QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2014年11月

2014年11月25日 16:36

過半数維持程度で安倍総理に白紙委任状を与えるのか

(2014年11月25日筆)

 安倍晋三総理は国民の多くが望まない衆議院の解散、総選挙に踏み切った。

 解散声明後の産経・FNNの世論調査では、この解散について「適切だとは思わない」とする回答が72.7%にのぼった。読売新聞の世論調査でも「解散を評価しない」とする回答が65%を占めた。安倍総理に好意的な産経、読売の世論調査でもこの通りだから民意に沿わない解散だったことは明らかだ。


産経、読売調査でも安倍総理の解散には反対が多数
先細りの支持率、総選挙の狙いは権力の維持・再生

 民意に沿わない解散総選挙を決断した安倍総理の狙いは多くのマスコミが指摘している通りだ。狙いは安倍権力の「維持・再生」の一点にある。

 国民の多くは異次元緩和以降の高い消費者物価上昇率、低い賃金上昇率、その結果としての実質賃金の15か月連続マイナスという実情に気が付いた。消費再増税先送りの背後には5年ぶりの2014年度実質成長率のマイナス転換(民間予測)という現実があることも知った。国民の過半がアベノミクスに疑問を感じていることが直近の各種世論調査でも明らかになってきた。

 来年になれば原発の再稼働、沖縄普天間基地代替の辺野古沖の埋立て開始、日米軍事同盟の新ガイドライン、集団的自衛権行使容認にかかる安保法制整備など国民に不人気なアベ・ポリティクスをすすめねばならない。しかも、消費再税先送りの結果、国民が歓迎しない社会保障水準の切り下げだけが着実に進行する。

 安倍総理が頼む内閣支持率はジリ貧状態だ。直近の内閣支持率は不人気な「解散総選挙」も手伝って親安倍の読売新聞で49%(前回比-6%)、産経・FNNでも48.9%(-4.1%)と50%を割り込んだ。対安倍中立の日経新聞では44%、アンチ安倍の朝日新聞では39%と支持率は40%を割り込んだ。

 安倍内閣の支持率は中国、北朝鮮との軍事緊張が高まり日本のナショナリズムが沸騰でもすれば再上昇しよう。しかしそれ以外では今後、支持率が回復する見込みは薄い。国民は特定秘密保護法の成立や集団的自衛権行使容認の閣議決定などで見せた安倍総理の強引な国家運営をまだ覚えている。安倍総理が、来年も「反対民意」に敬意を払わない強引な国家運営を続ければ、内閣支持率は危機ラインの30%を下回る恐れすらある。そうなれば、安倍総理は「権力維持」が難しくなり、念願の「憲法改正」ができなくなる。


政権交代可能な野党不在を見透かした解散総選挙
88議席減の「連立与党で過半数維持」でも勝利?

 であるのなら早いうちに解散総選挙に打って出た方が得策だと安倍総理が考えても何ら不思議はない。内閣支持率はジリ貧だといっても平均してまだ40%台半ばを維持している。安倍自民党に代わる野党各党の支持率は「アベノミクス失速」にもかかわらず軒並み一ケタ台に止まっている。安倍総理が最大のライバルと見なす民主党は選挙態勢が整わないうえ政権党時代の不人気からまだ抜け出ていない。

 安倍総理は110人を超す足腰の弱い初当選議員の多くが落選しても、「自公連立与党で過半数」の238議席さえ獲得できれば自らは「総理」に再選され、次の衆院選挙までの4年間、「安倍権力」を維持できると計算したのだろう。

 しかし安倍総理が勝敗ラインに置いた238議席は自公与党の現有326議席を88議席(約27%の議席減)も減らす議席数だ。勝って当然の野党分裂下でのこの議席減は与党大敗といっても良い数字だが、安倍総理はここまで勝敗ラインを引き下げることで(現実に想定される)30~50議席減でも選挙に勝利した、過半数を維持したとして「アベノミクスと集団自衛権行使容認に代表されるアベ・ポリティクスが国民から承認を得た」と言い張るに違いない。

 現在の衆院小選挙区制は政権交代が可能な2大政党制を目指している。しかし現状では自民党に代わるべき野党が四分五裂、いますぐの政権交代は不可能な状態にある。国民は、政権交代によって安倍政治にノーを突きつける手段を今は持ちえていない。そこを見透かして安倍総理は解散総選挙に打って出たのだ。


