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大西良雄ニュースの背後を読む

2014年10月

2014年10月27日 14:08

現場の女性は「女性活躍推進法案」で救われるか

(2014年10月27日筆)

 アベノミクスの第3の矢「成長戦略」の一つとして「女性活躍推進法案」が審議されている。その一方で、最高裁が妊娠を理由に降格するという女性に不利益を与えた事例に違法の判決を下した。妊娠を理由に女性に不利な処遇を迫ることをマタニティ・ハラスメント(マタハラ)というそうだ。


日常化している女性へのハラスメント(嫌がらせ、いじめ)
女性の管理者比率引き上げより大切な目標が埋もれている

 ハラスメント(Harassment)とは、「嫌がらせ、いじめ、ひいては不利な処遇」の意味だという。権力を背景に職場の上司が部下をいじめるのがパワー・ハラスメント(パワハラ)、職場の男性が女性に性的嫌がらせを行うのがセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)、研究教育の場の上位者が下位者に嫌がらせを行うのがアカデミック・ハラスメント(アカハラ)だ。

 マタハラ、セクハラの被害者は女性に限られるが、パワハラやアカハラの被害者にも女性が多く含まれているはずだ。現場では女性に対するハラスメントが日常化し、男女間の賃金格差や人事処遇・雇用格差は当たり前という状態にある。

 こうした社会環境を改革し女性の活躍を推進するのが「女性活躍推進法案」でなければならない。ただ、この「女性活躍推進法案」(正式名は「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案」)についての報道にはやや偏りがあり、世論をミスリードする恐れがあるように思われる。

 報道では、安倍総理は「2020年までに社会のあらゆる分野における指導的地位にある女性の割合を3割に引き上げる」という目標を掲げており、「女性活躍推進法案」では、国及び地方自治体、事業者(大企業)に対し女性の管理職比率引き上げ計画の策定を義務付ける(事業者のうち中小企業は努力義務)ことが主眼になっているという報道になっている。

 しかし女性管理職の問題は少数のアッパークラスの女性の問題にすぎない。一方、法案が示す「女性が活躍できる社会環境の整備」の問題は働く現場の女性すべての問題である。

 法案を詳細に読むと、女性の管理職比率引き上げよりずっと大切な、「女性が活躍できる社会環境の整備」についての目標がいくつか書き込まれている。報道はこちらのほうを大きく取り上げるべきで、その目標が単なるうたい文句に終わらず女性が働く現場で目標が実践されるか、安倍政権を厳しく監視することのほうが大切だ。


「女性の活躍」は労働力や成長の問題ではなく人権の問題
問われない男女間の賃金・雇用格差、正規・非正規問題

 法案では、「女性が活躍できる社会環境の整備」の目標として以下の3項目を挙げている。

 第一は、「男女が、子の養育、家族の介護その他家庭生活における活動について協働することができるよう、職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られる社会を実現する」ことだ。いわば家庭生活での「男女協働」の実現だ。

 第二は、「妊娠、出産、育児、介護等を理由として退職を余儀なくされることがないようにするための雇用環境の整備及びそれらを理由として退職した者の円滑な再就職の促進等を行うことにより女性の就業率の向上を図る」ことだ。

 第三は、「少子化社会基本法及び子ども・子育て支援法の基本理念に配慮する」ことと書かれている。この項目は、「50年後、人口1億人保持」の目標につながっていると思われる。

 これらの3つの「社会環境の整備」が安倍政権の下で具体的にどのように実践されるかが、問われる。その際、気になるのは、安倍総理にはどんな政策も「成長政策」の手段とする性癖があることだ。その典型例が第二項に表れている。

 第二項では、さも「マタハラ」など女性へのハラスメントによる不利な処遇の是正を謳っているかのように見えるが、究極の目的を「女性の就業率の向上」という労働力不足の克服、ひいては経済成長に置いている。法案は、「女性の活躍」が経済成長の手段である前に、女性が人間として持つ基本的人権にかかわる問題であるという認識に乏しい。

