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大西良雄ニュースの背後を読む

2015年12月

2015年12月21日 14:25

異次元緩和の限界を表すのか、再追加緩和への地ならしか

(2015年12月21日筆)

 12月18日の株式市場には驚かされた。午前中は小動きだったが後場に入った後、12時45分から日経平均株価が急上昇、10分後(12時55分)には前日終値比516円高の1万9869円を付けた。だがそこから急落、大引けでは1万8986円に急落、1日で上下値幅が883円となる異常日となった。


「追加緩和か」と早とちり、短期の投機家が右往左往
 緩和の拡大無し、単なる補完措置と知り落胆売り

 この日、日銀では今年最後の政策決定会合が開催されていた。政策決定会合の決定内容は午後3時30分からの総裁会見の前、通常は12時30分までに発表される。しかし、金融政策が変更されるときは発表が遅れる。今回も遅れた。それを受け市場では「追加緩和か」との憶測が一気に高まり株価が急騰した。

 異常値の犯人はヘッジファンドなど短期の投機家たちだ。値下がりを見越して日経平均先物を売っていた投機家たちは追加緩和による急騰で損が拡大しないように慌てて買い戻した。一方、追加緩和で値上がりに転じると見た投機家が日経平均先物を一気に買い込んだためだ。

 12時50分、遅れて「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置の導入」と題する政策決定文が公表された。文章を読み進むうち「これは追加緩和ではない」と判明、投機家たちは買い込んだ日経平均先物を売って清算する逆の行動に出た。結果、12時55分から日経平均は大引けに向け急下降していった。

 投機家たちは、「やるときは突然、緩和の規模は大規模」というのが黒田日銀総裁の得意技だと思い込んでいたふしがある。今回は「やるときは突然」だったが、緩和の拡大は空振り、文字どおり異次元緩和のたんなる「補完措置」に過ぎず、その内容に投機家たちは落胆を隠さなかった。


ETFの3000億円買い増しは緩和ではなかった
なぜ日銀は安倍総理に追随、3.3兆円もETFを買うのか

 発表された「補完措置」の中身も評価に苦しむものが少なくない。その第一が3000億円のETF(株価指数連動型上場投資信託)の買い増しだ。昨年11月から日銀は年3兆円のFTF買い入れを始めたが、この3兆円買い入れを継続するのに加え年間3000億円を買い増すというのだ。

 小規模だとはいえ3000億円でも追加緩和に違いないと思った投機家もいたが、実際はそうではなかった。日銀は、過去の金融危機に際して銀行の保有株を買い支え約3兆円保有している。その日銀保有株を16年4月から3000億円ずつ10年間、市場に売却する方針を決めた。保有株を3000億円ずつ売却すれば株価には下押し圧力になる。

 日銀はこの株価下押しを避けるために別の名目で新たに3000億円の株式を購入することにした。売却・購入差し引きゼロ、追加緩和でも何でもない措置だったのだ。

 しかも3000億円買い入れの「名目」は「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFを買い入れるというのだ。安倍内閣が財界に設備投資と賃上げを強く要請しているのに歩調を合わせた株の買い入れということになる。日銀の独立性などみじんも感じられない「名目」である。

 そもそも日銀が3兆円もの巨額のETF買いを行っていることに問題がある。日銀が日経平均やTOPIX、JPX日経400に連動する上場投資信託を買えば投信へ組み入れる株式が買われ株価が上昇する。

 日銀は株価下落時に1回360億円程度のETF買いを実施、株価を下支えしてきたが、上昇トレンドの下落場面での押し目買いも少なくない。これは日銀による株価押し上げ介入とも言えるものだ。先進国ではこうした株価介入を行っている中央銀行はない。日銀による異常な株価操作が常態化しているのだ。

 安倍内閣の支持率は株価に依存しているという学者もいるが(支持率が高いのは自民党リベラル派が消え野党が弱体化していることが原因だが)、その学者の見方に従えば、黒田日銀は安倍内閣の支持率のために独立性を放棄していることになる。

 今回の乱高下を見るにつけ、黒田日銀が安倍政権の意をくんで株価介入を繰り返しても、安倍総理が頼みとする海外の投機家たちはいつでも日本株を売り逃げる用意ができているようにすら思える。


