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大西良雄ニュースの背後を読む

2015年7月

2015年7月27日 16:52

塚本晋也監督の映画「野火」を見て

(2015年7月21日筆)

 7月25日の暑い土曜日、家内を誘って久しぶりに東京・立川へ出かけました。40年以上も前、新婚生活をおくった街です。小生の狙いは立川のシネコン「シネマシティ」で初日を迎える塚本晋也監督の最新話題作「野火」の鑑賞です。

 家内は「シネマシティ」の近くにできたスウェーデンの家具雑貨店「イケア立川」が立川再訪の主たる狙いでした。まず家内の願いを優先、イケアに入店しました。いったん入ると売り場は広大で入り組み、店員に聞かなければ出口にたどり着けないような店でした。しかし品数は豊富、お値段は格安でした。

 今回は手荷物になるのを嫌い何も買いませんでしたが、「野火」鑑賞の前の腹ごしらえ、出口近くのあったセルフサービスのレストランでスウェーデン風のランチをいただきました。家内はフィッシュ・チップス、小生はサーモンとベイクドポテト、これも美味、格安でした。

 レストランはイケアで新婚生活用の家具雑貨を買い求めに来たカップル、母娘、イケアの家具雑貨に囲まれた生活の中で授かった子供を連れた若い夫婦(いずれも想像ですが)でいっぱいでした。若い夫婦、子供たちは、平和で穏やかな眼をして窓の外を走る多摩モノレールを眺めているように思えました。

 しかし、ランチ後に見た映画「野火」は、イケアで見た「平和で穏やかな眼」など吹っ飛ばしてしまうものでした。これが戦争の真実の姿とはいえ、「野火」が描いた戦場での凄惨さ、残酷さ、非人間性は、正視に絶えない、眼を背けざるを得ないものでした。小心者の小生、怖くて何度も画面から眼をそらしました。


戦争文学の代表作、大岡昇平著「野火」を自主製作
敗残兵への餓死・病死、カニバリズム(人肉食)描く

 「野火」は大岡昇平の1952年創元社刊(現在は新潮文庫に収録)の同名小説を映画化したものです。「野火」は読売文学賞を受賞した日本における戦争文学の代表作と言われています。武力行使を厭わない安倍総理の新安保法制に対する理解者である読売新聞社が、戦後も間もないとはいえ、この大岡昇平の激しい「反戦小説」に読売文学賞を与えたのですから、変われば変わるものですね。

 「野火」は1959年に市川崑監督によって松竹で映画化されています。しかし今回は松竹配給ではなく、スポンサーなし、制作資金はほとんど監督の自前、上映館にも苦労する自主製作映画でした。主役の田村上等兵役も監督自らが演じて上映にこぎつけたといいます。

 映画の舞台は、太平洋戦争末期の敗残日本兵が満ち溢れたフィリピン・レイテ島。主人公の田村上等兵は結核を患い部隊からも野戦病院からも追い出されジャングルを逃げ惑います。田村上等兵は1944年フィリピン・ミンドロ島に派兵されレイテ島で米軍の捕虜になった大岡昇平の経験を映した日本兵です。

 フィリピンなど南方戦線での日本軍の兵站(食料や兵器・弾薬の補給。安倍総理の新安保法制ではこれを「後方支援」というのだそうです)の不備は著しく、日本兵の多くが食糧と医薬品を絶たれて餓死・病死したといわれます。太平洋戦争での軍人・軍属の戦没者230万人の6割、140万人が餓死・病死だったといわれています。

 映画でも田村上等兵は、逃げ惑ったジャングルの道傍に餓死・病死した夥しい数の日本兵が放置されているのを目にします。飢えに直面した兵隊たちが恩賜のタバコを現地産のイモ(タロイモ?)と交換する姿も描かれています。果ては、餓死を恐れ敗残兵同士が唯一の食糧である数本のイモを奪い合い、殺し合うのです。戦場での飢えは恐ろしい。

 極め付きはカニバリズム(人肉食)です。飢えた田村上等兵が若い兵隊「永松」から「猿の乾燥肉」だといって与えられ、これを食べるシーンでした。この「猿の乾燥肉」は、「永松」が銃殺した現地住民の人肉を乾燥したもののようです。カニバリズムは「人間が人間でなくなる」、極限の営為ですが、戦場の敗残日本兵はその極限を踏み越えたようです。


