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大西良雄ニュースの背後を読む

2015年6月

2015年6月30日 09:33

ギリシャのデフォルトより上海株崩落のほうが怖い

(2015年6月30日筆)

 週明けの6月29日、日経平均株価は596円下落、今年最大の下げを記録した。円も一時、対ドルで2円、対ユーロで4円急騰、波乱の幕開けとなった。

 EUなど支援国(債権国)と債務国ギリシャとの金融支援協議が決裂、ギリシャのデフォルト(債務不履行)が現実味を帯びたためだ。

 日本市場の後に開いた上海市場では上海総合指数が一時7.6%も下落、大引けでも前週末比-3.3%の下落となった。日本株の下落率-2.8%を上回る。上海株は6月15日に5174ポイントの高値を付けた後急落、29日の大幅下落を加え2週間で25%の下落を記録した。「上海株のバブル崩壊ではないか」いう声も聞かれた。

 ギリシャ危機の震源地、現地26日の欧州市場ではドイツが3.5%下落、フランスも3,7%下落となった。米国のNYダウは350ドル安と今年最大の下げ幅となったが下落率は1.9%に止まり、株価のアンカー(いかり)役になる期待が高まった。日本株には、ギリシャ危機より、それが飛び火して上海株バブルが崩壊する悪影響のほうが気掛かりになる。


ギリシャが陥った「財政緊縮」のジレンマ
GDPが約3割縮小、税収増えず財政が悪化

 ギリシャは粉飾財政の発覚(2009年)から財政危機に陥り、2010年4月からEU(欧州連合)、ECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)の金融支援を受け、5年間、財政再建に取り組んできた。だがその成果は芳しくない。

 ギリシャ政府は支援国(債権国)の要求を受け、(1)公務員の人員、給与の削減、年金給与額の削減などによる「歳出削減」、(2)付加価値税(消費税)、自動車など物品税、不動産税の引き上げなどの「増税」、(3)公営部門の民営化による「歳入強化」を実施することになった。中でも歳出削減に増税が重なる「財政緊縮」はギリシャ経済に大きなマイナスの影響を与えた。

 「財政緊縮」の結果、EU支援がスタートした2010年以降、リーマンショックで沈んだ経済がさらに悪化、2010年3001億ドルだった名目GDP(ドル換算)は2015年には2071億ドルへ約31%も縮小した。インフレ率は2011年、12年とプラスをかろうじて維持したが、その後、2013年-0.9%、2014年-1.3%、2015年-2.4%と下落率が拡大、ギリシャはデフレ経済に突入したのだ。

 名目GDPが縮小すれば税収も減る。付加価値税などの増税にもかかわらずギリシャの税収は増えず、財政はさらに悪化した。EUのギリシャ支援プログラムでは名目GDPに対するギリシャの政府債務残高比率を2011年の165%から2015年には153%に引き下げる計画だったが、実際には政府債務のGDP比率は180%以上に拡大している。


反緊縮のチプラス政権誕生で事態がさらに悪化
債権国の金融支援受けられずデフォルト現実味

 今年1月の総選挙では急進左派連合を中軸とするチプラス新政権が誕生したが、チプラス政権は年金給付カット反対など「反緊縮」を公約として成立した政権だ。新政権と一層の財政再建を求めるドイツを中軸とする支援国(債権国)との対立が激しくなり、事態悪化に拍車をかけた。

 チプラス政権は、今年3月末にもデフォルトに追い込まれるという事態に陥った。だが新たな財政再建計画を提出するとして支援国(債権国)から6月30日までの融資延長を引き出し、デフォルトを回避した。しかし、財政削減に不徹底なチプラス政権の財政再建計画は支援国の合意を得られないまま融資期限の6月30日を迎えることになった。

 窮地に陥ったチプラス政権は、年金給付や付加価値税の追加引き上げなど債権国側が求める財政再建策の賛否を問う国民投票を7月5日に実施、国民に判断を委ねるとする緊急策に打って出た。だが支援国(債権国)側はこれを受け入れず、チプラス政権が求める金融支援期間の再延長に応じなかった。

