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大西良雄ニュースの背後を読む

2013年6月

2013年6月24日 14:23

民主惨敗、自民全員当選―都議選は国政選挙なのか

(2013年6月24日筆)

 2013年東京都議会選挙の結果が出た。(1)自民党と公明党は立候補者全員が当選し完勝、(2)都議会第1党だった民主党は惨敗、第4党に(3)共産党が議席倍増、民主を上回り都議会第3党に躍進、(4)新勢力は「みんな」が増勢、維新は自滅、という結果になった。

2013年都議選の結果―自公完勝、民主大敗、共産、みんな躍進
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 民主党には厳しい結果となった。結局、民主党が減らした議席の大半を自民党が奪い、残りの減少議席は共産党に移るという結果になった。都議選という地方選挙であるにもかかわらず、国政ベースの旧・民主党政権の不評が選挙結果に出てしまったことになる。


自民党は民主党「与党失格」論を追い風にして全員当選
「何でも反対」の野党・共産党が「是々非々」民主党に代替


 民主党は「与党を経験したこと」のマイナスが二重の意味で出た。

 第一に、民主党は衆参ねじれ国会の中、党内分裂によって政権の統治能力を失い「与党失格」の烙印を押されてしまった。民主党は捨て身となって消費税率引き上げを決めTPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加に足掛かりをつけるなど政権与党としての難問をいくつかクリアした。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度導入など原発廃止への道筋をつけようともした。しかし、世論の「与党失格」の烙印を消し去ることが出来ず、都議選では政権与党失格の批判票が自民党完勝をもたらした。

 第二に、野党に転落したあとも与党気分が抜けなかったことだ。政権与党として実際の政策運営を経験すれば、どんな政党でも「何でも反対」の野党に戻ることは出来ない。与党を経験した民主党は政権に対して「是々非々」(海江田民主党代表)の構えになった。この虚を「何でも反対」の共産党に突かれ民主党は政権批判票を共産党にさらわれてしまった。共産党はごく少数の市政を除き政権与党を経験したことがないことが都議選の勝利につながったのだ。


地方選挙なのに国政レベルの「アベノミクス」が争点
石原―猪瀬都政に都議選で問うべき争点は多々あった


 残念なのは、首都とはいえ単なる地方選挙に過ぎない都議選が参議院選挙を1ヶ月後に控えたために国政選挙の前哨戦と扱われたことだ。その結果、都議選の争点は国政レベルの「アベノミクス」の是非に終始した感がある

 現在の猪瀬都政とその前の石原都政に対して問うべき争点は全くないのか。オリンピック招致の是非、築地市場の移転、新銀行東京の処理、営団地下鉄・都営地下鉄の一体化問題など争点化すべき都政の課題はいっぱいある。首都ゆえに豊かな税収をいいことに都財政の無駄遣い、外郭団体の整理再編、公務員改革をサボってはいないか。地方主権や道州制の議論はどこに行ったのか。

 挙げればさらに認可保育所の待機児童解消、非正規雇用問題、都市住民の高齢化問題(介護、医療、特養ホームなどの不足、老人の孤立死、団地の高齢化、老朽家屋対策などなど)、首都高速の老朽化・外環道延伸問題、直下型地震対策・防災対策など都民に切実な課題が山積みになっている。

 W杯サッカー開催に抗議するブラジルのデモ隊のように、東京五輪やカジノ誘致に使う予算があるなら都民の福祉や教育、防災対策に回せという声が澎湃と起こる可能性はないのか、争点は数えれば斬りがないほどある。

 そんな東京都議会が抱える多くの争点は吹っ飛び、国政選挙まがいの「アベノミクスの是非」という争点にすり替わってしまった。これでは「地方主権」とかいう掛け声が空しく響くことになる。