アベノミクスを止めれば株も国債も暴落と脅迫される国民
勝っても安倍総理に「白紙委任状」を渡したわけではない

 さらに安倍総理は「アベノミクスを前に進めるか、それを止めてしまうか、それを問う選挙だ」と言い、国民にアベノミクスへの信認を強要している。しかし、アベノミクス最大の成果が海外投機家を呼び込んで実現した株高円安だったことを忘れてはならない。アベノミクスを止めればその逆回転が発生しかねない。

 異次元緩和、追加緩和と続くアベノミクスがいま止まれば海外投機家は日本株から逃げ出し株価は暴落しよう。アベノミクスが止まれば海外投機家たちはシカゴや大阪にある先物取引所で日本国債売りに転じ売り崩して日本国債の値下がり益を狙うかもしれない。その結果、日本国債が急落するかもしれない。

 アベノミクスをいま止めれば悲惨な事態に陥るようにしてしまったのは、海外投機家の「期待(予想)」への働きかけによってしか成立しえないアベノミクス自身だった。アベノミクスはもはや止めることもできない、抜き差しならない状態にあり、国民は薄々、アベノミクスが止まれば日本経済が多大なショックを受けることを知っている。そんな中で安倍総理が「アベノミクスを止めてしまっていいのか」と問うことは、国民を脅迫しているに等しいのだ。

 もちろんアベノミクスへの対案を明示できず、いまだ政権交代勢力としての実態を持ちえない野党にも安倍総理の専横を許した責任の一端はあるだろう。しかし、国民はこの選挙で安倍総理の「専横」に対しいくばくかの批判票を投じるだろう。一方で、国民は野党の不甲斐なさを嘆じながら、自公連立政権に過半数以上の議席を与え続けることになるに違いない。

 にもかかわらず、安倍総理は自公が過半数以上の議席を獲得することで、アベノミクスとアベ・ポリティクスが国民から「白紙委任状」を得たと勝手に理解するに違いない。しかし国民は、過半数を与えたからと言って安倍総理に「憲法改正」に至るまでの「白紙委任状」を与えたわけではない。安倍総理は、今回の選挙では民意を野党議席数の大幅な増加に反映させることができないという、こうした国民の苛立たしさ、もどかしさに耳を傾け、謙虚な国家運営に転じるべきではないだろうか。

2014年11月17日 16:02

消費再増税先送りが決定的、安倍総理・黒田総裁の亀裂も心配

(2014年11月17日筆)

 今朝、内閣府から発表された実質GDP成長率(一次速報)は市場予想から大きく下振れ-1.6%(年率)だった。消費増税後の需要反動減からの民間消費、設備投資の回復が鈍く4~6月期の-7.1%に続くマイナス成長となった。


市場は再増税先送りより連続マイナス成長に反応、暴落
円安による所得格差拡大にもマイナス成長の原因あり

 市場では、7~9月期の成長率が+2%以下であれば再増税先送りと予想されていたが、これを大きく下回り消費再増税先送りは決定的になった。

 これを受け、株式市場は全面安、日経平均株価は一時、先週末に比べ517円の暴落となった。再増税先送り、解散総選挙を材料に買い上がっていた海外ヘッジファンドが、再増税先送りより、予想を大きく下回った7~9月期GDP成長率のほうに強く反応、売り浴びせた格好だ。

 11月16日、豪州ブリスベンで開かれたG20(20か国・地域首脳会議)でも日本とEUの「低成長」が懸念されていたが、日本のGDPが2期連続のマイナス成長に陥ったことで海外では改めて日本のマイナス成長への懸念、ひいてはアベノミクスへの疑問が強まったことになる。

 論者の間では、この連続マイナス成長の原因がいったい何かについて様々な議論が出てこよう。浜田宏一(エール大学名誉教授)、本田悦郎(静岡県立大学教授)の両内閣官房参与など量的緩和至上派は、マイナス成長は3%消費増税による実質所得の減少が原因だと主張するに違いない。安倍総理はこれに乗って消費再増税先送りに踏み切ろうとしている。

 一方、「アベノミクス円安」による輸入物価上昇と消費増税の転嫁値上げが重なり(これに賃金上昇が追い付かず)実質所得が大きく減少したことがマイナス成長の原因だという見方がある。特に地方経済、中小企業、低所得者の円安・物価高による疲弊は著しく、これが消費減退の原因になったという。

