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大西良雄ニュースの背後を読む

2014年5月

2014年5月26日 16:05

「人手不足」が迫る低生産性サービス業の経営改革

(2014年5月26日筆)

 少し景気が良くなれば途端に人手不足が叫ばれるようになった。パート・アルバイト従業員が集まらず店舗削減に追い込まれた牛丼、和食など外食チェーンも出てきた。日本の労働力人口は1995年から減少過程に入り、低い出生率を背景に若年労働者を中心に労働力人口の減少はさらに進展している。このため、景気がわずかに好転するだけで「若年労働力」供給の限界に突き当たり、局部的な人手不足をもたらす事態になった。

 2014年3月の有効求人倍率は1.07倍となり、2月から連続して1倍を超え、求人数が求職者数を上回る状態になった。政府・日銀はアベノミクスの結果、労働需給がひっ迫したと自画自賛している。ただ有効求人倍率の中身を見ると、労働需給のひっ迫はかなり偏ったもので単純には喜べないものであることがわかる。


低い正社員の有効求人倍率、高いパートタイムの有効求人倍率
このままでは非正規雇用比率が40%を突破

 第一に、パートやアルバイトの需給がひっ迫していることだ。正社員の有効求人倍率は0.65倍と大きく1倍を下回る一方、常用パートタイム(派遣、契約社員を含む4か月以上のパートタイム)の有効求人倍率は1.28倍と1倍を上回る。アルバイトなど雇用期間が1か月~4か月未満の「臨時パートタイム」の需給はさらにひっ迫し、外食チェーンなどの店舗削減につながっている。

 下表は有効求人倍率が高いサービス職種だが、「接客・給仕」、「飲食物調理」という職種はパートやアルバイトなど非正規社員比率が75%を超す飲食・宿泊サービス業に属している。「家庭生活支援サービス」には保育士などベビーシッターが含まれ、介護サービスは施設介護や訪問介護を担う介護士が中心だ。いずれも、仕事の厳しさに比べ給与水準が低く、労働需給のミスマッチがみられる業種だ(なお「外勤事務」は電力ガス、新聞、NHKなどの料金集金人、「生活衛生サービス」は理美容関連でいずれも非正規比率が高い。

有効求人倍率の高いサービス業種(2014年3月厚労省「一般職業紹介状況」、単位・倍)
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 気掛かりは労働需給がひっ迫しているのが、解雇が難しく労働コストが高い正社員ではなく雇用調整が楽なコストが安いパートタイム従業員である点だ。3月末現在の非正規雇用者は1964万人、雇用者全体に占める非正規雇用者の比率は実に37.8%に達している。企業が方針を変えず非正規優先の雇用政策を採用し続ければ、非正規比率は40%を突破しかねない。


派遣スタッフの時給上昇は朗報、正社員化を
アルバイト・パート時給上昇が迫る経営変革

 非正規雇用への求人増加、需給ひっ迫が賃金上昇をもたらしている点は評価される。下表はリクルートジョブズが調べた4月の3大都市圏での募集時平均時給だ。IT技術など専門性が高い派遣スタッフの時給は昨年同月に比べ4%近く上昇した。これが派遣スタッフの正社員化に結びつけば幸いだ。

非正規雇用者の募集時平均時給(2014年4月、リクルートジョブズ調べ)
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 一方、アルバイト・パートの時給は前年同月比0.4%増にとどまっている。現在の需給ひっ迫が続けばアルバイト・パートの時給はさらに上昇するだろう。しかし、アルバイト・パートの雇用者数は1349万人、非正規雇用者1964万人の約69%を占め、その時給引き上げは派遣スタッフの時給上昇に比べはるかに大きな意味を持つ。

 第一に、アルバイト・パートの時給は最低賃金との連動性が高く、今秋の最低賃金引き上げに大きな影響を与えよう。昨年秋に決まった平成25年度の最低賃金は全国平均で746円だった。だが最低賃金は最高の東京で869円、東北、山陰、四国、九州ではまだ700円以下だ。大きな地域格差を抱え3大都市圏で947円に上昇した平均時給を最低賃金にどのように反映するのか、問われる。