アベノミクスによる「景気回復を実感していない」が74%
過去2番目に低い低投票率43.50%は何を意味する


 その「アベノミクス」の評価だが一般庶民の眼は冷ややかだ。円相場や株価の乱高下が発生した後の6月21日~23日に実施された「日経新聞」の世論調査によれば、「アベノミクスの効果が今後も続くかどうか」との問いに対して43%が「続かない」と答え「続く」の36%を上回った。さらに「景気回復を実感しているか」という問いに対して74%(前回調査よりポイント低下)が「実感していない」と答え「実感している」の17%を大きく上回っている。

 選挙民は「アベノミクス」を妄信して安倍自民党を選んだわけではない。それは投票率に現れている。民主党が大勝した前回都議選の投票率は54.49%だったが今回は43.50%だった。前回を約11%も下回り戦後2番目に低い投票率だった。投票率を見る限り、前回都議選では政権交代に期待する大風が吹いたが、「アベノミクス」を期待する風は吹かなかったようだ。

 選挙民は半分以上が投票しなかった。彼らは「自民党に入れるのもしゃくだ」、かといって「失敗した民主党に入れる気にもならない」、「維新は女性蔑視、安倍より右翼で危ない」といって投票所に行かなかった。無党派都民の一部が、都政改革に熱心で維新よりましな「みんなの党」へ、東京五輪通知に反対し福祉や生活の重要さを訴えたと「東京・生活者ネットワーク」へ投票したのが救いといえば救いだった。

 選挙民は円安や株高で潤っているのがほんの一部の国民であることをよく知っている。株高による資産効果に依存したアベノミクスが一般庶民を本当に潤してくれるか選挙民は大いに疑っている。ただ他に選択肢がないから自民党を勝たせた。選択肢が見つからなかった過半以上の選挙民は棄権したのだ。

 安倍総理は都議選の応援演説で「アベノミクスによって日本を覆っていた暗く重い空気は一変しました」などと奢っていた。今回、「候補者全員当選」という結果を見て安倍総理がさらに居丈高になる恐れがある。時の権力者が謙虚さを忘れ多数を頼んで居丈高になればなるほど選挙民はしらけてしまう。

 小生など安倍総理の「したり顔」を思い浮かべると、つい次の参議院選挙で投票率がさらに下がるのではないかと心配してしまうのだが...。

2013年6月17日 00:06

テンプスタッフ・篠原欣子氏の「私の履歴書」を読んで

(2013年6月17日)

 「日経新聞」朝刊最終面に載る「私の履歴書」は愛読者が多い看板コラムだ。最近は会社スキャンダルが多く経営者の登場頻度が少なくなった。日経新聞も「私の履歴書」に登場させる人物の選定に困り、スキャンダルの少ない小説家、文化人、スポーツ選手の登場回数が多くなっていると聞く。

 小生はサラリーマン上がりの大企業経営者の「私の履歴書」には興味はない。大企業サラリーマンの場合、社長・会長になったから優れた人物だというわけではない。たまたま配属された部署の上司に目を掛けられ、その上司が出世したので自分も社長になったというケースが多い。そんな人物のつまらない出自や学歴自慢、社内武勇伝を読んでも何の参考にもならないからだ。

 自らの手で事業を起こし会社を立ち上げ成功した、あるいは失敗した「企業家(アントレプレナー)」の「私の履歴書」が好きだ。彼らこそ能力にあふれ魅力に富んだ、優れた人物だと尊敬に値する。社内世渡りが上手なだけの日本型サラリーマン経営者に「企業家」と呼べる人物などいない。


「前へ進む。前だけ見ていれば何とかなる」
34歳で日本を飛び出しチューリッヒ、ロンドンへ


 今月の「私の履歴書」は、人材派遣業で第2位のテンプホールディングスの創業者で会長の篠原欣子さんが書いている。連載の途中だが、これがとても興味深い。若い人たちの生き方に示唆を与えてくれるし、起業・創業の参考になる。小生も、68歳の身にはもはや手遅れだが、毎日目を皿にして読んでいる。

 篠原さんは昭和9年(1934年)生まれ、8歳のとき父親が病死、助産師だった母親に5人兄弟とともに育てられた。商業高校を卒業後、三菱重工業、東洋電業でOL生活を経験している。この間、一度は婚約破棄、もう一度は3ヵ月で離婚と二度も結婚に失敗した。戦後の混乱期だから恵まれた青春を過ごした人など少なかったが、篠原さんの不運は想像を超えるものがある。

