QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2015年10月

2015年10月26日 15:56

「物価の基調」論で追加緩和できない日銀の自縄自縛

(2015年10月26日筆)

 先週、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が12月に追加緩和を実施することを示唆、中国人民銀行も昨年11月以来6度目となる金融緩和を実施した。今週は27日~28日に米FRBのFOMC(公開市場委員会)が開かれ、30日には日銀「金融政策決定会合」が開催される。


欧・中が相次ぎ追加緩和、通貨安競争に出遅れ?
コアCPIはデフレに逆戻り、円安一服にも不安

 日銀は追加緩和に踏み切るか、現状を維持するか、苦しい判断を迫られる。

 ECBと中国人民銀行による予想外の追加緩和でユーロ、人民元は対ドルで急落した。これにつられて円も120円台の円安に戻した。しかし、日銀が追加緩和に踏み切らなければ欧・中との通貨安競争に乗り遅れ、対ユーロ、対人民元で円高に振れる可能性がある。

 一方、日銀が追加緩和を見送り、FRBが政策金利引き上げを来年に先送りすることになれば、日米金利差が縮小、対ドルでも円高に振れる可能性がでてきた。円高(あるいは円安一服)は日銀が追い求めてやまない2%物価目標の実現の障害になる。円高を避けるためには日銀にも何らかの追加緩和が求められるのだが...。

 黒田総裁は口が裂けても言う気はないようだが、対ドル80円台から120円台への円安による輸入物価上昇が日銀の物価引き上げ政策の切り札だった。その円安が止まり幾らかでも円高にシフトすることになれば、物価目標の実現がますます遠のくことになる。量的緩和の出口が見えなくなる。

 しかし円高を避けたいと思っても、日銀には追加緩和に直ちに踏み切ることができない事情がある。それが黒田総裁の「物価の基調」論だ。総裁は今年4月ごろから「物価の基調は着実に改善している」と言い続け「量的緩和」の成果を強調してきた。追加緩和をしたくても「物価の基調」にこだわる限り、「追加緩和」に踏み切れないという自縄自縛に日銀は陥っているのだ。

 黒田総裁がこだわる「物価の基調」について少し解説しておこう。物価の上昇・下落を知るには様々な指標がある(下表参照)。

hyo1.JPG

 日銀が「2016年度前半までに上昇率2%を達成する」としている物価は、上表③の「生鮮食品を除く消費者物価指数」(コアCPI)の上昇率だ。8月のコアCPIの上昇率はマイナス0.1%で、目標のプラス2%にはほど遠い。消費者物価の先行指標である国内企業物価指数(旧卸売物価)の9月速報値は実にマイナス3.9%、9月のコアCPI上昇率も0%近辺に止まりそうだ。

 コアCPIを見る限り、開始からすでに2年半経過した「量的緩和」の政策効果はまったく表れていない。それどころかデフレに逆戻りしそうだ。


新型CPI、東大物価指数が「物価の基調」を示す?
「物価の基調改善」を言い続ければ追加緩和が遠のく

 それでも黒田総裁は「物価の基調は着実に改善している」と「量的質的緩和」の効果を喧伝しているのだ。総裁が「物価の基調」を表す指標として挙げているのが上表②の「生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数」だ。これを日銀特製の「新型CPI」と呼べば、8月は確かにプラス1.1%となっている。

 日銀特製の新型CPIでは、原油価格下落によって値下がりしているガソリンや電力料金などエネルギー価格を指数計算から除外しているため、プラスになった。その一方、円安によって値上がりが著しい食料品はしっかり指数計算に含めているから1.1%の上昇率になった。

 日銀が「物価の基調は改善している」という判断を補強する指標としてしばしば取り上げる指数が「東大物価指数」だが、これは8月月次指数で0.96%、直近の日次指数(10月22日)では1.57%の上昇率だ。

