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大西良雄ニュースの背後を読む

2016年9月

2016年9月20日 14:34

米利上げ開始後「円高株安」に転じた苦い経験

(2016年9月20日筆)

 9月21日、日銀、米FRB(連邦準備制度理事会)の順で金融政策決定会合の結果が公表される。とりわけ米FRBが追加利上げを実施するかどうか、その結果次第で日本のみならず世界の為替、株価、金利などが大きく変動する。

 日本の市場ではFRBが追加利上げを実施すれば、日米の金利差が拡大、高い金利のドルが買われドル高円安が進む、円安が進めば輸出企業の採算が改善、日本株が上昇し「円安株高」が実現すると期待する市場関係者が少なくない。


FRB利上げ開始後、世界同時株安が襲い円も急騰
米利上げが誘発した中国と原油のダブルショック

 本当にそうなるのか。昨年12月16日に決定されたFRBの利上げ開始(7年ぶりのゼロ%金利解除、0.25%への引き上げ)後の経験を振り返ると、「円安株高」は空振り、それどころか世界同時株安が襲い円は急騰した。市場の期待とは逆の「円高株安」が続いたのだ。

米利上げ後は期待外れの「円高株安」(2015年12月16日以降の騰落率)
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 上表(上段)は、米利上げ決定後の株価、為替の動きだが、15年12月16日の利上げ決定から2月12日の安値まで米国のNYダウは10%下落、日経平均株価はNYダウの倍以上、21.5%の値下がりとなった。一方、円レートは1ドル122円から113円へ11円、約9%も上昇(円高)した。

 この3か月の間、「円高株安」が急進展した。1月29日、日銀は慌てて「マイナス金利」の導入を決め円高抑止をもくろんだが、効き目はゼロ、円高は止まらなかった。

 シナリオが崩れた理由はFRBの利上げに伴う米景気の失速懸念にあった。当時、利上げ開始観測からドル高が進行、その結果、米国の輸出が減少を始めていた。原油価格の下落も加速、エネルギー産業を中心に設備投資が後退、米製造業の景況感が悪化していた。米景気の先行き不安は新興国不安につながった。

 新興国景気を牽引する中国は過剰設備を抱え成長減速が著しい。中国の富裕層、資本家の先行き不安は根強く、米利上げを契機に中国からの大規模な資本流出が発生、人民元が急落した。2月12日までに中国株の代表指数である上海総合指数は21.8%下落、15年8月に起きたチャイナショックの再来となった。

 チャイナショックと原油ショックは双子の兄弟のようなものだ。中国は世界最大の原油輸入国だ。中国の成長減速は原油輸入への懸念を呼びおこし原油下落を加速させた。原油価格は1バレル26ドル台へ下落、2000年代初頭以来の安値となった。産油国間の生産調整交渉の失敗や米利上げに伴う緩和マネーの収縮懸念が投機筋の原油売りを加速した面もある。

 中国・原油のダブルショックから金融市場ではVIX恐怖指数が急騰、世界の投資家はリスク回避に走り、避難通貨として円が買われた。米国の利上げ開始と景気失速懸念が世界経済のリスク度を高め、円高が急進展する結果になった。


追加利上げの先送りでドル安が進展、解消した米失速懸念
円安の水膨れ業績が剥落、外国人離れで遅れた日本株回復

 2月12日に安値を付けた後、米NYダウを筆頭に世界の株価は底入れ、回復に向かう。米景気の失速懸念と新興国不安が重なったことで年4回とされたその後の追加利上げのシナリオが狂い、追加利上げが先送りされたためだ。

 追加利上げの先送りで為替はドル安に転じ、それがNYの株価と原油価格の回復を促した。FRB利上げ開始時と直近の9月16日を比べると、NYダウは利上げ開始時を上回る水準まで回復、NY原油は35ドル台から43ドル台へ21%以上上昇した(上表下段を参照)。豪州、ブラジル、カナダなど資源国の株価も利上げ開始前を上回っている。