 篠原さんは2度目の結婚失敗で「人生の敗残者」という言葉が浮かぶほどの「どん底」に陥った。しかし「前へ進む。前だけを見ていれば何とかなる」と考えた。そして中学時代の「カムカム英語」(NHKラジオの英会話教室、"カムカム・エブリボデー"で番組が始まった)以来勉強してきた英会話に打ち込む。その末に34歳(1969年)の時、英会話を本格的に勉強するため母の助力となけなしの蓄えをはたいてスイス・チューリッヒ、イギリス・ロンドンの語学学校へ飛び出していった。34歳で飛び出すその勇気には脱帽するほかない。


「テンプスタッフ」創業のヒントをシドニーで得る
経理も税務も資金繰りも分からず、自転車操業


 帰国後、ドイツ系の商社を経て「もう一度外国に出たい」という思いから豪州の市場調査会社に転職、今度はシドニーに飛び込む。ここで篠原さんは「めまいがするような衝撃を受けた」と書いている。オフィスでは「女性の管理職が何人もいて、一般の女性社員も責任ある役割を与えられていた」、「男女とも好きな服装でてきぱきと仕事をしている」「年齢や地位に関係なく誰もがファーストネームで呼び合う」――。

 篠原さんは「日本ではなぜそうではないのか」という疑問が首をもたげたという。そんなある日、自席に座ると近くで見知らぬ女性が仕事をしていた。「あのひとは誰」と聞くと「テンプスタッフよ」という。社員が休むとその仕事を埋める人材を派遣してくれる会社があり、その人材を「テンポラリー・スタッフ(臨時社員)」と呼んでいた。そのテンプスタッフが後の篠原さんの創業のキーワードになった。

 シドニーに1年半いたあと日本に戻り、篠原さんは創業に取り掛かる。第一次オイルショック後の1973年5月、六本木のアパートの2階、自宅兼事務所の玄関ドアに「テンプスタッフ」の看板を掲げた。資本金は母から生前贈与でもらった100万円を充てた。一つ年上の税理士が相談相手、知恵袋になってくれたが従業員なし、38歳、たった一人の会社設立だったという。

 「事務処理請負サービス」が「テンプスタッフ」の事業内容だが、外資系の会社に英文タイピストを派遣するのが最初の仕事だった。篠原さんは会社を立ち上げてから顧客になる外資系会社を手当たり次第に訪問、その後で派遣する英文タイピスト、つまり登録スタッフを募集したというのだからその無手勝流には恐れ入る。初年度3100万円、2年目9600万円の売上を上げたのは幸いだったが、篠原さんには経理、税務、資金繰りの知識が皆無、自転車操業で挫折寸前に陥る――。

 ここまでが本日の6月17日朝刊までの創業物語、その後どうなったか、「私の履歴書」の続きをお読みください。ちなみにテンプホールディングス(テンプスタッフや買収したインテリジェンスの持株会社、東証一部上場)の2014年3月期の売上高予想は3650億円、前期末の自己資本比率は63.4%、銀行借入金はほぼゼロの超優良企業になった。篠原欣子さんは「フォーブス誌」の「世界最強の女性経営者ランキング」に7年連続で登録されている。

 読者は苦労の末、「テンプスタッフ」を大企業に育てたのだから篠原さんは男勝りのふてぶてしい女性に違いないと思いがちだが、そうではない。小生の記者経験からして成功する起業家の多くは男女に関係なく、聡明だが謙虚で威張ることのない、すがすがしい人物だった。篠原さんもそのような人物だと聞いている。会社という虎の威を借るサラリーマン経営者とはそこが違う。


日本ではバブル崩壊後、廃業率が開業率を上回る
「第2の篠原欣子」を育てる仕組みはあるか


 バブル崩壊以降、日本では廃業率が開業率を上回り会社数が減少する傾向が常態化している。なぜそうなったのか。官僚や大企業優位の日本にはもともと新規開業者やベンチャーを尊敬する風土がない。若者たちも不景気続きのため「寄らば大樹」の志向を強めリスクを回避しがちとなった。

