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大西良雄ニュースの背後を読む

2016年2月 1日 11:37

銀行収益を揺るがす日銀のマイナス金利導入

(2016年2月1日筆)

 日銀は1月29日、突如、マイナス金利を導入した。黒田総裁は1週間前の参議員決算委員会で「現時点ではマイナス金利を具体的に考えていない」と発言していた。この発言を真に受けていた市場ではサプライズが起こり、当日の株式、債券、為替市場は乱高下した。市場はマイナス金利の意味を咀嚼しかねていた。

 中でも当日の銀行株の動きは異様だった。マイナス金利導入の報を受けていったんは上昇したが、その後急落した。引けでは幾分戻したが、銀行株は業種別で唯一、マイナスの株価で終わった。マイナス金利導入が銀行収益にどのような影響を与えるか、市場は読み切れなかったようだ。月曜日も銀行株は続落した。


日銀が銀行から0.1%の当座預金手数料を取る
当初はマイナス金利適用の当座預金はわずかだが

 今回のマイナス金利導入は、日銀にある民間銀行の当座預金残高に適用される。量的緩和政策による大規模な国債買い入れで銀行の国債売却資金は当座預金に積み上げられ、その残高は1月末現在256兆円もある。その当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を課すというものだ。

 これまで当座預金(正しくは法定準備を上回る超過準備預金)に対して0.1%のプラス金利が付いており銀行の貴重な収益源になっていた。しかし、日銀は今後、当座預金から0.1%の金利手数料を銀行から頂戴するというのだ。

 日銀に預金すれば金利収入が得られていたのに、逆に金利手数料を取られるのだから、それだけでも銀行収益は減少する。銀行は金利手数料を取られるぐらいなら当座預金は取り崩して貸出などに回すことが予想される。貸出が増えれば景気が良くなり物価も上がる...。つまり銀行収益への影響を経由して日銀は政策目的である2%物価目標を達成しようというのだ。

 いみじくも黒田日銀総裁は「短期的に金融機関の収益に影響を与えるのは避けられない。緩和を通じて物価安定目標が達成できるようにする。それで金融機関の収益も改善する」と記者会見で発言した。銀行収益への影響をテコに自らの2%物価目標を実現するといったに等しい。

 だが日銀はマイナス導入に当たって、当面、銀行収益への過度な負担を避ける工夫を施した。当座預金残高のうち、-0.1%を適用する「政策金利残高」、0%を適用する「マクロ加算残高」、+0.1%のまま据え置く「基礎残高」の3階層に分けて金利設定するという方式の導入が、それだ。

 詳細は省くが、2月16日スタートのマイナス金利導入の時にマイナス金利が適用される当座預金(「政策金利残高」)はほんの一部、昨年末までに積み上げられた当座預金残高の大部分は「基礎残高」にカウントされ+0.1%のまま据え置かれる。当初はマイナス金利負担に伴う銀行収益への影響は極めて小さい。


長短金利の急低下は銀行収益に大きな影響を与える
預貸利ザヤの縮小を通じて運用姿勢の変更を強いる?

 銀行収益に影響が出なければ銀行側に融資を増やすなどの行動変化は起こらない。だが、マイナス金利そのものの影響は当面小さいとしても、日銀のマイナス金利導入に伴って長短金利が急低下した。この長短金利の急低下という波及経路が銀行収益に大きな影響を与え銀行行動を変える可能性がある。

 例えば預貸利ザヤの縮小である。マイナス金利導入といっても一般の預金金利がマイナスになることはない。預金すれば手数料を取られることがわかれば取り付け騒ぎすら起こりかねないからだ。一方、長短金利の低下に伴って企業向け貸出、個人向け住宅ローンなど貸出金利は低下する。預金金利が0%台に止まり住宅ローンなどの貸出金利が急低下すれば銀行の預貸利ザヤが縮小、銀行収益は悪化する。特に住宅ローン比率の高い地方銀行や中小金融機関は、収益悪化に見舞われよう。

 預貸利ザヤから生じる資金収益は銀行収益の柱だ。その収益の柱が揺らぐのだから銀行行動に変化が起きても不思議ではない。

 変化の方向は二つある。一つは、収益が悪化する預貸利ザヤ事業を縮小するという行動だ。利ザヤを稼げない貸出を圧縮する一方、無駄な預金集めも自粛するという事態も予想される。後で述べるが、2月以降、新規に日銀に預け増やした当座預金についてはマイナス金利が適用される可能性があり、銀行が無駄な預金集めを自粛するもう一つの動機になる。

 預貸利ザヤ事業の縮小は、日銀が期待するマイナス金利導入による銀行融資拡大に反することになる。


自分で自分の首を絞める銀行による国債への運用拡大
海外への運用拡大で円安期待だがアベノミクスと矛盾

 もう一つは、預貸利ザヤ事業のほかに収益機会を増やすという行動だ。国債や海外債など債券への資金運用の拡大がそれだ。ただ銀行による国債への運用拡大は国債価格の値上がり(長期金利のさらなる低下、貸出金利の低下)につながり、自分で自分の首を締める結果になる。

 貸出金利低下を覚悟して国債運用を拡大したとしても、銀行は保有国債を量的緩和政策に従って日銀に売り渡すことを拒否するかもしれない。売り渡して当座預金に積み上げればマイナス金利を課せられるからだ。当座預金に積むより低くなった国債利回りでも国債保有を続ける、日銀には売らない、という行動に出ることだって起きうる。そうなると日銀は買える国債が減少、量的緩和政策が行き詰まるリスクを抱え込むことになり、これも日銀の意図に反する。

 唯一成功しそうなのが、海外債券(あるいは海外融資)への運用拡大だ。ドル建て債券の利回りはプラスだし海外企業への貸出金利も日本国内よりは高い。邦銀の海外への運用拡大は円売りドル買いと同義語だ。その結果、円安ドル高が進行する。円安が進めば食品、エネルギーなどの輸入物価が下げ止まり(あるいは上がり)、2%物価目標に貢献する...。日銀もひそかに歓迎するだろう。

 ただ銀行資金の、収益を求めての海外流出は、法人税率を引き下げて国内投資を拡大させようとしているアベノミクスの成長戦略に明らかに反する。

 日銀のマイナス金利導入は銀行収益を媒介に銀行の運用姿勢の変更を強く求めるものだが、ことほど左様にマイナス面が気になる矛盾に満ちた政策なのだ。

 なお、マイナス金利が適用される当座預金だが、2月以降、拡大することが予想される。+0.1%据え置きの「基礎残高」は昨年末水準で固定されており、2月以降、日銀の国債買い上げによって増加する当座預金分には-0.1%の金利が適用されるからだ。

 年間80兆円国債を買い上げる日銀の量的緩和政策は今後も継続されるため当座預金の増加が続くことが予想されるが、その増加分にはマイナス金利が適用される。日銀は将来、マイナス金利幅を拡大することも否定していない。従って時間が経過するにつれマイナス金利政策の影響が強まり、銀行収益への圧力が増す。

 銀行収益への影響がなければ政策効果は出ないというのがマイナス金利政策の本質だ。そうだとすれば、銀行収益への圧力の増加は日銀の目論み通りということになる。しかし、低成長下、海外にしか運用先がない状態なのに、マイナス金利を武器に国内融資を拡大せよと迫る鬼のような日銀である。銀行経営者はたまったものではない。

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QuonNetコミュニティ | 2016年2月 1日 11:40
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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