 渡辺努東大教授(日銀出身)らが開発した東大物価指数はスーパー全国300店舗のPOSデータを集計して算出される。食料品・日用品が算出対象で食料品の値上がりが顕著に反映された指数だといってよいが、消費者物価指数の対象品目の17%程度をカバーするに過ぎない。食料品を中心に局所的な値上がりを表す指標と言ってよく、これを「物価の基調」とするには無理がある。

 量的緩和の効果を信じて疑わない論者の中には、賃上げによる購買力の増加が食料品価格の値上がりを支えたという論者もいる。しかし、高齢者、非正規雇用者など所得の増加がほとんどない国民が多い経済では、エネルギー価格の下落によって生じた実質所得の上昇のほとんどが食料品価格の値上がりによる実質所得の目減りに費消されてしまう。

 その結果、食料品値上がりをエネルギー価格上昇で相殺してもなお、物価全般(従来のコアCPI)の上昇率がマイナスに転じたのだ。「物価の基調」はデフレに逆戻りと判断するほうが自然だ。いずれにせよ、値下がりしている品目を除外し値上がりしている品目をそのままにした恣意的な日銀製指数や局所的な東大物価指数をベースに「物価の基調は改善している」とはいうのは無理がある。

 11月16日発表の2015年7~9月期の実質GDPがマイナスなら4~6月期に続いて2期連続のマイナス成長となり景気後退が確認されることになる。コアCPIなど一般物価にもっとも影響を与えるGDPギャップ(需要不足)は拡大するのだ。それでも黒田総裁は恣意的な物価指数に基づいて「物価の基調は改善している」と30日の記者会見で繰り返すのだろうか。

 その言葉を総裁が繰り返せば繰り返すほど追加緩和は遠ざかり、日銀は通貨安競争から取り残され、円安は一服、円高リスクも抱え込む。その結果、輸入物価上昇が止まり、物価は低迷することになるのだ。

 一方、消費者や中小企業の迷惑を尻目に、円安による輸入物価の上昇をデフレ脱却の手段に使ってきた日銀の罪も問われはじめている。さて黒田総裁はどうする。

2015年10月19日 12:11

アベノミクスの挫折を隠す? 景気の「基調判断」

(2015年10月19日筆)

 政府は、2015年10月の月例経済報告でも、2014年5月以来の「景気は緩やかな回復基調が続いている」という表現を繰り返した。

 個別の景気指数は月々変動するが、大切なのは景気の基本的方向性(基調)についての判断(「基調判断」)だ。その基調判断によれば、「景気は緩やかな回復基調」が続いていると政府は言いたいのだ。すなわちアベノミクスは成功していると言いたいのだろう。

 しかし、景気は本当に「緩やかな回復基調を続けている」のだろうか。


景気動向指数は13年3月以来、「低下ないし停滞」している
実質成長率は14年-0.1%、15年は0.6%と低調続く

 景気の方向性の判断に用いられる「景気動向指数(一致指数)」は消費増税前の2013年1月と3月にピークを打ち、それ以降、この水準を上回ることなく低下ないし停滞している。鉱工業生産指数もこれとほぼ同じ方向性だ。

 景気の基本的方向性は、「緩やかな回復基調」という表現が始まった2014年5月以前の13年3月からすでに変化を見せている。統計データを厳しく判断すれば景気は13年3月から「緩やかな後退基調を続けている」、多少好意的に判断しても「景気は足踏みを続けている」という表現が正しいと思える状態にあるといってよいだろう。

 ちなみに2013年3月が景気ピーク(「山」)だとすれば、アベノミクスによる景気拡張期間は12年11月(「谷」)から13年3月「山」)までの14カ月となり、戦後最短だったことになる。

 GDP(国内総生産)成長率も景気動向と似た動きを示している。安倍政権1年目の2013年(暦年)は1.6%だったが翌14年は-0.1%にとマイナス成長に転じた。15年の実質成長率はIMFの予測では0.6%の低率にとどまる。