 確かにジャスダックやマザーズなど新興市場はできた。だがアメリカのようなベンチャーキャピタル(機関投資家)やエンジェル(ベンチャー支援の個人投資家)がほとんど育っていない。法律や規制などが障害になって新規開業者やベンチャーが育つ「隙間」がないなど日本には問題が多々ある。

 アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の日本産業再興プランでは現状約5%の開業率を米英並みの10%台に引き上げるという目標を掲げている。日本経済の再成長には現状の大企業体制の閉塞を打ち破る新規開業者やベンチャー企業が何より必要だ。新規開業者などによるイノベーションこそ成長の要因だ。

 株高と円安で輸出大企業を潤すアベノミクスも結構だが、その精力の幾分かを割いて次の篠原欣子さんを生み出す本物の仕組み作りを考えたらどうかと思う。政府が手取り足取りする世話するベンチャー政策が必要だなどと言うつもりはない。篠原さんは政府のお世話で大きくなったわけではない。

 政府は農業・医療・介護保育・労働など成長分野の規制緩和を進め、公共サービス・データなどの民間開放を進めるだけでよい。創業機会をひろく事業家を志す人々に提供するのが政府の仕事だ。そして立派なベンチャーキャピタル、ベンチャーエンゼルを生み出す仕掛けを考え実行するだけでいい。

 「企業家」を育てるのに政府・官僚の余計なお節介は要らない。

2013年6月10日 11:21

家族の歴史を消して宅地が更地(さらち)に戻る

(2013年6月10日筆)

 今年はアジサイの開花が早かったように感じます。ただ梅雨入りしても雨がほとんど降らない空梅雨です。日中すぐアジサイの花はしぼみ葉がしおれてしまいます。アジサイは水を好み水なしでは花も葉も維持できないようです。しぼんで縮れたアジサイの花が哀れで小生も毎日水遣りに明け暮れています。

 小生が住む同じ町内の幹線道路沿いの植え込みにいつも大きな青いアジサイの花が咲きます。いつもは水がたっぷり与えられ花が最後までしぼむようなことがありませんでした。しかし今年はその植え込みのアジサイは縮んだ花をつけたまま立ち枯れてしまいました。


水遣りのご主人を失い、立ち枯れたアジサイ

 家内によると、アジサイにいつも水を遣っていたのは植え込みの前に建つ店舗併設の大きな2階建て住宅に住むご主人だったといいます。そのご主人の姿が最近見受けられなくなったと家内は申します。水を遣らなければアジサイは枯れてしまいます。ご主人の身に何かはあったのでしょうか。

 そう案じているうちにご主人の2階建て住宅の敷地内に重機が入り家屋を取り壊し始めました。150坪はあろうかというその敷地はあっという間に更地(さらち)になってしまいました。そしてまもなく一戸3880万円の建売住宅を6戸分譲販売するという不動産屋の旗が立ました。ご主人は引越しされたのか、亡くなられたのか、よく分かりませんが、アジサイの花がつぼみの頃、敷地は不動産屋の手に渡ったことは確かのようです。

 ご主人の150坪の敷地が更地に戻った時、小生、複雑な思いにとらわれました。この店舗つき住宅は30年以上前、小生が町内に移り住んでまもなく建てられたように記憶しています。店舗は鉄板焼き屋、ラーメン屋、うどん屋、事務所など次々に貸し出されましたがほとんど商売にならず短期間に閉鎖されました。しかし店舗は2階に住むご主人家族には大切な家賃収入だったのではないでしょうか。

 あくまで推測ですが店舗から上がる家賃収入は、ご主人の人生を支える大切な収入源だったに違いありません。あるときは子供らの教育資金に、子供らが育ち家を出て行った後は夫婦の貴重な老後資金になったに違いありません。そのような家族の歴史がこの店舗つき2階建て住宅には刻まれていたはずです。

