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大西良雄ニュースの背後を読む

2016年5月

2016年5月23日 12:25

円安による「追い風参考記録」業績の終わり

(2016年5月23日筆)

 上場企業の2016年3月期決算の発表が終わった。日本経済を牽引する製造業855社の16年3月期連結経常利益額は18.5兆円(2.2%減益)だった。14年3月期17.9兆円(51.2%増)、15年3月期19.1兆円(10.1%増益)と増益基調を続けてきたが、前期は3期ぶりの減益となった。

 好調だった非製造業を含む全産業1522社(金融除く)ベースでの経常損益も前期は1.3%減益となった。全産業ベースの経常損益は14年3月期18.9%増益、15年3月期5.9%増益だったが、16年3月期は1.5%減益に転じた(以上、日経新聞による過去3年の3月期決算集計値)。

 安倍総理は、「企業は史上最高利益を更新」と繰り返し述べアベノミクスの成果を強調してきた。上場企業の全産業ベースではもはや最高益決算更新とは言えなくなった。続く2017年3月期は全産業ベースで売上高は0.9%の減収、経常損益は2.7%増益を会社側は見込んでいる。だが円高の進行は止まるのか、消費委縮は続くのか、いずれにせよ今期増益を確保するのは容易ではない。


「これまで数年間は追い風参考記録だった」と豊田社長
主要製造業20社の3年間増益額の91%が円安効果

 印象的だったのは豊田章男トヨタ自動車社長の決算発表での発言だった。トヨタ社長は「これまで数年間は追い風参考記録だった。風がやみ等身大の姿が見えてきた」といった。安倍総理の自画自賛の姿勢に比べ、豊田社長の真実を語る謙虚さが際立った発言となった。

 豊田社長が言う「追い風」とは円換算の輸出利益を膨らませた円安のことだ。本ブログではこれを「円安によるタナボタ利益」と読んできたが、円安という追い風が止めば「タナボタ利益」は剥落する。トヨタが世界のライバルを凌駕して販売台数を増やせるか、コスト削減で利益を生み出せるか、「等身大」(実力)の姿が見えてくる。

 トヨタは今期の想定為替レートを対ドル105円(前期実績比15円円高)、対ユーロ120円(同13円円高)に設定、円高による為替メリットの剥落による利益への影響額を▲9350億円とした。その結果、2017年3月期の連結税前利益(連結経常利益に相当)は1.9兆円、前期実績比36.3%もの大幅減益を見込むことになった。円高による影響額は減益額1.08兆円の約87%に相当する。

 逆に言えば「これまで数年間」(豊田社長)、極めて円安メリットへの依存度が高かったことになる。これは何もトヨタ自動車だけではない。

 日経新聞5月23日朝刊によると、自動車や電機など主要製造業20社は過去3年間で営業利益を3兆4000億円積み上げた。このうち為替(対ドル80円から120円台への円安)による押し上げ額は3兆1000億円、積み上げ額の91%を占める。91%が円安メリットによる増益だったが、これが円高転換で剥落、今期は20社で為替は2兆円の減益要因になるという。


高級品中心に中国人の「爆買い」が世界的に急減速
訪日客消費依存の非製造業の増益予想にも赤信号

 円安から円高への転換は、非製造業の利益を押し上げた、中国人を中心とする訪日外国人客によるインバウンド消費にも大きな影響を与えそうだ。

 4月の訪日外国人数は208万人となり前年同月比18%増え単月では過去最高を記録した。訪日客数はまだ減少していない。しかし、4月の全国百貨店の免税品売上高は前年同月比9.3%の減少となった。訪日客による免税店売上高の減少は13年1月以来、3年3カ月ぶりだという。

 百貨店が扱う訪日客向けの高級ブランド品、高級時計、量販店が扱う家電製品など高額品の売れ行きが急減速、訪日中国人客の購入は化粧品など単価の安い商品にシフトしているようだ。