 このままでは、6月30日、邦貨換算で2100億円程度のIMFへの返済が不能になる。かりにIMFはギリシャに返済猶予期間を与えたとしても、ECBが保有するギリシャ国債の償還期限が7月20日にくる。支援国からの融資が再開されなければギリシャがデフォルトに陥ることは避けられない。

 7月5日の国民投票までにどのようなどんでん返しがあるかわからないが、かりにギリシャ政府が金融支援を受けられずデフォルトに陥った場合、どのような影響が世界の金融経済に及ぶかについて考えておく必要があるだろう。


安全網が整備されギリシャ銀行破綻への他国連鎖は小さい
日本にはギリシャ危機より上海株崩壊のほうが影響大

 まずギリシャの銀行破綻の影響だ。ギリシャの銀行ではすでに預金の取り付け騒ぎが発生している。これを避けるためギリシャ政府は6月29日からの7月6日までの銀行休業を発表、ATMからの預金引き出し制限に踏み切った。しかしその後、ECB(欧州中央銀行)がギリシャ中央銀行への資金供給を止めれば、ギリシャの民間銀行は預金引き出しに対応できず破綻する。

 銀行が破綻すれば民間企業の資金繰りが悪化、連鎖倒産を引き起こしギリシャ経済が危機に瀕する。家計は賃金の未払い、年金の支払い停止が重なり生活が窮迫化する。こうした事態を目の前にすれば、ギリシャ国民は国民投票で債権国側の財政再建案(緊縮案)に賛成せざるを得ない(たぶんギリシャ国民は緊縮案を受け入れるだろう。ユーロ離脱をギリシャ国民は選択しないだろう)。

 しかしギリシャ国民が財政再建案を拒否した場合、ロシアや中国などEU以外からの金融支援を受け入れない限り、ギリシャ国債のデフォルト、民間銀行の破綻は避けられない。怖いのはその影響が他国の民間金融機関に及び、リーマンショック時のような金融システム不安を呼び起こすことだ。

 ただ、この5年間で他国の民間金融機関が保有するギリシャ国債、ギリシャの銀行向けの融資の多くは、ECBやECの金融安定化機関、IMFなど公的機関へ振り替わっている。ギリシャの金融破綻が他国の民間金融機関に波及する経路は一応遮断されているといってよい。なおギリシャ全銀行の総預金残高は約1300億ユーロ(邦貨換算約18兆円)で、三菱UFJFGの資金量208兆円の10分の1以下に小規模に止まる。

 29日の他の南欧重債務国の株価は、イタリアが5.1%、ポルトガルが4.7%、スペインが4.5%それぞれ下落、独仏より下落率が大きかった。3国の長期金利も多少上昇している。しかし、2011年の欧州債務危機当時に比べ長期金利は極めて低い水準だ。イタリアを例にとれば長期金利は11年には7.2%まで急騰したが、直近では2.4%台にとどまっている。

 ギリシャを除く南欧重債務国の金融安定度が強まっている背後には、欧州債務危機後に整備された欧州安定化メカニズム(ESM)やECBの緊急流動性支援(ELA)の発動が準備されていることがある。さらに今年3月からECBは量的金融緩和を開始しており、南欧諸国に動揺が広がれば追加緩和に踏み切ることも予想される。これらセーフティネット(安全網)への信頼がある。

 日本の金融機関への波及はほとんど予想されない。国際業務を営むメガバンクや大手生損保によるギリシャ向け債権の保有はほぼゼロになっている(日経新聞6月29日朝刊)。他にギリシャの円建て外債など貸し倒れが予想される債権もあるが、その損失吸収にはほとんど問題はない。

 冒頭で述べたように日本にとって気掛かりはギリシャ危機が上海株バブルの崩壊に飛び火するかどうかだ。上海株の崩落をきっかけに中国経済全体に積み上がった資産バブルの崩壊が加速すれば、日本の景気、企業収益に大きな影響を与えることになるからだ。

2015年6月22日 15:27

国交正常化50年記念式典への日韓首脳の出席を喜ぶ

(2015年6月22日筆)