 しかし日経平均株価は9月16日現在、米利上げ開始時を13%以上も下回っており株価回復はきわめて鈍い。リスク回避の円買いが終わってもドル安円高は止まらず円は1ドル100円前後まで上昇を続けた。米利上げ後、円は16%以上の円高となった。円高転換で水膨れしていた円安効果が剥落、企業業績が減益方向に転じたことが株価の回復を鈍らせた。

 円安株高を牽引した外国人投資家の日本株離れも深刻だ。アベノミクス初年の2013年、外国人は日本株(現物)を15兆円買い越したが、2年目の14年は0.8兆円買い越しに急冷、15年は0.3兆円の売り越しに転じた。16年は8月までに約5兆円の大幅な売り越しだ。

 日本の低い実質成長率、遅れる基礎的財政収支の黒字化、デフレ再燃すら懸念される物価、そして企業業績への懸念―。アベノミクスの成果への懐疑が外国人投資家の日本株離れをもたらしたといえるだろう。


市場の利上げ後「円安株高」の期待は見事に裏切られた
世界にリスク要因は山積、米追加利上げに耐えうるのか

 以上が米利上げ開始後9か月間の経験だ。米利上げにかかわる市場の「円安株高」期待は見事に裏切られた。9月21日の追加利上げは回避されたとしても、FRBは大統領選後の12月には追加利上げに踏み切るとの予想が支配的だ。

 予想されるFRBの追加利上げに耐えうるほど米景気は強いのか、新興国景気は回復しているのか。さらに過剰生産、過剰融資の調整過程にある中国は大丈夫か、米利上げに伴う中国からの資本流出は防げるのか。マネー収縮に耐えうるほど原油需給は回復しているのか。英国のEU離脱騒動の再燃はないのか、ドイツ、イタリアの銀行不安は収まるのか。

 過去9か月間に経験した想定外の「円高株安」は、米利上げに付きまとう世界のリスク要因顕在化と無縁ではない。日本の低成長、デフレ再燃、日銀政策への市場の反乱不安も世界のリスク要因の一つだ。そうしたリスク要因が消え去らない限り、米追加利上げによる日米金利差の拡大が再び「円安株高」をもたらすというような淡い市場の期待が達成されるとは限らない。

2016年9月 5日 15:09

マイナス金利でバブル? 貸家建設ブームに赤信号

(2016年9月5日筆)

 日銀によるマイナス金利導入などもあって新規住宅着工戸数が増加、5月から3か月連続で年率100万戸を上回った。これを黒田日銀総裁は住宅関係ローンの金利低下を日銀のマイナス金利政策の成果として強調する。


新規着工戸数増加の77%が貸家建設の急増による
「貸家バブル」を演出した日銀、銀行、不動産業者

 だが新規着工戸数増加の中心は貸家だ。2015年1月の新規着工の総戸数(以下年率換算)は87万戸だったが、直近の2016年8月には100.5万戸と13.5万戸(増加率15.5%)増えた。この1年8か月の間、貸家の新規着工戸数は34.7万戸から45.1万戸へ10.4万戸(増加率29.9%)に急増した。新規着工戸数増加の77%が貸家建設だったことになる。

 貸家建設が急増し始めた理由は2つある。一つは、15年1月からの相続税の強化(基礎控除額引き下げの実施)にある。(1)現金を相続するより現金を貸家に代えて相続するほうが相続税は大きく下がる、(2)貸家建設をアパートローンなど借金で賄えば借金分が相続財産から差し引かれる。こうした節税メリットを強調する業者の誘いに乗って資産家を中心に貸家建設が活発化した。

 貸家建設を資産家らにすすめる不動産業者のなかには、アパートを一括借り上げし、入居者を集め、管理を請け負い、月々の家賃収入を保障すると謳う業者も増えてきた。貸家を建てようとする個人には結構ずくめの「契約」だが...。