 四半期ごとの実質GDP成長率を見ると、2015年は1~3月4.5%と急回復したが4~6月は-1.2%へ再びマイナスに転化した。7~9月は民間最有力の「ESPフォーキャスト10月調査」の予想では0.55%に止まる。10~12月は中国の経済減速の影響が出てさらに低下する可能性があり、15年は0.6%成長とするIMFの低成長率予想を裏打ちしている。

 ちなみに、2015年の実質成長率をIME予測の0.6%と置けば、安倍政権の3年間平均の実質成長率は0.73%にすぎず、安倍総理が罵倒してやまない民主党政権(10年~12年)の3年間平均の実質成長率1.98%を大きく下回る。


にもかかわらず「景気は緩やかに回復」といい続ける理由
景気の後退、足踏みを認めれば「期待が暗転」、株価も下がる

 アベノミクスは外国人投資家による「円安株高」支援と伝統的なケインズ政策ともいえる公共事業急拡大で一時的に成功したかに見えた。しかしその後、景気動向指数や実質GDP成長率を見る限り「一時的成功」はとん挫、持続しえなかった。にもかかわらず安倍政権と配下の官僚(内閣府の旧経済企画庁系官僚)は「景気は緩やかな回復基調を続けている」と言い張っているのだ。

 アベノミクスは、大胆な量的金融緩和によって、株価が上がる、円が下がる、物価が上がるという「期待(予想)の好転」が頼りだ。企業や家計による株価や物価の値上がり予想を変化させないために、嘘でも「景気は緩やかな回復基調を続けている」と言い張らざるを得ない。もし景気の基調判断を「後退基調」「足踏み」と変え一時でもアベノミクスの挫折を認めれば「期待(予想)が暗転」、株価は下がり、円が上がり、物価も下がることになるからだ。

 しかしアベノミクスの挫折をすでに知ってか、外国人投資家は8月、9月の2か月で3.7兆円も日本株を売り越した。日本の企業家も経済成長に疑問を持ち国内での設備投資増強に2の足を踏んでいる。消費者は食料品など必需品値上げに耐えられず消費を切り詰め始めている。賃上げやエネルギー価格の下落にもかかわらずだ。

 いつまで安倍政権とその配下の官僚は「景気は緩やかな回復基調」といい続けられるのだろうか、心配になる。同じことは、8月「生鮮食品を除く消費者物価指数」が前年同月比マイナスに転じても「物価の基調は着実に改善している」という表現を繰り返し、変えることがない黒田日銀にも言える。次回は日銀の「物価の基調」判断について書く。

2015年10月13日 12:09

「一億総活躍」という言葉の意味とその仕事内容

(2015年10月13日筆)

 第3次安倍改造内閣の看板政策となる「一億総活躍」について、その政策を推進する側の閣僚、自民党役員の中から「何のことかよくわからない」という発言が飛び出した。財界首脳が「名目GDP600兆円」の目標に対し首をかしげる発言をした構図と同じだ(前回ブログ参照)。


「なんのことでございましょうか」「あんな大臣 ならんでよかった」
「一億火の玉」、「一億総懺悔」、「一億総中流」そして「一億総活躍」

 石破茂地方創生担当大臣は「最近になって突如として登場した概念で、国民の方々には『なんのことでございましょうか』という戸惑いみたいなものが全くないとは思っていない」といっている。二階俊博自民党総務会長は、文部大臣に就任した馳浩議員を鼓舞するためだろうか、「皆さんが不思議だなと思っている一億総活躍大臣、馳先生、あんな大臣 ならんでよかったね」と語ったという。

 おひざ元の閣僚や自民党幹部が国民の口を借りて「なんのことでございましょうか」「不思議だな」といっているのだから、我々のような一般国民に「一億総活躍」の意味がわかるはずがない。