フィリピン戦線で人間が人間でなくなる極限を体験
白旗を掲げたのに現地婦人に撃ち殺された日本兵

 極限を体験したのは日本兵だけではありません。「猿の乾燥肉」となってしまった現地住民も「人間ではなくなった」のです。

 映画は、田村上等兵など日本兵と死体、それに少数の現地住民だけで進行します。敵の米兵は登場するのはワンシーンだけです。そのワンシーンが衝撃的です。田村上等兵は逃げ惑った果てに米兵が乗るジープに白旗を掲げ投降しようとします。しかし米兵のジープからは機関銃による激しい銃撃が行われ、田村より先に白旗を掲げジープに近づいたもう一人の日本兵が撃ち殺されます。撃ったのは現地住民の婦人でした。婦人は米兵の制止を振り切り、日本兵に対しあらん限りの憎しみを込めて機関銃を連射したのです。

 このシーンは「大東亜戦争はアジアの欧米からの解放戦争だった」などと主張する一部の議論を強く否定するものでした。解放戦争であるならフィリピンの現地婦人が白旗を掲げ命乞いをする日本兵を救うはずです。しかし彼女は、あらん限りの憎しみを込めて連射した。戦中、フィリピンでは抗日パルチザン運動が盛んでした。塚本監督は太平洋戦争が「解放戦争」などでは決してなかったことを示したかったのでしょう。


アメリカの戦争のため自衛隊が地球のどこへも出掛ける
反米テロやゲリラ戦争に自衛隊が巻き込まれる恐れも

 集団的自衛権の行使を可能にする「新安保法制」は参議院に議論の場を移しました。新安保法制が成立しても、「野火」で描写されたような日本兵(今は自衛隊員)の餓死・病死が再現するとは思いません。安倍自民党が仮想敵国に仕立て上げる中国との間で陸上戦闘を伴う本格戦争は起こり得ないからです(日中戦争が起きれば日中だけでなくアジア経済が破滅に向かうからです)。

 しかし、「重要事態影響法」や「国際平和支援法」上の判断のもと、自衛隊が地球の裏側まで出かけてアメリカ軍を後方支援(兵站、補給戦を戦うこと)という形で戦闘に突入することは大いにあり得ることです。アメリカに抵抗するテロ組織やゲリラ組織がアメリカの同盟軍である自衛隊に迫撃砲や機銃掃射を仕掛け兵站を分断、攻撃機への燃料補給を妨害することは大いにあり得ます。

 「野火」ではほかに機銃掃射や手りゅう弾で吹き飛ばされた日本兵の脳髄や手足が極めてリアルに、残酷に映し出されていました。小生、この場面は怖くて見ることができませんでした。アメリカの要請を断れず、重要影響事態法や国際平和支援法に従ってアメリカ軍の後方支援に出掛けた自衛隊員の皆さんがテロやゲリラに機銃掃射されて、「野火」で見たような残酷で凄惨な状態に陥るのを見るのは耐えがたいものがあります。

 この塚本監督の「野火」、あるいは本ブログ3月9日筆で紹介したクリント・イーストウッド監督の映画「アメリカン・スナイパー」をご覧になった後、自衛隊員のご家族はどのような感想をお持ちになるでしょうか。息子さんやご主人に直ちに自衛隊を除隊してほしいと願う家族が出てもおかしくありません。

 安倍総理は「新安保法制」によって戦争への抑止力を高めるといいますが、自衛隊員の除隊が増え兵力が失われれば抑止力どころではありません。彼らの除隊を止める説得力を安倍総理はお持ちなのでしょうか。

2015年7月21日 17:15

アベ成長戦略の模範生? 東芝が犯した「利益至上」の犯罪

(2015年7月21日筆)

 東芝は、石坂泰三、土光敏夫(いずれも経団連会長に就任)と昭和経済史に残る名経営者、財界指導者を輩出した名門企業だ。その東芝が、あろうことか、歴代3社長が自ら利益水増し求める「粉飾」に手を染める不祥事を引き起こした(刑事告発されれば「粉飾決算」となるがそれまでは「不正会計」と称する)。