 この見方の背後には一部に所得が集中、貧困層が増加し所得格差の拡大、これが消費減退、需要不足の原因だとする先進国に共通する「長期停滞論」がある。  

 日本では資産家と資産を持たない勤労者、円安の恩恵を受けるごく少数の輸出大企業と円安によるコスト増に苦しむ中小企業―それらの間で所得格差が拡大、これに人口減少による成長下押し圧力が加わる。外国人投機家頼みの「株高円安」に依存するアベノミクスでは日本の現状の停滞は解決できないという。


安倍総理と黒田総裁の「アベクロ連携」に亀裂
2人の内閣官房参与も盟友だった黒田総裁を非難

 今回の「消費再増税先送り」をめぐって、もう一つ、気掛かりな点がある。それはこれまで密接だった安倍総理と黒田日銀総裁の「アベクロ連携」に亀裂が入ったのではないかという懸念だ。市場はこの亀裂に敏感になっている。

 アベノミクス最大の推進者・黒田日銀総裁は、9月4日の金融政策決定会合の後の記者会見でこう語っていた(日経2014年9月5日朝刊)。

 「再増税先送りで財政健全化の意思、努力が市場から疑念を持たれるということになると政府・日銀としても対応のしようがない。他方で、予定通り増税した場合に予想以上に経済の落ち込みが大きくなるという事があれば、財政金融政策で対応できる。確率は低いと思うが再増税が行われなかった場合は対応が難しいという意味で、リスクは大きい」

 黒田総裁は、消費再増税を先送りすれば市場が日本政府の財政健全化への意思を疑い、日本国債が売られ長期金利が急上昇する恐れがあり、その恐れがいったん表面化すれば、政府も日銀も手の打ちようがないといっているのだ。

 しかし安倍総理の消費再増税先送りは、黒田日銀総裁の発言とは明らかに対立するものだった。消費再増税先送り説が急浮上した先週、黒田総裁は衆参両院の委員会で「今回の追加緩和は消費再増税を前提にしたものだ」と発言している。

 この発言は、これまで密接だった安倍総理と黒田総裁との経済政策をめぐる「アベクロ連携」に亀裂が入ったことをうかがわせるに十分なものだった。

 「アベクロ連携」に亀裂が入っているとうかがわせる証拠はほかにもある。安倍総理の経済政策ブレーンであり消費再増税先送り論者でもある浜田、本田内閣官房参与は、先送りに反対する黒田総裁を以下のように批判している(「文芸春秋」14年12月号の対談「アベノミクスはこのままでは崩壊する」)。

 本田 日銀の黒田東彦総裁が「増税を延期したら、国債の信認に傷が付くリスクがある」と中央銀行総裁としての守備範囲を超えた発言をしましたが、...(以下略)。
 浜田 黒田総裁はいつ変わられたのでしょうね(笑)。黒田総裁は金融政策については素晴らしい総裁なので批判したくないのですが、こと税の話になると、財務省主税局のDNAが垣間見えます。(以下略) 

 こうした「アベクロ連携」の亀裂を読んで、海外投資家に大きな影響を与えるアメリカの投資雑誌「バロンズ」は、最新号で「黒田日銀が追加緩和を縮小することもあり得る」と書いたという。

 バロンズ誌の「追加緩和縮小」観測が実現すれば株価はさらに急落しよう。18日~19日に開かれる日銀金融政策決定会合が注目されるが、さすがに日銀も追加緩和を実施したばかりで朝令暮改はできないだろう。しかも7~9月期GDP成長率がマイナスで景気減速が鮮明となり、再増税先送り反対の黒田日銀総裁も沈黙せざるを得なくなった。

 しかし今回の「アベクロ連携」の亀裂は尾を引く可能性がある。黒田総裁にすれば、日銀による財政赤字の補填という批判を承知で長期国債を大量に買い上げることで金利急騰を抑え込み、一方、管理相場の批判を受け流してETFやREITの買い増しによって「株高、円安」を再演出した。それもこれも、消費再増税が可能な経済環境を整えるためのものだったという思いが残ったはずだ。


消費再増税実施の2年半後までに何が起こるかわからない
膨大な日本国債を抱えたまま日銀は量的緩和の出口を見失う?