 小生のような年寄りの中には「一億総○○」という言葉には、忌々しい、嫌な響きを感じる人もいる。戦前の国民的スローガン、「一億一心、一億火の玉、一億玉砕」そして「欲しがりません、勝つまでは」をまず思い浮かべる。そして戦争に負けるとすぐ日本国民挙げての「一億総懺悔」だ。今や中間層没落の時代だが、高度成長の後には「一億総中流」という言葉も流行った。これが唯一、国民をいい気分にさせた「一億総○○」だったような気がする。

 とはいっても、安倍総理が言う「一億総活躍」は、小さな子供から寝たきり老人まですべての国民に関係がある言葉であるはずだから、『なんのことかわからない』といってもおれない。名は体を表すというから、大臣室の入り口の看板に掲げられる「一億総活躍担当大臣」の英語表記を見てみよう。


「一億総活躍担当大臣」の英語表記でもわからない仕事の内容
「ダイナミック・エンゲージメン」(精力的な参画)とは何か

 一億総活躍担当大臣の英語表記は、「Minister in Charge of Promoting Dynamic Engagement of All Citizens」となった。「日経新聞」10月12日付けによれば、その直訳は「すべての国民の精力的な参画の促進を担当する閣僚」ということになる。

 「一億総活躍」は「一億総国民」と「活躍」に分解される。「一億総国民」を英語にすれば「One Hundred Million people of Japan」となるが、長すぎるのか、外国人には「一億の日本国民」にこだわる意味が解るまいということだろうか、「一億総国民」の英語表記は「All Citizens」(訳せば「すべての市民」あるいは「すべての国民」)となった。「一億の日本国民」より個人が重んじる表現の「すべての市民(国民)」のほうが小生には違和感はない。

 「Minister in Charge」は「担当大臣」、「Promoting」は「促進する」という意味だ。これは分かるが、よく分からないのは「Dynamic Engagement」の意味だ。日経は「精力的な参画」と訳しているが、Engagementは英和辞典に従えば「契約、約束」という意味で、どう意訳しても「参画」とは読めない。

 かりに「参画」という意訳を受け入れるにしても、この意訳でも、すべての国民は「精力的に何に参画するのか」、国民は「国家から何に参画すること求められるのか」、さっぱりわからない。日本語を英語表記すれば、分からないことも分かりやすくなることが少なくないが、残念ながら今回はそうではなかった。

 なお、どなたがお書きになっているのかよくわからないが、「上級英語のへの道」というブログに「『一億総活躍担当大臣』の英語名は?」という秀逸な記事があった。本ブログ執筆の参考にした。以下の、女性活躍(Women's Empowerment)、再チャレンジ(Challenge Again)、少子化対策(Declining Birthrate)、男女共同参画(Gender Equality)などの担当大臣の英語表記も紹介されており、「総活躍」の英語表記に比べ非常にわかりやすいものになっている。


加藤「一億総活躍担当大臣」は他に6つの政策担当を兼務
各省庁の政策案をホッチキスで止めて予算案とするのが仕事

 そこで安倍内閣の司令塔「経済財政諮問会議」の正式メンバーになるという、「一億総活躍担当」の加藤勝信大臣(前官房副長官)の他の担当内容を調べてみた。彼は、他に女性活躍、再チャレンジ、拉致問題、国土強靭化、少子化対策、男女共同参画の担当大臣も拝命している。一億総活躍と合わせ実に7つの政策の担当大臣なのだ。

 この7つの担当のうち拉致問題、国土強靭化を除いて、女性活躍、再チャレンジ、少子化対策、男女共同参画の4つは「一億総活躍」に関係があると思われる。この4つの担当を総括すれば「一億総活躍担当」になるということだろう。

 外務省が推進する拉致問題交渉、二階総務会長がご執心の国土強靭化(国土交通省管轄)だけでも大変なのに、加藤大臣は安倍内内閣の看板政策になろうという4つの重要政策の担当を政策立案から実行、監視まですべてこなすというのだ。加藤氏の能力には計り知れないものがあると総理は見ているのだろう。

