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大西良雄ニュースの背後を読む

2015年2月

2015年2月23日 14:18

「空き家」を増やす新築優遇の住宅政策を改める

(2015年2月23日筆)

 旧聞に属するが、昨年7月に発表された総務省の「住宅・土地統計調査」(5年ごと実施)によると2013年には空き家が総住宅数の13.5%、820万戸に達したと報じられた。人口減少が続けば将来、空き家率は40%にも達するという予測もあるという。


40年前の「夢のマイホーム」が空き家に化ける
「実家を引き継ぎ住んでくれない」子供の事情


 この報道に接した時、空き家問題は人口流出と高齢化が急速に進む過疎地域の問題だと思っていた。しかしその後、人口稠密で高齢化率が低い東京近郊でも空き家問題が深刻化しているとする報道が相次ぎ、他人ごとではなくなった。

 気が付けば、40年前、小宅とほぼ同時に建てられた隣家も昨年来、空き家状態にある。隣家は勤務医だったご主人が亡くなられた後、奥さんが一人で住んでおられた。しかし、昨年2月、奥さんは癌と老齢による衰えが著しく息子さんに引き取られ隣家は空き家状態にになった。先日、奥さんは亡くなられ、隣家はとうとう空き家になったが、3人のご子息のどなたかが住まれるのだろうか。

 「団塊の世代」の多くが30歳代で東京近郊に住宅、マンションを新築、購入した。団塊の世代には生涯所得の多くをつぎ込んだ高い買い物だったが、人並みの生活を営む「夢のマイホーム」でもあった。それから40年近くが経過、住まう夫婦が老人ホームに入ったり亡くなったりする年頃になった。子供たちが実家を引き継ぎ住んでくれなければ「夢のマイホーム」は空き家に化けてしまう。

 いまや首都圏でも、子供たちに「実家を引き継ぎ住んでくれる」ことを期待するのは難しい時代になったといわれる。実家を引き継ぎ住んでくれるご子息がいる家庭は幸せだが、それは少数派になっているようだ。

 第一、結婚すれば親夫婦、子供夫婦は別居が当たり前となった。子供夫婦は老いた親夫婦の面倒を見るのを敬遠しがち、親夫婦も子供夫婦に面倒を掛けたくないという気持ちが強いからだ。親と同居した子供が宅地を相続すれば相続評価額が80%減額される「小規模宅地特例」が適用されるが、それでも同居はしない子供夫婦が少なくないという。そこに住まねば親の住宅に愛着は湧くまい。

 第二に、都心に近く職住近接の場所に子供夫婦が住む傾向が強まっていることだ。親夫婦の時代は夫だけの給料で何とか家計が維持できたが子供夫婦はいまや夫だけの給料では家計が維持できない、子育てもできない。そのこともあって夫婦共働きが当たり前になった。通勤に一時間半も掛かる実家から職場に通っていては共稼ぎの子供夫婦には時間のロスになる。その結果、子供夫婦は東京近郊でも実家に同居しない、実家を引き継ぎ住まないということになる。

 都市近郊にある親の住宅「実家」でもそうだから、東京、大阪、名古屋など都心圏に住む子供夫婦が、職場から遠く離れた地方にある「実家」を引き継ぐことはとても難しいと言わざるを得ない。賃貸用や売却用を除く住宅の「実質空き家率」では、鹿児島、高知、和歌山、徳島、香川、島根、愛媛など人口減・老齢化が進行する遠隔県の比率が高くなっているのは当然の成り行きだ。


供給過剰下、新築優遇の景気対策が空き家の増加を増幅
新築優遇から遊休資源化している空き家活用に発想転換


 第三は、アベノミクスを筆頭に政府の景気対策、新築優遇の住宅政策が「空き家」の増加を増幅させているという点だ。この点については特に注意が必要だ。

 日本ではすでに1970年代から住宅総数が総所帯数を上回り空き家率が上昇、住宅の供給超過剰時代に入っている。にもかかわらず歴代内閣は景気対策として新築住宅の建設を奨励してきた。住宅融資枠の拡大や住宅ローン金利の優遇などが新築奨励の手段となった。供給超過のもと、政府の後押しで新築住宅が増えれば、その分、空き家が増えていくことになった。

