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大西良雄ニュースの背後を読む

2013年8月

2013年8月26日 14:40

新興国並みの日本株安、しぼむアベノミクスへの期待

(2013年8月26日筆)

 アベノミクス景気を牽引してきたのは「円安株高」だったが、その「円安株高」に黄信号が灯っている。

 日経平均株価は5月22日終値(高値)1万5627円から6月13日終値(安値)1万2445円まで20.3%下落した。株価が高値を付けた5月22日はバーナンキ米FRB(連邦準備制度理事会)議長が米議会でQE3(量的緩和第3弾)の縮小に言及した日である。

 その後、日経平均は7月18日に1万4808円の戻り高値をつけたが再び下落した。7月の戻り高値は5月高値に遠く届かなかった。それだけではなく7月の戻り高値以降、日経平均は上値、下値ともに切り下げている。


「緩和縮小発言」後、新興国の株価と通貨が急落
緩和マネーの流出で日本株も新興国並みの下落

 バーナンキ議長の緩和縮小発言以来の株価下落は日本だけではない。トルコ-27%、インドネシア、フィリピン-20%弱、タイ-18%弱、中国-10%強と新興国の下落率は大きかった(下表)。緩和縮小の火元、米国のNYダウ下落率は-1.9%とわずか、表にはないが欧州ではドイツが-1.3%、フランスは+0.4%の株価騰落率だった。

新興国の株価下落率(5月22日終値 - 8月23日終値、%)
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 緩和縮小発言は欧米の株価にはあまり響かなかったが、新興国には多大な影響を与えたことになる。新興国では緩和縮小発言を機に海外の投機マネーが現地市場から流出、株価が下落する一方、現地通貨が売られトルコリラ、インドネシアルピア、タイバーツ、ブラジルレアルなど現地通貨は大幅に下落した。

 インドネシア、ブラジル、トルコなどでは通貨下落で輸入物価が急上昇しインフレが再燃、さらなるマネー流出に伴う通貨下落を避けるために政策金利引き上げを余儀なくされている。マネー流出を放置すれば外貨準備が枯渇し通貨危機を招く国もある。これらの新興国では景気が後退局面にあり、政策金利の引き上げが景気をさらに悪化させるというジレンマに陥っている。

 リーマンショック後、米FRBはQE3まで3次の量的緩和を実施、世界にドルをばら撒いた。この結果、世界のドル流通量を示すワールドダラーはリーマン前から4兆ドル増えて現在では6兆ドル(約600兆円)に膨らんでいるという(日経新聞6月4日朝刊)。

 この緩和マネーの流入がリーマンショック後の新興国の高成長と株高を支えたのは確かだ。だが今は逆にバーナンキ発言以来の緩和マネー縮小への恐れだけ(まだ緩和縮小は実施されていない)で投機マネーが流出、新興国では株安通貨安のダブルパンチに見舞われたのである。米FRBを筆頭とする先進国の野放図な量的緩和政策に新興国が翻弄される事態が再び繰り返されたのだ。

 日本の株価下落率も新興国並みとなった。日経平均株価は先週末段階(8月23日終値1万3660円)で5月22日高値から12.6%下落した。日本の株価もまた緩和マネーの流入によって上昇し流出によって下降した。


「安倍大勝」後に外国人は日本株を売り越した
円は103円が上値の壁、株高にも限界?

 ヘッジファンドなど外国人の日本株買い越し額は4月の2兆6862億円をピークに減少を開始、ヘッジファンドが決算期を迎え利益確定売りに転じた6月には6707億円に縮小した。決算期明けの7月は9421億円の買い越しに戻したが外国人の日本株買いは本格化せず、逆に外国人は7月の後半から第4週、第5週、8月第1週と売り越しに転じた。その結果、株価が再下降した。