 東京で昨日開かれた4年ぶりの日韓外相会談で確認されたことだが、本日(6月22日)、日韓国交正常化50周年を記念する韓国政府が開く日本での式典に安倍総理が出席、韓国で日本政府が開催する記念式典に朴大統領が出席する。

 事前には両首脳とも式典に出席しないと報じられていた。歴史認識や従軍慰安婦問題を巡って日韓首脳の不信が解消せず反目が続くと思われていただけに、両者出席の報道を得て何はさておき安堵したという人も少なくないだろう。


「この5年間」で対日本人、対韓国人のイメージは大きく悪化
日韓首脳がナショナリズムとポピュリズムの政治を駆使した結果だ

 日韓両首脳の反目は、日本人の韓国に対するイメージを悪化させ、韓国人の日本に対するイメージを悪化させた。

 朝日新聞と韓国「東亜日報」による共同世論調査(朝日新聞6月22日朝刊)では、54%の日本人が韓国に対するイメージがこの5年間で悪くなったと答え、59%の韓国人が日本人に対するイメージがこの5年間で悪くなったと答えた。イメージが良くなったと答えたのはともに4%に止まった。

 2002年のワールドサッカー日韓共同開催、2003年の「冬のソナタ」以来の日本での韓流ブーム、やや下火だが、今なお続いている「韓国歴史ドラマ」人気などなど、日韓の国民レベルで親近感が強まり互いのイメージが好転した時期もあったが、それもつかの間、イメージは再び悪化したのだ。

 日韓国民間で相互のイメージが悪くなった「この5年間」、安倍総理が3年間、朴大統領は2年間、それぞれ政権の座にあり現在に至る。安倍・朴両首脳の時期に国民レベルでのイメージ悪化が進行したことになるが、両首脳はイメージ悪化をもたらした責任を痛感すべきではないだろうか。

 朝日新聞と東亜日報の共同世論調査の結果を読んで聖公会大学(韓国)・梁起豪(ヤンギホ)教授は以下のように述べている(朝日新聞6月22日)。

 『両国とも相手国のイメージが「悪くなった」と答えた人が過半数だ。その背景には安倍政権と朴政権がすすめてきた、ナショナリズムとポピュリズムを巧みに利用する政治のあり方があると思う。「自らは正しく、相手は間違っている」という両首脳の発信が、国民の意識にも影響を及ぼしている』

 梁教授の見方に同感だ。安倍総理を例に挙げれば、「侵略の定義は定まっていない」などと言って戦前日本の「侵略」と「植民地支配」の歴史を否定してナショナリズム(民族主義、国家主義」を煽る。安倍総理は、歴史認識に対する中韓の批判を嫌う日本の右派国民からの人気を得ようとして、「ポピュリズム(人気取り)」に染まっているのではないか。

 朴大統領もまた、安倍総理の従軍慰安婦問題への対応や歴史認識を強く批判することで自らの政権への支持を高める「人気取り」に堕しているといわれても仕方があるまい。

 総理、大統領という国のトップが「偏狭なナショナリズム」を振りかざして相手国を非難すればするほど、国民はこれに呼応して相手国を強く非難するというのが常だ。そして国民が相手国を非難すればするほど。自らの政権は安泰になるということになる。悪いことにこうした状況をメディアが助長している。


相手国のネガティブな部分を強調し悪感情を掻き立てるメディア
関係好転を望む両国民、メディアはポジティブな部分を紹介せよ

 梁教授は、「こうした状況を後押ししてきたのが、双方のネガティブな部分を強調し、互いを刺激してきたメディアだと思う」とも述べている。これも同感だ。

 日韓を問わず、新聞、テレビ、雑誌あるいはネット情報の中には、相手国の悪い部分だけをあげつらい相手国を蔑む情報を垂れ流している者が多々ある。相手国の悪口を書くことが正義だと本気で思っているメディアもあるが、相手国の悪口を読んで溜飲を下げる一部の国民に売れればいいとする商業主義のメディアも少なくない。その結果、互いに悪感情にとらわれ日韓国民が離反することなどどうでもよいことなのだ。

