QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2016年4月

2016年4月18日 11:51

九州の観光資源を大きく傷つけた「熊本地震」

(2016年4月18日筆)

 熊本地震は断層を震源とする内陸型地震として前例のない地震になりそうだ。

 震源は熊本市周辺を中心に北東方向は別府湾、南西方向は有明海へと中部九州全域に広がった。地震は前震、本震、余震と続くが、熊本地震ではどの地震が本震か、気象庁はなお特定しきれていない。震度1以上の地震発生回数は19日までの5日間で500回を超え、まだ終息に至っていない。


自動車、エレクトロニクス関連の生産に影響
深刻なのは観光産業への打撃、良好な景況感の暗雲

 地震の終息が見通せない以上、死傷者、避難住民の数、生活破壊の大きさ、家屋、インフラなどの損壊規模などはまだ特定できない。一方、道路、鉄道、空港などの交通インフラの破壊、工場などの生産設備の損壊が徐々に明らかになり経済活動への悪影響が心配されるようになってきた。

 九州は、トヨタ、日産、ダイハツなど自動車メーカーが組立工場を持ち完成車の10%強を生産している。熊本県ではアイシン精機(ドア、エンジン部品)、ルネサスエレクトロニクス(自動車用半導体)など部品関連の工場もある。部品産業の集積が大きい東北地方で発生した東日本大震災と比べると影響は小さいが、今回もアイシン九州が生産を停止、部品在庫が途絶えトヨタは全組立工場の操業を一時休止せざるを得なくなった。

 熊本県内の生産面では他に、ソニー(画像センサー)、三菱電機(パワー半導体、液晶部品)、パナソニック(電子部品)、富士フイルム(液晶ディスプレー用フイルム)、東京エレクトロン(半導体製造装置)などのエレクトロン二クス関連の生産への影響も懸念される。

 製造業への影響は東日本大震災より小さいと思われるが、それでも景気への影響は避けられない。深刻なのは好調だった九州の観光産業への打撃だろう。

 3月日銀短観の地域別業況判断によれば、「九州・沖縄」の観光産業を含む非製造業の景況感は「良い超過19%」と全国9地域中で最高だった。2012年の115万人だった九州への外国人入国者数は2015年には約2.5倍の283万人と過去最高を記録した。福岡・博多港では外国船籍クルーズ客の寄港数が急増、横浜港を抜いて日本トップになった。

 韓国を筆頭に中国、台湾、香港からの訪日客が急増したことを受け、九州では良好な景況感が続いていたのだが、その最中に熊本地震が襲ったということになる。


「温泉」を入り口に外国人を呼び込む九州観光
地震で破壊されたイメージと観光資源の再生を

 九州経済連合会(九経連)など経済団体は2013年に「観光を九州の基幹産業に」と題する第2期観光戦略を打ち出した。それによると観光産業の規模(旅行消費額)を2012年の2兆円から10年後の2023年には3.5兆円へ拡大させることを目標にしている。

 その観光産業の中核は温泉だった。韓国、台湾、シンガポールなど外国人へのアンケート調査では、九州で思い浮かぶ観光イメージのトップは「温泉」、第2位は「自然」が占めた。熊本城などを想定した歴史・伝統を挙げる外国人もあった。これを受け、源泉数日本一、湧出量日本一という「温泉」を入り口に九州を海外に浸透させるというブランドイメージ戦略を九経連は打ち出した。

 しかし、九州を代表する島原温泉、阿蘇温泉、黒川温泉、湯布院温泉、別府温泉などは別府―島原地溝帯に位置する。熊本地震は多くの活断層、火山を抱える別府―島原地溝帯で頻発しているのだ。熊本地震の発生と同時に、これら温泉地ツアー予約、宿泊予約のキャンセルが続出しているという。

 震災による損傷個所が100カ所以上にものぼる九州新幹線の不通、高速自動車網の寸断も加わり、予約キャンセルは長崎県、鹿児島県にも及んでいる。稼ぎ時のゴールデンウイークを前に九州で大量キャンセルが発生している。

 頼みの訪日外国人客にも異変が起きている。「中国外務省は中国国民に対し5月16日まで熊本県への渡航を禁じ、九州地方へ渡航を慎むよう求める通知を出した」(日経新聞4月17日)。韓国の旅行ツアー業者の中には九州ツアーを中止するものも出ている。