 外国人が売り越しに転じたのは、7月21日の参議院選挙で安倍自民党が大勝した直後からだった。株式専門家の多くは安倍自民党の大勝を受けて外国人が再び買い越しに転じ日経平均は5月高値を奪回すると読んでいたが、その読みは見事に外れた。外国人は戻らず、日本の株式市場はエネルギーを急速に失ってしまった。ちなみに5月の東証一部1日当たり売買高はバブル期を大きく上回る50億株にも達したがその後急減、7月は29億株となった。

 外国人は参院選挙後なぜ日本株を売り越したのか。運用担当者が夏休みに入る前に売り買いの持ち株を手仕舞うという市場要因もある。しかしそれ以上の要因がいくつかあるように思える。

 第一は、米FRBの量的緩和縮小に伴う緩和マネーの縮小懸念が新興国株だけでなく日本株にも及んだという要因だ。アベノミクスの成否などお構いなし、緩和マネーは自己都合で日本からも米国へ戻りつつあるということになる。

 第二は、日本株の先行きへの評価、つまりアベノミクスへの外国人投資家の評価にかかわる。外国人はアベノミクスによる成長の持続性を疑い始めたのかもしれない

 たしかに日本の実質GDP成長率(年率換算)は1~3月期4.1%、4~6月期2.6%と先進国では最高水準になった。しかし、その成長は大胆な金融緩和が起こした株高による資産効果(消費増加)と巨額の政府債務を抱えながらの乾坤一擲、10兆円超の補正予算(政府支出増加)という一時的要因に依存したものだ。

 財政規律上、景気刺激のための次の巨額の財政出動はあり得ない。株高をもたらした円安にも限界が見え始めた。日本の株価は新興国並みに下落したが日本円は欧米並みの強い通貨になっている。事実、5月22日以来、ユーロは3.9%高、日本円は4.3%高となった。バーナンキ議長発言以降、新興国の通貨不安によって「安全通貨」として日本円が買われたためだ。

 円は5月22日に終値ベースで対ドル103円16銭の安値をつけた後、7月5日に101円20銭、7月19日に100円95銭へ戻したが103円には至らなかった。いまでは5月22日安値の103円が円安の限度と意識され始めている。仮に円安に限界があるのなら、円安による輸出企業の業績改善による株高、株高による消費拡大という好循環も限界に逢着することになる。


株高が止まれば資産効果(消費拡大)も剥げる
「街角」の景況感は4ヶ月連続で低下、追加緩和も

 所詮、ヘッジファンドなど外国人の儲け心(自己計算)に働きかけて実現したアベノミクスだ。円安が限界に逢着すれば株高もピークアウトし資産効果は剥げる。持続的成長の柱になる輸出の数量回復は新興国景気の後退で当分望めない。所得増加による国内消費の拡大がなければ非製造業を中心とした設備投資の増加も期待できない。そのうえ円安インフレによる消費減退が控えている。

 日本人もアベノミクスによる景気回復の持続性には疑問を持ち始めた。内閣府が毎月まとめる「景気ウォッチャー調査」はタクシーの運転手、スーパーの店員など一般庶民の景気実感を問う調査で「街角景気」の調査とも言われる。

 その街角の景気判断は3月の57.3をピークに4ヶ月連続で低下、特に6月以降の悪化が著しい。6月は53.0、7月には52.3まで低下した。全体の7月景況判断は好不況の境目である50.0をまだ上回っているが、家計動向関係の景気判断は50.6%(3月56.9)まで低下した。中でも小売り関係者の7月景況判断は50.0(3月55.6)、飲食関係者の景況判断は46.0%(3月58.6)と急悪化している。

 株価が反落して資産効果が剥げ落ち始める一方、円安による輸入物価上昇(生活物資の価格上昇)が消費に悪影響を及ぼし始めたといえそうだ。 

 「街角景気」は景気指標の中でも株価との連動性が極めて高いといわれる。一般庶民の景気実感の悪化もまたアベノミクスによる期待先行の株高、底の浅い景気回復に疑問を呈する形になっている。この限界を突破するために黒田日銀は「異次元緩和」をさらに拡大する追加緩和に踏み切るというのだが、屋上屋を重ねるだけに終わらなければ良いのだが。