 中国人観光客の「爆買い」に変化の兆しが表れたているのは日本だけではない。5月17日付けロンドン発ロイターによると、中国人観光客の高級品購入額は3月が前年同月比23.6%減、4月が18.5%減と大幅に落ち込んだ。世界の高級品販売の3分の1程度を中国人の購入が占め、その影響が日本の高級品消費市場にも及んだことになる。

 原因の一つは、中国当局が外貨流出と国内消費不振の原因になる海外購入品の抑制に乗り出したことだ。税関検査を厳しくする一方、高級品の関税を大幅に引き上げたことが響いた。日本製品を大量に買い込む並行輸入を手掛ける中国人ブローカーも減少しているという。

 今後、円高が進み人民元が下落すれば人民元の購買力が低下、訪日中国人客数は伸び悩み、訪日消費額が減少することも懸念される。円は人民元だけでなく他のアジア通貨に対しても上昇しており、影響は韓国、台湾など他のアジア訪日客にも及ぶ。そうなると訪日客のインバウンド消費に支えられた非製造業659社の今期増益予想(7.5%増益)も怪しくなりかねない。

 100円割れの円高か、120円の円安回帰か、不透明な面もあるが、実質可処分所得が低下し先行き生活不安から家計消費が委縮する中、非製造業の利益回復も円安による「追い風参考記録」だったことが判明するようなことにならなければよいのだが...。

2016年5月 9日 13:46

トランプ現象の背後にある「中産階級」の貧困化

(2016年5月9日筆)

 奇矯な泡沫候補と言われたドナルド・トランプ氏が予備選挙を勝ち抜き共和党の大統領選挙候補者になることが確実になった。

 ジャーナリズムの多くはイスラム教徒の入国禁止やメキシコの不法移民排斥、TPP(環太平洋経済連強協定)反対、日韓の核武装容認論などトランプ氏の過激な発言を紹介するだけで、トランプ氏がどのような選挙民の支持を得てなぜ補欠選挙に勝ったのか、それが報道からほとんど読み取れない。

 朝日新聞5月8日付けから始まった連載「トランプショック・分断大国」などがそうした小生などのもどかしさを解消してくれることを期待しているが、ネット上では、ハフィントンポスト掲載のブログ『「トランプ現象」で浮き彫りになった米社会の「地殻変動」』(会田弘継氏筆、新潮社「フォーサイト」15年12月29日より転載)が、アメリカ論壇の議論を追いながらトランプ氏支持の社会背景を紹介している。


トランプ支持の主力は「高卒以下、所得は中か中の下」の白人労働者
「中産階級ラディカル」の訴えに呼応するトランプの政策

 この秀逸のサーベイをお借りして「トランプ現象」の背景を紹介したい(以下は会田氏ブログに多く依存、本文のカッコ内は箇所を特定していませんが、記事をそのまま引用しています)。

 まずワシントンポスト紙の政治コラムニスト、ディオン記者の「トランプの突出は共和党における階級闘争の表出だ」と論ずる記事が紹介されている。

 CNNなどの世論調査によれば大卒の共和党支持者ではクルーズ、ルビオ候補(両候補同率で19%、いずれも予備選から撤退)の後塵を拝したが、高卒以下の共和党支持者ではトランプ支持率は46%と跳ね上がり、10%前後のクルーズ、ルビオ候補を大きく上回っている。高卒以下の高い支持率の結果、トランプ氏は共和党支持者の支持トップになっている。これを受けディオン氏は「トランプ氏は共和党を支持する労働者階級のヒーローなのだ」と書いている。

 このディオン記者の分析の下敷きになったと思われるのは、政治専門誌「ナショナル・ジャーナル」の政治記者・ジュディス氏の論文「中産階級ラディカルの復活」で、会田氏はトランプ現象を解明する必読文献として推奨したいという。

 ジュディス記者は、過去半世紀の米政治を分析する上で重要な投票者集団として、時に有権者の4分の1を占める大集団、「中産階級ラディカル」を挙げている。「学歴は高卒以下、所得は中から中の下、工場労働者か、あるいは営業・事務職のホワイトカラー」で、「政治意識は右翼左翼(従来の保守・リベラル)では単純に割り切れない」集団だという。