 女性の基本的人権を優先するという考え方があれば、「女性が活躍するための社会環境の整備」の目標の中に、男女間の、賃金や人事・昇格の格差是正、正規・非正規の雇用格差の是正が謳われているはずだが、それへの記述はまったくない。格差是正の一助になる同一労働・同一賃金の実施目標も書かれていない。


少子化・人口減対策に背反する「女性活躍法案」
女性の晩婚化を止め結婚年齢を引き下げる方策を

 経済成長を主眼とするなら法案の第三項で謳う「少子化対策」が最も重要だ。労働力人口の減少は、建設業や外食、サービス業の供給力を制約し経済成長を阻害し始めている。労働力は一方で所得の稼得者でありモノやサービスの需要者でもある。賃金・所得の上昇がない限り労働力の減少は需要の限界をもたらす。

 日本経済が需要限界に逢着しているから、人口が増え需要旺盛な途上国に日本企業は進出するのだ。人口減に伴う需要限界が突破できなければ、異次元緩和をしても法人税減税をしても日本では成長の原動力になる投資は起こるまい。

 人口減少への対策が経済成長の本筋なら、女性の社会進出、ひいては女性就業率の引き上げを目指す「女性活躍推進法案」は少子化・人口減少対策とは背反する側面を持つことに留意すべきだ。

 地方創生会議をリードする「日本創生会議」(増田寛也座長)によれば、少子化の原因は女性の社会進出に伴う「女性の晩婚化」が原因の一つだという。1億人の人口を維持するには、20歳代前半女性の結婚割合を現在の8%から25%へ引き上げ、20歳代後半女性の結婚割合を現在の40%から60%へ引き上げる必要があると創生会議は言っている。

 女性の晩婚化あるいは非婚化を防ぎ、女性の結婚年齢を引き下げ、出生率を回復させるにはどうすればよいか、この答えを出すのが最善の成長戦略になる。

 そのためには第一に、非正規雇用や低賃金による若年層の貧困化を防ぎ、若くとも所帯が持てる水準に所得を引き上げる必要がある。第二に、さらに第2子、第3子には児童手当を厚くする必要があるかもしれない。保育施設や幼児教育を充実し子どもを社会全体で育てる仕組みも考えねばなるまい。

 第三に、子供数は少ないが社会進出して活躍する女性と家庭にあって子育てや介護、家事に活躍する女性を等値に置き、ともに支援する考え方が必要だ。アベノミクスは労働力あるいは指導的役割を果たす女性の活躍を強調することに熱心だ。その一方、家庭で大いに活躍する女性を軽視するきらいがある。安倍政権は家族や民族、歴史を重んじるのが特徴だが、子育てに励み家族を守る女性には冷たいのは自己矛盾としか言いようがない。

 専業主婦を優遇する配偶者控除(いわゆる「103万円の壁」)や社会保険料免除(「130万円の壁」)、事業者による配偶者手当の制度を廃止すれば、働く女性が増えるなどといった理由で制度を廃止するとすれば、安倍政権は軽率のそしりを免れないだろう。

2014年10月20日 16:00

原発の再稼働で太陽光など再生エネ発電が危うくなる

(2014年10月20日筆)

 九州電力は年内にも鹿児島県や薩摩川内市など地元自治体の合意を得て川内原発1、2号機の再稼働にこぎつけそうだ。来年は原子力規制委員会に安全審査を申請中の玄海3号機、4号機も合格判断を得て再稼働に進むといわれている。


九電は来年中に川内、玄海の2原発で4基再稼働か
原発再稼働を目前に太陽光発電の送電線接続を保留

 九州電力は川内原発2基、玄海原発4基、合わせて6基の原発を保有、原発の稼働停止前の発電量に占める原子力発電比率は39%超と関西電力と並んで原発比率の高い電力会社のひとつだった。

 このため原発稼働停止により、固定費増加や安全対策費、円安による燃料費上昇が重なって業績は急悪化、2012年3月期以来3期連続の赤字を記録した。今期もアナリストは850億円の最終赤字を予想、これを含めると4年間で6800億円もの最終赤字を垂れ流すことになる。

 原発発電比率が九州電力より高かった北海道電力は2度目の電力料金値上げ申請が認められた。原発再稼働が遅れれば赤字が続く九州電力も北海道電力に続いて2度目の電力値上げを申請することになるはずだった。