2013年8月20日 13:59

「半沢直樹」で分かった銀行融資が増えない理由

(2013年8月20日筆)

 TBSの連続ドラマ「半沢直樹」が大人気で8月11日、第5回目の平均視聴率が29%に達し、NHK朝の「あまちゃん」を抜いて視聴率トップになった。小生、漫才師やタレントが悪ふざけして仕切る番組が嫌いで民放テレビを視聴する機会がめっきり少なくなったが「半沢直樹」だけは欠かさず見ている。

 視聴者の多くは、融資焦げ付きの責任を部下に押し付け自分の保身を図る上司の支店長に対し「倍返しだ」といって反抗する融資課長・半沢直樹に大きな共感を覚えているという。サラリーマンは理不尽な上司にたてついてみたいという願望をいつも抱えている。しかし上役優位の組織社会ではそれは果たせない願望だ。果たせない願望はドラマの「半沢直樹」に託して果たすしかない。

 その典型はドラマの舞台になっている銀行だ。銀行は民間企業の中でも最も上役優位が支配する組織だ。そんな銀行組織で「上役に反抗する半沢直樹」など存在し得ない。本店人事部の目は組織の隅々まで行き渡り、上役に逆らうような行員には配転、左遷が待っていると現役の多くの銀行マンが証言している。


「半沢直樹」の「倍返し」以外はすべて真実
貸倒れをやらかした担当者は出世の道も閉ざされる

 かといってドラマ「半沢直樹」のすべてが現実にはあり得ない作りごとか、というとそうでもないらしい。「週刊現代」8月31日号の「現役銀行員匿名座談会・『半沢直樹』と同じ世界で生きています」によると、現実にあり得ないのは「倍返し」だけでドラマの背景に設定された銀行内部や融資先との様々なトラブルは真実だという。

 この匿名座談会で語られている事実の中で最も興味深いのは「結局、我々にとって出世に一番影響があるのはやっぱり損失や不良債権の問題だね」、「そう、貸したカネを焦げ付かせてしまえばすぐ本店に知れ渡るし、上司の出世にも影響が出るし、本人の出世の道は閉ざされかねない」と口々に匿名メガバンク行員が語っている点だ。

 関西系メガバンクの匿名行員は「貸倒れをやらかした時の担当者は惨めだぜ。対策会議の最中に全員の前で上司から罵倒され、資料の分厚いファイルを投げつけられるのは当たり前。」と語っている。対策会議で半沢直樹がファイルを投げつけられるシーンがあったが、あれは実話だったのだ。

 ドラマではプラスチックねじの町工場を経営していた半沢直樹の父親は銀行融資を断られ首を吊って死ぬ場面がある。匿名メガバンク行員はこれの場面についても「あれと似たようなケースは、銀行の営業なら誰でも経験しているんじゃないかな」と証言している。融資を焦げ付かせれば出世の道を閉ざされるのだから、銀行マンが焦げ付く前に融資を止め融資金の回収を急ぐ行動に出るのは当たり前だというのだ。その結果、融資先の経営者が首を吊っても知ったことではないと言って恥じないのが普通の銀行マンだとすればそら恐ろしい。


銀行は雨の日に傘を取り上げ晴れの日に傘を差し出す
融資焦げ付きによる減点評価を恐れる銀行マン

 ドラマ「半沢直樹」の原作者・池井戸潤の直木賞候補作『空飛ぶタイヤ』、直木賞受賞作品『下町ロケット』でも同じような舞台が設定されている。『空飛ぶタイヤ』ではトラックの脱輪事故に巻き込まれメインバンクから融資を断られる中小運送会社の経営者が主人公だ。『下町ロケット』は宇宙ロケットエンジンの元研究者で現在は小型エンジンを製造する中小企業の経営者が主人公だ。彼は大口取引先の発注打ち切りやライバル企業からの特許訴訟に見舞われ資金繰りに奔走するが、メインバンクから追加融資を断られるという設定だ。

