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2016年9月 5日

2016年9月 5日 15:09

マイナス金利でバブル? 貸家建設ブームに赤信号

(2016年9月5日筆)

 日銀によるマイナス金利導入などもあって新規住宅着工戸数が増加、5月から3か月連続で年率100万戸を上回った。これを黒田日銀総裁は住宅関係ローンの金利低下を日銀のマイナス金利政策の成果として強調する。


新規着工戸数増加の77%が貸家建設の急増による
「貸家バブル」を演出した日銀、銀行、不動産業者

 だが新規着工戸数増加の中心は貸家だ。2015年1月の新規着工の総戸数(以下年率換算)は87万戸だったが、直近の2016年8月には100.5万戸と13.5万戸(増加率15.5%)増えた。この1年8か月の間、貸家の新規着工戸数は34.7万戸から45.1万戸へ10.4万戸(増加率29.9%)に急増した。新規着工戸数増加の77%が貸家建設だったことになる。

 貸家建設が急増し始めた理由は2つある。一つは、15年1月からの相続税の強化(基礎控除額引き下げの実施)にある。(1)現金を相続するより現金を貸家に代えて相続するほうが相続税は大きく下がる、(2)貸家建設をアパートローンなど借金で賄えば借金分が相続財産から差し引かれる。こうした節税メリットを強調する業者の誘いに乗って資産家を中心に貸家建設が活発化した。

 貸家建設を資産家らにすすめる不動産業者のなかには、アパートを一括借り上げし、入居者を集め、管理を請け負い、月々の家賃収入を保障すると謳う業者も増えてきた。貸家を建てようとする個人には結構ずくめの「契約」だが...。

 もう一つは貸家建設のためのアパートローンを融資する銀行側の事情だ。銀行にもよるがアパートローンの貸出金利は個人向け住宅ローンの金利より1%前後高い。マイナス金利導入でさらなる貸出金利の低下、国債運用利回りの低下に悩む銀行には貸出金利の高いアパートローンの拡大が必須となる。特に運用難に襲われた地方銀行はアパートローンの拡大に躍起になっているという。


全国空き家820万戸の半分以上、429万戸が貸家
東京、神奈川、千葉でも新築賃貸の空室率が急上昇

 不動産業者の節税勧誘、銀行のアパートローン拡大作戦に乗って貸家建設ブームが起きていることになる。日銀も新規住宅着工戸数が増えたと自慢、貸家建設をあおっているように見える。しかし、これは貸家建設バブルではないのか。

 人口が増え所帯数が増加、貸家供給が不足しているのならバブルではない。実際は人口が減り所帯数も減少、貸家需要は縮小している。そんな中で貸家建設がブームになっているのだから、貸家建設バブルの疑いは濃厚だ。

 みなさんもご存知のように、2013年の「住宅・土地統計調査」(5年に1度実施)によれば、全国の住宅総数6063万戸のうち空き家数は820万戸にのぼり空き家率は13.5%にもなる。驚くべきは空き家820万戸の半分以上、429万戸が貸家(賃貸用)の空き家であるという事実だ。

 貸家需要が活発な東京、神奈川、埼玉、千葉など首都圏の賃貸用住宅の空き家率は他地域に比べ幾分低い。しかし首都圏でも人口減少は着実に進んでおり、供給拡大に伴って貸家空き家率がさらに拡大することは疑いないところだ。

 実際、不動産会社タス(トヨタ系)が発表した今年3月の新築賃貸アパートの空室率は東京23区33.7%、神奈川35.5%、千葉34.1%、埼玉30.9%へ上昇、新築アパートの適正空室率とされる30%を軒並み上回ってきた(日経2016年6月1日朝刊)という。貸家供給はマイナス金利導入(16年1月29日)以降さらに加速しており首都圏の新築アパートの直近空室率はさらに上昇していると推測される。


貸家の供給過剰がさらに増し、家賃の下落も始まった
近い将来の「貸家バブル崩壊」の責任は誰がとるのか

 貸家の供給過剰に伴って家賃の下落も始まっている。総務省の消費者物価指数によると東京都区部の家賃は今年3月以降前年比マイナスに転じ7月-0.3%、8月(速報)-0.4%と下落幅を広げている。東京都区部がこのありさまだから新築空室率が高い神奈川、千葉の家賃下落率はさらに大きくなる。

 業者と銀行にあおられ慌ててアパートを建てたが、空室率が高まり家賃が下落するとなると、業者が約束した「家賃保証」はどうなるのか。店子が集まらず家賃保証もできない業者が、家主に約束した家賃を減額する、あるいは契約そのものの解除を求める...。そういうケースも増え業者と個人家主とのトラブルが増えているようだ。

 貸家バブルの崩壊はそう遠くはない。そうなれば家賃収入が減少、家主はアパートローンの金利および元本返済に支障をきたすことになる。家賃が下落すればアパートの資産価値も目減りする。金利・元本が返済できなくなった個人家主は目減りしたアパート資産を売却しなければならない。アパートの売却が増えればアパートの資産価値がさらに下がる。結局、個人家主は資産を失ったうえアパートローン残高(借金)の返済だけが残ることになりかねない。

 こうした悲劇の責任は誰がとるのか。供給過剰になることが分かり切っているのに節税対策でアパートを建てさせた不動産業者か、アパートローンを貸し込んだ銀行か、マイナス金利の成果を自慢して貸家バブルの素地を作った日銀か、いずれが責任を取るか。いずれも責任はとらないだろう。

 結局、節税と低金利に目がくらんだ個人家主の自己責任ということになるのだろうか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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