 アベノミクスも空き家を増幅した。国債を年間80兆円も買い上げる日銀の「異次元緩和」は国債利回り(長期金利)を大きく押し下げ、国債利回りに連動する住宅ローン金利は史上最低の水準に低下した。住宅金融支援機構の長期固定型住宅ローン「フラット35」の金利は1.2%~1.45%まで下がった。

 ご丁寧に2014年度補正予算(緊急経済対策)では「フラット35S」の金利を「フラット35」よりさらに0.6%引き下げることとなった。ローン利下げで消費増税によって大きく減少した住宅投資を回復させるというのが狙いだが、利下げで新築が増えれば空き家がますます増えることになる。

 付け加えると、2017年4月の2%消費再増税による景気減退に備えて2016年10月から住宅資金贈与の非課税枠を3000万円(15年1月は非課税枠1500万円)に引き上げるという。資産家子弟を優遇する贈与税減税は不平等を拡大させるだけでなく、新築が空き家の増加をもたらす政策でもある。

 新設住宅着工件数は2000年代には120万戸前後で推移していたが最近では年間90万戸前後まで減少している。人口減少に伴う所帯数減少が続くことを前提にすれば新設着工戸数は今後さらに減少しよう。その状況下で景気対策として新築住宅の優遇政策を繰り返せば住宅需要の先食いとなるだけでなく「空き家」増加を加速させる結果になるのだ。

 もっと早く転換すべきだったと思うが、いまからすぐにでも「新築優遇」政策を止め、遊休資源化している「空き家」資産の活用を進める政策に転換すべきではないだろうか。すでに地方自治体の中には、補助金や固定資産税の減免によって「空き家」を防災拠点や子供の遊び場に転用する政策を打ち出した自治体もある。住宅ローン優遇策は、中古住宅、中古マンションの購入資金やリノベーション(改修・高付加価値化)資金への融資拡大に重点を置いたらどうだろうか。

 発想を転換しさえすればほかにも「空き家」活用の知恵はいくらでも出てくるはずだ。

2015年2月16日 14:32

所沢市の「エアコン」住民投票に行きました

(2015年2月16日筆)

 小生は40年以上、所沢市に住んでいますが、所沢市がニュースになるなどめったにありません。トトロの森の清掃、下草刈り、西武球場での世界バラ展、航空記念公園の気球打ち上げなど季節ネタが取り上げられる程度でした。

 ところが突然、所沢市がNHKから朝日、読売の全国紙まで一斉に全国ニュースになったのです。航空自衛隊入間基地に近接する公立小中校29校の防音校舎へ「防湿工事(エアコン設置のこと)」を計画通り行うかどうか、賛否を問う「住民投票」の実施が珍しく、ニュースに取り上げられたようです。


シングル・イシュー(単一の争点)で民意を問う
「選挙公約」が一括承認される政党選挙の矛盾

 小生は、「エアコン設置」の是非よりシングル・イシュー(単一の争点)で民意を問う「住民投票」のほうに強い興味が湧きました。将来予想される憲法改正をめぐる国民投票の予行演習にもなるとも思うからです。

 政党化した選挙では選挙民は選挙公約(政策)を一括して選ぶしかありません。アベノミクスに賛成して自民党に投票した選挙民は、集団的自衛権の行使容認に反対でも安倍自民党には賛成ということになってしまいます。

 安倍総理は選挙に勝った、選挙公約が一括して承認されたといって、強引に自らの政策を推し進めています。こうした安倍総理の批判票無視の強引な政治に直面し、単一の政策に対する賛否を表明できない政党選挙に苛立ちを感じている小生のような選挙民は少なくないのではないでしょうか。

 今回は、賛否を問われるのは地域限定の小さな争点ですが、政策を直接選ぶことができる「住民投票」ですので、必ず投票に参加しようと思っていました。投票日の15日、小生が家内に「投票に行こう」という前に家内のほうから「時間が空いたら投票に行きましょう」と誘われました。家内は「エアコン設置」の是非のほうに興味があったようです。

