QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2016年2月

2016年2月22日 12:10

考えさせられる老人ホーム入居者殺害事件

(2016年2月22日筆)

 川崎市の有料老人ホームで男女3人の入居者をベランダから投げ落とし殺害したとして元職員が逮捕された。元職員はそのように自供しているという。

 介護職員が老人ホームという密室の中で入居者を叩いたり縛ったり、暴言を浴びせたりする虐待事件が増えているという報道がある中で起きた殺人事件だ。殺人事件にショックを受け将来不安を感じた高齢者は少なくないのではないか。

 小生も将来不安を感じた高齢者の一人だが、小生が受けた将来不安は2種類ある。ひとつは介護職員から介護を受ける高齢者としての将来不安だ。

 明日は我が身、自分も老人ホームで職員に虐待されるのではないか、暴言を浴びせられるのではないか、もしかしたら殺されるのではないか。そんな虐待を受けないで済むような高品質な老人ホームを選ぶことができるか、そのような高品質な老人ホームに入居するとすればいくら掛かるのか、入居に必要な資金はあるのか。そんな不安が、次から次へと湧いてくる。


介護職員による虐待や殺人は例外中の例外
低い賃金、過酷な労働に耐え献身的な介護

 しかし冷静になって考えると、介護職員による虐待や殺人は例外中の例外、職員のきわめて属人的な問題かもしれない。

 介護老人福祉施設、訪問介護、通所介護、居宅介護などの介護事業所数は約3万3000事業所にのぼる。そこで働く介護職員数は約180万人に達する(いずれも平成26年度)。これに対して報告された虐待件数は年300件、殺人事件は今回の1件だけだ。氷山の一角ではなく例外中の例外と言える件数だ。

 それより低い賃金、過酷な労働の中で高齢者介護を懸命にやっておられる介護職員の皆さんには頭が下がる思いだ。低い賃金の実態は下表のとおりだ。

全産業平均より月10万円低いヘルパー、施設介護員の給与(単位千円)
hyo1.JPG
(注)一般労働者の「きまって支給する現金給与額」。平成27年賃金構造基本統計調査

 平成26年度「介護労働実態調査」によれば、介護労働者の「労働条件等への不満」の第1位は「人手が足りない」(複数回答48.3%)、第2位「仕事の内容のわりに賃金が低い」(同42.3%)だ。「従業員の不足感」を訴える事業所も59.3%を占める。

 「人手が足りない」ためだろう。「有給休暇が取りにくい」、「身体的負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)」「精神的にきつい」、「休憩がとりにくい」などの不満も上位を占めている。介護職員の労働の過酷さは想像以上だ。


意外に低い介護職員の離職率、仕事に高い使命感
介護される側の「わがまま」「暴言・暴行」も問題

 意外だったのは介護職員の離職率の低さだ。介護職員の平成25年度離職率は16.6%で全産業平均の15.6%をわずかに上回る程度だ。彼らは低賃金と過酷労働に耐えて懸命に高齢者介護を支えてくれているのだ。

 介護労働実態調査では「現在の仕事を選んだ理由」についても聞いているが、「働きがいのある仕事だと思った」という答えが52.6%(複数回答)とトップ、「人や社会の役に立ちたいから」(32.6%)、「お年寄りが好きだから」(25.6%)という答えも上位を占め、介護職員の無私の姿勢には頭が下がる。

 だが政府は介護職員の善意に甘えてはならない。問題の根幹にある「介護職員の不足」「低い賃金、過酷な労働」の問題に早急に対処せねばなるまい。

 もう一つの将来不安は、近い将来、介護される側に立つかもしれない自分(高齢者)の側にある。入居者である自分が、わがままを言い暴言を吐き、夜間にナースコールを繰り返し、時に暴力を振るい、介護職員の皆さんのストレスの原因になりはしまいかという不安だ。

 自分が、わがままを言わない、職員の介護に素直に感謝できる介護サービス受容者になれるか、そのことが心配だ。しかし、そうしたわがまま行為、暴言・暴行行為が認知症の結果だとすれば自分自身ではどうしようもない。その場合は、職員の皆さんに「よろしく介護ください」とお願いするしかないのだが...。

2016年2月15日 09:23

円高株安に転じGPIFなど年金損失が膨らむ不安

(2016年2月15日筆)

 日銀のマイナス金利導入発表は、投機家たちのリスク回避姿勢をいっそうあおる結果となり、急激な株安円高を招いた。円高を阻止し株高に導くという日銀の目論見とはまったく逆の結果となった。


