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2015年9月

2015年9月14日 15:50

「日本型軽減税率制度」で再び窮地に立つ公明党

(2015年9月14日筆)

 創価学会員の一部が公明党中央の考えに背き、新安保法案に反対するデモに参加している。「平和の党」の理念を捨て「戦争ができる国」になる企みに加担することへのささやかな抵抗だろう。

 一部であっても、新安保法制の推進は「平和の党」と党是とする学会員に対する一つ目の党是違反と映る。さらにもう一つ、「日本型軽減税率制度」の推進は、「弱者の味方」を党是と信じる学会員など公明党支持者には二つ目の党是違反と映りかねない。


選挙公約の「軽減税率」とは似て非なる財務省案
軽減税率よりはるかに小さい消費税還付金のメリット

 財務省が提案した今回の「日本型軽減税率制度」は、公明党が前回の衆議院選挙で選挙ポスターに刷り込んで公約とした消費税の「軽減税率導入」とは似て非なるものだ。

 公明党が公約した消費税の「軽減税率」は、消費税率が10%に引き上げられる際、軽減対象になる品目すべてに軽減税率(消費税8%)を適用するという提案ではなかったか。

 この案に従えば、軽減税率の対象品目を買えば、買った時点で購入額すべてに2%の減税メリットが発生する。購入額が増えればふえるほど減税額も増えていく。購入額の多い高所得者ほどメリットが高まるという難点(累進税率を高めれば高所得者メリットは解消できると思うが...)はあるが、飲食料品などに軽減対象を限ればエンゲル係数の高い低所得者にも大きなメリットが期待できる。

 今回の「日本型軽減税率制度」は、軽減税率の対象品目を買えば2%分の還付金が後でもらえるという制度だ。公明党の公約案のように即座に2%の減税効果が実感できるものではない。しかも、還付金には上限があり、対象品目の購入額が増えても減税額は増えない。この点も公明党の公約とは大きく異なる。

 ちなみに消費税率の軽減対象品目を最も広くとって「酒を除くすべての飲食料品」とし、購入額に限度を設けず消費税2%分を減税した場合、その減税総額は1兆3200億円、国民一人当たり年間1万476円の減税になるはずだ。しかし、財務省案に従い還付金に上限を設定すれば、一人当たりの消費税還付金は4000円(年間)に大幅に減少、減税総額は最大5040億円にとどまる。

 購入額に比例して軽減税率のメリットが得られる公明党の公約案が、購入額の多寡とは無関係の消費税還付金に変わった。そのうえ、一人当たり年間メリット額が1万470円から4000円へ大幅に減らされるのだ。今回の「日本型」が公明党の軽減税率導入の公約と似て非なるものであることは明らかだ。


「マイナンバー・カード」を持たない国民は還付なし
わずか年4000円還付のためにパソコンを買うのか

 しかも、今回の「日本型軽減税率制度」は、2016年1月からの「マイナンバー・カード」の配布を組み込んだ制度となっており、この面からも大きな疑問点、問題点が見いだされる。

 「マイナンバー・カード」を活用した還付金受領までの本筋の手順は以下のとおりだ(ほかに郵便局などを経由する仕組みも考慮か)。

 まず、顔写真などを添えて市役所から「マイナンバー・カード」の配布を受ける。そのマイナンバー・カードを消費税の軽減対象商品を購入した際、小売店のレジなどに提示する。

 小売店はカード・リーダー(読み取り機)で購入記録を読み取り、レシートに購入者が得られた消費税の「軽減ポイント」を記載する。この「軽減ポイント」のデータは小売店から新たに設置される「軽減ポイント蓄積センター」(仮称)に送信される。

 センターに蓄積された個人の「軽減ポイント」は、パソコンやスマホ上の本人用の画面「マイナポータル」(2017年始動)で確認、「マイナポータル」を通じて還付を申請する。申請された還付金はマイナンバーが付与された本人の「預金口座」に振り込まれる。

 わずか年4000円(最大)の還付金を受け取るために、老若男女、すべての国民が「カード」交付のために市役所に出向き、パソコンやスマホを購入、自分のマイナンバーを銀行に知らせ還付金受取口座を作る。そして買い物のたびにマイナンバー・カードを所持し小売店に提示する。そのうえでパソコンやスマホを操作し、画面上の「マイナポータル」から還付金を申請する。そのうえ銀行に出向いて銀行口座から一人年間4000円を引き落とすのだ。

 この制度ではまず、「マイナンバー・カード」を取得しなければ消費税還付金を受け取れない(取得は任意)。マイナンバー制度への国民の理解・認知が依然進まず、内閣府の調査でも現在のところ国民の4分の3が「マイナンバー・カード」の取得を希望していないと言っている。しかし、「日本型軽減税率制度」を発案した財務省・麻生財務大臣は「カードを持ちたくなければ(店に)持っていかなくていい。その代り減税はないだけだ」と言い放った。