 第二は、パート時給の上昇が小売業界などを支える主婦パートの「103万円の壁」に絡むという問題だ。主婦はパート年収が103万円を越した途端、夫の配偶者特別控除が削られ所帯の手取りが減る。このため雇用者は103万円の年収に見合ったパート時給を設定、主婦パートもそれを甘受してきた。その結果、パート時給は低く抑えられる傾向があったという。しかし、パート時給が上昇し最低賃金が引き上げられることになれば、それを機に政府が女性活用の障害になっているとして配偶者特別控除を廃止する挙に出る可能性もある。

 第三に、低いアルバイト・パート時給に依存して成立してきたサービス産業の経営モデルが大きな変更を迫られるという問題だ。低価格が売りの外食チェーンや小売りチェーンは、時給アップに伴う人件費の上昇を吸収する新しい経営モデルを考えねばならない。事業再構築によって労働生産性を引き上げ人件費を吸収するか、低価格前提の営業モデルを高価格前提の営業モデルに転換、実質値上げで人件費を吸収するか、いずれかだ。

 日本の746円という最低賃金(時給)は先進国では米国の740円に次いで低い水準だ。米マグドナルドの従業員は最低賃金時給15ドル(約1500円)への引き上げを求めてデモを打って話題を呼んだ。英国の最低賃金は最新の為替レートで換算して1030円、フランスは1260円、オーストラリアは1530円だ。スイスは2500円への引き上げを求め国民投票が行われたが、これはさすがに否決された。米国を除く先進国では高水準の最低賃金を前提に労働生産性の高いサービス産業が成立しているといってよいだろう。

 日本でも非正規時給アップを機に低賃金・低価格モデルの外食チェーンや小売りチェーンだけでなく、低賃金が嫌われ人手不足に陥っている保育や介護サービスも高生産性経営へのモデル変革が迫られているといってよいだろう。

2014年5月19日 16:06

日銀は外国人の「追加緩和」期待に応えるべきか

(2014年5月19日筆)

 先週は株価反転を期待させる経済指標がいくつか出た。5月12日発表された4月景気ウォッチャー調査の「先行き判断指数」は前月比15.6ポイント上昇、50ポイント台に乗せてきた。街角景気では消費増税後の消費落ち込みからの回復が早いのでは、という見方が強まっている。

 もう一つは2014年1~3月期の実質GDP(速報値)が市場予想を大きく上回り年率5.9%増になったことだ。3月に消費増税前の駆け込み需要が盛り上がったことが主因だが、不振だった設備投資も前期比4.6%増と急増した。

 しかし、株価の反応は鈍く日経平均株価は週末(5月16日)には一時1万4000円割れ寸前まで下落した。16日終値は1万4199円だったが昨年12月30日の終値1万6291円に比べ12.8%安となり、世界でも最も大きな年初来下落率を続けている。

 アベノミクス相場を盛り上げてきた外国人投資家は景気ウォッチャー調査にも1~3月期実質GDPにも反応しなかった。政府、マスコミ挙げての消費増税後の消費落ち込みは「想定内」とするキャンペーンにも外国人投資家は興味がなかったようだ。外国人投資家は1月から3月まで大きく日本株を売り越した後、4月はわずかに買い越したが5月に入り再び売り越しに転じている。

 売買代金の7割を占める外国人投資家が買わなければ日本株は上がらない。外国人が日本株を買えば株価も上がるし円安にもなる。アベノミクス相場はそういう特徴を持った相場だった。安倍総理は外国人の関心に応える政策を打ち出さざるを得ないという宿命を背負っているかのように見える。


「内政干渉」ともいうべき外国人投資家の要求
法人税率引き下げ、労働法制見直しにも疑問

 外国人投資家の安倍総理への最近の要求は、第1に日銀の「追加緩和」、第2に法人税率の引き下げ、第3に労働法制の見直しだという。安倍総理がこれらの政策実現に踏み切れば日本株を再び買ってもいいといわんばかりなのだ。残念なことに、株高で支持率を維持したい安倍総理はこれら外国人投資家による「内政干渉」ともいうべき要求に一つ一つ応えようとしている。