日銀が買い過ぎ10年物長期国債の不足が表面化
異次元緩和の限界か、再追加緩和への地ならしか

 第二の補完措置は、銀行が日銀へ差し入れる適格担保の拡充と買い入れ長期国債の平均残存期間の7年~12年への延長(現状は7年~10年)だ。

 銀行は日銀と資金取引する際、国債を担保として差し出す。黒田日銀は昨年の追加緩和後、年間80兆円もの国債を銀行から買い入れている。銀行が毎年引き受ける新規発行分の国債の倍以上の国債を日銀が買い上げるため銀行の保有する国債が激減、日銀に差し出す担保の国債に事欠く銀行すら出てきた。

 この状態が続けば、銀行から買える国債に限界が生じ異次元緩和を続けられなくなる恐れがある。そのため今回、日銀は国債のほかに銀行が保有する米ドル建て証書貸付債権(残高約10兆円)、住宅ローン債権(残高約130兆円)を適格担保とすると決めたのだ。

 さらに日銀は平均残存期間を最長10年から12年に延長した。これは日銀が購入する長期国債を10年物から超長期の15年、20年物に拡充することを意味する。その目的を総裁は「イールドカーブ全体の金利低下を促す」と一般国民には全く理解できない言葉で説明しているが、要するにこれまで購入の中心だった10年物国債が品薄になったから保有リスクが高い超長期の国債も買い入れるということだ。

 第2の2つの「補完措置」はいずれも、長期国債を銀行から大量に吸い上げた結果、10年物を中心に購入対象の長期国債が品薄になったこと、さらにその結果、銀行は対日銀取引の担保不足に見舞われる結果を来していること示すものと市場では受け止められた。長期国債の購入がむずかしくなるため異次元緩和が限界に逢着したという解釈になる。

 ただ市場では、今回の「補完措置」は、今後の再追加緩和の、地ならしのための措置だったと読む向きもある。

 来年1月28日~29日に新年初の「政策決定会合」が開かれる。日銀はここで「生鮮を除く消費者物価指数(コアCPI)」の15年度、16年度上昇率見通しをさらに引き下げ、今度は本当の追加緩和に踏み切る。そのために「補完措置」であらかじめ適格担保の範囲を拡充、購入対象を超長期国債まで広げておいたという解釈だ。

 こうした市場の「補完措置」をめぐる解釈は、1月、3月、4月と政策決定会合がめぐってくるたびに息を吹き返し、再追加緩和への憶測を高め株価を乱高下させることになる。それもこれも、異次元緩和継続にもかかわらず、いつまでたっても2%物価目標を実現できない黒田日銀のせいだということになる。

 黒田総裁は原油価格が反転する2016年度後半頃には2%目標を達成できるという。だが、16年度後半頃に実現できると見通す民間エコノミストは皆無に等しい。追加緩和を何回やれば、2%目標を達成できるのか、見当が付かない。物価目標には効き目がない異次元緩和を再検討する時期ではないか。

(次回は2016年1月13日掲載となります。良いお年を)。

2015年12月14日 14:37

票を失う財源問題は先送り、参院選最優先の軽減税率導入

(2015年12月14日筆)

 もめにもめた末、消費税の軽減税率の導入をめぐる自公合意が成立した。当初、軽減対象を生鮮食品に限定していた自民党は押し切られ、軽減対象は公明党の主張通り酒類、外食を除く食品全般(菓子、飲料を含む)に広がった。公明党の完勝といって良いだろう。


公明党の完勝する過程で明らかになったこと
公明党の選挙協力なしでは存続しえない安倍政権

 公明党が完勝する過程で明らかになったのは、第一に、「揺るぎない一強」と評せられる安倍政権も公明党の選挙協力なしには存続しえないという事実だ。  

 国政選挙での自民党の得票数は安倍政権下でも年々減少している。投票率が戦後最低水準に低下する中、公明党の組織票が得られなければ多くの自民党議員の当選が危うくなる。安倍総理と官邸は自らの政権を存続させるために公明党の離反は何としても避けたかったに違いない。