 その苦境の九州電力が、他電力に先駆けて来年中には川内、玄海の2原発4基が再稼働できるかもしれないのだ。事故さえ起こさなければ原発は発電コストが最も安い。九州電力にとって原発再稼働は、経営危機を突破でき、電力料金値上げが回避できる(川内原発再稼働で再値上げ申請を断念するかなお不明だが)、待ちに待った朗報に違いない。

 心待ちにしていた川内原発の再稼働が目の前に迫ったせいだろうか。九州電力は原発の代替電力として期待される再生可能エネルギー発電の固定価格買い取り制度(FIT)に基づく新規買い取りを中断すると突然発表した。

 中断の理由について九州電力ではこう説明した。今年3月に太陽光発電の送電線への接続契約の申し込みが集中、3月1か月間の申込件数がそれまでの1年分に達した。その結果、7月末現在の接続申し込み量がすべて発電された場合、再生エネルギーの発電量が九州全土の昼間消費電力(GW期間中の休日平均需要を想定)を上回り、「電力の需要と供給のバランスが崩れ電力を安定供給できなくなるため、事業者の新規接続申し込みに対する回答を保留せざるを得なくなった」と。


儲かる太陽光発電事業だから接続申し込みが殺到
九州では再生エネの認定出力が原発18基分に

 九州地域は日照量が多く、太陽光パネルの設置用地の確保が比較的容易なことから太陽光発電事業への参入が活発化していた。2012年7月(民主党政権時)のFIT制度開始以来、14年5月までの間に政府から設備認定を受けた再生可能エネルギーの認定出力は全国で7148万kW(原発約70基分)に達している。このうち九州は1831万kW(原発約18基分)で全国の認定出力の4分の1(25.6%)を占め、再生可能エネ普及の先進地域になっている。

 この九州地域の再生エネ認定出力の実に97%が太陽光発電なのだ。しかも九州の太陽光発電認定出力の51%(残り49%住宅用太陽光発電)は発電事業者のメガソーラー(出力1000kW以上)によって占められている。

 事業者には九州でのメガソーラー事業はうまみが大きい。太陽光発電の電力買い取り価格は風力発電など他の再生エネルギーに比べが高く、いったん決まった買い取り価格が20年間継続する。

 一方、太陽光パネルなどの値段が年々下落、設備コストや発電コストが低下している。しかし買い取り価格は設備認可時に決まっており、運転開始時にはコスト低下分だけ利益がさらに大きくなる。すでに設備認可を受けている事業者が運転を開始するため九州電力への送電線接続申し込みに殺到してもなんら不思議ではないのだ。

 しかし、発電電力買い取りを前提に借金して設備投資してきた発電事業者には接続中断によって収入のメドが立たなくなるのは死活問題だ。10月1日から開催された九州10会場での九州電力による「接続申し込み受付保留」の説明会には発電事業者を中心に6500人が押し掛け、突然の接続申し込み保留の発表に憤慨する声が相次ぎ、怒号が飛び交った。

 九州電力にとって接続申請に事業者が殺到、太陽光発電の発電ピーク時には送電網がパンクし停電すら起きかねない状態に至ったのは想定外だったかもしれない。しかし発電コストに利益を上乗せし高く設定した時点(制度発足当時の買い取り価格は1kWh当たり40円、現在は32円に低下。だが現状でも太陽光発電先進国ドイツの2倍以上と高い)で、太陽光発電事業者が送電線接続申し込みに殺到することは想定できたはずだ。


原発の再稼働と再生エネ拡充が並行する政策の矛盾
浮かばれない政府方針を信じた太陽光発電の事業者

 そもそも太陽光発電優遇のFIT制度の設計に誤りがあったのだが、電力のエネルギー源についての数値目標のない曖昧な安倍政権の「エネルギー基本計画」(4月閣議決定)にも問題がある。