 もちろん、そんな超人的な能力を持った政治家などいるはずはない。種を明かせば、これら4つの分野は、厚労省、文科省、総務省などそれぞれ中央官庁の役人たちがすでに立案から実行、監視の実務を担っており、官庁ごとに予算もついている。加藤大臣は各官庁から上がってくる政策案を束ねてオーソライズするのが仕事(各省庁案をホッチキスで止めて提出するとも表現する)。

 安倍総理は11月末までに「一億総活躍」関連の緊急対策をまとめると言っているから、これらは景気対策として予想される「2015年度補正予算」に計上されるのではないか。その予算が、女性幹部だけでなく普通の多くの共働き女性の「活躍」に役立つものなのか、結婚すらできない非正規雇用者の「再チャレンジ」をサポートするものになるのか、介護離職ゼロを実現するための高齢者介護体制の構築につながるのか、よくよく見てみたいと思う。

2015年10月 5日 14:47

財界人も踊らないGDP600兆円というプロパガンダ

(2015年10月26日筆)

 安倍総理は、アベノミクス第2ステージの新「三本の矢」(目標)として①名目GDP600兆(1)、(2)希望出生率1.8、(3)介護離職者ゼロを挙げた。発表時の総理会見では目標の達成時期、達成手段、達成のための財源など一切明らかにされなかったが、目標の達成時期だけはジャマイカでの会見で明らかになった。


総理退任後の2020年頃、名目GDP600兆円という目標
過去15年、アベノミクス3年でも達成できない成長率が前提

 名目GDP600兆円の達成時期は「2020年頃」、希望出生率1.8は「2020年代半ば」、介護離職者ゼロは「2020年代初頭」だそうだ。安倍氏の自民党総裁の任期、つまり総理の任期は何もなければ2018年9月までだ。新「3本の矢」はいずれも安倍総理の任期満了後に目標が達成されるということになる。後は野となれ山となれ、後継者次第だという無責任な目標だ。

 希望出生率1.8、介護離職者ゼロは経済成長の要素である労働力人口の減少回避に大きな意味を持つが、その実現可能性についてはいずれ書くつもりだ。今回は第一の矢(第一目標)の「2020年頃、名目GDP600兆円」が実現できるかどうかについて触れておきたい。2014年度の名目GDPは490兆円だったから目標どおりだと名目GDPは6年間で110兆円増加する。

 総理の言う「2020年頃、600兆円」という数字は、7月25日に内閣府が「経済財政諮問会議」に提出した「中長期の経済財政に関する試算」の「経済再生ケース」として掲げられた数字で目新しいものではない。この経済再生ケースでは名目GDPは2020年度594.7兆円、2021年度616.8兆円と試算されており、2020年の半ば頃には600兆円に達する計算になる。

2015年度~20年度平均の成長率と物価上昇率(内閣府)
hyo1.JPG
 ただし経済再生ケ―スの前提になる2015年度~20年度平均の名目成長率は3.25%、実質成長率1.78%(上表上欄参照)だ。ただ2000年度~2014年度の過去15年間の平均名目成長率は▲0.20%、平均実質成長率は1.02%にとどまる。再生ケースの数字は過去の水準に比べ極めて高い。

 内閣府は参考としてもう一つの試算、平均名目成長率を1.98%、平均実質成長率を1,16%に置く「ベースラインケース」(上表下欄)も示している。経済再生ケースをベストシナリオとすれば「ベースラインケース」はワーストシナリオというものだろう。しかし過去15年間平均は、このワーストシナリオをも下回っている。ちなみにベースラインケースが実現した場合の2020年度の名目GDPは552.1兆円、2021年度は559.4兆円で600兆円には遠く及ばない。