 ドラマで半沢直樹は「銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を差し出す」という言葉を吐いた。銀行は晴れの日(経営好調の時)はどんどん貸すが、会社が雨の日(経営苦境の時)になると銀行は傘(融資)を引き上げるという意味だ。半沢直樹の父親の場合も、『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』の場合も銀行は雨の日に傘を取り上げたのである。元三菱銀行マンの作者・池井戸潤は自らの体験から雨の日に傘を取り上げる銀行の有様を忌み嫌ったに違いない。

 突然、現実に戻って恐縮だが、黒田日銀は「異次元緩和」政策に基づき月間7兆円超という巨額の長期国債を銀行から買い上げている。銀行は日銀に売った長期国債の代金を日銀の当座預金に積み上げいつでもこれを取り崩し融資に回すことができるようになっている。しかし、銀行の日銀当座預金は大きく積み上がったが銀行からの融資の増加率は「異次元緩和」前とほとんど変わらない。融資は増えず、無駄に日銀当座預金が積み上がる「ブタ積み」状態が続いているのだ。

 驚くべきは銀行の預貸率(預金がどれだけ融資に回っているかを示す比率)の低下だ。リーマンショック前は80%近かった預貸率がこの6月には大手行で64%、地銀は73%へ低下した。中小企業向け融資が専門の信用金庫に至っては預貸率49.6%と融資に回された資金は集めた預金の半分にも満たないのだ。(「日経新聞」8月16日朝刊)。こうした預貸率の低下は「異次元緩和」によって融資を増やし経済を活性化させるという日銀の目論見を打ち砕く結果になっている。

 『空飛ぶタイヤ』の運送会社はトラック脱輪事故までは優良中小企業だった。『下町ロケット』の小型エンジン会社は借金が多少多いのが難点だが、研究開発に優れたベンチャー的企業だった。「半沢直樹」の父親の会社も技術を大切にする町工場だった。苦しい「雨の日」を銀行が融資で支えてやれば経営は回復、もとの有望な融資先に戻る可能性がある中小企業だった。


「向こう傷を恐れるな」といってバブル融資を拡大して失敗
金融庁は融資拡大のため厳しい銀行検査を緩めるというが

 それでも融資焦げ付きによる減点評価を恐れる銀行マンは融資打ち切りに走った。そうした自己保身の習癖が銀行マンにこびりついている限り、いくら日銀が大量にカネをばら撒いても銀行融資など増えるはずがない。

 ただ悩ましいのは、融資焦げ付きを恐れる習癖がバブル期に膨大に積み上がった融資焦げ付き(不良債権)への反省から生まれたという点だ。

 バブル期、磯田一郎住友銀行頭取(故人)は行員に「向こう傷(融資の焦げ付き?)を恐れるな」といって不動産融資を拡大させ土地バブルを演出、バブル崩壊で膨大な焦げ付き(不良債権)を発生させた。融資を拡大し儲けを大きくするために融資先を厳しく審査する審査機能を形骸化させたのは住友銀行だけではなかった。ほとんどすべての銀行がバブル融資にのめり込み不良債権の山を築いたのである。

 その反省から金融庁の銀行検査もいっそう厳しくなった。銀行自身の融資先査定(自己査定)も厳密になり、融資の焦げ付き発生を行員に対する最大の減点評価とする行風が出来上がったに違いない。

 しかし「異次元緩和」でも融資が増えないという現実を前に、金融庁は厳しすぎる銀行検査を転換し、「仮に倒産しても銀行の経営に響かないような中小企業向けの融資は原則として銀行の自己査定を尊重する」(「日経新聞」8月17日朝刊)方針だという。しかしその結果、銀行の自己査定が極端に緩くなりバブル融資が復活したのでは元も子もない。