 第二に、公明党が来夏の参院選に強い危機感を抱いていたという事実だ。

 公明党中央は平和の党の看板に忠実な学会婦人部の根強い反対を押し切って安保法制で安倍自民党に協力した。その結果、一部党員、創価学会員の反乱を招くなど大きな傷を負った。そのうえ最大の選挙公約である軽減税率の導入が小幅に終われば来夏の参院選を到底戦えない。公明党中央には食品全般にまで軽減税率の対象を広げねばならない強い動機があった。

 各種の世論調査では軽減税率を導入すべきだとする声は60~70%に達している。しかも導入に賛成する人の60%が軽減対象に加工食品も含めるべきだとする。世論調査を見れば公明党が強気になって不思議はない。

 政党にとって選挙がすべてであることも事実だが、政権政党が選挙の前に「票を失う」政策は先送りし、国民の税金を使って選挙民の「票が買えそうな政策」だけを示す行為は慎まなければなるまい。また、選挙前だからと言って軽減税率の導入、軽減対象の拡充が抱える問題点を先送りしてよいわけでもない。


消費税が抱える逆進性問題にどう向き合うのか
軽減税率導入の財源問題は参院選後に先送り

 問題点の第一は、高所得者のほうが低所得者より多くのメリットを受けるという消費税と軽減税率が持つ逆進性の問題だ。

 第一生命研究所の「軽減税率導入のマクロ的影響」(12月10日)によれば、酒類・外食を除く食料品に対して2%分の軽減税率が導入された場合、その負担軽減額は年収200万円未満の低所得所帯では年間9000円であるのに対し年収1500万円以上の高所得世帯では年間1万9000円になる。高所得世帯が得るメリットは低所得世帯の倍以上になる計算だ。

 軽減税率の導入が消費税の逆進性を解消する政策だと公明党は主張するが、上述のように軽減税率導入にも逆進性が内包されている。消費税全般の逆進性を計算すれば高所得者と低所得者のメリット格差はさらに多額になるはずだ。この消費税が抱える逆進性を恒常的に解消する政策は自公案には見当たらない。

 逆進性を恒常的に解消する公正な方策が、所得に応じて自動的に給付と税額控除を付与する「給付つき税額控除」だった。これには多くの経済学者が賛成している。しかし、自公政権がこの案を検討した様子はまったくない。「マイナンバー制度」の導入は「給付付き税額控除」の給付対象となる低所得者の所得を正確に把握できるようにするためのものではなかったのか。

 問題点の第二は、軽減税率の財源問題を先送りしたことだ。軽減対象が「生鮮食品と一部の加工食品」から「酒と外食を除く食品全般」へ広がった結果、消費税の税収減分は4000億円から1兆円に大幅拡大した。その結果、2%増税で見込まれていた5.6兆円の税収増のうち1兆円が消えてなくなる。

 1兆円のうち4000億円の財源はすでに確保されている。4000億円は医療、介護、保育、障害に関する低所得者の自己負担を抑制する「総合合算制度」を中止することで捻出される。「総合合算制度」は間接的にだが消費税が持つ逆進性を解消する方策だと言える。それが逆進性を高める軽減税率導入の犠牲になったのだ。本末転倒というほかない。


社会保障充実策の削減、たばこ税の増税も財源候補
「益税」の解消、累進税率の引き上げこそ最適な財源

 残り6000億円の財源手当は参議院選挙後に先送りされた。選挙前に財源手当を発表すれば、自公が「票を失う」ことも懸念されるからだ。

 その典型例が他の社会保障充実策の削減だ。「税と社会保障の一体改革」では消費増税の税収増13.5兆円のうち2.7兆円は社会保障の充実に使われることが決まっていた。2.7兆円のうち1.4兆円は逆進性解消のための低所得者対策に使われる取り決め(その一部が「総合合算制度」)だった。低所得者対策予算のさらなる削減は、自公にとっても「票を失う」リスクが大きい。

 13.5兆円のうち10.8兆円程度は社会保障費の自然増や財源不足の補填に使われると想定されていた。これを削れば巡りめぐって財政赤字が拡大、2020年基礎的財政赤字の解消という国際公約の達成が難しくなる。