「株安円高」で投資信託は1カ月で4.3兆円の運用損失
 リスク資産運用の拡大が裏目に出たGPIFなど年金基金

 明日2月16日から日銀は当座預金にマイナス金利を適用する。その結果、円高株安は収まるのか、さらに円高株安が進むのか、注視しなければならない。円高株安が現状のまま推移すれば、株式や債券など各種の金融資産の大きな運用損失が見込まれるからだ。

 投資信託協会によれば、株安で国内株、円高で外国株・債券が目減りし1月の投資信託の運用損失は4.3兆円強に上ったという。1カ月の運用損失は12月末の運用資産残高97.7兆円強の4.4%になった。

 心配なのは、われわれ国民の年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用損失だ。一昨年来、GPIFは資産運用の見直しを実行、リスク資産を買い増し、内外株式及び外国債券への運用比率は15年9月末には56.6%(見直し前の14年9月末47.4%)に拡大している。

 このリスク資産の買い増しが裏目に出た。GPIFは昨年7~9月期に7.9兆円の運用損失を計上した。この間、市場は第一次チャイナショックに見舞われ日経平均株価は8月ピーク比で17.9%下落した。対ドル円が3.8%の円高となったためだ。運用収益率は、株安で国内株式は▲12.78%、株安と円高で外国株式は▲10.97%、外国債券は▲1.26%のマイナスとなった。

 10~12月期は株価が戻し為替も円安に戻したのでGPIFの運用収益は多少回復しただろう。しかし16年初からの株安円高は急激だ。昨年末比で日経平均は21.4%下落、円は6.5%上昇した。株価下落率も円上昇率も7~9月期を上回る。新たに円高による外国株式、外国債券の目減り拡大が加わりGPIFの運用損失は7~9月期を大きく上回る可能性がある。


現状の株価・為替続けばGPIF運用損失10兆円以上?
マイナス金利への「国民の誤解、疑念、不安」に答えよ

 現状の株価・為替水準が続けば、運用損失は10兆円以上になるのではないか。年金支払いの減資になる3月末のGPIF年金資産はアベノミクス相場始動前の130兆円前後まで減少するのではないか(専門家の皆さん、1~3月期運用損失の推計値を出してください)。10~12月期の運用収益回復に気をよくして、GPIFが新運用基準の国内株式25%、外国株式25%、外国債券15%(計75%)までリスク資産の運用比率が高めていないことを祈るのみだ。

 国家公務員、地方公務員、私学などの共済年金(資産総額約51兆円)もGPIFの新運用基準に倣ってリスク資産への運用比率を拡大した。われわれ民間だけでなく公務員の年金資産も株安円高による目減りに直面しているはずだ。

 多くの国民がマイナス金利の導入で預金金利がマイナスになるのではないか、銀行の各種手数料が引き上げられるのではないかと怯えている。さらに年金資産の目減りが明らかになれば、年金保険料が引き上げられるのではないか、年金給付の削減につながるのではないかと心配している。

 マイナス金利の実施が円高を止め株高に導くのか、本当に賃上げにつながるのか、年金給付引き下げを止めることができるのか、多くの国民は疑っている。こうした国民の素朴な疑問が誤解に基づくものなら、安倍総理と黒田総裁はそれが誤解である理由を国民に丁寧に説明する必要がある。

 難しい金融経済のことはアベノミクスの「理論家」に任せろと言い張って、国民の誤解、疑念、不安を解消できなければ、個人消費は委縮するばかりだ。

2016年2月 8日 13:57

マイナス金利導入で高齢家計も委縮、消費が危ない

(2016年2月8日筆)

 今回のマイナス金利導入は、われわれ老人所帯(小生70歳、家内67歳)の金融行動にいったいどういう影響を与えるのか、それを無視しては政策の成否を語ることはできないと思う。


60歳以上の貯蓄額は70%近く、貯蓄性資産が8割
マイナス預金金利を否定しなかった黒田日銀総裁

 昨年9月段階で、65歳以上の高齢人口は3384万人、総人口に占める割合は26.7%に達した。4人に1人以上が高齢者だ。

 総務省の家計調査報告によれば60歳代以上の貯蓄額は二人以上所帯の総貯蓄額の68.7%を占める。日銀の「家計の金融行動に関する世論調査」によれば60歳代の平均貯蓄額は1765万円だ。そのうち預貯金は54.1%、保険、個人年金が25.7%で貯蓄性の資産が80%近くを占める。株式、投信などエクイティに絡む金融資産は13.9%過ぎない(いずれも2014年)。