 安倍政権の「エネルギー基本計画」によれば、原子力発電を「重要なベースロード電源」(発電コストが低廉で安定的に発電でき昼夜を問わず継続的に発電できる電源)として最上位に位置づけ、安全基準をクリアした原発を再稼働させる方針だ。その一方で、再生可能エネルギー発電についても「これまでのエネルギー基本計画(2010年計画。鳩山内閣当時)を踏まえて示した水準(2030年の再生エネ発電比率21%)をさらに上回る水準を目指すと述べている。

 安倍政権は、産業界や電力業界の要請を受け「原発を再稼働させる」と述べる一方、一般国民受けを狙って「再生可能エネルギーの発電比率もさらに引き上げる」と2枚舌を使っているのだ。ほかのLNGや石炭などを熱源とする火力発電の発電比率を引き下げるのならつじつまが合うが、現在はLNG、石炭を中心とする火力発電は主力電源になっており、これを引き下げるのは容易ではない。

 九州電力はこうしたどっち付かずの中途半端な政府方針の合間に置かれた。九州電力が原発の再稼働という一番おいしいニンジンを目の前にぶら下げられ、最も扱いが難しく自らの儲けにはならない太陽光発電の送電線接続を中断したくなるのは当たり前といえよう。

 九州電力はまだいい。送電線がいっぱいになれば接続を断る権利を有しているからだ。しかし再生エネの発電比率をさらに引き上げるという安倍政権のお墨付きを信じて太陽光発電事業に踏み込んだ事業者は浮かばれない。かりに今後、政府が原発再稼働に伴い再生エネ拡大方針を縮減するようなことになれば、売り上げのめどが立たず破綻に追い込まれる事業者も出てこよう。その時、破綻の責任はだれがとるのだろうか。

2014年10月14日 14:49

企業優遇のトリクルダウン(滴り落ちる)政策が失敗する時

(2014年10月14日筆)

 日経新聞10月5日の「けいざい解読」に「中国の先富論とアベノミクス」と題した秀逸のコラム記事が掲載されていた。


鄧小平氏の「先富論」とアベノミクスは相似形
経済成長が止まれば先富論もアベノミクスも破綻

 コラムによれば、中国の成長を支えた鄧小平氏の「先富論」は、「沿海部がまず稼ぎ、豊かになる。経済のパイが大きくなったところで内陸部の貧しい人たちにも富を分配する」というものだったが、安倍総理の経済政策「アベノミクス」はこれと似ている面があるという。

 アベノミクスについては、「大胆な金融緩和は物価や資産価格を押し上げる。資産を持つ高所得者は株や土地の値上がりで潤う一方、低所得者は物価の上昇でむしろ苦しくなる。それでも『しばらくすれば成長戦略が軌道に乗り、経済全体のパイが大きくなる。給料も上がるからそれまで待ってほしい』と訴えるのがアベノミクスである。」と書いている。

 先富論もアベノミクスも、持続的成長による低所得者への将来の分配を予定している。しかし、成長が止まれば持つ人と持たない人の格差が広がっただけで終わり、社会不安が高まり先富論もアベノミクスも破綻すると結論付けている。

 中国は今、過剰投資の弊害が表面化、これを支えたシャドー・バンク(影の銀行)の破綻が懸念され、経済成長率が大きく鈍化している。「先富論」の成果が内陸部に浸透する前に地方経済の破綻が懸念されている。人々がまんべんなく豊かになる前に高齢化社会が来るという「未富先老」の憂いさえ叫ばれ始めた。

 「アベノミクスの効果を全国津々浦々まで届けたい」というのが安倍総理の決まり文句だが、それが届く前に景気後退が始まっている。


今年1月が景気の「山」、景気後退が現実となった
アベノミクス効果が全国津々浦々に及ぶのは困難

 まだ暫定だが内閣府の景気基準日付のよると日本の景気は2012年11月に「谷」を打った。その後、アベノミクスによる景気拡張が始まったが、今年(2014年)1月に景気の「山」に達した模様だ。内閣府は8月景気動向指数(一致指数)の低下を確認、景気の基調判断を「足踏み」から景気後退の可能性を示す「下方への局面変化」へ下方修正した。

