総裁の記者会見の内容だけで記事を書かねばならない。

 新聞記者が消化不良のまま記事を書けば、読者にはわかりにくい記事になるのは必然だ。小生も歳はとったが経済記者の端くれ、早稲田大学オープンカレッジで時事解説講座を担当、日銀政策の解説を行う予定だったこともあり、「長短金利付き量的・質的金融緩和」への政策変更の咀嚼に取り組んだが、大変苦労した。聴講生の皆さんに正しくわかりやすく解説できたか、自信がない。

 今回の日銀の発表文書は、「政策効果についての総括的な検証」「金融緩和強化のための新しい枠組み」「目で見る総括的検証と長短金利操作付き量的・質的緩和」の3つが中心だ。日銀のホームページで検索できるので興味のある方はご覧ください。いずれも日銀の事務方が書いたものだろう。一般には理解に苦しむ専門用語、横文字が書き連ねてある。

 例えば「フォワードルッキングな期待形成」と「適合的な期待形成」、「イールドカーブ・コントロール」と「オーバーシュート型コミットメント」だ。いずれも今回の政策変更の中核をなす言葉だが、これを理解するのに小生も多大な時間を要した。出来はともあれ、新聞記者はネットや翌日の朝刊にその内容をすぐ書けたのだから大したもんだと感心した。


「隠れた緩和縮小」なのか「永久緩和」なのか
市場の専門家も判断に苦しむ日銀の新運営方針

 日銀用語が難しいだけではない。その新政策運営の方向が定まらない、わからない。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)では日銀による国債買い入れの縮小を匂わした。これ見て外資系証券は「ステルス・テーパリング(隠れた量的緩和縮小)」と評した。

 一方、「オーバーシュート型コミットメント」では「マネタリーベースの残高は、イールドカーブ・コントロールの下で短期的には変動しうるが、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」(この文章も理解に苦労するが...)と日銀は書いた。

 ここ30年来、消費者物価が安定的に2%を超えたのはバブル期の3年間しかない。「実績値が安定的に2%を超える」のはいつになるのか皆目見当がつかず、市場の専門家の中には国債買い入れによるマネタリーベースの拡大が永続し「永久緩和になる」というものもいた。

 「隠れた量的緩和縮小」なのか「永久緩和」なのか、専門家でも判断がつかない。だが、9月30日に発表された「10月の国債買い入れ方針」では10年超の長期、超長期国債を中心に国債購入を減額することになった。10月だけは「量的緩和縮小」のようだ。黒田総裁は「市場の混乱を招くので緩和の出口は明らかにしない」というが、10月の購入減額で「緩和の出口」の試運転が始まったのかもしれない。

 と、ここまで書いて、小生のこの文章がコラムの読者に理解できているかどうか不安になってきた。小生も理解不能な「日銀用語」に振り回され、理解不能な文章を書いているのかもしれない。


「国民の99.9%がわからない」という笑えないジョーク
 総裁会見は一時間で打ち切り、記者の質問に軽蔑?の笑い

 新聞記者も市場の専門家も「日銀用語」を咀嚼できず、判断に迷っているのだ。まして専門知識がない一般国民が「マイナス金利付き」「長短金利操作付き」の質的・量的金融緩和」などわかろうはずがない。ある市場関係者が今回の政策変更について「国民の99%が理解不能だろう」と言ったら、別の市場関係者が「いや国民の99.9%がわからない」といったという。笑えないジョークだ。

 日銀は、マイナス金利の導入で金利をさらに低下させようとしたが、国民の金利水準に対する見方は厳しい。6月の「生活意識に関するアンケート調査」(日銀)によると「金利が低すぎる」と答えた人は62.3%だった。日銀がもくろむ金利低下は国民には歓迎されていない。

 同じ調査での「物価上昇についての感想」では、一年前と比べ物価が上がったと答えた人の82.3%が「物価上昇はどちらかといえば困ったことだ」と答えている。2%超の物価安定目標など国民は「困ったものだ」と答えているのに等しい。これが率直な国民の日銀の金融政策に対する姿勢なのだ。

 黒田総裁は異次元緩和以降「国民の期待に働き掛け、2%の物価安定目標を実現する」と言ってきた。なぜ2%上昇が「物価安定」なのか、まず国民にはわからないが、それはさておき、国民の期待(予想)への働き掛けが目標達成の手段なら、日銀は国民が理解できるように書き、説明する必要がある。黒田総裁は、国民への伝達者である新聞記者が理解できるまで何時間でも記者会見に付き合う必要があるだろう。新聞記者が不出来なら、なおさらである。

 小生も金融政策決定会合の後、午後3時30から開かれる総裁会見のネット放映を欠かさず見ている。総裁は記者からの質問に対し、発表文書に書かれたことを繰り返すことが多い。記者が腑に落ちていないのに、わかりにくい同じ言葉や表現を何度も何度も繰り返す。そのうえ会見時間を1時間に区切り、追加質問が多くても席を立つ。

 非常に気になるのは、記者が庶民の素朴な疑問、総裁の過去の言動との整合性、市場からの批判をぶつけた時の総裁の「笑い」だ。総裁は記者を軽蔑するかのように「笑い」、まともに答えようとしない。この「笑い」は自らを専門家である高みに置いて、理解できない輩の相手をする暇はないといっている「笑い」のように思える。黒田緩和に批判的な小生も笑われているように感じ不愉快になる。

 総裁が、「民は依らしむべし、知らしむべからず」という姿勢を続ける限り、「国民の期待」に働きかけ成果を上げることなど到底出来まい。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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