 「1年半先送り」となると消費再増税の実施は今から2年半後の2017年4月になる。この間、日本経済に何が起こるかわからない。

 たとえば現在下落している原油価格がOPECの減産や地政学リスクの表面化などで再上昇すればどうなる。これに追加緩和による大幅円安が重なれば物価が急上昇、2%物価目標を上回って上昇するかもしれない。その場合、日銀は物価急上昇を止めるため、量的緩和を縮小する必要がある。しかし消費再増税先送りで国債累増が続いており、財政は金利引き上げに耐えられない。そうなると日銀は量的緩和を縮小できなくなり、物価急上昇のもとで量的緩和を継続すればインフレが加速しかねない―。

 一方、アメリカの景気回復が一巡(あるいは資産バブルが崩壊)した場合、どうなるか。米国は量的緩和再開(金利引き下げ)を余儀なくされるが、そうなると日米金利差の縮小によって今度は円高に転じ輸入物価が下落、2%物価目標が達成されず景気も下降、日銀はさらなる追加緩和を求められる。そうなると日銀はいつまでも長期国債買い上げを続けることになる。そんな時期に消費再増税が実施されれば景気の減速が加速することになる―。

 いずれの場合も日銀は量的緩和を終了できなくなるわけだが、消費再増税までの2年半(30カ月)、毎月8兆円の長期国債を買い続ければ日銀は240兆円の国債を買い増すことになる。11月10日現在の保有国債残高が241兆円だから合わせて2017年4月には480兆円もの国債を日銀は抱え込む。 

 これは現在の日本の名目GDP 483兆円に匹敵する規模で、国債発行残高の半分近くを日銀が買い上げることになる。通貨の番人である日銀がかくも膨大な(値下がり不安の大きい)国債を保有させられたうえ、場合によっては量的緩和の終了(出口)が見通せない状態に陥るのだ。

 もう一度言うが、今後2年半、消費再増税までの間、日本経済に何が起こるかわからない。そんな中で日銀の保有国債残高は累増するのだ。そのような状態で、どのように市場の信認を繋ぎとめることができるのか。安倍総理と黒田総裁の「アベクロ連携」が亀裂したままでは、市場の信認を到底繋ぎとめることができない。どうなるのだろうか、心配だ。

2014年11月10日 11:54

奪われた家計(預金者)の得られるべき巨額な金利所得

(2014年11月10日筆)

 日銀の追加金融緩和について、現役時代に爪に火をともして蓄えた預貯金の金利収入と年金収入しか所得がない高齢者家計の立場から考えてみたい。


100万円定期預金しても金利収入は年250円
物価が上がっても年金は減額、どうなる老後の設計

 追加緩和では日銀は長期国債を30兆円買い増し年間80兆円買い入れることになった。新規国債の年間発行額が約40兆円だからそれをすべて買い上げても40兆円余る金額だ。

 日銀はこれだけ大量に国債を買い込むことによって国債価格を引き上げ、長期金利を引き下げることを狙っている。短期金利は日銀が短期国債を買い上げすぎて一時マイナスになってしまった。その結果、我々の預貯金利率は上昇するどころか、ますます下がるのだ。

 いま、メガバンクの1年定期預金に100万円を預けたとする。預金利率が年1%であれば1万円の金利収入が得られるが、現在は0.025%だから年間の金利収入はわずか250円だ。1000万円預けても年2500円の金利収入に過ぎない。いまや金利は預金通帳に描かれたシミといわれている。

 しかも3%を超す消費者物価上昇率のもとでは、0.025%の金利ではマイナスの実質金利収入になる。預金元本も物価上昇分目減りすることになる。年金収入は、国民には極めて分かりづらい「マクロ経済スライド方式」に従って年々減額されている。物価が上がれば年金が増えるという物価スライドなどないに等しい。

 もし来年、追加緩和による円安をテコに2%消費者物価上昇という日銀目標が実現すれば、3%消費増税による物価上昇分がなくなったとしても、実質金利収入の減少、預貯金の目減りは続くことになる。また年金保険料を負担する現役世代が増えない限り「マクロ経済スライド方式」に基づき年金支給の減額も続くのだ。