佐々木社長時代の利益総額の3分の1が「粉飾額」
「経営手腕」を買われて?アベノミクスの知恵袋に

 「粉飾決算」を組織的にリードしたのは西田厚聡(現相談役)、佐々木則夫(現副会長)、田中久雄(現社長)の3代の社長だ。2014年3月期の役員報酬総額は西田氏1億2700万円、佐々木氏1億400万円、田中氏1億1100万円だった。東芝ではこの3名だけが1億円を超す役員報酬をもらっており、この高額報酬は「粉飾決算」が原資だったことになる。

 東芝の第三者委員会が認定した2008年度~13年度まで6年間の決算「要修正額」は、初めに粉飾に手を染めたとされる西田社長当時の2008年度が288億円だった(それ以前は第三者委員会の調査期間外であるため解明されていない)。最も多かったのは佐々木社長当時で、2009年度~12年度の4年間で1691億円だった。田中社長当時の2014年度は67億円だ。

 佐々木時代の「要修正額」つまり「粉飾額」1691億円は、当該4年間の利益(税引前利益)総額5283億円の32%、約3分の1にあたる。リーマンショック以降、円高と不況でパナソニック、シャープ、ソニーなど同業の総合電機メーカーは塗炭の苦しみにあえいだ。対して、佐々木社長下の東芝は、いち早く利益を回復、立ち直ったかに見えた。だがそれは、粉飾決算の賜物だった。

 しかし佐々木社長はこの「利益回復」の手腕を買われてか、2013年1月、安倍総理の知恵袋「経済財政諮問会議」の民間議員に取り立てられた。6月には日本経団連副会長に就任している。その後、経済財政諮問会議の民間議員は榊原経団連会長と交代したが、諮問会議傘下の産業競争力会議の民間議員に横滑りした(本日午前、佐々木氏から甘利経済再生相に対しすべての公職を辞任するという連絡があったと報じられた)。


東芝は他に先駆けて「委員会設置会社」に移行
不正防止の役に立たなかった社外取締役(監査委員)

 経済財政諮問会議とその傘下の産業競争力会議は、アベノミクスの第3の矢である「成長戦略」を描く会議だ。安倍内閣の「成長戦略」の特徴は、第一に「稼ぐ力」を高める企業行動を引き出すこと、第2にそれを支えるコーポレートガバナンス(企業統治)を確立する点にある。

 産業競争力会議などは「稼ぐ力」の目安に上場企業のROE(自己資本利益率)を置き、これを8%以上に引き上げるとしている。ROE経営の眼目は株主資本(自己資本)に対する利益率を引き上げることにあり、株価上昇による株主利益(企業価値)の最大化をめざす。安倍「株価内閣」の肝になる考え方だ。

 一方、コーポレートガバナンスとは、「企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を総合的にとらえ、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組み」(ウィキペディア)をいう。これに従えば「企業の不正行為の防止」と「競争力・収益力の向上」がコーポレートガバナンスの両輪になる。

 東芝は、2003年に他社に先駆けて「委員会設置会社」に移行、コーポレートガバナンスの確立に積極的に取り組んできた。「委員会設置会社」では経営の執行役(社長、専務、執行役員)と執行役を監督する取締役会に分けられる。その取締役会の中に経営を監視する監査委員会、取締役候補を選ぶ指名委員会、経営陣の報酬を決める報酬委員会の三つの委員会を設けている会社だ。

 東芝では三つの委員会に社内取締役のほか独立性が強い4名の社外取締役を参画させ、「企業の不正行為の防止」などコーポレートガバナンスの強化に取り組んでいるはずだった。この東芝の取り組みも産業競争力会議などの議論に生かされ、安倍「成長戦略」の策定に貢献したに違いない。そのコーポレートガバナンスの先駆者、アベノミクスの模範生が「粉飾決算」を犯していたのだ。東芝は経営を監視する「社外取締役」への信頼を深く傷つけることになった。

 東芝の第3者委員会は、報告書の中で「(東芝の)監査委員会には財務・経理に関する監査を担当する常勤の監査委員が実質的に1名しか存在しないという状況であり、3名の社外監査委員の中には財務・経理に関して十分な知見を有している者はいなかった」と指摘している。

 東芝の「監査委員会」に参画していた3名の社外取締役(監査委員)は、元ブラジル大使と元中国大使の外務省出身2名、外資系投資会社出身の女性1名でとても「財務・経理に十分な知見を有しているとは言えない」。もう1人の社外取締役は著名な経営学者(一橋大学元教授)だが、彼は監査委員会には参画していなかった。これでは粉飾決算を見分けることはできない。