 家内は英語塾を開いていますが、その中学3年の塾生に「エアコン設置の住民投票がニュースになっているが、どう思うか」と聞いたそうです。すると塾生は「なんで親の意見を聞いて僕らの意見を聞かないのか」と答えたといいます。

 航空自衛隊のヘリや戦闘機の飛行による騒音被害を避けるための「防音教室」で授業を受けているのは彼ら小中学生たちです。夏場は40度以上にもなる密閉された教室で授業を受ける直接の被害者の生徒にまず意見を聞いて欲しい、という意見は至極まっとうなものです。家内は、その中3塾生の声を代弁するために「住民投票」に行く気になったのかもしれません。


エアコン設置賛成が3分の2近い多数を占めた...
だが投票率は31.54%の低率、どう判断する

 15日の昼過ぎ、夫婦揃って国会議員選挙、地方議員選挙、首長選挙が行われるいつもの投票所に出かけました。投票所は12月の衆院選挙の時もそうでしたが、今回はもっと閑散としていました。その時刻、投票したのは小中学生を持つ中年夫婦、若い子連れの夫婦、それに小生ら老夫婦の3組6名だけでした。

 低い投票率になるのではないかと心配になりました。小生らの投票所近辺の公立小中学校は、入間基地から遠く「防音教室」はなく「防湿工事(エアコン設置)」にも関係がないため、投票者が少ないのではないかと家内は言います。

 所沢市には47の公立小中学校がありますが、そのうち入間基地近辺の29校だけにエアコンを設置するのは不公平だ、残り22校にもエアコンを設置して欲しいという声も少なくないといいます。この近年の猛暑は所沢全域に及んでいるのですから。一部の地域だけ優遇される結果になる「住民投票」には行かないということもあったようです。

 投票結果は、エアコン設置に「賛成」が5万6921票(得票率64.86%)、「反対」が3万47票(同34.24%)となり、賛成票が反対票を大きく上回りました。しかし投票率は31.54%、27万8248人の有権者総数に対し3分の1に満たない低投票率にとどまりました。

 「賛成」は所沢市の有権者総数の20.45%、5人に1人の賛成に終わったということになります。これでは、市財政や環境・子育ての観点からエアコン設置に反対していた市長(元中学教員)が設置賛成へ判断を翻すのは難しい。しかし、投票率が低くともエアコン設置賛成が3分の2近い多数だったという住民投票の「民意」を市長が尊重するということもあり得ます。

 小生ら夫婦は、エアコン設置に「賛成」票を投じました。財源豊かな東京都の公立小中学校へのエアコン設置率は100%近いと聞きます。東京都より夏場の気温が高い所沢市でのエアコン設置率がゼロ%近いというのは納得がいきません。所沢の夏は、子供だから我慢せよといっても、我慢できない暑さです。市長が、設置財源への対応策を含め賢明な判断を下されることを期待しています。

2015年2月 9日 13:29

桜の切り株を砕いて野菜畑を作る

(2015年2月9日筆)

 昨年の夏、5年前に伐採した桜の切り株にキノコが生えているのに気が付きました。切り株は腐っているのでしょうか、芯部分と皮の間に隙間ができ、間にバールを差し込むと簡単に皮がはがれ落ちました。これが苦難の始まりでした。


ノミ、カナヅチ、タガネで桜の切り株を取り除く
「おじさん、何してんの」と4年生坊主に問われ

 桜の切り株は直径50センチ、地面から高さ30センチ、道路に接した東南の角地に根を張り半坪(約1.6平方メートル)ほど支配しています。野菜を育ててわかったのですが、一に陽当たり、二に風通しです。切り株を除去できれば陽当たりと風通しを備えた野菜畑を半坪ほど新しく増やすことができると思い付いたのです。

 早速、大工道具箱からノミ、カナヅチを取り出し、DIY店で平タガネを買い求めて切り株を砕く作業に取り掛かりました。しかし、簡単に砕けたのは切り株の皮部分だけでした。芯部分はひどく堅く切り裂き砕くのは容易ではありません。カナヅチを持つ手の皮は何度も剥け、ノミは刃こぼれして新品に買い替える始末です。