 景気基準日付による景気の「谷」の認定は1年半以上先になるが、今年1月が景気の「山」だったと認定される可能性が大きい。となるとアベノミクスによる景気拡張期間は2012年11月から2014年1月まで14か月だ。これまで景気拡張期間の戦後最短が22か月だったからアベノミクス景気はこの記録を更新することになる。その後の景気後退が8月までの「ミニ後退」に終わるか、後退が長引くか、予断を許さない情勢だ。

 一方、2014度の日本の実質経済成長率は、2013年度の2.3%から大きく減速、1%を下回る可能性が出てきた。暦年だがIMF(国際通貨基金)は2014年の日本の実質経済成長率予想を1.6%から0.7%へ大きく下方修正した。民間の「ESPフォーキャスト10月調査」では2014年度の実質成長率は0.34%で0.5%前後とされる潜在成長率を下回る予想になっている。

 円安にもかかわらず増加しない輸出数量、円安による物価高と消費増税による実質所得(購買力)の大幅な低下、天候不順など減速の原因は複合化しているが、実質経済成長率が潜在成長率を下回るような事態に至っては、アベノミクスの効果が全国津々浦々に及ぶことなどほとんど期待できない。

 それどころかアベノミクスによる円安によって電力、ガソリン、灯油、飼料など生活必需物資が軒並み値上がり、東京圏などに比べ地方住民の実質所得低下幅は大きくなった。賃上げの恩恵に預かれない非正規社員、地方と中小企業の従業員、年金生活者には物価上昇による所得目減りが痛撃している。

 しかもアベノミクス景気は資産家や大企業正社員とそれ以外の人々との格差を広げたまま失速しているのだ。これでは「おこぼれ」に預かるどころか、アベノミクスは「やらずぶったくり」だったということになりかねない。先富論から取り残された中国内陸部の人々とアベノミクスによる円安被害を蒙ったままの北海道、東北、山陰、四国、九州など地方住民らが重なって見える。


企業優遇の「供給サイド経済学」を支えるトリクルダウン理論
「富める者が富めば貧しいものにも自然に富が浸透」、本当か?

 「徐々に流れ落ちる」ことを英語で「トリクルダウン(trickle down)」というが、経済学の分野でも「おこぼれが滴り落ちる」ことを期待する「トリクルダウン仮説」とか「トリクルダウン理論」と呼ばれる考え方がある。

 「ウィキペディア」を借りて言えば、トリクルダウン理論とは「富める者が富めば、貧しいものにも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」とする経済理論または経済思想である。トリクルダウン理論はレーガン米大統領の新自由主義経済政策「レーガノミクス」の中核をなした「サプライサイド経済学」を支える理論として知られる。

 経済は家計を中心とする「デマンド(需要)サイド」と企業を中心とする「サプライ(供給)サイド」で構成されるが、サプライサイド経済学はサプライサイドの牽引者である企業や富裕者を含む企業家にテコ入れして経済成長を実現するする経済学である。この経済学に従えば家計など「デマンドサイド」は企業や富裕者が牽引する経済成長から「滴り落ちるおこぼれ」を頂戴することになる。

 アベノミクスもサプライサイド経済学を忠実になぞっている。円安株高で大企業・輸出企業を潤したうえ法人税減税でさらに大企業優遇を強めようとしているのだ。その推進者の一人、浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は「当初金持ち優遇に見える法人税引き下げは、結局は日本に内外の投資を呼び込み、アベノミクスの成果を国民がより継続的に享受するために必要なのである」(「消費再増税『大胆な法人減税が大前提』」日経新聞10月13日「経済教室」)と書き、トリクルダウン理論を展開している。

 しかし、企業や富裕層を潤した結果、円安で地方住民や低所得者、年金生活者が傷んでだという証拠は発見できるが、そのトリクルダウン効果で家計などデマンドサイドが実質的に潤ったという証拠は今ところない。法人税引き下げの結果、浜田参与の言うように「日本に内外の投資を呼び込み」、経済成長を実現してトリクルダウン効果を発生させることができるか、よくわからない。