 朴大統領に関する他紙のスキャンダル記事を引用して転載、名誉棄損で起訴され裁判沙汰となった産経新聞ソウル支局長の例もある。韓国政府が、この支局長を起訴、一時出国停止としたことをジャーナリズムが言論封殺と批判するのは当然だ。しかし、これに悪乗りして日本の外務省が、「我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する重要な隣国」とする韓国に関する基礎データ部分の記載を修正、単に「我が国にとって最も重要な隣国」と簡略化してしまったのはいただけない。

 外務省は、「最も重要な隣国」の大統領のスキャンダル記事を引用した新聞記者の不行跡をたしなめもせず、逆に韓国の評価を引き下げてしまったのだ。ご丁寧なことに安倍総理は帰国を許されたソウル支局長を官邸に招き労をねぎらった。産経新聞は皆さんご存知の通り、韓国叩き、歴史修正主義の先頭に立つメディアだ。これでは朴大統領が安倍総理に強い不信感を抱いたとしても何ら不思議ではない。

 先述の共同世論調査では、「あなたが持つ韓国(日本)のイメージに主に影響を与えたのは、次のうちどれですかとも問うている(2つまで選択可能)。結果は、日本人の76%、韓国人の65%が「メディア」と答えた。両国ともダントツの一位回答だ。両国首脳による「偏狭なナショナリズム」と「巧妙なポピュリズム」に無批判に迎合して悪感情をあおるメディアにも大きな問題がある。

 深く長い歴史的関係をもつ日韓両国民が互いに悪感情を抱くことでプラスになることは何もない。日韓国交正常化50周年を迎えるのを機に、日韓のメディアは「相手国のネガティブな部分」を書きたてるのを一時休止し、「相手国のポジティブな部分」を紹介するのに専念すればどうだろうか。

 加えて、安倍総理の戦後70年談話が韓国国民の歴史的感情にやさしいものになれば、日韓関係は一気に好転しよう。日韓関係の好転を喜ばない人は誰もいないだろう。日韓関係の好転によって困るのは「嫌韓本」「反日本」や「自国自賛本」が売れなくなって困る一部の出版社、雑誌社だけなのだから。

2015年6月16日 14:29

下村文科相は新国立競技場の工費膨張の理由を開示せよ

(2015年6月16日筆)

2020年東京五輪のメーン会場になる新国立競技場の建設費負担を巡って、下村博文・文部科学大臣と舛添要一・東京都知事が激しく対立している。

下村大臣は国(文科省)の管轄下にある新国立競技場の総工費が想定していた1625億円を上回る可能性があり、総工費の一部500億円を東京都が負担するように求めた。これに対して舛添都知事は「500億円という数字の根拠が理解できない」として、負担押し付けに強く反発している。


総工費見積もりが2転3転、1300億円が最終2500億円に膨張
ロンドン五輪並みのコンパクトな東京五輪ではなかったのか

ちなみに開会式、閉会式が行われるメーン競技場の総工費は2008年の北京5輪では35億元(邦貨換算約693億円)、2012年ロンドン5輪では4億8600万ポンド(同993億円)だった。ロンドン5輪は経費も開催日もコンパクトにするという意味で東京5輪のモデルになった。

小生などは財政難の折、東京5輪がロンドン並みのコンパクト5輪になると思い込んでいたが、それは新国立競技場に関する限り間違いだったようだ。

新国立競技場の総工費の見積もりは膨らんだり縮んだり2転3転、工費の最終負担者である国民、都民にはその理由がさっぱり解らないまま、時間が経過している状態だ。その不可思議な展開は以下の通りだ。

まず、2012年、東京誘致にあたってイラク出身の女性建築家による「流線形・アーチ型開閉式屋根」の設計案が採用されたが、その総工費の算定額は1300億円だった。この段階ですでに同じ8万人収容のロンドン5輪のメーン会場より工費は3割以上高かったが、まだ許容範囲だったかもしれない。

ところが、東京5輪誘致が決まった後の2013年10月、競技場の運営主体であるJSC(日本スポーツ振興センター)が業者に再試算を求めた結果、総工費は3000億円に膨らむことが判明、当初の算定額が1年間で2.3倍に膨れ上がった。総工費はロンドン5輪の実に3倍に跳ね上がったのだ。

