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大西良雄ニュースの背後を読む

2016年7月

2016年7月19日 10:31

2016年参院選、自公は本当に勝ったのか 

(2016年7月19日筆)

 参院選挙が終わった。その選挙結果について新聞各紙は「与党(自公)改選過半数」とする一方、「民進・共産伸び悩み」と書いて自公の勝利を印象づけた。


自民の獲得議席は前回比で9議席減、公明は3議席増
民進は旧民主系無所属(新潟、山形)含め17議席の増加

 自公は本当に勝ったのか。まず獲得議席数から見てみよう。自公は70議席(自民56、公明14)を獲得、安倍総理が目標とした「改選過半数61議席」を大きく上回った。一方、野党の民進・共産は38議席(民進32、共産6)にとどまり、非改選を含む改憲勢力の3分の2議席獲得を阻止できなかった。

 与党は目標の改選過半数を大きく上回り、非改選含め憲法改正の発議が可能となる3分の2議席を確保したのだから自公の勝利ということになる。

民進は15議席増――参院選の政党別獲得議席数(13年対16年)
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 しかし、前回2013年の参院選の獲得議席と比べてみると様子は一変する。13年の自公獲得議席数は76議席(自民65、公明11)だった。これと今回の獲得70議席を比べると自公は6議席の減少となる。自民党は9議席も減らし公明党の3議席増に救われた格好だ(上表)。

 これに対し民進党は旧民主の前回獲得議席17議席を15議席上回った。一人区での野党共闘の旧民主系無所属2議席(新潟、山形)を含める17議席増となる。旧みんなの党8議席分、共産党の2議席減分を吸収しておつりがくる。岡田克也民進党代表が「最悪だった前回参院選から議席を上積みすることができた」と述べたのは強がりでもない、客観的事実である。


前回比得票数の増加は民進党が450万票、自民党を大きく上回る
公明党の得票数はたったの1万票増、学会員の一部離反が響いた?

 興味深いのは得票数の結果だ。自民党は「比例代表」で今回、得票数を前13年参院選に比べ165万票(8.9%増)伸ばした。だが民進党は460万票(64.2%増)もの大幅な増加となった。改選議席を増やした公明党の得票数はわずか1万票しか増えていない。おおさか維新は旧維新比で120万票減らした。一方、改選議席を減らした共産党は86万票増やしている(下表)。

民進が64%増―参院選比例区の政党別得票数(13年対16年)
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 なお、今回の投票総数は5600万票だった。投票率のアップ(13年比+2・09ポイント)と18~19歳選挙権付与(240万人)によって13年参院選より277万票増加した。投票総数が増加し、みんなの党の475万票がなくなったにもかかわらず、公明党の投票数は伸び悩み、おおさか維新の投票数は大幅減少した。特に公明党の伸び悩みは興味深い。安保法制推進をはじめ安倍政治の補完勢力に堕すことを嫌った創価学会員の一部離反が響いたのかも知れない。

 比例代表の得票率はどうかだった。今回の得票率は自民党35.9%(前回34.8%)、民進党21.0%(同13.4%)、公明党13.5%(同14.2%)、共産党10.7%(同9.7%)だった。自公は得票率を低下させ、民共は逆に得票率を拡大させている。特に民進党の得票率アップが目立つ。

 政党への民意は「選挙区」の得票数より「比例代表」の得票数のほうが現れやすい。選挙区では立候補が限られたり野党共闘があったりして政党別の得票が不分明になりがちだからだ。旧民主党の前々回2010年参院選での比例代表得票数1845万票に比べればなお回復途上といえるが、今回の参院選の「比例代表」に現れた支持の民意は自公より民共に向かい始めたといってよいだろう。


「安倍政策が評価された」17%、「野党に魅力がなかった」71%
民進党中心に野党には「政権交代可能な勢力としての魅力がない」

 参院選挙の結果を受けて実施された朝日新聞の世論調査(7月11日、12日)によると、「今回の選挙で与党が改選過半数を大きく上回る議席を得たのは安倍首相の政策が評価されたからだと思いますか。野党に魅力がなかったからだと思いますか。」という問いに対し、「安倍首相の政策が評価されたから」はわずか15%、「野党に魅力がなかったから」が71%に達した。

 その一方、「今後、安倍首相が進める政策について、期待のほうが大きいですか。不安のほうが大きいですか。」という問いに対し、37%が「期待のほうが大きい」と答えたが、それを上回る48%の回答者が「不安のほうが大きい」と答えている。

 この世論調査を見る限り、アベノミクスを含む過去の安倍首相の政策への評価は低く、安倍政治に対する将来不安も根強い。現在の世論は安倍政策への支持の有無ではなく「野党に魅力がないこと」に最大の関心を寄せていることになる。