 こうした膨大な高齢所帯の貯蓄性資金がマイナス金利の導入でどう動くか、注意が必要だ。彼らが資産防衛に動けば預金流出が起こり銀行の金融仲介機能は低下、老人消費は減退し景気が悪化、インフレ期待はさらに低下するだろう。

 老人所帯には、黒田日銀のマイナス金利導入によって老後生活の命綱である預金がどうなるか、預金金利がマイナスになるのか、それが最大の関心事だ。この点について黒田日銀総裁は、2月4日の衆院予算委員会で民主党の前原誠司議員の質問に次のように答えた。

 「(個人の預金金利が)マイナスになる可能性は当然、否定しない。ただ(マイナス金利を導入している欧州同様)、わが国でも個人の預金金利がマイナスになる可能性はないだろうと思う」(朝日新聞2月4日朝刊、カッコ内は筆者)

 総裁は、理論的には個人の預金金利がマイナスになる可能性を否定しなかった。その一方で「マイナスになる可能性はないだろうと思う」と「ないだろうと思う」を強調した。自由金利のもと、個人の預金金利を決めるのは民間銀行であって日銀ではない。総裁は民間銀行がマイナスにしないと期待したに過ぎない。


このまま長期金利が低下するとすべての預金金利が0%に
個人預金にも実質的マイナス金利? 資産防衛に走る預金者

 その一方、総裁は、銀行の日銀当座預金のマイナス金利幅拡大の可能性を口にしている。マイナス金利導入によって普通預金の金利は0.001%に下がった。100万円預けて年間1円(税込み)の金利収入だ。マイナス金利幅の拡大が予想されれば10年物国債の利回り(長期金利)がさらに低下、定期預金の金利も普通預金並みになるに違いない。1億円定期で年間利息1000円(税込み)だ。

 このまま長短金利が低下すればすべての預金金利が0%になる時が来よう。個人の預金金利がマイナス(預金すれば金利を徴収される)になれば預金の取り付け騒ぎが起きかねない。銀行は個人預金金利のマイナス化には慎重になるだろう。

 しかし、個人預金口座から口座管理料を取る方法もある。三菱東京UFJ銀行は大企業などの普通預金に口座手数料を導入することを検討と報じられている(日経2月3日朝刊)。金利をマイナスにしなくても個人預金に口座手数料を課せば、実質的マイナス金利となり、銀行は預貸利ザヤの低下による収益減少を補うことができる。それを日銀も金融庁も止めることはできないだろう。

 黒田日銀お得意の「期待の経済学(経済主体は予想に従って行動すると見る)」を使えば、「手数料徴収であれ、マイナス金利であれ、銀行に預金すれば損すると予想すれば、高齢預金者はどういう行動をとるだろうか」。

 前述の日銀調査によると、金融資産(貯蓄)保有動機の67.5%は「老後の生活資金」、64.0%が「病気や不時に災害への備え」(複数回答)だ。元本目減りを嫌う「安全性」、すぐに引き出せるという「流動性」を重んじる保有動機が70.8%に達している「収益性」を重んじる人は16.7%に過ぎない。

 こうした極めて保守的な貯蓄動機は老齢所帯でも変わるまい。これを前提にすれば高齢預金者が「老後資金の目減り」への防衛手段をとることが予想される。

 まず、預金を取り崩して配当利回りの高い株式を買う、あるいは邦銀より金利や利回りが高い外貨建て資産に振り向けるという行動が予想される。こうなれば株高円安となり黒田日銀の思うつぼだが、株式には値下がりリスク、外貨建て資産には為替手数料に加え円高リスクが付きまとう。普通の高齢預金者なら、失敗すれば老後生活が破綻、「下流老人」になるリスクを抱え込むのを嫌うはずだ。


現金を下ろし「タンス預金」すれば信用創造が収縮
損覚悟で預け続けるなら高齢者中心に消費切り詰め

 預金者として思い付く防衛手段の第一は、預金を下ろして現金のまま保有する、いわゆるタンス預金の実行だ(高齢預金者がオレオレ詐欺に騙されタンス預金を減らさなければよいのだが...)。マイナス金利導入で先駆した欧州でのアンケート調査でも「タンス預金」を希望する預金者が一番多かったという。

 タンス預金が今後増えるかどうか、よくわからない。仮に、預金者がマイナス金利幅拡大に反応してタンス預金に走れば銀行預金が流出、預金が原資の「信用創造」が収縮することになる。口座管理料の徴収で企業の預金が銀行外に流出しても同じだ。信用創造が収縮すれば、経済も収縮する。

 高齢預金者で最も多いのは、私もそうだが、投資にもタンス預金にも踏み切れず損を覚悟で預貯金を続ける、身を縮めて嵐(マイナス金利の危機)が過ぎるのを待つという行動パターンだろう。