慌てた文科省とJSCは設計見直しに着手、敷地面積を29万m2から22万m2へ24%削減するなど規模を縮小した新デザインを公表、2014年5月までに総工費の試算値は1625億円に圧縮された。しかしその1年後の2015年5月、試算値は再び大きく膨れ上がった。文科省は、開閉式屋根の設置を五輪後に先送りする、可動式の1万5000席を仮設にするなど設計変更を追加しても総工費はなお2500億円へ拡大することを明らかにした。


建築費上昇をもたらしたアベノミクスも原因ではないか
下村文科相には総工費膨張の説明責任を果たしてほしい

下村大臣はその総工費2500億円のうち500億円を開催地の東京都が負担してほしいと舛添都知事に要請したのだ。この要請を都知事が受ければ500億円は開催地に住む東京都民の負担になる。新国立競技場を管轄する文科省が負担すれば500億円は日本国民全体の負担になる。

都民の税負担に責任を持つ舛添知事が「どういう根拠で都民が500億円を負担するのか」と下村大臣に問うのは当然だ。しかし舛添都知事だけではなく、新国立競技場建設の最終負担者となる国民あるいは都民にも下村大臣に問う資格は十分あり、大臣はすすんで費用膨張に理由を開示する必要がある。

なぜ当初1300億円だった総工費が3000億円に膨れ上がったのか、それが1625億円に縮小されたのになぜ再び2500億円に膨れ上がったのか、付け加えれば新国立競技場のオリンピック後の年間維持費は35億円とも70億円ともいわれるがその費用は誰が負担するのか、大臣には説明責任がある。

この後は推測になるが、総工費が膨らんだ理由はいくつか考えられる。第一は、コスト面でも建築技術面でも負担が大きい「流線形・アーチ型開閉式屋根」というイラク人建築家の設計案を選んだことにある。選ばれるに至った経緯は『「女性建築家」の「新国立競技場」にGOサインを出した「安藤忠雄」の罪」』(週刊新潮2015年6月18日号)に詳しいのでご覧いただきたい。

東京5輪招致のプレゼンテーションには、安倍総理の「福島第一原発はアンダーコントロール(統御されている)」と並んで「流線形」のメーン競技場がIOC委員の支持を取り付けるためひつようだったのかもしれない。

しかし福島の汚染水はなお「アウト・オブ・コントロール(統御不能)」だ。「流線形競技場」が「トゥーマッチ・スタジアム(過大、過剰な競技場)」であることも明らかになった。そのことを世界と国民に隠して東京誘致に成功したとすれば、安倍総理、下村大臣、猪瀬前都知事は姑息のそしりを免れない。

総工費の拡大は、イラク女性建築家の設計案を採用したためばかりではあるまい。円安誘導によるアベノミクスインフレ(輸入物価の上昇)、大型公共事業予算の連発で発生したボトルネックインフレ(建築費の上昇)、消費増税による転嫁インフレ(建築関連税負担の増加)も大きく影響しているのではないか。

改めて言うが、なぜ新国立競技場の総工費が膨張したのか。その理由を下村大臣は舛添都知事に対してだけではなく国民と都民に詳しく説明する必要がある。膨張の原因がアベノミクスにあるのならその旨も安倍総理や黒田日銀総裁に遠慮せず、公表してもらいたい。初めからずさんな甘い工事見積もりであったなら文科省の責任も明らかにしてほしい。

そのうえで「流線形」スタジアム案を捨て、当初の謳い文句通り「コンパクトな」メーン競技場案に修正すべきではないだろうか。建設に手が掛からないコンパクトなメーン競技場なら、森喜朗氏(東京5輪・パラリンピック組織委員会会長)がご執心の日本開催の2019年ラグビーW杯に建設が間に合うと思うがどうか。

2015年6月 8日 15:14

医療、介護施設に余力のある地方都市に移住できるか

(2015年6月8日筆)

 住む町の近くにいざという時、検査、入院、手術ができる病院はあるか、いつでも入所できる介護施設はあるか。年を取ってくると誰しもわが町の介護施設や病院の充実度が気になってくる。