 アベノミクスで事態は好転したという向きもあろう。しかし安倍政権2年間(2013年~14年暦年)平均の名目成長率は1.30%、実質成長率は0.77%だ。名目成長率がやや高くなったのは主として消費税率引き上げに伴う物価上昇によるもので、消費増税を決めた野田政権からの「贈り物」だ。これを含めてもアベノミクス2年間の名目成長率はベースラインケースを大きく下回った(実質成長率では民主党政権3年間平均の1.98%をも下回る)。

 2015年度はスタート期に当たる4~6月期の年率換算成長率は名目0.2%、実質▲1.2%だ。名目2.6%、実質1.5%という政府の成長率目標は後に大きく下方修正されるに違いない。アベノミクス3年目も名目3%、実質2%という高い成長率目標の実現は極めて難しい。


600兆円など「とんでもない、はっきり言ってあり得ない」
参議院選挙に勝つための政治的プロパガンダ、誇大広告

 にもかかわらず、安倍総理は、過去にない、自らのアベノミクスでも達成できていない高い成長率を前提として「2020年頃、名目GDP600兆円」という、実現可能性が疑われる目標を新「3本の矢」の第一目標としてぶち上げたのだ。これにはさすがの財界人も開いた口が塞がらない様子だ。

 経済同友会の小林喜光代表幹事(三菱ケミカルHD会長)は9月29日の記者会見で「600兆円という数字は、とんでもない、はっきりいってあり得ないと思う。政治的メッセージとしか思えない。とてもコミットできるような数字ではない」と言い切った。日本商工会議所の三村明夫会頭も600兆円は「現実的にはちょっと無理だ」と10月1日の会見で述べたという。

 3つの重要財界団体のうち経団連の榊原定征会長(東レ相談役最高顧問)は、高成長シナリオを許容したお膝元の「経済財政諮問会議」民間議員であるためだろうか、600兆円の実現可能性について何も語らない。しかし。日本を代表する他の2つの財界団体トップが600兆円の目標に首を傾げているのだ。アベノミクス第2ステージにとって最も重要な「第一の矢(目標)」に対し、経済成長の推進役である財界人から疑問符を投げ掛かけられては、目標達成はおぼつかない。日銀の不始末からハイパーインフレでも起きれば別だか...。

 小林、三村両氏が官邸や自民党からの圧力に負け、前言を翻すのではないか少し心配にはなるが、アベノミクスにも安保法制、武器輸出推進論にも無批判、ひたすら安倍政権に追従するだけの財界トップから久しぶりに正論を聞いた思いがする。小林氏は安倍総理の600兆円目標を「政治的メッセージとしか思えない」ともいった。

 いや「政治的メッセージ」というより、新安保法制の採決で支持率を落とした安倍総理が持ち込んだ、来年の参議院選挙に勝つための「政治的プロパガンダ(宣伝)」に過ぎない。それも誇大宣伝というのがふさわしい成長目標だろう。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2015年12月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか
北朝鮮はどのような外交的解決を求めているのか
キム(金正恩)リスクよりトランプリスクが怖い
もう誰も信じない? 安倍総理の「経済最優先」
「支持なし(無党派)層」が65%強 ――安倍一強の受け皿を築く時
最新コメント
大西先生にお願い:弱...
Posted by Anonymous
北は朝鮮半島統一を目...
Posted by kodera etuko
日本のシェクスピァ今...
Posted by Anonymous
はは、全く面白い時代...
Posted by キリ
1.安倍内閣は「何を...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】北朝鮮はどのような外交的解決を求めているのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】もう誰も信じない? 安倍総理の「経済最優先」
from QuonNetコミュニティ
【記事】「支持なし(無党派)層」が65%強 ――安倍一強の受け皿を築く時
from QuonNetコミュニティ
【記事】安倍一強への嫌悪感が噴出――都議選で自民が歴史的惨敗
from QuonNetコミュニティ