「利益至上主義」とコーポレートガバナンスが相反
総理お勧めの「ROE経営」は利益至上に陥りやすい

 東芝の第3者委員会は、「予算を達成するために当該カンパニー(筆者注=事業部や子会社)は社長から厳しい『チャレンジ』(過大な目標設定)数値を求められ、(中略)、これらの目標を必達しなければならないというプレッシャーを強く受けていた」と指摘、これを利益至上主義と断じている。また上司の意向に逆らえない企業風土が不正会計を生んだとも指摘している。

 東芝経営では、コーポレートガバナンスのもう一つの目的である「競争力・収益力の向上」、第3者委員会の言葉を借れば「利益至上主義」のほうが「企業の不正行為の防止」という目的をはるかに上回っていたというほかない。「利益至上主義」を実現するために、経営監査の能力が全くない社外取締役を置いたと疑われかねないだろう。

 先に粉飾事件を起こしたオリンパスでも今回の東芝でも社外取締役はまったく機能しなかった。それでも安倍政権は社外取締役の導入に熱心で、5月施行の改正会社法で社外取締役を置かない会社に対し「置かない相当の理由」を説明するように求めた。これを受け東証は一部、2部上場会社に2名以上の独立社外取締役を選任することを義務付ける「コーポレートガバナンス指針」を設定した。

 その結果、社外取締役の選任ラッシュとなっている。大企業の社外取締役は、年間十数回の取締役会への出席が求められるが、その年間報酬は平均1000万円にもなる。社外取締役の選任者は元経営者、弁護士、会計士など経営監視のプロもいるが、元官僚、学者、評論家、スポーツ選手など経営には無縁な選任者が少なくない。元官僚には格好の天下り先で数社掛け持ちのツワモノもいる。彼らに「企業の不正行為の防止」の役割を求めることは不可能に近い。

 東芝の例で明らかのように「利益至上主義」は粉飾決算の原因になる。株主利益だけを求める「ROE経営」は利益至上主義に陥りやすい。このような利益至上経営を推し進めるアベノミクスを放置したままでは、「独立社外取締役」など無用の長物、コーポレートガバナンスもまた絵に描いた餅になる。

2015年7月13日 16:19

新安保法制と新国立競技場に示された民意に耳を貸せ

(2015年7月13日筆)

 時々の国民による政権への支持や評価は世論調査に示されるが、安倍政権になってから政権に批判的な朝日新聞(TVではテレ朝)、毎日新聞(TBS)、政権に親和的な読売新聞(日テレ)など媒体によって世論調査の結果に大きな差が出てくるようになった。

 安倍総理と取り巻きは、朝日系や毎日系の世論調査は質問が反対を誘導するようになっているため悪い結果が出やすい、それより公正な質問をする読売新聞系の世論調査のほうが信頼できるといわんばかりの姿勢を示している。


朝日に続き読売傘下の日テレ調査でも内閣支持率40%割れ
しかも安倍内閣の不支持率が初めて支持率を上回った

 6月20日、21日に実施された朝日新聞の世論調査では安倍政権には不都合な内閣支持率になった。内閣支持率は39%(前回45%)へ急低下、第2次安倍政権発足以来の最低を記録した。衆院憲法審査会で3人の憲法学者が揃って集団的自衛権の行使は憲法違反だと述べたあとだったからだ。

 しかしネットの書き込みでは「あれはアンチ安倍の朝日の世論調査だから」と一蹴する向きが少なくなかった。安倍総理周辺も、朝日の後の読売新聞の世論調査を待った方がよいと思ったのではないか。

 その安倍シンパの読売新聞の世論調査の最新結果(7月3日~5日実施)が発表された。それによると、安倍政権の支持率は前回6月調査の53%から4ポイント低下、49%と5割を割り込んだ。下がった理由について、自民党の大西英男議員(小生と同姓、恥ずかしい限りだが)などによる『「報道規制」発言が影響したとみられる』(「読売新聞」7月5日付)と解説している。読売は「憲法違反」の指摘によって新安保法制への世論の反発が強まったとは解説しなかった。

