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2014年11月10日 11:54

奪われた家計(預金者)の得られるべき巨額な金利所得

(2014年11月10日筆)

 日銀の追加金融緩和について、現役時代に爪に火をともして蓄えた預貯金の金利収入と年金収入しか所得がない高齢者家計の立場から考えてみたい。


100万円定期預金しても金利収入は年250円
物価が上がっても年金は減額、どうなる老後の設計

 追加緩和では日銀は長期国債を30兆円買い増し年間80兆円買い入れることになった。新規国債の年間発行額が約40兆円だからそれをすべて買い上げても40兆円余る金額だ。

 日銀はこれだけ大量に国債を買い込むことによって国債価格を引き上げ、長期金利を引き下げることを狙っている。短期金利は日銀が短期国債を買い上げすぎて一時マイナスになってしまった。その結果、我々の預貯金利率は上昇するどころか、ますます下がるのだ。

 いま、メガバンクの1年定期預金に100万円を預けたとする。預金利率が年1%であれば1万円の金利収入が得られるが、現在は0.025%だから年間の金利収入はわずか250円だ。1000万円預けても年2500円の金利収入に過ぎない。いまや金利は預金通帳に描かれたシミといわれている。

 しかも3%を超す消費者物価上昇率のもとでは、0.025%の金利ではマイナスの実質金利収入になる。預金元本も物価上昇分目減りすることになる。年金収入は、国民には極めて分かりづらい「マクロ経済スライド方式」に従って年々減額されている。物価が上がれば年金が増えるという物価スライドなどないに等しい。

 もし来年、追加緩和による円安をテコに2%消費者物価上昇という日銀目標が実現すれば、3%消費増税による物価上昇分がなくなったとしても、実質金利収入の減少、預貯金の目減りは続くことになる。また年金保険料を負担する現役世代が増えない限り「マクロ経済スライド方式」に基づき年金支給の減額も続くのだ。

 これでは、現役時代に目論んだ金利収入と年金収入による安定した老後生活など夢また夢、泡となって消えることになる。


2%利率が上がれば金利収入増で消費増税分は取り戻せる
物価が高いのに金利が低い―日銀が築いた世界の非常識

 日銀の資金循環統計によると2014年6月末現在、家計部門が持つ現預金総額は874兆円、一方、借入総額は302兆円だ。差し引き572兆円の現預金超過だが、かりに1%預金利率が上昇するとすれば家計は差し引き5.72兆円金利収入が増加することになる。これは2%超(消費税1%で2.7兆円の税収)の消費税率引き上げ分に相当する。

 2%預金利率が上昇すれば家計部門の金利収入額は11.44兆円、消費税額4%分に相当する。20%の金利課税を控除しても9.1兆円の金利収入増加となり、3%消費増税分(8.1兆円)はすべて取り戻せることになる。

 2%という定期預金の利率は、日銀の長期金利(10年物国債利回り)決定の方程式(長期金利=期待インフレ率+期待潜在成長率+リスクプレミアム)に従えば、根拠がある。

 現在の期待インフレ率を1%(生鮮食品、消費増税分抜きの消費者物価上昇率)、期待潜在成長率0.5%(日銀は0%台半ばと推計)とし国債のリスクプレミアム分を0.5%分とすれば、これを足せば長期金利は2%になる。これに定期預金利率が連動すれば定期預金の利率は2%になる計算だ。

 方程式は期待インフレ率、期待潜在成長率と「期待(予想)」の文字が付いており数字は不確かだが、長期金利(10年物国債利回り)は現実のインフレ率を上回って決まるというのが国際的な常識だ。

各国の消費者物価(総合指数)上昇率と長期金利(10年物国債利回り)
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 アメリカは直近で、1.7%の消費者物価上昇率に対して長期金利は2.30%だ。以下、ドイツ、韓国、中国も同じで長期金利は物価上昇率を上回っている(上表)。期待潜在成長率や国債のリスクプレミアム(リスク度に応じた金利上乗せ分)を加味すれば長期金利が物価上昇率より高くなるのが自然だ。

 しかし日本は、消費者物価上昇率が最も高いのに長期金利は最も低い。しかも長期金利が物価上昇率より極端に低い(上表参照)。日本国債のリスクプレミアムは世界最悪の長期債務残高を考慮すればもっと高くて不思議ではないのだが、日銀は国債の大量買い上げによって強引に国債のリスクプレミアムを引き下げ、金利を超低金利に抑え込んでいるのだ。


人為的低金利政策の最大の被害者は家計部門(預金者)
日銀が進める金利所得の家計から政府への強制移転

 この人為的低金利政策を「金融抑圧(Financial Repression)」と呼ぶが、日銀に抑圧されているのは金利収入を得られない預金者(債権者)ということになる。

 一方、「金融抑圧」で貸出金利が低下、支払い金利負担が小さくなる債務者は潤う。資金循環統計によると企業部門(民間非金融法人)は債務者だが、現預金保有総額は229兆円、対して借入総額は341兆円で112兆円の借入超過に止まる。2%貸出金利が上昇しても2.2兆円の金利負担増にしかならない。

 近年、企業部門は利益の増加分を借入返済に回す一方、現預金を積み上げてきた。借金が減り現預金は増加する一方で、日銀の「金融抑圧」は企業部門の金利収入の抑圧にもなりつつある。企業が今後も設備投資や人件費の抑制を続ければ現預金残高がさらに積み上がり借入金残高を上回る可能性すらある。

 日銀の人為的低金利政策、すなわち「金融抑圧」で最も潤うのは膨大な長期債務残高を抱える最大債務者である政府部門であることは言うまでもない。「金融抑圧」によって政府部門の国債金利支払いが軽減されている分、家計や企業は本来得るべき金利収入を失っていることになる。

 特に最大の債権者(預金者)である家計は、2%の預金利率であれば得られるはずの金利所得11.44兆円(課税前)を政府に強制的に召し上げられている計算になる。この分は、強制的な徴税に等しい。

 仮にこの金利所得11.44兆円があれば、課税後でも3%消費増税による実質所得の目減りを完全に埋め合わすことができたはずだ。消費増税や円安による個人消費の落ち込みも防げたかもしれない。

 長期金利が上がれば景気が悪くなり企業収益が悪化(政府財政も危機に陥る)、賃上げも実現できず再びデフレに陥るという黒田総裁の反論は十分承知の上で、日銀の「金融抑圧」政策が引き起こす債権者(預金者)から債務者(政府)への金利所得の強制移転の弊害に改めて触れておくことにした。

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QuonNetコミュニティ | 2014年11月10日 12:00
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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