 法人税引き下げの最大の目的は外国企業による日本への投資を促すことにある。しかし外国企業が日本に投資しない理由は高い法人税率だけにあるのではない。規制が多く手続きが煩瑣、地価が高い、しかも日本は人口減少社会だ。日本への進出コストが高い割に儲からないという日本の市場構造に外国企業が日本に投資しない理由がある。アメリカは日本より法人税率が高いが、外国企業はどんどん投資している。日米のこの差がどこにあるのか考える必要がある。しかも日本は財政再建が急務だ。財源なき法人税率引き下げは容易ではない。

 外国人は自らが日本で事業を行う際に障害になる日本の労働法制見直しも主張している。これを受け安倍政権は「国家戦略特区」に解雇規制の一部緩和を盛り込んだ。6月の成長戦略には労働時間規制の緩和を盛り込む予定だという。しかし、日本では残業料が支払われない長時間労働が常態化している。非正規雇用比率も拡大している。この悲惨な状況下で「残業料ゼロ」につながる「労働時間規制の緩和」という政策が働く側に受け入れられる状況ではないだろう。


「異次元緩和」の株高効果が薄れ「追加緩和」
黒田総裁は「異次元緩和」の効果に自信満々

 こうなると頼りは第1の日銀の「追加緩和」ということになる。黒田日銀は昨年4月、2014年末までに長期国債の購入残高を2倍に増やすことでマネタリーベース残高(当座預金残高+銀行券残高)を2倍にするという「異次元緩和」を導入した。しかし、特に今年に入って「異次元緩和」の株高への効き目が薄れ株価が下落、外国人投資家はもう一段の「追加緩和」を求め始めたのだ。

 外国人投資家は2月、3月、4月と日銀の「金融政策決定会合」が開かれるたびに株価を吊り上げ「追加緩和」期待を煽った。こうした度重なる外国人の「追加緩和」要請に対して黒田日銀総裁は「追加緩和見送り」というつれない返事を繰り返した。さしもの外国人の「追加緩和」期待も剥げ落ち、今週の20日、21日に開かれる5月の金融政策決定会合を前に株価は動こうとしなかった。

 黒田総裁は自ら決断して始めた「異次元緩和」の成果に自信満々なのだ。総裁は、日本経済の需給ギャップ(潜在的供給力と実際需要の差)はゼロ近傍に達した、労働需給の引き締まりによる賃金上昇圧力から(消費増税分を除く)消費者物価は2%目標に向かって順調に上昇していると何度も繰り返し、外国人の「追加緩和」期待を一蹴してきた。景気が良く物価も順調に上昇しているのなら「追加緩和」など必要ないといわんばかりなのだ。


会社側の今期の経常増益率予想は▲1.7%
市場は「追加緩和」で円安株高の再来を期待

 しかし、外国人投資家を筆頭に市場が「追加緩和」を求めるのは、黒田総裁ほど日本の景気と物価の先行きに楽観的になれないからだろう。黒田総裁は認めないが、外国人投資家は自らの日本株買いで実現した「円安株高」の景気刺激効果がとっくに一巡していることを知っていると言い換えても良い。

 それは2015年3月期(今期)の業績見通しに表れた。日経新聞が集計した3月期決算1646社(電力、ジャスダック、マザーズ上場を除く)の経常利益予想は前期実績の35.1%増益に対し今期予想は1.7%減益になっている(下表)。前期は円安による輸出代金の増加が製造業の利益を押し上げ、株高による消費拡大(資産効果)が非製造業の利益を押し上げた。しかし、今期は円安株高が見込めず、製造業、非製造業ともに利益予想は大きく減退する...。

大きく鈍化する2015年3月期の経常増益率予想(日経5月17日朝刊)
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 会社側の期初見通しは慎重になりがちだが、それにしても今期の業績見通しは低い。外国人投資家(市場)が、もう一段の円安株高が実現されなければ、この低い業績見通しは修正されないと考えても不思議ではない。期初見通しを上方修正する切り札が、もう一段の円安(株高)をもたらす「追加緩和」なのだ。

 米FRB(連邦準備制度理事会)の政策金利引き上げが景気回復への不透明感から後ズレするという観測が出て米国の長期金利は予想外に低下している。ECB(欧州中央銀行)はユーロ圏の物価上昇率の低下傾向に対応、政策金利引き下げも視野に置いている。こうした状況下では、欧米との金利差が縮小、円安どころか円高に転換しかねない。日銀が「追加緩和」に踏み切りもう一段の長期金利引き下げを実現すれば金利差は拡大、円安に転じ株価も上昇すると外国人投資家は読んでいるのだ。