 カード取得が進まなければ還付金申請は減り、財政負担が想定の5040億円よりさらに減少する。一方、わずかな消費税還付金を餌に財務省に都合のよいマイナンバー制度の普及をすすめようとする魂胆が丸見えだ。カードを持とうが持つまいが、財務省になんら不都合はないからだろう。

 そもそも、パソコンやスマホ操作に不慣れなお年寄りが、夫婦2人で年間8000円ほどの消費税還付金のために、死ぬまでに還付金では償却できないような高額な機器を購入するだろうか。若くても所得が低い人や情報スキルに乏しい人はパソコンなどの購入に二の足を踏む可能性がある。

 消費税還付金は「申請しなければ」あるいは「申請できなければ」、もらえないのだ。そうすると、消費税の増税負担が重い低所得の高齢者や貧困レベルにある母子家庭や非正規の勤労者が、消費税還付金を得られないという事態も予想される。これでは、公明党が軽減税率の導入によって想定していた、税負担が低所得者に重くなるという消費税の「逆進性」の解消にもつながらない。


消費税「逆進性」解消の面では「簡素な給付金」にも劣る
いずれ「消費税還付金」案の白紙撤回迫られる公明党

 「逆進性」の解消のため現在、軽減税率の導入までのつなぎとして「簡素な給付措置」が採用されている。市町村税を支払っていない低所得者1人当たり6000円を配る特例給付金(予算額1693億円)がそれだ。消費税増税の「逆進性」の解消につながるという意味では低所得者を対象とする「特例給付金」のほうが「消費税還付金」よりはるかに優れているし、予算額も少ない。

 そもそも「マイナンバー制度」は所得額を正確に把握し徴税の公正を測るために導入される。これで低所得者の所得が正確に把握されれば、的確な低所得者対策を取ることもできる、その施策として「社会保障と税の一体改革」の中に「給付付き税額控除制度」の検討も提案されていたはずだ。

 「給付付き税額控除」は、簡単にいえば所得額の多寡に応じて減税額(納税者は税額控除)、給付額(低所得者へは給付金)が自動的に決まる公平な制度だ。しかし、「給付付き税額控除」は所得の把握が正確でなければ公平性が確保できない、制度変更が大掛かりになることから検討が見送られ、その代替案として公明党から「軽減税率の導入」案が提案された。

 しかし、マイナンバー制度の導入で所得の把握が容易になり「給付付き税額控除」導入の下地ができた。にもかかわらず、公明党はじめ与党は「給付付き税額控除」の検討を無視、逆進性対策としては「簡素な給付措置(特例給付金)」よりはるかに劣り、かつ軽減税率とは似て非なる「消費税還付金」という財務省案の検討に入ったのだ。

 この財務省案に乗れば公明党は、「平和の党」だけでなく「弱者の味方」という党是をもかなぐり捨てることになる。そうなれば、来夏の参議院選挙では一部学会員の支持を失うだけでなく他の選挙民の厳しい視線にさらされる...。賢明な公明党中央のことだ。そのことに気が付き、意外に早い時期に財務省に「消費税還付金」構想を白紙撤回させることになるのではないだろうか。

2015年9月 7日 14:18

気掛かりな「下流老人の世代連鎖」の行く末

(2015年9月7日筆)

 この8月から9月にかけ週刊誌が一斉に「下流老人」と題した特集を組んでいる。小生の出身雑誌「週刊東洋経済」も8月29日号で「下流老人――貧困、病気、孤立...老後転落に備えよ」と題してカバーストーリーを組んでいる。


安倍総理、「上流老人」「下流老人」は読まない特集
下流への転落におびえる現役世代と「中流老人」

 誰がこのグルーミー(陰鬱)な特集を読むのだろうか。社会保障費を抑え防衛費を膨らませるのに懸命な安倍総理や麻生財務相は読まないだろう。彼らは「貧乏人はアベノミクスのトリクルダウン(滴り)を待て」と言っているのだから。

 「上流老人」もまず読まないだろう。十分の蓄えを持ち、老後も顧問料や配当や金利収入など十分な収入を得ており、下流化する心配はないからだ。逆にすでに「下流老人」になっている老人も読まないだろう。「下流老人」には、690円の「週刊東洋経済」を買う余裕はないに違いない。

 では誰がこの特集を読むのか。読者として考えられるのは、「自分も将来、下流老人になるかもしれない」と不安を抱えている現役の勤労者世代、そしていまは貯蓄もあり中流程度の老後生活を送っているが、「いつ下流老人に転落するか」、そのリスクに怯えている「中流老人」たちだろう。