 熊本地震の発生に不安を募らせた、地震や火山活動に不慣れな外国人が九州最大の観光資源である「温泉」を敬遠するという可能性も少なくない。熊本地震が早く終息することを願うばかりだが、まず政府は、東日本大震災時にあったような不正確な情報、悪しき風評が海外に発信されないように努力しなければならない。

 そのうえで被災地住民の生活再建のみならず、地震で破壊された交通インフラ、自然環境、温泉施設など観光資源の修復を急がねばならない。地震で見る影もなく損壊した九州最大の歴史遺産・熊本城の再建も急がねばなるまい。

 「観光拡大戦略」は今やアベノミクス最大の成長戦略となっている。観光を基幹産業にしようと意気込む九州経済界の期待に応え、熊本地震で大きく傷ついた九州の観光資源再生に政府は知恵を絞らねばなるまい。2016年度補正予算も検討されているようだが、観光資源の再生という視点も必要になる。

2016年4月 4日 12:24

将来不安漂い、個人消費が停滞する5つの理由

(2016年4月4日筆)

 内閣府は3月月例報告で景気判断を2月の「このところ一部に弱さが見られる」から「このところ弱さが見られる」へ引き下げた。「一部に弱さ」を削除、景気の弱さが全般に広がりつつあるという判断なのだろう。


個人消費と企業収益に弱さ、景気判断引き下げ
実質個人消費はアベノミクス前より4兆円減少

 3月月例報告が指摘した「景気の弱さ」は、個人消費と企業収益に顕著だ。報告によると個人消費は2月の「総じてみれば底堅い」から「消費マインドに足踏みが見られるなか、おおむね横ばい」に引き下げられた。企業収益は2月の「改善している」から「非製造業を中心に改善傾向にある」に変わった。製造業の収益悪化を考慮したためだろう。

 2016年度予算成立後の記者会見で安倍総理は「雇用・所得環境の改善は続いており日本経済の回復傾向に変わりはない」と強弁したが、3月月例報告は企業収益の改善を起点とした「所得から支出への好循環」(黒田日銀総裁)に黄信号が灯ったといっているのだ。

 気掛かりはGDP(国内総生産)の6割近くを占める個人消費の弱さだ。2015年10~12月期の民間消費支出(個人消費)は年率換算(実質)で前年同期比▲3.4%となりGDP落ち込み(年率▲1.1%)の主因となった。

 2015年10~12月期の実質民間消費支出は304.4兆円だったが、これはアベノミクス始動前の12年10~12月期より約4兆円、消費税率3%引き上げによる駆け込み需要発生前の13年10-12月期より10.2兆円も低い水準だ。

 最新の16年2月家計調査によると、物価変動分を差し引いた実質消費支出(うるう年の影響を除く)は▲1.5%となり15年9月以来6カ月連続の減少となった。14年4月の消費税引き上げから16年2月まですでに22カ月も経過したにもかかわらず、実質消費支出は減少し続けている。消費水準の回復度合いは、前回1997年の消費税2%引き上げ時よりも鈍く、かつ遅い。


消費増税後22カ月経過したのに、なぜ個人消費は弱いのか
実質賃金、実質可処分所得、消費性向の低下が足を引っ張る

 消費増税後22カ月も経過しているのに、なぜ個人消費は弱いのか。その原因は多岐にわたり、消費不振の原因は複合的と言えるかもしれない。

 第1の原因は、物価の上昇に賃金の上昇が追い付かず、実質賃金が低下していることだ。「毎月勤労統計」によると2015年の実質賃金は0.9%のマイナスで2012年以来、4年連続の低下となった。実質賃金に雇用者数を掛けた実質総雇用者所得も改善が鈍い。実質賃金、実質総雇用者所得が回復しなければ、数量ベースの消費は回復しない。

 第2は、実質可処分所得の低下だ。可処分所得は総所得から税金や社会保険料などの負担を除いた家計が処分可能な所得だ。消費者物価の上昇に税金や社会保険料の負担増が重なり実質可処分所得(2人以上の勤労者所帯、月額、家計調査)は安倍政権前の12年2月40.5万円から16年2月39.4万円へ1万円以上低下している。

 第3は、所得に占める消費支出の割合を表す消費性向の低下だ。物価が上昇、税金や社会保険料が増加した結果、実質可処分所得が減少、家計は消費性向を引き下げざるを得なくなったのだ。消費性向が低下しているのだから、個人消費が増えるはずがない。