「追加緩和」で貸出待機資金をさらに積み上げる愚
総裁は「物価の番人」であって「株価の番人」ではない

 しかし黒田総裁は「追加緩和」に動きそうもない。5月10日現在、日銀の国債保有高は206兆円となり昨年5月10日の132兆円から74兆円拡大した。一方、長期国債の買い上げ代金74兆円はほぼそのまま民間銀行の日銀当座預金に積み上げられた。民間銀行はいつでも貸出に回すことができる日銀当座預金を135兆円(前年は63兆円)も保有している。「追加緩和」で日銀が民間銀行から国債など保有資産をもっと買い上げるということになれば、ただでさえ有り余っている貸出待機資金がさらに拡大するだけだ。

 総裁はそんな屋上屋を重ねる「追加緩和」を実施するより民間銀行の貸出を増やす方策(たとえば日銀当座預金の預入金利の引き下げ・撤廃)を考えているのかもしれない。また、円安株高を目的に「追加緩和」を行うという株式市場の考え方にも抵抗があるだろう。日銀総裁は「物価の番人」であっても「株価の番人」ではない。総裁に外国人投資家が「追加緩和」による円安誘導(株高)を求めているとすれば、それはお門違いというものである。

 もう一つ、現在でも日銀は政府が新規に発行する国債総額の7割を買い上げている。「追加緩和」によってさらに国債を買い増せば、新規発行国債のほとんどを日銀が買い上げることになる。これでは財政法で禁じられている日銀の国債引受けに事実上なってしまう。政府はそれをいいことに財政規律を忘れ公共投資を膨らませ続けかねないという不安も総裁にはあるのだろう。

 景気や物価見通しに対する強気が「追加緩和」期待を打ち砕いているだけでなく、総裁が市場の「追加緩和」要求への疑問や財政規律への懸念から外国人投資家の「追加緩和」要求を退けているのであれば、それはそれなりに理解しうるところではある。

2014年5月12日 16:06

「海洋強国」中国が東アジアの孤児になる日

(2014年5月12日筆)

 ミャンマー・ネピドーで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合、10か国)外相会議は5月10日、「現在に南シナ海で起きている事態に重大な懸念」を示し、「脅しや力を使わず、国際法に基づく平和的な紛争解決を強く求める」と異例の声明を発表、中国を強く牽制した。

 中国は南シナ海のパラセル(西沙)諸島近海で石油掘削作業を開始、この作業を護衛する中国公船と作業を阻止しようとするベトナム公船と衝突した。中国が強引に石油掘削作業を始めた地点は国連海洋法条約で認められたベトナムの排他的経済水域の中にある。ベトナムは自らの排他的経済水域を中国に犯され黙って見過ごすことはできないとして外相会議に問題を持ち込み、多くの加盟国の合意を得て上記の声明を獲得した。


マジックペンで中華民国が勝手に描いた「九段線」
欧米の国際法学者は「九段線に正当性はない」

 これに対し中国は、南シナ海に独自に描いた「九段線」を根拠に西沙(パラセル)諸島近海は「主権の範囲内」として掘削作業の正当性を主張している。

 中国が管轄権を主張し実効支配を目論む「九段線」とは、西は海南島、東は台湾、南はインドネシア北岸まで南シナ海全域を包み込む9本の破線(実線で描かれていない実に不正確な線)だ。その形状から「牛の舌」とも呼ばれる。

 「九段線」は太平洋戦争後、国共内戦の混乱時(1947年)、蒋介石の中華民国海軍が南シナ海に描いた「11段線」がベースになっている。国共内戦に勝利した毛沢東の中華人民共和国がこれを引き継いだ。その後、1953年、ベトナム戦争当時、北ベトナムを援助する目的からトンキン湾にひかれた2本の破線を削除、現在の「九段線」に至っているという。