 それはともあれ、下がったとはいえまだ50%近い支持率がある、民主党政権当時に比べれば安倍支持は安定していると読む向きもあるだろう。

 しかしその後実施された読売新聞の傘下にある日本テレビ(NNN)の世論調査(7月10日、12日実施)では予想外だった。内閣支持率は40%を割り込み39.7%へ低下、朝日新聞の7月調査とほぼ同水準の支持率になった。

 驚くべきは、日テレの7月調査では、内閣支持率(39.1%)と不支持率(41%)が逆転、第2次安倍政権では初めて不支持率が支持率を上回ったことだ。総理がお嫌いな(お読みにならないとか)朝日新聞の7月調査では、わずかだが支持率(39%)が不支持率(37%)を上回っていたのに......。


読売調査でも80%が安保法制に対する「政府説明は不十分」
日テレ調査では83%が新国立競技場は「建設計画を見直すべき」

 なぜ安倍内閣の支持率が急低下しているのか、その理由を読売新聞の世論調査に結果に聞いてみよう。

 一つは「新安保法案」をめぐる批判だ。読売の7月世論調査ではでは「政府与党は安全保障法案の内容を十分説明しているか」という問いに対し「十分説明していない」が80%に達した。さらに「今国会での法案成立」に「反対」が63%(前回59%)に上昇、「賛成」の25%(前回30%)を大きく上回った。

 安倍シンパの読売調査ですら回答者の8割が法案内容の説明になお納得せず、法案審議が進めば進むほど反対が増えるという異常な事態になっている。この状態で新安保関連法案を強行採決すれば、支持率はさらに下がり読売新聞の世論調査でも40%割れに接近するのではないか。

 もう一つは、新国立競技場の建設計画をめぐる批判の噴出だ。読売の世論調査では新国立競技場の建設計画を「見直すべきだ」と答えたのは女性で実に83%にのぼり、男性でも78%だった。日テレの世論調査でも82.9%が「建設計画を見直すべきだ」と答えている。これも支持率低下の原因となっている。

 2020年東京5輪のメイン会場となる新国立競技場の建設費が予定をはるかに上回ることへの疑問は本ブログ「下村文科相は新国立競技場の工費膨張の理由を開示せよ」(6月16日筆)でも書いた。しかし、事業主体の日本スポーツ振興センター(文部省の外郭団体)は工費膨張の理由を大雑把に述べただけで、下村文科相と安倍総理は直接工費2520億円(さらに拡大が濃厚)、完成後の維持管理費1046億円という巨額の建設計画をそのまま認めてしまった。

 安倍シンパの読売新聞もさすがにこれはまずいと思ったのか、「代償伴う愚かで無責任な決定」(7月9日社説)と新国立競技場の建設計画決定をこき下ろした。読売よりさらに安倍総理に近い産経新聞ですら「この建設計画は無責任だ」(7月9日「主張」)と書いた。

 しかし安倍総理は、シンパ媒体の世論調査や新聞社説を無視、これを蹴散らして新国立競技場の建設計画を推し進めるつもりなのだろうか。


世論調査は民意ではない? 絶対得票率24%の自民の傲慢
14年総選挙では新安保も新国立競技場も問われなかった

 世論調査を介して新安保法制、新国立競技場の建設計画に関する国民の意思(民意)は、表現されているのだが、安倍総理はそれに耳を傾ける気はないらしい。世論調査で示された民意は、安倍総理の強引な政治姿勢に対し強い嫌悪感を示し始めているように見える。それでも総理は世論をほとんど顧みないのか。

 安倍総理は、民意は総選挙の結果がすべてで、浮ついた世論調査の結果など民意ではないという考えなのだろう。安倍総理にとって重要なのは昨年暮れに実施された衆議院選挙で獲得した291議席(議席比率61.26%)であり、それこそが強引で独裁的な政治運営を支える根拠となっている。

 しかしこの291議席は、戦後最低となった52.66%という低投票率下で獲得されたものだ。国民の半分近くが棄権した選挙での結果である。

 日本の有権者総数は1億424万人(票)だが、そのうち自民党が獲得した小選挙区での得票数は2546万票、比例区で獲得した得票数は1765万票に過ぎない。得票数を有権者総数で割った比率を絶対得票率というが、自民党の絶対得票率は小選挙区では24.4%、比例区で16.9%だ。安倍自民党は高く見積もっても有権者(国民)の4分の1の民意しか代表していないのだ。