 これでは、現役時代に目論んだ金利収入と年金収入による安定した老後生活など夢また夢、泡となって消えることになる。


2%利率が上がれば金利収入増で消費増税分は取り戻せる
物価が高いのに金利が低い―日銀が築いた世界の非常識

 日銀の資金循環統計によると2014年6月末現在、家計部門が持つ現預金総額は874兆円、一方、借入総額は302兆円だ。差し引き572兆円の現預金超過だが、かりに1%預金利率が上昇するとすれば家計は差し引き5.72兆円金利収入が増加することになる。これは2%超(消費税1%で2.7兆円の税収)の消費税率引き上げ分に相当する。

 2%預金利率が上昇すれば家計部門の金利収入額は11.44兆円、消費税額4%分に相当する。20%の金利課税を控除しても9.1兆円の金利収入増加となり、3%消費増税分(8.1兆円)はすべて取り戻せることになる。

 2%という定期預金の利率は、日銀の長期金利(10年物国債利回り)決定の方程式(長期金利=期待インフレ率+期待潜在成長率+リスクプレミアム)に従えば、根拠がある。

 現在の期待インフレ率を1%(生鮮食品、消費増税分抜きの消費者物価上昇率)、期待潜在成長率0.5%(日銀は0%台半ばと推計)とし国債のリスクプレミアム分を0.5%分とすれば、これを足せば長期金利は2%になる。これに定期預金利率が連動すれば定期預金の利率は2%になる計算だ。

 方程式は期待インフレ率、期待潜在成長率と「期待(予想)」の文字が付いており数字は不確かだが、長期金利(10年物国債利回り)は現実のインフレ率を上回って決まるというのが国際的な常識だ。

各国の消費者物価(総合指数)上昇率と長期金利(10年物国債利回り)
hyo1.JPG
 アメリカは直近で、1.7%の消費者物価上昇率に対して長期金利は2.30%だ。以下、ドイツ、韓国、中国も同じで長期金利は物価上昇率を上回っている(上表)。期待潜在成長率や国債のリスクプレミアム(リスク度に応じた金利上乗せ分)を加味すれば長期金利が物価上昇率より高くなるのが自然だ。

 しかし日本は、消費者物価上昇率が最も高いのに長期金利は最も低い。しかも長期金利が物価上昇率より極端に低い(上表参照)。日本国債のリスクプレミアムは世界最悪の長期債務残高を考慮すればもっと高くて不思議ではないのだが、日銀は国債の大量買い上げによって強引に国債のリスクプレミアムを引き下げ、金利を超低金利に抑え込んでいるのだ。


人為的低金利政策の最大の被害者は家計部門(預金者)
日銀が進める金利所得の家計から政府への強制移転

 この人為的低金利政策を「金融抑圧(Financial Repression)」と呼ぶが、日銀に抑圧されているのは金利収入を得られない預金者(債権者)ということになる。

 一方、「金融抑圧」で貸出金利が低下、支払い金利負担が小さくなる債務者は潤う。資金循環統計によると企業部門(民間非金融法人)は債務者だが、現預金保有総額は229兆円、対して借入総額は341兆円で112兆円の借入超過に止まる。2%貸出金利が上昇しても2.2兆円の金利負担増にしかならない。

 近年、企業部門は利益の増加分を借入返済に回す一方、現預金を積み上げてきた。借金が減り現預金は増加する一方で、日銀の「金融抑圧」は企業部門の金利収入の抑圧にもなりつつある。企業が今後も設備投資や人件費の抑制を続ければ現預金残高がさらに積み上がり借入金残高を上回る可能性すらある。

 日銀の人為的低金利政策、すなわち「金融抑圧」で最も潤うのは膨大な長期債務残高を抱える最大債務者である政府部門であることは言うまでもない。「金融抑圧」によって政府部門の国債金利支払いが軽減されている分、家計や企業は本来得るべき金利収入を失っていることになる。

 特に最大の債権者(預金者)である家計は、2%の預金利率であれば得られるはずの金利所得11.44兆円(課税前)を政府に強制的に召し上げられている計算になる。この分は、強制的な徴税に等しい。

 仮にこの金利所得11.44兆円があれば、課税後でも3%消費増税による実質所得の目減りを完全に埋め合わすことができたはずだ。消費増税や円安による個人消費の落ち込みも防げたかもしれない。

 長期金利が上がれば景気が悪くなり企業収益が悪化(政府財政も危機に陥る)、賃上げも実現できず再びデフレに陥るという黒田総裁の反論は十分承知の上で、日銀の「金融抑圧」政策が引き起こす債権者(預金者)から債務者(政府)への金利所得の強制移転の弊害に改めて触れておくことにした。