 周知のとおり、年金、医療、介護などの社会保険料は順次引き上げられ、ボデーブローのように家計に響いている。安倍総理はアベノミクスで税収が増加したと自慢しているが、その税収増加は家計部門の負担の増加に直結、消費に悪影響を及ぼしている。

 ちなみに2012年度実績と2016年度予算を比較した国税ベースの税収増加額13.67兆円のうち約76%、10.87兆円は消費税、所得税の増加(消費税6.89兆円増、所得税3.98兆円増)による。消費税、所得税は家計部門に課せられ消費の重荷になった。総理ご自慢の所得税収の増加も賃上げによる消費喚起効果を大きく減殺している。


消費喚起対策のやり過ぎで消費の先食いが剥落
低金利政策による高齢者の利息収入減少も影響

 第4の理由は、耐久消費財や住宅需要の先食いである。リーマンショック後、家電エコポイント、エコカー補助金など消費刺激策が相次いだ。地上デジタル放送への移行や消費税率引き上げに伴う駆け込み需要なども耐久財、半耐久財の需要を先食いした。住宅取得の優遇策、住宅ローン金利の引き下げによる住宅需要の先食いもあった。総需要が限定される人口減少・高齢化経済の下では、需要が先食いされればあとは消費減退となる。

 第5は、長期にわたる低金利政策の弊害である。日銀は貸出金利引き下げによって投資や融資を増やすというが、預金金利の低下によって利子所得が減少、個人消費を減少させる影響の方が大きい。資金循環統計によると2015年12月末の銀行等の預金残高は1350兆円、貸出残高は725兆円だ。預金残高のほうが貸出残高より断然多い。低金利政策は預金残高が大幅に超過する家計部門、とりわけ高齢者所帯の利子所得を奪ってきた。

 日銀は、ホームページの「日本銀行を知る・楽しむ」欄に「5分で読めるマイナス金利」という記事を掲載している。この中で、「それ(マイナス金利)で消費が悪くなったりしない?」という設問に対し「100万円預けて1年間の利息が200円だったのが10円になったということです。消費を悪くするほどの規模ではありませんよね」と無神経に答えている。

 しかし65歳以上の高齢者は3389万人(15年9月現在)、総人口の26.7%に及ぶ。その高齢者の多くは、年金収入と利息収入に依存して生活している。年金の引き上げ率はマクロ経済スライド制の徹底によって物価上昇率を下回る。物価・賃金が上昇すれば自動的に実質年金収入は減少する構造になっている。

 それを補うのが溜め込んだできた預金からの利息収入だったのだが、日銀の異次元緩和以降、その利息収入の当てが大きく外れた。マイナス金利の導入で各種手数料の徴収という形で預金が目減りする不安も出てきたのだ。マイナス金利は、預金のウエートが極めて高い日本の高齢者所帯に大きな将来不安を与え、消費委縮につながるリスクがある。

 実際、60歳以上の所帯では可処分所得も消費支出も減少傾向にある。とりわけ低所得高齢者の消費支出減少が著しい。高齢者の可処分所得の減少は、親への仕送りの増加という形で現役世代にもその影響は及ぶことを忘れてはならない。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2016年09月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗
M&Aに失敗した経営者と成功し続ける経営者の違い
韓国は米軍の北朝鮮への先制攻撃に同意するか
トランプ暴走止めた司法と議会、米国の「三権分立」健在なり
若年層減少がもたらした過去最高の就職内定率
最新コメント
人権(笑) それを言わね...
Posted by 言ってる人々の信頼
習主席は言っている事...
Posted by まる
何故海外の投資家は日...
Posted by 杉本 小太郎
両者の相殺をしないと...
Posted by Anonymous
大西良雄先生、 時事ネ...
Posted by サカグチ ブンケン
最新トラックバック
【記事】トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗
from QuonNetコミュニティ
【記事】M&Aに失敗した経営者と成功し続ける経営者の違い
from QuonNetコミュニティ
【記事】韓国は米軍の北朝鮮への先制攻撃に同意するか
from QuonNetコミュニティ
【記事】トランプ暴走止めた司法と議会、米国の「三権分立」健在なり
from QuonNetコミュニティ
【記事】若年層減少がもたらした過去最高の就職内定率
from QuonNetコミュニティ