 もう一つは貸家建設のためのアパートローンを融資する銀行側の事情だ。銀行にもよるがアパートローンの貸出金利は個人向け住宅ローンの金利より1%前後高い。マイナス金利導入でさらなる貸出金利の低下、国債運用利回りの低下に悩む銀行には貸出金利の高いアパートローンの拡大が必須となる。特に運用難に襲われた地方銀行はアパートローンの拡大に躍起になっているという。


全国空き家820万戸の半分以上、429万戸が貸家
東京、神奈川、千葉でも新築賃貸の空室率が急上昇

 不動産業者の節税勧誘、銀行のアパートローン拡大作戦に乗って貸家建設ブームが起きていることになる。日銀も新規住宅着工戸数が増えたと自慢、貸家建設をあおっているように見える。しかし、これは貸家建設バブルではないのか。

 人口が増え所帯数が増加、貸家供給が不足しているのならバブルではない。実際は人口が減り所帯数も減少、貸家需要は縮小している。そんな中で貸家建設がブームになっているのだから、貸家建設バブルの疑いは濃厚だ。

 みなさんもご存知のように、2013年の「住宅・土地統計調査」(5年に1度実施)によれば、全国の住宅総数6063万戸のうち空き家数は820万戸にのぼり空き家率は13.5%にもなる。驚くべきは空き家820万戸の半分以上、429万戸が貸家(賃貸用)の空き家であるという事実だ。

 貸家需要が活発な東京、神奈川、埼玉、千葉など首都圏の賃貸用住宅の空き家率は他地域に比べ幾分低い。しかし首都圏でも人口減少は着実に進んでおり、供給拡大に伴って貸家空き家率がさらに拡大することは疑いないところだ。

 実際、不動産会社タス(トヨタ系)が発表した今年3月の新築賃貸アパートの空室率は東京23区33.7%、神奈川35.5%、千葉34.1%、埼玉30.9%へ上昇、新築アパートの適正空室率とされる30%を軒並み上回ってきた(日経2016年6月1日朝刊)という。貸家供給はマイナス金利導入(16年1月29日)以降さらに加速しており首都圏の新築アパートの直近空室率はさらに上昇していると推測される。


貸家の供給過剰がさらに増し、家賃の下落も始まった
近い将来の「貸家バブル崩壊」の責任は誰がとるのか

 貸家の供給過剰に伴って家賃の下落も始まっている。総務省の消費者物価指数によると東京都区部の家賃は今年3月以降前年比マイナスに転じ7月-0.3%、8月(速報)-0.4%と下落幅を広げている。東京都区部がこのありさまだから新築空室率が高い神奈川、千葉の家賃下落率はさらに大きくなる。

 業者と銀行にあおられ慌ててアパートを建てたが、空室率が高まり家賃が下落するとなると、業者が約束した「家賃保証」はどうなるのか。店子が集まらず家賃保証もできない業者が、家主に約束した家賃を減額する、あるいは契約そのものの解除を求める...。そういうケースも増え業者と個人家主とのトラブルが増えているようだ。

 貸家バブルの崩壊はそう遠くはない。そうなれば家賃収入が減少、家主はアパートローンの金利および元本返済に支障をきたすことになる。家賃が下落すればアパートの資産価値も目減りする。金利・元本が返済できなくなった個人家主は目減りしたアパート資産を売却しなければならない。アパートの売却が増えればアパートの資産価値がさらに下がる。結局、個人家主は資産を失ったうえアパートローン残高(借金)の返済だけが残ることになりかねない。

 こうした悲劇の責任は誰がとるのか。供給過剰になることが分かり切っているのに節税対策でアパートを建てさせた不動産業者か、アパートローンを貸し込んだ銀行か、マイナス金利の成果を自慢して貸家バブルの素地を作った日銀か、いずれが責任を取るか。いずれも責任はとらないだろう。

 結局、節税と低金利に目がくらんだ個人家主の自己責任ということになるのだろうか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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