QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2016年6月

2016年6月20日 11:07

「90歳になって老後を心配」する理由は多々ある

2016年6月20日筆)

 読んでいないので内容はわからないが、『もう親を捨てるしかない』(幻冬舎刊)というぞっとするタイトルの本が売れているそうだ。買っているのは親の介護に疲れた現役世代だろうか。われわれ「捨てられる親世代」のほうは読むのが恐くて買えないし書店に足を運ぶ気力もない。


「90歳、オイ、いつまで生きているつもりだ」
「将来が不安だからといって使わないから消費が伸びない」

 そんなことを考えている時、自民党の麻生太郎副総理(財務大臣)の、この本の先を行く年寄りの生きる気力を奪ってしまいかねない発言が飛び込んできた。

「90歳になって老後が心配とか、訳のわかんないことを言っている人が、こないだテレビに出ていたけど、オイ、いつまで生きているつもりだよと思いながらテレビを見ていましたよ。」(「朝日デジタル」2016年6月18日)

 副総理は「90歳、いつまで生きているつもりだ」とのたまわったのだ。参院選支援で訪れた小樽自民党支部の会合だったので、身内の笑いを取ろうと軽く言ってのけたのだろうが、高齢者には笑えないブラックユーモアである。

 発言は、1700兆円を超す金融資産があるのにその金が消費に回らない。買いたいものがないとか、将来が不安だからと言って金を使わない。だから個人消費が伸びない、消費税も上げられないという文脈の中から飛び出した。

 副総理は「あれは(資産)は使うもんだ、使って回さないとどうにもならねえ」とも言った。副総理は「私のばあさん(母親)は91歳までピンとしてましたけど、金は一切息子や孫が払うものと思って使い放題使っていました」と言って老後浪費を推奨していたという。

 しかし、大多数の老人所帯には、副総理の91歳のお母上のように使いきれないほどの金融資産を持った息子たちがいるわけではない。高齢者のすべてが麻生副総理の親族のような大資産家でもない。


マイナス金利でも「将来不安」から貯金、保険が増加
90歳になっても将来不安に備えるのは合理的行動

 副総理の言う個人金融資産は日銀の資金循環統計による「家計の金融資産」を指す。2016年3月末の家計の金融資産は1706兆円だ。この「家計の金融資産」の保有者の中核が60歳以上の高齢者であることは疑いない。「家計調査」によると60歳以上の高齢無職所帯の一所帯あたり貯蓄現在高(2015年)は2430万円にもなる。

 しかし貯蓄高平均値は2400万円だが、それ未満が高齢無職所帯の約65%、中央値は1200万円未満、最頻値は600万円未満といったところだろう。年金収入に依存する多くの高齢無職所帯にとって、夫婦二人の生活費を補うに足る貯蓄額に達していないというのが実情だろう。

 その「家計の金融資産」だが、このところの株価下落で株式、投資信託などは減っているが、資産の53%弱(894兆円)を占める現金預金、30%(509兆円)を占める保険・個人年金いずれも増加を続けている。

 マイナス金利導入で金利も利回りも低下しているのに預金、保険は増加している。大多数の家計は将来が不安で消費を切り詰めて貯蓄を増やしているのだ。子どもに頼れない、「捨てられる親世代」には、なけなしの預貯金を取り崩してしまえば老後破産が待っているだけだからだ。

 副総理、90歳になって老後を心配するのは「訳のわからないこと」なでしょうか。年寄りは70歳になれば80歳まで、80歳になれば90歳まで、90歳になれば100歳まで生き残ることを考え、そのリスクあるいは「将来不安」に備えようとしている。何歳になっても老後を心配するのは理屈に合った経済行動なのだ。


子どもに頼れず、金利収入にも頼れない老後
90歳の「将来不安」を理解できなければ、消費は増えない

 「もう親を捨てるほかない」と言われ子どもに頼ることもできない。マイナス金利の導入で高齢者は金利収入にもますます頼れなくなった。

 マイナス金利導入後の3月に実施された日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると、金利が低すぎるとする回答が65.1%(前回12月調査51.9%)に跳ね上がった。これまでも金利は十分低くかったが、マイナス金利導入を機に高齢者を中心に金利収入の回復を願う声が一気に高まったというほかない。

 子どもにも頼れない、金利にも頼れないのなら政府に頼るしかない。政府が老後の「将来不安」をなくしてくれなければ、高齢者は金融資産を取り崩し、それを消費に回すことはできない。しかし政府は、年金の減額、介護保険料の引き上げだけではなく、高齢者の医療費負担割合の引き上げ、紹介状なしの大病院初診料値上げ、介護利用者負担の拡大、介護保険対象サービス、補助の削減、縮小など高齢者の「将来不安」を増す政策をどんどん推し進めている。