医療介護施設が不足する都市、余裕がある都市
東京圏では高度医療病院、介護施設不足が深刻化

 この年寄りの心配に応える調査が民間の提言組織「日本創成会議」(増田寛也座長)から出された。調査では、全国330都市を対象に、急性期医療に対応できる病院(急性疾患など緊急・重症な患者に高度な専門的医療を提供する病院)、それと介護を必要とする高齢者などのための介護ベッド数を調べ採点した。

 調査では人口の高齢化が進んだ2025年、2040年段階で、高度な専門的医療の病院、介護施設が「不足する都市」はどこか、病院、介護施設に「余裕がある都市」はどこか、レベル1からレベル7までランク付けしている。

 小生が住まう所沢市を例に挙げると、高度医療の病院に関しては防衛医大病院や国立病院機構・西埼玉中央病院、圏央病院(民間)があるためか、レベル4という中レベルの評価だ。だが、介護ベッド数は高齢化の進展に追い付けず、レベル2の低評価(レベルの高いほうが施設に余裕がある)だ。所沢では高度医療病院はまずまずだが、入所できる介護施設がなかなか見つからないということになる。

 皆さんも日本創成会議のホームページの「全国各地の医療・介護の余力を評価する」にアクセスすれば、お住いの市の高度医療病院、介護施設の過不足を知ることができますので、ぜひご覧ください。

 総じていえば、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の東京圏では、今後、75歳以上の後期高齢者の比率が急速に高まり、高度医療の病院や介護施設の不足が深刻化する。その一方、41の地域(地方都市)では病院、介護施設にまだまだ余裕があるという調査結果となった。


最高レベルの評価を受けた室蘭市と別府市
地縁血縁を捨て地方都市に高齢移住できるか

 この41地域のうち、高度医療の病院ではレベル7、介護ベッド数ではレベル6という調査都市の中で最高レベルの評価をうけた地方都市が2市あった。一つは北海道の室蘭市、もう一つは九州の別府市だ。

 いずれの市も本ブログで紹介した。講演の際に宿泊した登別温泉は室蘭市にある。登別温泉のことは『真冬の北海道・登別温泉で「極楽、極楽」』(2012年1月27日筆)、小生の故郷でもある別府についてはつい最近、「故郷別府をおよそ50年ぶりに探訪しました」(2015年3月30日筆)で書いた。全国有数の湯種、湯量を誇る登別温泉と別府温泉のある地方都市が、医療、介護施設の余力で最高レベルにあると報じられ、感慨ひとしおだ。

 日本創成会議はこの調査に基づく「東京圏高齢化危機回避戦略」の中で、今後医療、介護施設の不足が深刻化する東京圏から施設に余力がある41地域(地方都市)への高齢者の移住をすすめている。高齢者の地方移住が東京圏での高齢化対策費用の圧縮につながる一方、安倍内閣が進める地方創生の一助になるというわけだ。

 であるなら、小生も75歳の後期高齢者になる前に、温泉に毎日浸ることができ、高度医療、介護施設の心配もない、しかも故郷でもある別府市へ移住してみようか、とも考えてみた。所沢でも東京圏でも、高度医療が受けにくくなる、介護施設にも入りにくくなるのだから。そして地方創生のお役に立てるのだから。

 しかし、高齢者の地方移住はそう簡単ではない。第一、地域に根を張り友達が多い奥方を説得できるか、第二、東京圏で働いている息子や娘、その孫たちと離れることができるか(子供や孫が移住先に頻繁に訪れてくれれば幸せだが、航空運賃など高い交通費が訪問を妨げかねない)、第三、信頼するかかりつけの医者や病院から離れることができるか(高度医療施設に余力があっても医師の技量に差があるのではないか)などなど、地縁血縁を断ち切る覚悟が求められる。

 移住先での不安も募る。第一、移住地域の住民に溶け込むことができるか、気候風土になじめるか、第二、地域になじめず溶け込めず、友達もなく孤独死しないか、第三、移住に失敗した時、東京圏に戻れるか、戻る資金、戻る住居はあるかなどなど、不安は尽きない。