2014年11月 4日 16:40

追加緩和による円安でさらに膨らむ負のマグマ

(2014年11月4日筆)

 黒田日銀総裁は政策委員4人の反対を押し切って追加融緩和を決めた。2日前に米FRB(連邦準備理事会制度)が量的金融緩和の終了を宣言したばかりだったうえ、GPIF(年金積立金管理運用独立法人)が年金運用の新方針を決めたことも重なり、内外の投機家たちが強く反応、株価は暴騰、円は急落した。


異次元緩和によるインフレ期待形成の経路は不確か
物価上昇の立役者、原油価格の下落に慌てた総裁

 黒田総裁は、生鮮食品と消費増税分を除く9月の消費者物価上昇率が1%(6月、7月1.3%、8月1.1%)に低下、1%割れ目前となったことから追加緩和を決断したと思われる。9月政策決定会合後の記者会見まで「消費者物価は本年度後半から再び上昇傾向をたどる」と言い続けてきたが、その旗をついに降ろした。このままでは2015年度半ばの2%インフレ目標の達成が危うくなったと言及したに等しい。

 総裁は消費者物価上昇が低下した理由について、「消費増税後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落」の2つを挙げた。このうち「需要面の一時的な弱さはすでに和らぎ始めている」とし物価上昇による実質所得(購買力)の大幅低下の影響を否定、物価の下押し要因として主に原油価格の下落に言及した。

 そのうえで「短期的とはいえ物価下押し圧力が残る場合、着実に進んできたデフレマインドの転換が遅れるリスクがある。こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、インフレ期待形成の勢いを維持するため」と総裁は説明している。単純化すれば、総裁は「原油価格が下落したため物価に下押し圧力がかかりデフレ心理が再び頭をもたげる。そのリスクを未然に摘み取るために追加緩和を行い、市場や国民のインフレ予想の引き上げを図る」と言っているのだ。

 黒田総裁はこれまでの消費者物価上昇を異次元緩和によるインフレ期待の上昇や雇用・所得環境の着実な改善に伴う景気の前向きな循環メカニズムが原因だといい続けてきた。決して2012年11月以降のアベノミクスによる消費者物価の底入れ上昇が、ドル建て原油価格(それに連動したLNG価格)の上昇と大幅円安による輸入価格の上昇によるものだったことを認めてこなかった。

 世界の原油価格の指標になるWTI原油価格は、アベノミクスがスタートした2012年11月安値から2014年6月高値まで1バレル約22ドル(約26%)上昇している。同じ期間に円は対ドル20円(26%)が下落している。26%上昇したドル建て原油(あるいはLNG)をさらに26%円安の状態で買ったのだから、日本の原油輸入価格は52%も上昇したことになる。

 この輸入価格の上昇が国内のガソリン価格や電力料金引き上げにつながり、消費者物価の上昇に大きく貢献した。消費税率引き上げ前の2013年12月から14年3月まで生鮮食品を除く消費者物価上昇率は1.3%だったが、この上昇率の6割以上がドル建てエネルギー価格の上昇と大幅円安によるものだったと思われる。

 つまり、安倍総理の金融緩和発言やそれに続く黒田日銀の「異次元緩和」が期待した、インフレ予想に火をつけ消費者物価を上昇させるという波及経路はほとんど作動していない。効き目があったのはドル建て原油価格の上昇と大幅円安からの波及経路だった。その消費者物価上昇の一方の立役者であるドル建て原油が急落しているのだ。黒田総裁が慌てて追加緩和に走ったのも無理はない。


追加緩和とGPIF新運用方針を同日発表
市場、投機家の円先安予想をさらに煽った

 しかし原油価格の下落は中国やユーロ圏の景気減退による需要減少やアメリカでのシェールオイル増産による供給増加が原因だ。世界の原油需給が原因である原油価格下落を日銀の追加緩和によって修正することなどできるわけがない。黒田総裁は「異次元緩和は円安を目的とするものではない」と口を開けばいうが、追加緩和は世界の投機家たちの円先安予想に再び火をつけた。

 そして黒田総裁は、G7やG20では禁じ手とされている自国通貨の切り下げ(円安)、つまりもう一つの大幅円安という手段によってインフレ目標達成への期待を繋ぐほかなかったといえる。