 副総理は、高齢者の老後の将来不安を解消するための財源となる「消費増税」について最初は先送り反対のポーズを示したが、最後は選挙優先の安倍総理の先送り方針に従うという茶番劇を演じた。安倍政権は自ら招いた財源不足を棚に上げ、国民には「若者の将来不安」と「高齢者の将来不安」を対立させて政策の優先位をつけさせようとしている。

 そのことを承知してか、副総理は高齢者の将来不安など全く理解しようとしないのだろうか。しかし「90歳の将来不安」を理解できない、理解しようともしない麻生副総理に個人消費を語る資格はないといってよい。

2016年6月 6日 13:57

消費増税の再延期決定――2度あることは3度ある

(2016年6月6日筆)

 安倍総理は2度目の消費増税先送りを決めた。先送りの条件としてきた「リーマンショック級や大震災級の事態は起きていない」が、「新興国経済の落ち込みなど世界経済の下振れリスクに備える」「消費増税が内需を腰折れさせかねない」からだという。


「選挙に負けたくない」「内需を腰折れさせない」という本音
 だが再延期しても16年度、17年度成長率は0.5%前後

 一方で安倍総理は、労働需給はひっ迫、企業収益は最高、税収は大幅増加し「アベノミクスは成果を上げている」と繰り返した。アベノミクスが成果を上げ経済の回復が順調であるなら消費税10%への引き上げを先送りする理由はない。

 しかし、参院選を前にすべて野党が消費再増税反対を表明、自公が公約通り再増税実施に踏み切れば選挙に負ける。消費増税を提唱して選挙に敗北した菅、野田旧民主党政権の二の舞を演じたくないというのが総理の本音だろう。

 総理は選挙を前に口が裂けても言わないだろうが、日本経済の回復、デフレからの脱却が決して順調ではないという認識を持っているのかもしれない。その認識が「消費増税が内需を腰折れさせかねない」という言葉として出たのだろう。

 実際、日本経済の回復は順調ではない。2016年1~3月期の実質GDP成長率はうるう年効果を除けばゼロ%近辺、円高株安に熊本地震が加わった4~6月期の成長率は再びマイナスに落ち込む懸念がある。昨年10~12月期のマイナス1.1%成長を含めれば3期連続の0%近辺の成長になりかねない。

 消費増税の再延期決定を織り込んで修正された民間調査機関の2016年度、2017年度の実質成長率予測は以下の通りきびしい。

消費増税再延期と実質GDP成長率予測の修正(カッコ内は増税実施の場合)
hyo.JPG
 2016年度は17年4月の2%増税のよる駆け込み需要がなくなるため下方修正、17年度は増税による消費の反動減がなくなるために上方修正された。しかし、2年平均の成長率は0.5%~0.6%でいずれも1%を超えない。 

 最新6月発表のOECD(経済協力開発機構)の予測でも消費増税を再延期しても日本の実質成長率(暦年)は2年平均0.6%に止まる(上表)。「アベノミクスは成果を上げている、リスクは世界経済だ」という総理の強がりとは裏腹に、日本の成長率は1%台のユーロ圏、2%台のアメリカ、5~6%台の新興国に比べとびぬけて低く、「リスクはアベノミクス挫折の日本経済」にありそうだ。


総人口の3分の1、4000万人以上が所得目減りの憂き目
実質可処分所得が回復せず消費不振が続く可能性が濃厚

 日本の低成長の最大の原因は、GDPの6割を占める個人消費が伸びないことだ。実質消費支出はアベノミクス始動前の2012年10~12月期308.5兆円から2016年1~3月期には306.3兆円に減少している。

 総理は有効求人倍率が1.34倍と24年ぶりの高さになった、3年連続のベースアップが実現したと自慢するが、個人消費は伸びるどころか減少しているのだ。その背景には、高齢者(65歳以上約3400万人)、非正規雇用者(1960万人)、重複を除いてもおよそ4000万人、総人口の3分の1にも上る所得増加が見込めない国民(消費者)の存在がある。

 高齢者所帯では医療、介護費の値上げや年金支給の減額などが襲い所得が減少している。そこへアベノミクスの消費者物価上昇(「量的緩和」円安に伴う食品値上げ、消費増税の転嫁値上げ)が加わった。総理が自慢するわりには春闘ベア率は低く、現役世代、特に非正規社員の賃金水準は極めて低く多少の賃上げで追いつかない。正社員でも所得税、社会保険料負担後の実質可処分所得は減少している。実質可処分所得が目減りしていたのでは消費は減少する。