施設に余力はあっても医師、看護士、介護士が足りない
少ない税収増、嵩む地方の高齢者医療・介護費の負担

 さらに、高齢者の地方移住の受け皿になる地方自治体が本心から移住を歓迎してくれるかという重大問題がある。本心からの歓迎でなければ、地方自治体による高齢者移住のための環境整備はおろそかになるだろう。

 まず、医療、介護施設に余力があるといっても、地方都市に医師や看護士、介護士など人的パワーに余力があるとは限らない。若年人口の東京圏への移転によって地方の医療、介護の人手、人材不足が著しいからだ。

 病床、介護ベッドが空いていても、患者、要介護者を診察する医師、世話する看護士、介護士が地方に来てくれなければ、宝の持ち腐れになる。移住する高齢者と一緒に医師、看護士、介護士に東京圏から移住してもらう必要がある。人材不足のままでは、地方自治体の高齢者受け入れに本腰が入るまい。

 第二に、移住先の地方自治体に財政余力があるかどうかだ。移住する高齢者の多くは所得が年金に限られる年金生活者だ。移住先に支払う住民税はたかが知れている。移住先が賃貸住宅ではあれば固定資産税も入らない。

 一方、地方自治体が負担する移住高齢者の医療費、介護費は少なくない。受け入れ準備のために医療設備や介護施設に補助金を出さねばならない場合もある。費用は嵩むのに税収は増えない。であるのに財務省は地方交付税・交付金を今後は削減するという。このままでは高齢者移住を本心から歓迎する地方自治体は出てこない。もしあったとしても税収豊富な東京圏からへ貧しい住地方自治体へ財源を移転してくれるなら、という条件付きになるかもしれない。

 というようなことをあれこれ考えているうち、故郷別府へ高齢移住して毎日温泉に浸るという老後の夢がどんどんしぼんでいってしまった。

2015年6月 1日 16:11

いよいよ所得捕捉から資産捕捉へ拡充されるマイナンバー制度

(2015年6月1日筆)

 存立危機事態とは何か、周辺事態と重要影響事態とはどこが違うのか、後方支援とは戦争状態での兵站のことではないのか...。いま国会で審議している「新安保法制」の中身を十分理解できている国民は少ないのではないか。


国民が知らないうちにどんどん拡張されるマイナンバー
新設「医療番号」ともリンク、狙いは医療費の削減

 国民の理解が進まないのに法律をどんどん拡張させるのは安倍内閣の得意技だ。国民がどこまで理解、了解しているか判然としないのにどんどん拡張されているもう一つの重要法が、「マイナンバー(社会保障・税番号)法)」だ。

 マイナンバー制度は、国民すべてに12桁の個人番号(マイナンバー)を配布し、この番号を源泉徴収票や支払調書など税務関係の法定調書、年金、医療、介護など社会保険関係の書類に付番する制度だ。今秋10月にはマイナンバーが住民票の所在地に簡易書留で各個人に送付され、制度がいよいよスタートする。これがマイナンバー制度の第一段階だ。

 第一段階がまだ始まっていないのに、6月中にはマイナンバー制度を拡張させる第二段階の改正案(拡張案)が成立する見込みだ。成立すれば第二段階は2018年1月からスタートする。「改正案」では、預貯金口座、特定健康診査(メタボ検査)や予防接種の履歴、特定優良住宅などマイナンバーを付ける対象が拡充されることになった。後述するが預貯金口座への付番には注意が必要だ。

 さらに5月29日、政府は第三段階目のマイナンバー制度拡張方針を正式に決め、2018年4月から段階的に導入する計画だ。第三段階の目玉は「医療番号」の導入だ。個人の電子カルテや診療報酬明細書(レセプト)に医療番号を付け、システム上でマイナンバー(2017年4月からマイナンバーは健康保険証としても利用可能になる)と連携することになる。

 狙いは医療機関、薬局、介護施設などの間で患者情報を共有することで効果的な治療計画を立てることにあるが、政府の本音は医療機関の二重診療、二重投薬を防ぎ膨らむ医療費を削減することにありそうだ(削減効果は2兆円とも)。財政再建のためとはいえ、病気の内容や病歴、治療内容という個人の大切なプライバシーが当局に漏えいしないか、心配になる。