 桜木はもともと堅いうえ芯部分がまだ生きているように思えます。1週間に2日程度、1日2~3時間、椅子に座ってノミ打ち、タガネ打ちを繰り返しているのですが、昨秋に始めて今年2月現在まだ切り株は除去できていません。

 4年生ぐらいでしょうか、小学生が学校帰りに立ち止って「おじさん、何してんの」と不思議そうに聞くのです。小生、「切り株を砕いて野菜畑にする。すべて取り除くのにあと一カ月はかかる、もうすこしだ。」と力を込め答えました。

 一週間後、くだんの4年生坊主がまた立ち止って小生の作業を見ているではありませんか。ばつが悪くて「野菜畑にする。あと一カ月かかる。もう少しだ。」と繰り返しました。すると4年生坊主は「おじさん、この前も同じこと言ってたよ」と言い残してその場を去って行きました。「話の繰り返しは痴ほう症の始まり」といいますが、4年生坊主にそう指摘されたようで口惜しい限りでした。

 考えてみれば、4年生坊主にはノミとカナヅチ、タガネを用いた手作業で何カ月もかけて切り株を切り崩している小生の姿が滑稽に映っているのかもしれませんね。気分は木を伐り、切り株を掘り起して畑を作った開拓民と同じですが、開拓民は根を切って牛馬にひかせて切り株を合理的に取り除いていました。ノミ、カナヅチ、タガネの大工道具で砕いて切り株を除去する開拓民などどこにもおりません。そのとおりです。


ノミを打つ姿は滑稽だが、無心になれる単純作業が好き
福寿草は花芽を出した、春も新しい野菜畑ももうすぐだ

 小生も、ノミやカナヅチで切り株を除去している自分の姿を滑稽に思わないわけではありませんが、「やり始めたらどうにも止まらない」のです。どうも小生、気が短い割に無心になれる単純な繰り返し作業が好きなようです。

 むかし、家内がタピポン手芸に凝っていたことがありましたが、小生もこれにのめり込みました。様々な色の毛糸を使って布に絵柄を描く手芸ですが、布に毛糸を突き刺しループを作って後でそのループをハサミで切る無数の手作業の繰り返しでしたが、これが楽しかったことを覚えています。

 家内は、小生がタピポン手芸を通じて単純作業にはまり込む性格を知ったのでしょう。小生がノミを打ち込んでいる最中に訪れ、家内は「ずいぶん切り株が小さくなりましたね」と皮肉とも励ましとも取れる言葉を発しながら、すぐそばに植えているベビーリーフなど野菜を採取して家の中に消えました。

 野菜のタネまきは3月には始めたいのですが、それまでに切り株を除去できるか、いま正念場を迎えています。寒い日でも陽が差せばノミ打ち作業に取り掛かっています。切り株が地表に出ている部分はあと2週間もあれば除去できます。地表から隠れた根の部分は完全には除去できませんが、いずれすべて腐って土くれに帰るに違いありません。

 除去が終われば、切り株が支配していた半坪の上に、すでに買ってある元肥入りの園芸用培養土(25リットル、398円)を敷き込む予定です。そうすれば半坪の野菜畑は完成します。半坪でも新しい野菜畑が追加されれば貴重です。まだ根が残っていますからジャガイモや根菜類は植えられませんが、サラダや野菜ジュース用の野菜を一種類ぐらい追加して植えることができますからね。

 寒い寒いといっても、庭に植えこんだ水仙や福寿草はすでに地表に顔を出し花芽を付けています。野良猫が掘り起こした地の下ではチューリップが地表に向け芽を伸ばしていました。春はもうすぐです。半坪の野菜畑の完成も間近です。こんど4年生坊主が立ち寄ったら、「どうだ、できたぞ。野菜が芽を出したら見せてやるよ」と言ってやりたいと思います。