 トランプ旋風の原動力となっているのがこの中産階級ラディカルだとジュディス記者は見る。彼らは、「政府は金持ち階級と貧困階級だけを相手にし『(下層)中産階級は無視されている』と強い不信感を持つ。大企業は力を持ちすぎていると感じ、政府には福祉政策や年金制度を、さらには物価統制や就労・教育支援までやってほしいと思っている」という。

 トランプ氏は、日本ではあまり報道されていないが、中低所得者の所得減税ないしゼロ税率の導入、年金制度や高齢者向け医療保険制度の維持、道路や空港などインフラ整備の重視など、共和党がこれまで主張してきた「小さな政府」に反する社会政策を掲げている。これらトランプ案は財源問題など整合性に欠け矛盾に満ちてはいるが、中産階級ラディカルの訴えに応える内容になっている。


民主、共和問わず金持ちと大企業に有利な政治制度に強烈な批判
トランプ支持者に強い「少数者や移民の利益重視」政策への不満

 会田ブログではさらに、ワシントンポスト紙のコラムに掲載された公共宗教調査研究所の「不安・ノスタルジア・不信」と題した興味深い世論調査を紹介している。

 それによると、政党支持に関わらずアメリカ市民の65%が、「金持ちと大企業に有利なように経済や政治制度は仕組まれていると感じている」という。さらに調査対象者の86%が「企業の海外移転による雇用の流出こそが米経済の問題の元凶だ」と答え、調査対象者の77%が「企業は収益を社員にきちんと還元していない」、そして79%が「米国の経済システムは金持ちを不当に優遇している」と答えた。

 民主党では、この政府も経済制度も金持ちと大企業に向いているという「意識」が、「社会主義者」を公言するサンダース候補(上院議員)に対する若者たちの支持に直結した。ちなみに米「ビュー調査センター」の2011年世論調査では、米国の30歳未満の若者の49%は「社会主義」を肯定的に見ているという。

 共和党支持の白人労働者階級(プワーホワイト)は金持ち、大企業批判が強い点は民主党のサンダース候補支持者と変わらない。しかし、彼らは「政府は少数派や移民の利益を重視している」、黒人や移民へ予算がばら撒かれ我々には回ってこないという特異な意識を持つ。この意識が、トランプ氏のデマゴーグに乗って移民の排斥や黒人・中南米系貧困層への差別へ向かう。

 さらに彼ら白人労働者は、中国、日本、メキシコの安価な商品の流入によって職場を奪われ賃金を引き下げられたとする意識が濃厚で、批判の矛先は中国、日本、メキシコに向かう結果となる。トランプ候補が自由貿易を助長するTPPを強く拒絶するのは、背後の支持者を思えば当然の姿勢だと言えよう。

 トランプ氏はグローバリズムの中で貧困化する「中産階級ラディカル」の支持を集めて共和党の大統領候補になった。彼が大統領選の本選で民主党のクリントン候補に打ち勝てるかどうか不透明だ。かりにクリントンに負けたとしてもトランプ氏を支持した「中産階級ラディカル」とその意識は強く生き残る。

 最後に、会田氏はニューヨークタイムズ紙のコラムニスト、コーエン記者の「ワイマール・アメリカ」という記事を紹介している。コーエン記者は「戦争に疲弊し、庶民の所得は低迷、政治に絶望し、排外主義が覆い、強力な指導者を待望する今のアメリカは、ヒトラー登場前夜のワイマール共和国に似ていないか」と警鐘を鳴らしたという。

 中産階級の貧困化が、金持ちと大企業への強烈な批判を生む一方、排外主義をもたらし強力な指導者を待望するという危うい構図は、アメリカだけではない。この構図は、大企業と金持ちは円安株高で潤ったが、非正規雇用が増え続け物価が上がり庶民の所得は低迷するというアベノミクスの現実にも当てはまる。こうした日本の現状に思いを致したいところだ。

 なお、日本の中産階級の貧困化については本ブログ「止まらない中間階級の没落、貧困層の拡大」(2014年7月22日筆)で書いています。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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