ついでに言えば、投機家たちの円先安予想に火をつけたのは黒田総裁だけではなかった。追加緩和発表と同じ10月31日、GPIFは127兆円にのぼる年金資金の新しい運用方針を発表した。これも円安を加速させた。

 新方針によれば国内債券(国債)への運用比率を最大35%(6月末現在約53%)へ引き下げる一方、国内株式への運用比率を最大25%(現在約17%)、海外株式への運用比率を最大25%(現在約16%)、海外債券への運用比率を最大15%(現在約11%)へ引き上げるという。この結果、GPIFは、運用資金を新たに国内株式に最大約10兆円、海外株式と海外債券へ約16.5兆円振り向けることになる。

 この国内株式への10兆円と追加緩和で新たに決まった日銀のETF(指数連動型上場株式投信)買い資金の年2兆円増強と合わせると約12兆円が日本株の買い支えに回ることになる。これは海外投機家の日経平均先物買いを勢いつかせるのに十分な額だ。外国人が日経平均先物を買い越せばその分円先物が売られ円安をもたらすことにもなる。GPIFによる海外資産の買い増しは円売りドル買い需要につながり、市場の円先安予想をさらに煽る結果となる。


ドル建て原油下落による消費者の利益を奪う円安
消費税率5.6%の相当する国民所得が海外に流出

 しかし、対ドル100円超の水準は、すでに実効実質レートや購買力平価など理論的尺度から見て行き過ぎた円安水準だ。リフレ論者が言うデフレをもたらしたリーマンショック後の円高はすでに是正済みで、これ以上の円安進展は国際的な摩擦をもたらすリスクがあるだけではなく、日本経済と日本の消費者にとってマイナスになる。

 「黒田円安」に伴うエネルギー価格の上昇や輸入製品価格の上昇、それと消費増税による転嫁値上げが実質所得の目減りをもたらし国民生活に負の影響をもたらしていることは本ブログでも何度も触れた。

 そのうえ消費者は、今回の追加緩和による大幅円安によって、ようやく下がってきたドル建て原油価格による利益を失うことになりかねない。6月からのドル建て原油価格の下落率は26%にもなる。本来ならこの価格下落分はガソリン代や電力料金の値下がりという形で消費者の実質所得を引き上げるはずだが、追加緩和に伴う大幅円安がその消費者の利益を奪ってしまうことになる。

 いまや日本経済は輸出額より輸入額のほうが大きい経済になった。つまり、円安に伴う輸出金額の拡大(所得の流入)より円安に伴う輸入金額の拡大(所得の流出)のほうが大きくなった。輸出金額と輸入金額の差額は日本から海外への所得流出となる。この所得流出分は、日本の消費者が負担しているのだ。

 貿易サービス収支の赤字額を所得の海外流出分とすれば、その額は2014年上半期には7.6兆円となった。この調子で赤字が拡大すれば今年の赤字額は15兆円に達する。15兆円は消費税率に換算すると5.6%分に相当する。

 異次元緩和、追加緩和による円安も一因となって消費税5%分を上回る国民の所得が海外に流出することになるのだが、それでもさらなる円安によるインフレ目標の達成のほうが大切だとは小生にはとても思えない。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年01月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
最新記事
「支持なし(無党派)層」が65%強 ――安倍一強の受け皿を築く時
安倍一強への嫌悪感が噴出――都議選で自民が歴史的惨敗
安倍総理を信頼できない人が増え、内閣支持率が急落
なぜ官僚たちは「巨大な忖度の塊」になるのか
トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗
最新コメント
1.安倍内閣は「何を...
Posted by Anonymous
安倍首相の昨日の記者...
Posted by 匿名
人権(笑) それを言わね...
Posted by 言ってる人々の信頼
習主席は言っている事...
Posted by まる
何故海外の投資家は日...
Posted by 杉本 小太郎
最新トラックバック
【記事】「支持なし(無党派)層」が65%強 ――安倍一強の受け皿を築く時
from QuonNetコミュニティ
【記事】安倍一強への嫌悪感が噴出――都議選で自民が歴史的惨敗
from QuonNetコミュニティ
【記事】安倍総理を信頼できない人が増え、内閣支持率が急落
from QuonNetコミュニティ
【記事】なぜ官僚たちは「巨大な忖度の塊」になるのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】トランプの愚挙――科学技術予算の削減に米議会が反抗
from QuonNetコミュニティ