 法人税引き下げは利益を計上していない7割の法人には恩恵が及ばない。法人税引き下げの恩恵を受ける残り3割の法人が、引き下げによる利益拡大を内部留保の充実や自社株買いに充当してしまえば、あるいは海外工場の拡張や海外企業の買収に使ってしまえば、従業員のベースアップや中小企業への下請け代金引き上げなどには回らず「トリクルダウン」は発生しないからだ。

 浜田参与は前述の論文の中で、アベノミクスに対して「『円安で輸出大企業を優遇し、株高で金持ちを豊かにするだけで庶民に利益が回らない』とする批判もあった」と過去形で書いている。しかし「庶民に利益が回らない」のは現在進行形だし、景気後退と低成長が予想される以上、未来形でもある。

2014年10月 6日 14:23

原発を再稼働させても電力料金は下がらない

(2014年10月6日筆)

 安倍政権は年内にも原子力規制委員会の安全審査に合格した九州電力の川内原発1号機・2号機を地元の承諾を得て再稼働させる方針だという。この稼働を皮切りに、関西電力の福井県・高浜原発3、4号機、九州電力の佐賀県・玄海原発3、4号機と安全審査を終え再稼働へ進む次の原発も想定されている。


電力料金値上がりなど物価高で「暮らしにゆとりがなくなった」
原発再稼働させれば「円安・物価高」に対する批判も和らぐ?

 地震や津波、火山噴火などの自然災害に対する安全が本当に確保されているのか、避難体制は十分かなど再稼働に疑問を抱き不安を覚える人も多い。その一方、原発停止以降、電力料金の大幅な値上がりに悩まされている利用者の中には、コストの安い原発の再稼働によって電力料金のようやく値下がりが始まると期待する向きも少なくないだろう。

 電力料金の上昇など円安に伴う物価高に追い付かず実質賃金が下落、生活が苦しくなったと感じる国民が増えている。円安の仕掛け人である黒田東彦日銀総裁のおひざ元、日銀情報サービス局の「生活意識に関するアンケート調査(2014年9月)」によると、「1年前に比べ暮らし向きにゆとりがなくなってきた」との回答が48.5%とアベノミクス始動(2012年11月)以前の水準に戻った。この数字を黒田総裁はどう読むのだろうか。

 安倍総理も来春の地方統一選挙を前に、「全国津々浦々」から聞こえてくる円安・物価高による生活苦の声に苦慮しているに違いない(と信じたい)。その一方、総理は電力料金の上昇は原発稼働停止が原因だから、原発を再稼働させれば電力料金は下がり円安・物価高の批判を和らげることができると思っているのかもしれない。

 しかし、原発を再稼働させれば電力料金値下げが本当に実現するのだろうか。事はそう簡単ではないという数字が「週刊東洋経済」(2014年9月20日号)の「価格を読む(電力料金)」と題した1ページの固定欄に掲載されている。


家庭用電力料金の上昇幅の63%は円安、燃料高が原因
円安が進めば原発再稼働によるコスト減効果など吹き飛ぶ

 下表は、福島原発事故以前(2011年3月分)と直近(2014年9月分)までの東京電力の家庭用電力料金の上昇要因の内訳だ(表は東洋経済記事から抜粋し作成)。この間の電力料金上昇幅2226円(35.6%の値上がり)の63.2%を占めるのは「燃料費調整制度」を通じた自動的な値上がりだ。原発停止に伴う「料金改定」による上昇は359円、上昇幅の16.1%に過ぎない。

東電・家庭用電力料金上昇幅2226円の内訳(11年3月分~14年9月分)
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(出所)「高騰は原発停止より燃料高・円安の影響が大」(「週刊東洋経済」2014年9月20日号)

 「料金改定」による値上げと「燃料費調整制度」による値上げについて説明する。原発停止に伴い火力発電所の稼働率を上げた場合、原子燃料から化石燃料へ燃料転換が行われる。その場合の燃料費上昇は政府の許可を得て料金に転嫁される。これを「料金改定」による値上げという。

 現在、北海道電力が17.03%もの家庭用電力料金の再値上げを申請しているが、これは北電・泊原発の停止に伴う燃料費増加を補う「料金改定」だ。新聞記事になるのはこの料金改定値上げだ。上表の東電の場合、大げさに騒ぎ立てた割に、「料金改定」による値上げ分は上昇幅の16.1%に過ぎないのだ。