米ウォールストリート・ジャーナル紙(2014年4月2日電子版)の表現を借りれば、「九段線は位置を示していない。地図上に太い黒いマジックペンで書き足したように見える」という代物だ。しかも「中国政府がこの九段線の意味を適切に説明したことはない」(同紙)。もちろんベトナムやフィリピン、マレーシアなどこの海域に領有権を主張し国連海洋法上の排他的経済水域を持つ国々は中国が勝手に描いた「九段線」を認めたことはない。

 同紙は「国際法に従えば、九段線の正当性が認められる可能性はほとんどないだろうというのが欧米の法学者の一般的見解だ」と結論づけている。


ASEAN外相会議が異例の中国批判
習近平の「力による国家膨張」を阻む動き

 2012年、フィリピン近海のスカボロー礁周辺で漁船操業をめぐり中国とフィリピンの艦船が2か月に渡って対峙する事件が起きた。スカボロー礁はフィリピンの排他的経済水域に含まれる。だが中国は今回同様、「九段線」の中に含まれるとして管轄権を主張、両国の艦船が対峙するに至った。

 この時、カンボジアで開かれたASEAN外相会議でフィリピンは中国批判を共同声明に盛り込むことを求めたが、中国に近い議長国カンボジアはこれを拒絶、共同声明が発表されないという異常事態に陥ったことがある。しかし今回も議長国は中国に近いミャンマーだったが、外相会議で中国に排他的経済水域を侵害されたベトナムの要請を受け、暗に中国を強く批判するASEAN声明が採用されたことになった。

 タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、フィリピン、ブルネイなどASEAN加盟国の中核国は中国向け輸出に大きく依存している。中国に隣接する低所得国のラオス、カンボジア、ミャンマーは中国からの援助が大きい。そのASEAN諸国の外相会議が曲がりなりにも結束して暗に中国を強く牽制したのは異例の事態ともいえる。

 習近平の中国は「中華民族の復興」、「海洋強国」を謳い文句として力による国家膨張を推し進めている。しかし、西にはウイグル、チベット(漢民族支配への反抗)、東には日本(尖閣諸島領有をめぐる紛争)、南にはベトナム、フィリピン、マレーシア(九段線をめぐる領海紛争)と中国の力による膨張主義を阻む動きが顕在化している。そういう時期に味方と頼むASEANが異例ともいえる中国批判の声明を出したことは中国には大きな痛手だろう。


予想以上に低いASEAN諸国の中国への信頼度
注目されるフィリピンの国連仲裁裁判提訴

 日本の外務省が海外機関に委託して調べた興味深い世論調査(2014年3月)がある。ASEAN7か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、ミャンマー)の18歳以上の国民(各国300名)を対象にしたものだ。

 この世論調査で日、米、英、独、豪、露、中、韓など11か国の中で「もっとも信頼できる国はどこか」を聞いた結果、第1位日本(33%)、第2位米国(15%)、第3位英国(6%)だった。中国は豪州と並んで同率4位、5%の支持にとどまっている。中国への経済依存度が極めて高いにもかかわらず、ASEAN諸国の中国への信頼度は予想以上に低いといわざるを得ない。日本の外務省の委託調査である点を割り引いてもそう判断できる。

 このまま中国が国際法上の支持を得られない手前勝手な「九段線」を根拠に南シナ海へ海洋膨張を続ければ、中国はただでさえ低いASEAN諸国の信頼をさらに失う結果になる。そうなれば中国は最も期待を寄せているASEAN諸国からそっぽを向かれ、東アジアで孤立しかねない。

 中国共産党は、国内では、官僚腐敗、影の銀行、過剰生産、所得格差、環境汚染、ウイグル反乱など解決しきれないほどの問題を抱え込んでいる。そんな状態でASEAN諸国との経済関係に亀裂が入れば泣き面に蜂ということになる。

 フィリピンは、この1月、中国が「九段線」を根拠に領有権を主張していることに対して、国連海洋法に基づき国際仲裁裁判を請求した。3月には国連の常設裁判所に4000ページの意見陳述書を提出、「九段線は無効だ」と主張したとウォールストリート・ジャーナル紙(4月2日付)は伝えている。

 仲裁裁判所がフィリピンの主張を認めれば、中国の「海洋強国」戦略は国際法上、頓挫することになる。中国がいつまで「国際法を無視する国」でいられるのか、意外に早い時期にその判断が下されるかもしれない。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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