 なお、お時間が許せば、このエッセイに関連する2009年10月14日付けの本ブログ『桜木を伐って「老い支度」』も合わせてお読みいただければ幸いです。

2015年2月 2日 16:04

遠ざかる2%物価目標、円安頼み「クロダノミクス」の正念場

(2015年2月2日筆)

 1月30日、昨年12月の消費者物価上昇率が発表された。日銀が物価目標の対象とする「生鮮食品除く総合(コアCPI)」は前年同月比+2.5%だった。消費増税の影響分2%(日銀試算)を除けば上昇率は+0.5%にとどまる。


コアCPI上昇率が低下、異次元緩和直後の水準に逆戻り
原油安を言い訳にするが異次元緩和に効き目に疑問も

 消費増税を除くベースのコアCPIは昨年5月の+1.4%をピークに上昇率が低下、昨年12月には+0.5%まで下がった。これで日銀「異次元緩和」が始まった直後の2013年6月(+0.4%)の水準に逆戻りしたことになる。

 コアCPIの上昇率が「異次元緩和」直後に逆戻りしたとすれば、異次元緩和とは何だったのか、物価引き上げ効果があったのか、アベノミクスの中核であるクロダノミクス(黒田日銀総裁の金融政策)の効き目が問われることになる。

 日銀は上昇率が低下していることの言い訳はもちろん用意している。1月22日、日銀は2015年度のコアCPI上昇率を+1.7%(消費増税の影響除く)から1.0%に引き下げた。その理由について黒田総裁は「物価については基調的な変化に動きはないが、原油安の影響から15年度にかけて下振れしている」と述べた。日銀は、原油価格下落によるコアCPIへの寄与度を-0.7%~-0.8%と試算、ご丁寧にその分だけ15年度物価見通しを引き下げた。

 黒田総裁は「原油安さえなければ異次元緩和は成功している」と言っているのだ。だがこれに対して武藤敏郎大和総研理事長(元財務次官、元日銀副総裁)が日経記者のインタビューに答えて痛烈な皮肉を浴びせ掛けている。「コアCPIの上昇率が2014年前半まで拡大を続けていた要因を突き詰めれば円安による原油価格の上昇だった。逆向きの時だけ原油の影響を言うのでは、シンメトリー(対称な)議論ではない」(日経電子版1月31日付け)と。

 昨年前半までのコアCPIの上昇は主としてドル建て原油価格の上昇とそれを増幅した円安が原因だったが、日銀はそのことには一切触れず、コアCPI上昇は異次元緩和の成果であるかのように言ってきた。しかし、ドル建て原油価格の下落がコアCPIに下押し圧力を与えるに及んで、今度は異次元緩和の効き目には触れず、原油価格の下落にだけ言及する。原油価格を都合よく使って自らの政策を正当化する日銀の姿勢は公平ではないと武藤氏は言っているのだ。


インフレ期待醸成、ポートフォリオ・リバランスに成功したか
外国人投資家が離散、頼みの資産効果と円安効果も今や息切れ

 日銀「異次元緩和」が当初の目論みどおり機能しているとは言いがたい。黒田日銀が2013年4月異次元緩和に踏み切った時の説明を思い出していただきたい。異次元緩和の波及経路と効果について、①インフレ期待醸成による消費・投資の前倒し効果、②金融機関のポートフォリオ・リバランス(資産組み換え)による融資拡大の効果、③株・不動産など資産価格上昇による資産効果の3つを挙げていた。この説明には、通貨切り下げ競争への懸念からか、④量的緩和拡大による通貨価値引き下げ(円安)の効果は含まれていなかった。

 このうちクロダノミクスの中核である1番目のインフレ期待醸成、2番目のポートフォリオ・リバランスはいまだその効果を発揮していない。皮肉なことに消費・投資の前倒しはインフレ期待醸成ではなく3%消費増税によって引き起こされた。融資の拡大は海外融資の拡大や国内企業の海外企業買収が中心で、国内融資の拡大はいま一つ、盛り上がりに欠ける。国内の期待成長率が上昇しなければ国内融資は増えるはずがない。日銀に保有国債を売って得られた民間金融機関のマネーは日銀の当座預金口座に積み上がったままだ。