 銀行と融資担当者は、不動産担保とか個人保証の有無というような安直な融資条件に依存するのではなく、融資先企業の返済能力、つまり将来のキャッシュフロー創出能力を正しく把握して融資に踏み切る能力を早く身に付ける必要があるのではないだろうか。

 そうすれば「雨の日に傘を差し出す」ことができる銀行と銀行マンになれる。その結果、銀行は融資リスクを引き受け代償として融資先から将来利息を受け取る本物のリスク・テイカーになりうるのだ。

2013年8月 5日 11:55

黒田総裁と「市場」は消費増税先送りに反対

(2013年8月5日筆)

 参議院選挙が終わった後、安倍総理が下さねばならない最大の決断は消費税率引き上げを2014年4月から実施するかどうかの決断だ。

 予定通り消費税率の引き上げを決断すれば来年4月~6月の景気は急下降、来春の賃上げもかなわずデフレ脱却(アベノミクス)が頓挫する。消費税率の引き上げを先送りすれば、「市場」は財政再建が先送りされると判断し、日本国債が売られ長期金利が急騰、国債利払いが増加し財政破綻につながりかねない。


浜田氏は「増税先送り」、本田氏は「延期はリスク大」
黒田日銀総裁は「予定通り実施」と乱れる足並み

 そんな難しい決断を10月に控え、政権内部では意見の対立が表面化している。安倍総理が最も信頼する経済政策ブレーンとされる浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は消費増税が与える日本経済へのショック、税収への打撃を根拠に「先送り」を盛んに主張している。この浜田氏の姿勢は一貫しており(本ブログ5月7日筆「『消費増税先送り』が語られる2つの理由」参照)、菅官房長官、安倍総理は浜田氏に耳を傾け増税に慎重な姿勢を崩していない。

 一方、もう1人の内閣官房参与の本田悦朗静岡県立大学教授は「消費増税は避けて通れない。単純な(増税)延期はリスクが大きい」(日経電子版7月29日)と「先送り」には否定的だ。本田氏は浜田氏の「先送り」論を否定する一方、1%刻みの段階的な消費増税という代替案を提案している。本田内閣官房参与は日銀の大規模量的緩和に賛成するリフレ派だが、2012年までは財務省(理財畑)に在籍していた。消費増税先送りに反対する出身官庁・財務省に全面的に抗することは出来ないようだ。

 なお麻生財務大臣は当初はあやふやだったが、7月19日のG20後の記者会見では「消費税を上げる方向で予定通りやりたい」と述べた。その後、7月23日記者会見でも「消費増税は国際公約になっている。上げなかったときのほうが大きな影響を受ける」として増税に積極姿勢を示し、財務省主流派の意見に沿うようになっている。

 市場関係者を驚かせたのは、浜田教授が強く就任を後押ししたリフレ派の盟友である黒田日銀総裁の姿勢だった。黒田総裁は、7月29日の講演で「消費税の2段階の引き上げで日本経済の成長が大きく損なわれることにならない」と述べ、浜田教授の「増税先送り」論にも本田教授の「1%小刻み引き上げ」論にも反対する姿勢を明らかにした。消費増税をめぐってアベノミクスを支える二人のブレーンを含む内閣官房と日銀総裁の意見が対立したのである。

 考えてみれば黒田総裁も財務省ナンバー2の財務官経験者だ。黒田氏は財政規律にうるさい財務省OBのひとりだ。日銀も白川総裁当時から財政規律の緩みや財政再建路線の後退に対しては厳しい姿勢を示してきたが、黒田総裁はこの点では白川路線を継承したことになる。


IMFの「アベノミクス懸念」に同意した黒田総裁
消費増税先送りで台無しになる「異次元緩和」

 また黒田総裁は国際通貨マフィアの一員でもある。財政規律をめぐる国際的世論にも敏感だ。IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミスト、ブランシャール氏(元MIT教授)は7月9日、世界経済の新たな懸念材料として1番目に中国の金融システム不安(影の銀行)や成長の鈍化、次いでアベノミクス、3番目に米国の量的緩和の縮小(緩和出口論)による世界金融の不安定化を上げた。このブランシャール氏の見方に黒田氏は「理解できる」と応じたという。