 一方、新聞記事にならないため、いつの間にか電力料金が上がっているというのが「燃料費調整制度」による値上げだ。原発停止以前から稼働している通常の火力発電所については、原油や石炭、液化天然ガス(LNG)など燃料価格の変動を自動的に電力料金に反映させる仕組みになっている。

 火力発電所は原油、石炭、LNGなど熱源のほとんどが海外からドル建てで輸入される化石燃料だ。海外のドル建て燃料価格が上昇したうえ円安になればその分輸入価格が上昇する。この値上がり分は政府の承認なしに毎月自動的に電力料金に転嫁される仕組みとなっている。この値上げ分が東電の電力料金上昇幅の63.2%も占めるのに、マスコミが報道することはほとんどない。

 大まかに言ってこの間の「燃料費調整制度」による1407円の東電・電力料金値上げのうち約6割はドル建て価格の上昇、約4割は円安による輸入価格の上昇分と推定される。現在、欧州、中国の景気減速で原油やLNGのドル建て価格が低下しているが、黒田日銀総裁の「円安容認トーク」で為替が対ドル110円、120円へさらに下落するようになると、ドル建て燃料価格下落のメリットが円安で帳消しになりかねない。円安がさらに進めば原発再稼働による燃料コスト減少の効果など吹っ飛んでしまいかねないのだ。


原発再稼働のための安全対策費、廃炉費用も料金に上乗せ
再生エネ導入よる賦課金増加も電力料金値上げに転嫁される

 電力料金値下げの障害になるのは「黒田円安」だけではない。まず原発の耐震補強工事など安全対策費の電力料金への転嫁問題がある。電力各社は原発再稼働のため安全対策を施しているが、そのための追加費用が10社合計で総額2.2兆円に達した。この追加費用は「料金改定」による電力料金値上げの一部になる。事実、中部電力の5月の平均3.77%の家庭用料金値上げ(料金改定)のうち2%は静岡県・浜岡原発の安全対策費だという(「日経新聞」9月11日)。

 原発に関してはもう一つ、事故原発や老朽原発の廃炉費用が将来、電力料金に上乗せされることになる。廃炉によって原発の資産価値はゼロとなるほか、廃炉のための解体工事費や放射性廃棄物処理費などが費用として計上される。その費用総額は一基当たり500億円以上になるという計算もある。これが電力料金に上乗せされるのだ。

 最後は、上表の電力料金上昇幅の内訳の中にある「再生エネ賦課等」の電力料金への上昇圧力だ。太陽光や風力、バイオマスなど再生可能エネルギー発電は電力会社が固定価格で買い取る制度になっているが、その買い取り電力のコストは自動的に電力料金に上乗せされている(これを再生エネ賦課金という)。

 太陽光発電は買い取り価格を高く設定したため、現在、事業者から買い取り申請が殺到、電力会社の送電網が不足、送電の安定性が揺らぐ結果となった。そのため九州電力など4電力は太陽光発電などの買い取りを制限することになり、電力会社と再生エネ事業者との間で深刻な紛争になっている。

 この紛争の是非について今回は触れないが、このまま事業者の申請通り太陽子発電などの電力買い取りを続けると賦課金はどんどん膨らむという試算を経産省・資源エネルギー庁が出したことに触れておきたい。

 すでに運転開始している再生エネ発電の賦課金総額は年間6500億円、月間300kwh使用の家庭場合、月間負担額が225円になる。だが経産省が認定済みの再生エネ発電設備すべてが運転開始された場合、賦課金総額は2兆7018億円に達し、一般家庭の月間負担額はこれまでの約4倍、935円に上昇すると試算されている。

 原発を代替する再生エネ発電を拡大すれば電力料金が上がる。原発を再稼働させてもその値下げ効果はもともと小さいうえ円安でその効果は減殺される。しかも原発の安全対策コストや廃炉コストが上乗せされるのだ。安倍総理が願ったとしても、原発再稼働で電力料金が下がるなど全く期待できないというのが現実なのだ。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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