 「野党に魅力がない」とする71%もの圧倒的世論は何を意味しているのか。徹底的な批判勢力ではないという見方もあろうが、強力な批判野党である共産党の伸びが鈍かったことを考えるとこの見方は疑わしい。やはり「政権交代可能な勢力として野党に魅力がない」ということなのだろう。


異次元緩和、財政再建、労働力不足、低成長に出口が見つからない
野党はアベノミクスの失敗に備える強力な代案(選択肢)を提示せよ

 あるいは政権交代可能な勢力として「野党には安倍政策に対抗する代案がない」と読み替えることができるかもしれない。ということなら野党は次の衆院解散、19年の参院選に備えて安倍政策に代わる強力な代案作りを急ぐべきだ。

 異次元緩和、マイナス金利導入を軸とするアベノミクスはすでに行き詰まっており出口が見つからない。日銀の国債買い上げ終了という出口には金利急騰という爆弾が待っている。非常に難しい課題だが放漫財政からの脱却、財政再建には強力な代案が不可欠だ。野党が代案を持たねばアベノミクスの失敗から生じる悲惨な日本経済の近未来を救うことができない。

 消費増税の先送りに民進党が賛成したのは残念だが、社会保障の充実策、貧富の格差解消策について旧民主党以来の政策を民進党は持っている。最低賃金引き上げや同一労働同一賃金などその一部は安倍政権に盗用された。だが低成長の根本原因である労働力人口の減少、党動力不足の解消策についての野党の訴えは弱い。国家権力の専横を縛る立憲主義の徹底も重要だ。これらの代案を国民のもう一つ選択肢として明示すべきだ。

 野党の代案は野党のために必要なのではなくアベノミクスの失敗から国民を守るために必要なのだ。民進党、共産党など野党はイデオロギーや安保政策の差異、労働組合同士の角逐などを棚上げし、互いに協力精査して安倍政策に対抗する強力な代案を選挙民に提示できて始めて「野党に魅力がない」から脱出できる。

2016年7月 4日 14:04

秋の大型予算(10兆円以上?)に財源はあるのか

(2016年7月4日筆)

 安倍政権は「アベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」ため8月中に10兆円以上とも言われる2016年度の第二次補正予算(第一次は熊本地震関連の7780億円)を発表するという。二階自民党総務会長などは「補正予算を20兆円規模にすべきだ」と恐ろしく威勢のいい提案をしている。

 安倍総理は英国のEU離脱騒動で高まった不確実性を奇貨として大型補正を組むのだが、10兆円もの大型補正予算の財源はいったいどこにあるのか。


財源の前年度剰余金は法人税収の見積もり減で大幅縮小
7.2%減益予想で今年度税収は上振れどころか下振れ?

 補正予算の財源は、安倍政権のこれまでの経験に従えば、新規国債の発行か、あるいは前年度の剰余金の活用に求められることになる。

 安倍政権は発足直後、10.2兆円という超大型の2012年度補正予算を組んだ。この主たる財源は7.8兆円(予算ベース)の新規国債発行だった。その後、13年度補正5.4兆円、14年度補正3.1兆円、15年度補正3.3兆円の3回の補正予算は前年度の剰余金と税収上振れ分が主な財源になった。

 2013年度以降は新規国債を発行せず前年度の剰余金と税収上振れ分ですべての補正予算財源を賄ってきた。だが7月1日発表された2015年度の剰余金は2524億円にとどまった。10兆円以上の16年度補正予算の財源の一つ、前年度の剰余金は全くあてにならなくなった。

 ちなみに14年度は1.6兆円(決算ベース)あった剰余金は15年度には1.3兆円強も縮小した。縮小の主因は法人税税収が政府見積もり(今年1月)から9136億円下振れしたことだった。「アベノミクスの成果」は縮んだのだ。

 もう一つの補正予算財源になる今年度の税収上振れの見通しはどうか。7月1日発表の日銀短観によると、2016年度経常利益は大企業がマイナス7.3%、中小企業がマイナス9.5%、全規模でマイナス7.2%と予想されている。この大幅な減益予想では法人税収は上振れするどころか下振れすることがほぼ確実だ。

 日銀短観の利益予想の前提は1ドル111円だ。EU離脱をめぐる英国の国民投票後の円高急進展(102円前後)による業績の悪化は含まれていない。企業業績が下方修正されれば景気がさらに冷え込み消費税収、所得税収も下振れする可能性もある。税収は全体として予算より下振れするかもしれない。

 前年度の剰余金が僅少で今年度の税収上振れ分も見込めない。とすれば10兆円以上もの大型補正予算の財源は2012年度補正予算のように新規国債の発行に頼るしかないということになる。