 この場合、高齢預金者の消費は減退することになる。マイナス金利を導入したスイスや北欧両国(デンマーク、スウェーデン)では「マイナス金利に向け政策金利が急低下する過程で家計の貯蓄率が急上昇した」(日経2月8日「エコノフォーカス」)という。

 40歳の中高年層は65歳以上の老後生活に備える。65歳の高齢者は80歳の老後を考え、75歳の高齢者は90歳の老後に備える。高齢者も「老後の老後」に備えるのだ。景気悪化、低成長を暗示するマイナス金利導入を見て老後不安はさらに増す。それに備えるための貯蓄がマイナス金利の導入で目減りすると予想されれば、預金者が消費支出を切り詰める行動に出ても不思議はない。

 消費増税後、物価上昇あるいは期待インフレ率の上昇が見られたが、物価上昇を上回る賃上げは実現されず、物価上昇による前倒し消費は起こらなかった。しかし預貯金は拡大した。消費者、預金者は日銀の想定に反する行動に出る可能性がある。マイナス金利導入で貯蓄が増え消費が縮み、景気が良くならず物価も上がらないという事態もあり得るのだ。

2016年2月 1日 11:37

銀行収益を揺るがす日銀のマイナス金利導入

(2016年2月1日筆)

 日銀は1月29日、突如、マイナス金利を導入した。黒田総裁は1週間前の参議員決算委員会で「現時点ではマイナス金利を具体的に考えていない」と発言していた。この発言を真に受けていた市場ではサプライズが起こり、当日の株式、債券、為替市場は乱高下した。市場はマイナス金利の意味を咀嚼しかねていた。

 中でも当日の銀行株の動きは異様だった。マイナス金利導入の報を受けていったんは上昇したが、その後急落した。引けでは幾分戻したが、銀行株は業種別で唯一、マイナスの株価で終わった。マイナス金利導入が銀行収益にどのような影響を与えるか、市場は読み切れなかったようだ。月曜日も銀行株は続落した。


日銀が銀行から0.1%の当座預金手数料を取る
当初はマイナス金利適用の当座預金はわずかだが

 今回のマイナス金利導入は、日銀にある民間銀行の当座預金残高に適用される。量的緩和政策による大規模な国債買い入れで銀行の国債売却資金は当座預金に積み上げられ、その残高は1月末現在256兆円もある。その当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を課すというものだ。

 これまで当座預金(正しくは法定準備を上回る超過準備預金)に対して0.1%のプラス金利が付いており銀行の貴重な収益源になっていた。しかし、日銀は今後、当座預金から0.1%の金利手数料を銀行から頂戴するというのだ。

 日銀に預金すれば金利収入が得られていたのに、逆に金利手数料を取られるのだから、それだけでも銀行収益は減少する。銀行は金利手数料を取られるぐらいなら当座預金は取り崩して貸出などに回すことが予想される。貸出が増えれば景気が良くなり物価も上がる...。つまり銀行収益への影響を経由して日銀は政策目的である2%物価目標を達成しようというのだ。

 いみじくも黒田日銀総裁は「短期的に金融機関の収益に影響を与えるのは避けられない。緩和を通じて物価安定目標が達成できるようにする。それで金融機関の収益も改善する」と記者会見で発言した。銀行収益への影響をテコに自らの2%物価目標を実現するといったに等しい。

 だが日銀はマイナス導入に当たって、当面、銀行収益への過度な負担を避ける工夫を施した。当座預金残高のうち、-0.1%を適用する「政策金利残高」、0%を適用する「マクロ加算残高」、+0.1%のまま据え置く「基礎残高」の3階層に分けて金利設定するという方式の導入が、それだ。

 詳細は省くが、2月16日スタートのマイナス金利導入の時にマイナス金利が適用される当座預金(「政策金利残高」)はほんの一部、昨年末までに積み上げられた当座預金残高の大部分は「基礎残高」にカウントされ+0.1%のまま据え置かれる。当初はマイナス金利負担に伴う銀行収益への影響は極めて小さい。


長短金利の急低下は銀行収益に大きな影響を与える
預貸利ザヤの縮小を通じて運用姿勢の変更を強いる?