 では消費増税の再延期によって消費は回復するだろうか。増税先送りで予定していた社会保障の充実、例えば無年金、低年金者対策、介護保険料の軽減なども先送り、高齢者の所得回復は見込めない。それどころか社会保険料の再引き上げ、医療費の負担増など税以外の国民負担増が議論される可能性も高まる。

 一方、円高株安への転換で企業収益が低下、来年のべアは危うい。今後は正社員であっても可処分所得の回復は期待できず、労働力人口が減少する中、消費不振が続く可能性が濃厚だ。


低成長のうえ増税先送りで基礎的財政収支の黒字化は絶望的
「2年半後、消費増税が見送られれば財政破綻」の声も

 消費がブレーキとなってOECDの予測どおり1%に満たない実質成長率が続けば日本財政はどうなるのか。「内閣府試算」(16年1月発表)によると、現状の成長率予測に近いベースラインケース(2020年度までの平均実質成長率0.98%、名目成長率1.78%)の場合、2020年度には基礎的財政赤字は12.4兆円、財政収支赤字は23.2兆円も残る計算になる。

 この試算は2017年4月消費税10%を前提にしたものだ。19年10月に消費再増税が実施されなければ予定税収は約5兆円減り、基礎的財政赤字は17.4兆円、国債費を含む財政赤字は28.2兆円(新規国債発行高に相当)に拡大する。国際公約の20年度基礎的収支の黒字化など到底不可能になる。

 OECDは日本の低成長予測を公表する際、日本については、「前例なき高水準の公的債務が主要なリスクのひとつだ」(6月2日ロイター電)とするコメントを付け加えた。ご存知のように日本は税金の支払い能力を表す名目GDPの2倍以上、1000兆円を超す公的債務をすでに抱えている。消費増税先送りによって2年半で約70兆円もの債務が積み上がり、日本財政の持続可能性を危うくするといっているのだ。

 日本でも、6月1日の記者会見で三村明夫日商会頭は「2年半後、再び上げられないようなら日本は財政破綻する」と言い切り、「2年半先はどんな経済情勢であっても再増税を実行するといってもらいたい」と述べた。OECDの財政持続性への危惧を三村会頭は共有していることになる。

 だが安倍総理は「2年半後、3度目の増税先送りは絶対しない」とは言わなかった。それもそのはず、国債を大量に買い上げ暴落を防いできた黒田日銀総裁の任期切れが2018年4月、安倍総理の総裁任期は2018年9月だ。10%消費税実施の2019年10月には、黒田総裁も安倍総裁も任期を終え退任しているかもしれないからだ。後は野となれ山となれ、どうでもよいのか。

 後継者は黒田総裁や安倍総理ほど強引、剛腕であるとは思えない。これまでの経験ではオリンピック景気は開催の2年前にピークを打つという。中国の景気減速、債務崩壊はこれから発生する。長期にわたって拡張を続けてきたアメリカも来年には景気循環の下降局面を迎えるという説がある。消費税引き上げの2019年10月までの間、日本の景気が良いという保証はどこにもない。

 支持率50%を越す強力な安倍政権の下でも消費増税は2度先送りされた。2度あることは3度ある。3度目の消費増税先送りがないとは断言できない。3度目の見送りとなると、いよいよ三村会頭の危惧が現実のものになる。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2016年09月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
最新記事
安倍総理を信頼できない人が増え、内閣支持率が急落
なぜ官僚たちは「巨大な忖度の塊」になるのか
トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗
M&Aに失敗した経営者と成功し続ける経営者の違い
韓国は米軍の北朝鮮への先制攻撃に同意するか
最新コメント
安倍首相の昨日の記者...
Posted by 匿名
人権(笑) それを言わね...
Posted by 言ってる人々の信頼
習主席は言っている事...
Posted by まる
何故海外の投資家は日...
Posted by 杉本 小太郎
両者の相殺をしないと...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】安倍総理を信頼できない人が増え、内閣支持率が急落
from QuonNetコミュニティ
【記事】なぜ官僚たちは「巨大な忖度の塊」になるのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗
from QuonNetコミュニティ
【記事】M&Aに失敗した経営者と成功し続ける経営者の違い
from QuonNetコミュニティ
【記事】韓国は米軍の北朝鮮への先制攻撃に同意するか
from QuonNetコミュニティ