税務署はマイナンバー付番で所得をほぼ完全捕捉
資産所得も名寄せされ「所得隠し」はむずかしい

 それはさて置き、第三段階のマイナンバーの拡張対象として、医療番号のほかに戸籍、旅券、自動車登録、証券保管振替機構の口座(株式名義書き換えに使われる「保振口座」)が組み込まれた。このうち動産である自動車登録への付番、株券保有者が特定される「保振口座」への付番が注目される。

 税務関係からみた第一段階のマイナンバー制度の狙いは、所得税、住民税の徴収に関係する個人所得の捕捉にあった。

 マイナンバーは、税法に規定された源泉徴収票、各種支払調書など59種類の法定調書、そして確定申告書に付番される。個人は報酬等を支払う事業者にマイナンバーを通知しなければならない。付番された支払調書などは税務署で名寄せされ所得総額は明瞭になる。所得隠しはむずかしい。

 資産所得も例外ではない。2016年1月から、預貯金、債券の利子、株式・投資信託の配当や譲渡益、不動産の賃貸収入・譲渡益など保有資産に絡む支払調書へのマイナンバーへの付番が開始される。新規開設の証券口座は16年1月以降、既存の証券口座は2018年までにマイナンバーを証券会社に通知しなければならない。

 これらを名寄せすることで保有資産から生じる年々の所得はほとんどすべて税務当局が捕捉することが可能になった。資産所得隠しも難しくなった。


次の段階は預貯金口座への付番による個人資産残高の捕捉
基礎的財政収支の均衡が実現できなければ資産課税強化も

 所得というフローの捕捉が定まれば、次は保有資産残高というストックの捕捉という段取りになる。第二段階の預貯金口座、第三段階の自動車登録、「保振口座」へのマイナンバーの付番は、税務当局による個人の保有資産残高の捕捉につながるものだ。

 第二段階(2018年1月から)の、預貯金口座へのマイナンバーの付番は「任意」で強制力はない。聞かれても銀行等へマイナンバーを通知する義務はない。だが麻生財務相は付番の普及度合いを見て、2021年度には銀行等へのマイナンバーの通知、登録の「義務化」を検討すると述べている。

 付番の義務化が実現すれば、各金融機関に散在している預貯金が名寄せされその保有総額が明らかになる。これに第三段階の株券の「保振口座」への付番が加われば、不動産を除く個人の保有資産残高の多くが税務当局に捕捉されることになる。

 税務当局による資産残高の捕捉は、資産家の相続税逃れ摘発、資産家への新しい財産課税の助けになる。低所得者の、資産隠しによる社会保障の不正受給の防止にも大いに役立つ。

 マイナンバー制度を発案した民主党政権下では、低所得者対策としての「給付付き税額控除」のためというのが導入の目的だった。だが、安倍政権では「給付付き税額控除」の議論は吹き飛んだ。マイナンバー制度は国民の理解、了解がないまま、所得捕捉から資産捕捉へと拡張、目的は大きく変質していった。

 安倍政権は2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)均衡という国際公約を堅持しているが、目標達成が難しければ消費税の10%以上への再増税や所得課税、資産課税の強化に迫られる。それに備えるかのようなマイナンバー制度の拡張が国民の了解を得ないまま着々と進んでいるのだ。

 1980年代前半、隠された預貯金口座の名寄せによる資産捕捉を狙った「少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)」の導入法案が自民党や郵政族(その背後にいる資産家や事業家、自営業者)の反対で頓挫したことがあった。その経緯については、本ブログ『知って大変、いずれ資産も丸見えの「マイナンバー法案」』(2012年2月17日筆)を読み返していただきたい。

 預貯金口座へのマイナンバー付番が「義務化」される時、80年代のグリーンカード導入時のような大騒動が再び巻き起こらないとも限らない。安倍政権を支持している資産家のみなさん、「資産捕捉されるなど知らなかった」では済まされませんよ。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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