 しかし店舗付住宅はあっという間に消え150坪の敷地が平坦な更地に戻ってしまいました。どの住宅にもどの敷地にも家族の喜怒哀楽に満ちた歴史が刻みこまれているはずです。しかしその家族の歴史は敷地が何の変哲もない更地に戻ると同時に消え去ってしまってしまうのです。敷地は家族の歴史をかき消して更地に戻ると考えると、なんとも侘しい、そして空虚な感覚に襲われてしまうのです。


更地に戻った敷地、消え去った家族の歴史

 同じ場所に30年以上も住んでいるとご近所のお宅が更地に戻ってしまうケースにたびたび出くわすようになります。よく通った近所の2階建て鉄筋づくりの歯科医院もご主人が脳溢血で亡くなりその敷地はあっという間に更地になりました。医院は不動産屋に売られ医者を目指すご子息の学費に化けたようです。更地には4軒の2階建て分譲住宅が建てられすぐに新しい住人が移り住んできました。そこは親子5人の歯医者家族が暮らしていたことなど全くなかったかのような風景になってしまいました。

 他人事ではありません。小宅もいつかは必ず更地に戻るのですから。2人の息子は家を出て独立、今は家内と2人だけで狭い庭に草木を植え野菜を育てて暮らしています。2人が元気で水遣りを欠かさないからアジサイはしおれず花を咲かせ続けてくれています。

 しかし小生も68歳(家内はもうすぐ65歳)、年が近い兄弟、友人、会社の先輩同輩が次々に櫛の歯が抜けるように亡くなっていく現実を突きつけられるようになりました。この先、アジサイの水遣りをいつまで続けられるか、神様のみぞ知るといわざるを得ない年齢に差し掛かっています。

 小生ら家族の人生が刻まれた我が家が更地に戻り2軒か3軒の建売住宅に化けてしまった風景を想像するとやりきれなくなるのですが、先を見すぎると人生は寂しく侘しくなります。そんな折、小宅が更地に戻る姿を想像するような暇があったら庭先の水遣りに励みなさいという声がどこからか聞こえてきました。確かに元気な今は、スカイブルー、濃紺、ピンク、様々に咲き誇るアジサイの花を楽しみ、気分良く長生きするほうが賢明かもしれませんね。

2013年6月 3日 14:59

ヘッジファンド予想と量的緩和からの「出口戦略」

(2013年6月3日筆)

 日本の株式市場は5月23日、1143円もの暴落に見舞われたが、その後も乱高下を続け翌週の5月30日には737円のもう一段の急落を記録した。兜町では今後も株価暴落の余震が続きそうだという見方が多くなっている。

 日経平均株価は昨年11月以来記録的な連騰を続け半年で84%も上昇したが、この連騰劇の主役はヘッジファンド(値鞘稼ぎの投機基金、私募投信)を中軸とする外国人投資家だった。外国人はこの半年間で実に10兆円近く日本株を買い越したという。一方、外国人は円の先物を大きく売り越した。


株高と円安のダブルで儲けた海外のヘッジファンド
内外の投機筋が演出したアベノミクスの「株高円安」


 この間、ヘッジファンドは「日本株を買う」一方、「日本円を売る」ことで対日投資の為替リスクをヘッジするという操作を繰り返したようだ。その結果、円安・日本株高が進行、ヘッジファンドは日本株の値上がりと日本円の値下がりのダブルで儲けたことになる。

 そのヘッジファンドが彼らの6月中間決算を前に利益を確定するための反対売買に転じた。買っていた日本株を売る(株価下落)、売っていた日本円を買い戻す(円高)というヘッジファンドの反対売買が暴落の引き金を引いたという。

 加えて日本の投資家、特に個人投資家はヘッジファンドへの追随買いを膨らませて株価過熱を演出した。しかし個人投資家は株価急落に驚き、追証が掛かった信用の買い玉を投げ売りした。これが暴落を加速したようだ。