 低所得者対策も削れない、財政再建計画も放棄できない、となれば6000億円は増税で穴埋めするしかない。その最有力案がたばこ税の増税だ。たばこ税は現在一本当たり約12円(一箱20本で約240円)かかっているが、これを3円引き上げれば年5000億円前後の税収増が見込まれるという。しかし、この案も愛煙家や葉たばこ農家の票を失う危険がある(小生は賛成だが)。

 妙案は自公合意で2021年4月からとなったインボイス(税額表)の導入を早め、数千億と言われる「益税」を解消して財源に充てる方策だ。益税は年間売上高5000万円以下の消費税の免税ないし「みなし課税」事業者に発生する不当な利得(消費税のタダどり)だ。インボイス導入までは財源不足分の6000億円をつなぎ国債(借金)の発行で賄うという手もある。

 もう一つ、所得税の累進税率を引き上げ高額所得者からの税収を増やすという方法がある。低所得者より多くメリットを受ける高額所得者から所得税を増徴するのが消費税の逆進性を解消する最適の案かもしれない。どうだろうか。

2015年12月 7日 14:20

唐沢寿明主演の「杉原千畝 スギハラチウネ」を観て

(2015年12月7日筆)

 映画「杉原千畝」が12月5日に封切られると知って、早速、地元の「所沢パルコ」のシネコンに家内と出掛けました。シネコンといっても3館しかありません。ですがたまに見たい映画が掛かることがあり家内とよく出かけます。

 杉原千畝については、戦前、本省の意向に抗してユダヤ難民にビザを発給、彼らの命をナチスドイツの手から救った日本人外交官であることは知っていました。しかし、彼がどういう経歴の人物か、どういう考え方を持っていたのか、ほとんど知りませんでした。

 それを知りたくて出掛けたのですが、映画は小生の期待、あるいは予想を大きく上回るものでした。


監督もスタッフの外国人、スケールの大きな「洋画」だった
アカデミー賞「シンドラーのリスト」に劣らぬ出来栄え

 まず、映画は日本人の身丈に合った、こじんまりした「邦画」ではなかったことです。舞台は旧満州からリトアニア、ドイツに至る欧亜大陸、セリフは英語、出演者の多くはポーランド人という国際水準をゆくスケールの大きな「洋画」でした。杉原千畝役の唐沢寿明の英語力にも感心させられました。

 観終わって慌てて買った映画の紹介パンフレット(750円)で知ったのですが、監督はハリウッド監督のチェリン・グラック、撮影監督は「スターウォーズ」などにも係ったゲイリー・ウォーラーでした。主人公役の唐沢寿明、妻幸子役の小雪に気を取られ、監督、撮影監督がハリウッド出身、スタッフの多くがポーランド人であることに気が付きませんでした。

 撮影はほぼ全編ポーランドで行われました。映画の冒頭に出てくる日本の外務省はワルシャワ旧市街の洋館、杉原千畝と後に妻となる幸子がデートする日比谷公園はしだれ柳があるワルシャワの公園でした。千畝発給のビザを持ったユダヤ難民はベリア鉄道を経由してウラジオストクに至り日本の敦賀港へ向かうのですが、ワルシャワのダグニクスをウラジオストク港に見立てています。

 ユダヤ人従業員1200名をナチスドイツから救った実業家オスカー・シンドラーを描いたスティーブン・スピルバーグ監督のアカデミー賞受賞作「シンドラーのリスト」もポーランドで撮影されたそうです。映画「杉原千畝」は「日本のシンドラー」と呼ばれた人物を描いていますが、ビザ発給者とその家族含め千畝が救ったユダヤ人総数は6000人に達しシンドラーを上回ります。

 小生、「シンドラーのリスト」も観ましたが、半分は寝ていました。今回はほとんど寝る場面はありません。小生の鑑賞態度からいって映画「杉原千畝」は「シンドラーのリスト」を上回っています。


杉原千畝は早稲田出身の優れたインテリジェンス・オフィサー
軍人が充満する満州国外交部に嫌悪、謀殺事件にも遭遇

 それから、小生の無知のためかもしれませんが、杉原千畝がユダヤ難民を救った単なるヒューマニストではなく、優れた「インテリジェンス・オフィサー」だったことにも驚かされました。