 結局、クロダノミクスは、3番目の株式・不動産の価格上昇による資産効果と4番目の、日銀が公式には認めていない円安効果の2つルートが頼りだということになる。しかし、そのほんらい脇役であるはずの2つのクロダノミクス効果すら、外国人投資家の日本株からの離散によって危うくなっている。

 安倍政権の1年目、2013年の外国人による日本株買い越し額は15兆1196億円に達したが、2年目の2014年はわずか8526億円の買い越しにとどまった。民主党政権当時の2012年でも外国人は2兆8264億円買い越していた。14年はそれすら大幅に下回った。2015年は年初から2週間で外国人は8800億円強も売り越している。

 アベノミクス、その中核たるクロダノミクスに外国人はもはや魅力を感じられないのかもしれない。安倍総理がウォール街に行って「アベノミクスは買いだ」ともう一度叫んでも外国人は兜町に戻ってこないのではないか。

 ヘッジファンドなど外国人の日本株買いは円のヘッジ売りを伴い円安を演出してきた。今後は外国人投資家の離散で円のヘッジ売りが縮小、円安の進行を妨げる。ECB(欧州中央銀行)が日銀との量的緩和競争に参入したことも円安には痛手だ。日欧の緩和資金による米国債買い(その結果、米長期金利が低下)に伴い日米金利差が縮小傾向にあることも円安進行の妨げになる。もう一段のドル高円安が市場の思惑通り進むとは限らない状況になっている。


クロダノミクスとアベノミクスの間に相次ぐ亀裂
2%目標先送り必至だが異次元緩和を終了できるか

 日銀がひそかに期待する「円安」という最大の物価引き上げルートは、政治的にも行き詰まり状態にある。円高是正が終わった後のさらなる円安は、原材料輸入物価の上昇による食品値上げを加速させる。それだけではなく日本経済と消費者が享受するはずの原油価格下落のメリットを大きく殺ぐからだ。

 内閣府は、原油価格が50%下落すれば名目GDPが1年目1.2%(5.6兆円)、2年目1.7%(8.2兆円)押し上げられるとする試算を1月23日の月例経済閣僚会議に提出した。これを受け1月の「月例経済報告」では「2%物価目標をできるだけ早期に実現する」とする文言が2年ぶりに削除された。

 安倍内閣は、黒田日銀が昨年10月に続く2度目の追加緩和に踏み切り強引に円安(輸入物価引上げによる目標実現)に持ち込むことを明らかに嫌がっている。2%物価目標の早期実現に固執するクロダノミクスと原油下落による景気上昇を優先させるアベノミクスと間に再び亀裂が生まれたといってよい。消費再増税の先送りに続く亀裂だ。

 コアCPI上昇率が+0.5%に低下した今、日銀が固執する「異次元緩和から2年程度(2015年半ば)でコアCPI上昇率の2%を実現する」という目標は、事実上、不可能になっている。日銀による2%目標達成時期の先送りは必至の情勢だ。

 新しい日銀のコアCPI見通しに従えば、2015年度は+1.0%、2016年度は+2.2%となっており2%物価目標の達成は2016年度になる。しかし目標達成時期を2016年度に先送りしたとしても、16年度末直後の2017年4月には2%の消費再増税が待っている。安倍内閣としても消費再増税の前に異次元緩和を終了し景気を冷え込ませるわけにはゆかないだろう。消費再増税を異次元緩和終了より優先しようとする安倍内閣と異次元緩和終了の出口を模索する黒田日銀の間で再び亀裂が走ることになる。結局、黒田日銀は押し切られ、異次元緩和終了を先送りせざるを得なくなるに違いない。

 こうなると日銀は年80兆円もの国債を際限なく買い続けることになる。日銀の国債保有残高はどんどん膨らみ市場の信認が失われ、ますます異次元緩和の終了(出口)が難しくなる。そうならない前に、これまでの異次元緩和の効果をしっかり検証し、2%物価目標の継続が妥当なのか、他に、例えば名目GDP成長率のようなコアCPIに代わる政策目標があり得ないのか、政府と一体になって検討する必要があるのではないだろうか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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