 しかも安倍総理が掲げた総選挙実施の大義名分は「消費再増税の先送り」だった。選挙スローガンは自民党が「景気回復 この道しかない」、連立与党の公明党は「いまこそ軽減税率実現へ」だった。新安保法制の実現などパンフレットの片隅に書かれたに過ぎない。選挙民の多くは、新安保法制への賛否を問われた実感など全くなかったのではないか。

 総選挙で問われなかった重大事案への賛否を選挙民はどのような手段で表すことができるのか。安倍総理は「解散は考えていない」といい総選挙で民意を問う意思がないようだ。とすれば、国民は世論調査(あるいは国会周辺でのデモ)を通じてしか重大事案である新安保法制、重大関心事となった新国立競技場建設への賛否を表明できないことになる。

 そうして表明された圧倒的な民意が、新安保法案については「政府説明は不十分」、新国立競技場については「建設計画の見直し」だった。その結果は、安倍シンパの媒体の世論調査でも同じだったのだ。それでも安倍総理は選挙民の4分の1の民意を獲得したに過ぎない前の総選挙結果を錦の御旗にして新安保法制の法案成立や新国立競技場建設を強行突破する構えだ。

 しかし、世論調査で示された民意を無視、軽視する政党は、次の選挙で選挙民から厳しいしっぺ返しを食うに違いない。議席を確保するために安倍総理にひたすら恭順の意を示す自民党議員、「平和の党」の名を捨て連立維持に汲汲とする公明党議員は次の選挙で大いに苦労することになるのではないか。

2015年7月 7日 09:50

懸命の「株価維持操作」も効き目薄? 危うい中国株バブル

(2015年7月7日筆)

 市場が注視したギリシャ国民投票は、EUが金融支援の条件とする「緊縮策」への反対票が61%を超した。賛成票が反対票を僅差で上回るという事前の世論調査を覆す結果となった。

 この想定外の結果を受け日経平均株価は7月6日月曜日の寄り付き段階で前週末比344円下落したが、その後下げ幅を縮小した。為替市場では円が避難通貨として買われたが、対ドルでは122円台半ばを維持した。


上海株の伸び悩みを受け再び下げた日経平均
なり振りかまわぬ中国当局のPKOも不発?

 ギリシャを除くEU(債権国)が債務国ギリシャへの金融支援を打ち切ることになるのか、交渉を再開し第3次金融支援に踏み切るか、市場にはギリシャ問題の先行きについての確たる予測はない。だが、ギリシャ・デフォルトの影響は限定的であるとする見方が支配的で、不安に揺れた先週6月29日の月曜日に比べ市場の混乱度合いは小さいように思われた。

 しかし、6日前引けから後場にかけ日経平均は再び下げに転じ、一時527円安、2万円割れ寸前まで急落した。東京市場に続いて開いた上海株式市場の株価が、中国当局によるなりふり構わぬ大規模なPKO(プライス・キーピング・オペレーション=株価維持操作)実施にもかかわらず、伸び悩んだからだ。

 7月6日、上海総合指数は寄り付きこそ288ポイント(前週比7.8%高)の急反発となったがその後、急速に値を消し、前週末の3868ポイントを下回る場面もあった。この上海株の伸び悩みを映して日本株は再び下げ足を強めた。

 中国株が崩落すれば、中国人訪日客による爆買い、ブランド漁り(インバウンド消費)や中国人による都心部高額マンションへの投資が止まる。その結果、日本株上昇の立役者となっている内需株相場に終止符が打たれる。遠いギリシャより近い中国の爆買い腰折れ不安が市場を動かし日経平均を押し下げたようだ。

 朝方の急反発は中国当局による「株価維持操作(PKO)」によるものだったが、それが長続きしなかった。そのことへの不安が市場に高まったといえる。


日銀に倣い、大手証券21社がETF(上場投信)買い
急膨張した信用取引の逆回転を止めることができるか

 中国当局は強い影響下にある大手証券21社を動かし、7月6日から約1200億元(約2.4兆円)以上の資金を投入して主力銘柄で構成される上場投資信託(ETF)を購入させることになった。日銀は年間3兆円のETF買いを実施、株価を支えているが、これに倣い中国も2.4兆円のETF買いに踏み切り、株価維持操作を本格化させたのだ。