 「下流老人」という言葉は、藤田孝典著『下流老人―1億総老後崩壊の衝撃』(2015年6月刊、朝日新書)からきている。藤田氏は「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」を「下流老人」と定義している。

 「下流老人」の具体的な指標として筆者は、「収入が著しく少ない」、「十分な貯蓄がない」、「頼れる人間がいない」という3つの「ない」を挙げている。このうち最も重要な指標である「収入が著しく少ない」というその水準を筆者は「生活保護基準相当」としているが、それはいくらか。

 「週刊東洋経済」によると生活保護費は、東京23区の場合、60代単身で月額約13万円(年収156万円)、60代夫婦で月額約18万円(年収216万円)だ。生活保護基準相当で暮らす高齢者とは、この生活保護費以下の年収で暮らしている高齢者をさす。

 60歳代夫婦で216万円以下が「下流老人」ということになるが、そうした高齢者所帯は珍しくないのではないか。「平成26年国民生活基礎調査」によると、平均年所得200万円以下の高齢者所帯比率は39.2%になる。高齢者所帯の約4割はすでに「下流老人」なのだ。

 この調査によれば、65歳以上の高齢者所帯の平均所得金額は約300万円だが、全所帯の真ん中を意味する中央値は242万円だ。中央値以上を「中流老人」とすれば、下流老人との差はわずかだ。「中流だ」と安心していても、何かの拍子に所得を減らせば、あるいは何かの拍子で生活費が増加すればすぐに「下流老人」に転落しかねない所得水準なのだ。


「誰でもなり得る下流老人」――その5つのパターン
低所得の子どもがもたらす「下流老人への世代連鎖」

 『下流老人』の第3章「誰でもなり得る下流老人」では、下流に転落する4つの典型的パターンを挙げている。パターン1「病気や事故による高額な医療費支払い」、パターン2「高齢者介護施設に入居できない」(筆者注、介護費用がかさむ)、パターン3「子どもがワーキングプアや引きこもりで親に寄りかかる」、パターン4「増加する熟年離婚」、パターン5「認知症でも周りに頼れる家族がいない」(筆者注、オレオレ詐欺で資産を失うなど)の5つのパターンだ。

 このうち最も気掛かりなのはパターン3だ。子どもが非正規雇用を余儀なくされた結果、ワーキングプア(年収200万円以下)に陥り自立できず親にパラサイト(寄生)する、子どもがうつ病などで職を失い無所得のまま実家に引きこもる......。高齢者所帯は、成人年齢に達したワーキングプアや引きこもりの子どもを家庭に抱え込み、貯蓄を食い潰したうえ下流老人へ転落することになる。

 親を「下流老人」へ追い込む非正規雇用、ワーキングプアの子どもたちは、将来の「下流老人」の予備軍でもある。現役時代の年収が低ければ、報酬比例部分の年金は少ない。基礎年金(国民年金)も未払い期間があり少ない。低所得状態では老後のための貯蓄もおぼつかない。低所得状態が続けば、子どもたちの老後も生活保護基準以下の「下流老人」となる可能性が高い。

 これは「下流老人への世代連鎖」ともいうべき深刻な事態だが、ワーキングプア以上の年収があっても「下流老人」になる懸念がある。藤田氏の試算によれば、現役時代が400万円以下の年収だと受給できる年金額が生活保護基準を割り込む人が出てくるという。これ以上、例えば500万円の年収があっても、下流化した親に仕送りをすれば貯蓄ができなくなる勤労者も出てくる。「下流老人への世代連鎖」はこの「中流」の年収レベルでもあり得るのだ。

 現役世代であれ引退世代であれ、日本経済を支えているのは「中流」階層である。週刊誌の「下流老人」特集を読めば読むほど、彼らの「下流老人」への転落不安が高まってくる。政府もまた年金給付の実質削減、介護、医療など保険料負担の拡大、生活保護費の削減など「中流」階層の転落不安を駆り立てている。

 しかも物価引上げを目指すアベノミクスが4000万人弱の高齢者・非正規雇用者の生活に打撃を与え消費を委縮させている。そのことは前週ブログ「食品値上げが高齢者、非正規に打撃、消費が伸び悩む」にも書いた。親から子供への「下流老人への世代連鎖」をアベノミクスが増幅させている面もあるのだ。

 そのことが中流階層の生活を委縮させ国内消費を減退させ、景気の回復を遅らせていることを安倍総理は留意すべきだ。女性、子どもの貧困対策だけではなく、非正規雇用者対策、下流老人対策を急ぐことが日本経済を支えることになる。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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