 ブランシャール氏はアベノミクスについて、信頼できる中期的な財政健全化策を伴わなければ「投資家は日本の財政の持続性を不安視し、日本国債に高い金利を求めるようになる」として指摘、「そうなるとアベノミクスは難しい状況に追い込まれる」と語った(朝日新聞7月10日夕刊)という。黒田氏は消費増税による財政健全化を先送りすれば「投資家は日本国債に高い金利を求める」というブランシャール氏の見方に同意したことになる。

 投資家とは黒田日銀が「異次元緩和」によって働きかけた「市場」のことだ。「市場」は消費増税を先送りしたり小刻み引き上げに変更したりすれば、日本政府が財政再建を先送りしようとしていると見なし日本国債売り(長期金利上昇)に踏み切るリスクがあると黒田総裁は認めたことになる。

 黒田総裁は市中新規発行額の7割もの国債を買い上げるという大胆な金融緩和(異次元緩和)に踏み込んだが、この狙いの一つは金融緩和に伴う物価上昇が引き起こす名目金利上昇を抑制することにあった。大量の長期国債を日銀が買えば国債価格は上昇し名目長期金利は低下するからだ。しかし消費増税が先送りされ財政悪化リスクが高まれば国債が売られ逆に名目長期金利が急上昇しかねない。名目長期金利が急上昇すれば景気に打撃を与え国債の利払い急増を招く。日銀は利払い増加で火の車になった財政を糊塗するために長期国債を買うという「悪しき財政ファイナンス」に引きずり込まれかねない。

 これでは黒田総裁の「異次元緩和」は台無しだ。だから黒田総裁はブランシャール氏の「アベノミクス懸念」に同意したのだろう。


「市場」は消費増税実施をとうに織り込み済み
増税先送りでトリプル安が発生するとも予想

 ではブランシャール氏も黒田総裁も気掛かりな「投資家」つまり「市場」はどう思っているのだろうか。

 まず「消費増税を実施する環境は整ったか」という問いに対して「市場」の重要な構成員である野村証券、バークレイズ証券など民間調査機関14社のうち13社が「整った」と応えている。14社平均の2013年4~6月期の実質GDP成長率予測は3.5%に達し、増税実施の判断材料になるとされる2%の実質成長率を大きく上回るからだ(日経新聞7月31日朝刊)。

 調査機関ではなく国債の売買を担当する債券市場の担当者はどう考えているのか。日経グループ「QUICK」の債券月次調査(債券担当者144名が対象、7月23日~25日実施)によれば、2014年4月の消費税率引き上げの可能性について、約95%の担当者が「予定通り実施されるだろう」と答えている。一方、2014年4月の引き上げが見送られた場合、約75%の担当者が「長期金利は上昇する」と答えている。さらに来年4月の増税が見送られれば、約50%の担当者が日本株の下落を予想し、約60%が円の下落(円安)を予想している。(日経新聞7月30日朝刊)。

 債券市場にとって消費増税の実施は織り込み済み(既成事実)であり、先送りは円安、債券安(金利上昇)、株安の「トリプル安」を招くと予想しているのだ。以上の結果は、浜田教授の「増税先送り論」より黒田総裁の「予定通り2段階論」のほうが「市場」の賛同を得やすいとことを示している。

 安倍総理がどちらに乗るか正念場を迎えるが、黒田総裁の意見に従うのではないか。その場合、社会保障予算の傾斜配分や法人税減税など来年4~6月期の景気下降を和らげる財政政策、あるいは食品の消費税軽減・複数税率の導入など消費増税に伴う物価上昇のマイナスや可処分所得の減少を補う政策が必要になると思われる。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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1.安倍内閣は「何を...
Posted by Anonymous
安倍首相の昨日の記者...
Posted by 匿名
人権(笑) それを言わね...
Posted by 言ってる人々の信頼
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