 日銀と異なるのは上海総合指数4500ポイントという上値目標を設定した点だ。上述の大手証券21社は上海総合指数が4500ポイントに戻るまで保有株を売却しない、投資ファンド25社も数千億元規模で株式を購入、最低1年間は売却しないと約束したという。中国政府は、目標株価を決め証券業界に対し株価を押し上げるための株価操作を要請する異例の策に出たのだ。

 にもかかわらず、上海市場は寄り付き高の後、急速に値を消した。市場で中国株の変調はただごとではないという不安感が強まったとしても不思議ではない。

 過去9か月の中国株の上昇が異常だったというほかない。中国株の代表指数である上海総合指数は昨秋の第一次貸出金利引き下げを機に上昇を開始、2014年10月末の2290ポイントから2015年6月中旬には5166ポイントまで急騰した。わずか9カ月で株価は2.25倍に化けたのだ。

 急騰の主役は個人投資家による信用取引だった。個人投資家は上海証券取引所の売買代金の7割前後を占める最大勢力だ。中国の信用取引は2010年3月に解禁されたが、昨秋の貸出金利引き下げを機に個人投資家による信用取引が膨張した。上海、深圳両証券取引所の信用取引残高は6月中旬の高値時点で昨年同時期の5倍、約2兆(約40兆円)に膨れ上がったと見られる。

 信用取引の膨張によって株価が急騰した結果、10倍前後だった上海総合指数の予想PER(株価収益率)は25倍前後に達した。国際水準の予想PER16倍を大きく超え、企業業績から乖離したバブル株価への警戒感が高まっていた。そんな6月中旬、中国人民銀行への追加利下げ期待が剥落、バブル株価は一気に崩落を開始した。理屈抜きのバブル株価は大きく反落するのが常だ。

 株価が急落すると信用取引の逆回転が始まる。大幅な株価下落により信用取引のための証拠金不足が発生、個人投資家は証券会社から追加証拠金(追証)を迫られることになった。追証が払えず信用で買った株を投げ売るか、証券会社に強制売却させられるか、いずれにせよ売りが膨らみ株価が下落。その株価下落が新たな追証を生み株価下落を加速することになった。

 その結果、上海総合指数は6月中旬の高値5166ポイントから先週末3686まで3週間で28.6%も下落した。7月6日の寄り付き段階の株価維持操作による株価急騰も、信用買いの清算売り場を個人投資家に提供するに止まった。今後も政府による株価維持操作が繰り返されるが、それによって信用取引の逆回転を食い止めることができるか、中国株は緊張状態を続けざるを得ない。


「過剰による不均衡」に解消過程に入り成長減速
株価だけ急騰する「異常状態」は長続きしない

 個人投資家の中には、信用取引の証拠金として積む資金をシャドーバンク(政府が掌握しえない「影の銀行」)などからの高金利の借入金に依存しているケースも少なくない。株式下落で高金利資金の返済に行き詰まり破綻するという個人投資家も出ているようだ。

 中国経済はリーマンショック後の過剰投資によって抱え込んだ過剰設備、過剰債務という「過剰による不均衡」の解消過程に入っている。その結果、10%を上回っていたGDP成長率も年々低下、7月15日発表の2015年4 - 6月期GDP成長率は7%割れが予想されている。

 成長減速下、中小製造業者、不動産業者の破綻、百貨店などの流通業の縮小再編、高金利「シャドーバンク」の崩壊懸念、地方自治体の債務累増危機などが発生している。中国は「過剰による不均衡」のツケを支払う段階にあり、企業業績の先行きには不安が山積している。そんな中で、株価だけが急騰するという「異常状態」が長続きするはずがない、

 日本のバブル崩壊後がそうであったように、「過剰による不均衡」の解消過程では実体経済へ金融緩和の波及効果は弱い。過剰債務を抱える企業に融資は不要だ。緩和マネーは勢い資産投機に向かうが、不動産不況が深刻化する中国の場合、マネーは株式投機に集中することになった。中国政府も株価上昇の資産効果による景気下支えに期待して株式投機を容認する姿勢が濃厚だった。

 実体経済が振るわない状態では、かりに金融緩和と「株価維持操作」が成功しても、それはバブル株価を再来させるだけになる。バブルはいずれ崩壊する。中国もまた、その繰り返しの罠にはまり込むリスクを抱え込んだのではないか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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