安倍総理は「社会保障充実のための赤字国債は出さない」と断言
社会保障の補正予算は5000億円程度?消費押し上げには非力

 ちなみに、10兆円以上の補正予算の中身は、子育て支援、保育士の待遇改善など1億総活躍プランの一部前倒し(最大3000億円規模か)、プレミアム商品券の発行(1000億円規模)、低所得者への臨時給付金など合わせ5000億円規模にとどまりそうだ。これでは個人消費の押し上げにはつながらない。

 ほかに中小企業への低利融資の拡大や低利奨学金の拡充が見込まれるが、大型補正予算の大部分は相変わらずの公共事業の拡大だ。インバウンド(訪日客)消費の強化を名目に、北陸、北海道、九州の各新幹線の延伸前倒し、リニア新幹線の大阪延伸前倒し、さらにクルーズ船用の岸壁整備などがそれだ。

 安倍総理は「社会保障充実策のための赤字国債は出さない。アベノミクスの成果を充当する」と述べている。今年度税収の上振れ、前年度剰余金という「アベノミクスの成果」は消え失せた。赤字国債も出さないというのだから、社会保障を補填する補正予算の財源は日銀のマイナス金利導入に伴う国債利払い減少見込み分だけということになる。

 だがその一部はすでに熊本地震対策の第一次補正予算に使われている。残る国債利払い減分も限られるため社会保障(個人消費底上げ)に使える予算は5000億円規模という結末になる。


財政投融資を使い中小企業融資や新幹線など公共事業拡大
原資の財投債は「準国債」、金利リスク、国民負担もある

 では公共事業などの残り大部分の補正予算の財源はどこに求めるのか。検討されているのは財政投融資(財投債)と建設国債の活用だ。まだ不確かだが、中小企業への低利融資、低利奨学金の拡充、リニア新幹線の大阪延伸前倒しなどは財政投融資の活用、北陸、九州、新幹線などの延伸、岸壁整備などは建設国債の発行に依存するのではないか。

 財政投融資は第2の予算と言われるが、一般会計の歳出を税収でどこまで賄えるかを示す「基礎的財政収支」の枠外だ。財政投融資がいくら赤字になっても2020年度中に基礎的財政赤字を黒字化するという国際公約(消費増税先送りで公約実現は絶望的だが...)には抵触しない。

 便利な打ち出の小槌に見えるが、財政投融資の原資は政府および政府系機関が発行する財投債だ。財投債は「国債に準じる債券」つまり国の借金だ。財務省理財局が管轄する「国債および借入金残高」に含まれており、財投債の増加は国債と同様、国の借金残高を膨らませることになる。

 財投債を原資に長期の低利融資が実施された後、財投債の金利が上昇し調達金利が低利の貸出金利より高くなれば金利が逆ザヤになり、政府および政府系機関の赤字が拡大、結局、国民が税で穴埋めするというリスクもある。貸出先からの資金回収が滞ればこれも国民負担だ。


建設国債を発行し整備新幹線など公共事業の大盤振る舞い
財投債、建設国債による10兆円の財政出動にもリスク

 建設国債は公共事業費などに充当される国債で国会の議決があれば発行できる。建設国債を発行しても歳入が不足する場合に発行されるのが特例国債(赤字国債)だ。公共事業費以外の歳出を賄うために赤字国債が発行される。

 安倍総理は「赤字国債は発行しない」と明言したが、公共事業のための建設国債を発行しないとは言っていない。社会保障に使う赤字国債は発行せず、建設国債を使って大規模な公共事業を実施、総理は伊勢志摩サミットで大見得を切って宣言した「大胆な財政出動」を自ら実行して見せることになる。

 だが建設国債でも赤字国債でも国債(借用証)に変わりはない。整備新幹線や港湾整備などの公共事業が訪日客の増加をもたらさず税収増に貢献しなければ、将来世代が増加した国債の元本償還、金利支払いの多くを負担することになる。

 先に述べた財投債を含む「国債および借入金残高」(国民の借金)は2016年度末には1191兆円に膨らむ見込みだ。これに秋の大型補正予算分の財投債、建設国債がさらに上乗せされることになる。

 異次元緩和に失敗、日銀が2%物価目標を放棄する、あるいは公共事業の膨張による建設費、人件費の高騰で2%物価目標が達成される――、いずれの場合でも日銀は国債買い上げを止めることになる。この異次元緩和の出口で日銀の買い支えを失った国債は急落、金利(ないし財投債金利)は急騰する懸念がある。この利払い急増は国家財政の破たんにつながりかねない。後先考えぬ10兆円の財政出動が抱える潜在リスクは大きい。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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