 銀行収益に影響が出なければ銀行側に融資を増やすなどの行動変化は起こらない。だが、マイナス金利そのものの影響は当面小さいとしても、日銀のマイナス金利導入に伴って長短金利が急低下した。この長短金利の急低下という波及経路が銀行収益に大きな影響を与え銀行行動を変える可能性がある。

 例えば預貸利ザヤの縮小である。マイナス金利導入といっても一般の預金金利がマイナスになることはない。預金すれば手数料を取られることがわかれば取り付け騒ぎすら起こりかねないからだ。一方、長短金利の低下に伴って企業向け貸出、個人向け住宅ローンなど貸出金利は低下する。預金金利が0%台に止まり住宅ローンなどの貸出金利が急低下すれば銀行の預貸利ザヤが縮小、銀行収益は悪化する。特に住宅ローン比率の高い地方銀行や中小金融機関は、収益悪化に見舞われよう。

 預貸利ザヤから生じる資金収益は銀行収益の柱だ。その収益の柱が揺らぐのだから銀行行動に変化が起きても不思議ではない。

 変化の方向は二つある。一つは、収益が悪化する預貸利ザヤ事業を縮小するという行動だ。利ザヤを稼げない貸出を圧縮する一方、無駄な預金集めも自粛するという事態も予想される。後で述べるが、2月以降、新規に日銀に預け増やした当座預金についてはマイナス金利が適用される可能性があり、銀行が無駄な預金集めを自粛するもう一つの動機になる。

 預貸利ザヤ事業の縮小は、日銀が期待するマイナス金利導入による銀行融資拡大に反することになる。


自分で自分の首を絞める銀行による国債への運用拡大
海外への運用拡大で円安期待だがアベノミクスと矛盾

 もう一つは、預貸利ザヤ事業のほかに収益機会を増やすという行動だ。国債や海外債など債券への資金運用の拡大がそれだ。ただ銀行による国債への運用拡大は国債価格の値上がり(長期金利のさらなる低下、貸出金利の低下)につながり、自分で自分の首を締める結果になる。

 貸出金利低下を覚悟して国債運用を拡大したとしても、銀行は保有国債を量的緩和政策に従って日銀に売り渡すことを拒否するかもしれない。売り渡して当座預金に積み上げればマイナス金利を課せられるからだ。当座預金に積むより低くなった国債利回りでも国債保有を続ける、日銀には売らない、という行動に出ることだって起きうる。そうなると日銀は買える国債が減少、量的緩和政策が行き詰まるリスクを抱え込むことになり、これも日銀の意図に反する。

 唯一成功しそうなのが、海外債券(あるいは海外融資)への運用拡大だ。ドル建て債券の利回りはプラスだし海外企業への貸出金利も日本国内よりは高い。邦銀の海外への運用拡大は円売りドル買いと同義語だ。その結果、円安ドル高が進行する。円安が進めば食品、エネルギーなどの輸入物価が下げ止まり(あるいは上がり)、2%物価目標に貢献する...。日銀もひそかに歓迎するだろう。

 ただ銀行資金の、収益を求めての海外流出は、法人税率を引き下げて国内投資を拡大させようとしているアベノミクスの成長戦略に明らかに反する。

 日銀のマイナス金利導入は銀行収益を媒介に銀行の運用姿勢の変更を強く求めるものだが、ことほど左様にマイナス面が気になる矛盾に満ちた政策なのだ。

 なお、マイナス金利が適用される当座預金だが、2月以降、拡大することが予想される。+0.1%据え置きの「基礎残高」は昨年末水準で固定されており、2月以降、日銀の国債買い上げによって増加する当座預金分には-0.1%の金利が適用されるからだ。

 年間80兆円国債を買い上げる日銀の量的緩和政策は今後も継続されるため当座預金の増加が続くことが予想されるが、その増加分にはマイナス金利が適用される。日銀は将来、マイナス金利幅を拡大することも否定していない。従って時間が経過するにつれマイナス金利政策の影響が強まり、銀行収益への圧力が増す。

 銀行収益への影響がなければ政策効果は出ないというのがマイナス金利政策の本質だ。そうだとすれば、銀行収益への圧力の増加は日銀の目論み通りということになる。しかし、低成長下、海外にしか運用先がない状態なのに、マイナス金利を武器に国内融資を拡大せよと迫る鬼のような日銀である。銀行経営者はたまったものではない。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年01月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29          
最新記事
「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か
圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない
「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ
今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか
最新コメント
ありがとうございます...
Posted by Anonymous
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
大西先生にお願い:弱...
Posted by Anonymous
北は朝鮮半島統一を目...
Posted by kodera etuko
日本のシェクスピァ今...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
from QuonNetコミュニティ
【記事】求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か
from QuonNetコミュニティ
【記事】圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない
from QuonNetコミュニティ
【記事】「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ
from QuonNetコミュニティ
【記事】今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか
from QuonNetコミュニティ