 「インテリジェンス」という言葉は、元外務省職員で作家・外交評論家の佐藤優氏が使っていますので少し知られるようになっていますが、「インテリジェンス・オフィサー」とは外交関係や対外政策に必要な情報収集や諜報活動に従事する外交官のことです。相手国に謀略工作を行うスパイとは異なるといいます。

 杉原千畝は、早稲田大学高等師範部英語科予科(現在の教育学部英語英文科)を中退、外務省留学生として満州ハルピンの日露協会学校(後のハルピン学院)で学びました。その後、ハルピンの日本総領事館を経て満州国外交部でインテリジェンス・オフィサーの仕事に従事します。

 千畝は、満州外交部ではソ連との北満鉄道譲渡交渉での情報収集、分析に従事、ソ連の弱みを突きソ連の譲渡要求額を6.25億円から1.4億円に引き下げさせるのに成功します。その凄腕に恐れをなしたか、ソ連は千畝を日本人外交官として初めて「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定、千畝のモスクワ大使館員就任を拒否したといいます。

 映画の初めに千畝の情報収集に協力した白系ロシア人が関東軍に殺害されるシーンが出てきます。当時、関東軍はハルピンのユダヤ人や中国人を謀殺するという事件も起こしています。

 こうした事件を体験した千畝は、のちに年若い職業軍人が充満する満州国外交部での3年間に強い嫌悪を示し、当時の日本の軍国主義を強く批判する手記を残しました。このハルピン体験が、職を賭したユダヤ難民へのビザ発給につながったのではないでしょうか。


日独軍事同盟に反対、大島浩駐ドイツ大使(陸軍中将)と対立
2000年になってようやく外務省は杉原千畝の名誉を回復

 千畝の「インテリジェンス」としての才能は、その後も発揮されます。本映画の中心舞台となったリトアニア領事館への杉原千畝の赴任は、ソ連およびドイツに関する「インテリジェンス」が目的でした。杉原一人の領事館には、ポーランド政府のスパイ「ペシュ」やドイツ系リトアニア人「グッジェ」が雇われ、映画では彼らが重要な脇役を演じていました。

 圧巻は、日本を英米との戦争に追い込んだ「日独伊三国同盟」を推進した大島浩駐ドイツ大使(陸軍中将)とこれに反対する杉原千畝との鋭い対立シーンです。千畝は、独ソ不可侵条約がポーランド分割を狙ったものであることを見抜いただけでなく、ヒットラーのドイツ軍が独ソ不可侵条約を破りソ連に侵攻する情報を正確につかみ、日独軍事同盟の間違いを指摘しました。日本を破滅に追い込んだ陸軍中将・大島駐ドイツ大使を、小日向文世が好演しています。

 映画の冒頭には、映画のテーマに関わる、あるいは謎解きのヒントになるシーンが隠されています。冒頭、戦後、救われたユダヤ難民の一人が日本の外務省を訪れ「センポ・スギハラ」の所在を確認するシーンがあります(杉原は「チウネ」を呼びやすい「センポ」に代えて自ら名乗っていました)。日本の外務省は、そんな人物は知らないといって訪問者を追い返します。

 日本の外務省は、戦後になっても本省の許しを得ずビザを発給した、大島浩駐ドイツ大使に立て付いた杉原千畝を許さなかったのです。杉原は終戦の2年後、最終任地のルーマニアから帰国しますが、外務省から退官を迫られます。退官後は小さな貿易商社などに勤務しました。

 日本の外務省が、杉原千畝の業績をたたえ名誉回復を図ったのは、彼の没後14年もたった2000年、河野洋平外務大臣の時でした。冒頭のシーンは、日独伊防共協定に締結問題や軍国主義の歴史に無神経な日本の外務省への痛烈な批判になっています。現在のシリア難民引き受け問題にたいする外務省への問題提起にもつながると見る人もいるかもしれません。

 蛇足ですが、早稲田大学14号館(社会科学部・教育学部)の脇に杉原千畝の顕彰碑があるそうです。14号館は小生も早稲田大学オープンカレッジの講義で使わせていただいたことがあります。来年初のオープンカレッジの初春講座時に顕彰碑を訪れ、手を合わせたいと思います
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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