 余談だが、安倍自民党総裁(当時)は「大胆な金融緩和」発言によって市場の「インフレ期待」に働き掛けた。黒田日銀も「異次元緩和」によって市場の期待をさらにかきたて株価の暴騰につながった。結局、安倍総理と黒田総裁が働きかけた「市場」とは値鞘稼ぎをなりわいとする海外と国内の短期投機筋、つまりヘッジファアンドと個人投機家だったようだ。

 安倍総理が自慢してやまないアベノミクス序盤戦勝利の要因である「株高円安」は内外の投機筋によって演出された。それがヘッジファンドの利益確定を目的とした反対売買で一時的にも破裂したとすれば、アベノミクスに対してやりきれない虚しさを感じるのは小生だけだろうか。


緩和マネー縮小の予想招いたバーナンキ議長
資産価格上昇が緩和マネー縮小を招くという皮肉


 それはさておき重要なのは、ヘッジファンドが「日本株売り・円買い戻し」の転じたきっかけだ。そのきっかけは5月22日上下院経済合同委員会でのバーナンキFRB議長の発言にあったようだ。

 「景気改善が持続的だと確信した場合には、今後数回のFOMC(米国公開市場委員会)で資産購入ペースの減速を決定することもありうる」

 ヘッジファンドなど投機筋は「資産購入ペースの減速」というバーナンキ発言に強く反応した。彼らは日米の株高を牽引した「緩和マネー」が縮小に転ずると予想した。リフレ派の論者が良く使う「期待」とは「予想」のことだが、緩和マネー縮小の期待(予想)がヘッジファンドを日本株売りに走らせたのだ。

 少し解説する。米FRB(連邦準備制度理事会)は毎月850億ドル(約8.5兆円)の資産(米国債及び住宅ローン担保証券)を購入、その証券購入相当額がドル資金として市場に供給される。このFRBの量的緩和策は一方で中央銀行が為替、株式、不動産など投機のためのドル資金(緩和マネー)を大量に供給するという性格を帯びている。

 緩和マネーが投機資金に流入することをバーナンキFRB議長は否定しない(黒田日銀総裁も同様だ)。むしろ緩和マネーが株式市場や不動産市場に流入することによって株価や住宅価格など資産価格が上昇することを歓迎している。

 実際、米国の資産価格は上昇を続けた。3月のケース・シラー住宅価格指数は前年比10.9%の7年ぶりの高い上昇率を示した(住宅バブルの再開という声もある)。NY株は5月に入って連日史上最高値を更新している。この株高と住宅価格上昇に伴い米国の消費者は消費態度を好転させた。5月の消費者信頼感指数は5年5ヶ月ぶりの高さとなった。一般の株式保有率が高い米国では株高などの資産効果が日本などに資産効果を大きく上回るようだ。

 しかし米国市場では今、皮肉なことに緩和マネーによる資産価格の上昇が進んで景気指標が改善されるに従いヘッジファンドの間で「緩和マネーの縮小予想」が膨らむという事態が発生している。緩和マネーの縮小予想は株価の下落、引き締め警戒による長期金利の上昇をもたらし、その余波が日本の事情にも及ぶことになる。


FRBは「米景気改善は持続的だ」と確信できるか
予想で急変? まだ不確定要素が多い日米の景気改善


 量的緩和縮小を匂わせた上述のバーナンキ発言には「景気改善が持続的だと確信した場合には」という枕詞がついている。ヘッジファンドはこの枕詞を軽んじているという論者もいる。景気改善が持続するには、資産効果による景気好転が雇用改善による消費拡大や民間設備投資の活発化につながる必要がある。中央銀行の緩和マネーによる株高が終われば景気が後退するというのでは「景気改善が持続的だ」と判断することは出来ない。

 米FRBによる金融引き締めに転じるための「出口戦略」は、量的緩和の停止、縮小、ゼロ金利政策の解除というスケジュールで進むという。昨年12月、FRBはゼロ金利政策を解除する数値条件を示した。現在の失業率7.5%、物価上昇率は1.1%だ。ここからゼロ金利解除(利上げ)の条件である失業率6.5%、物価上昇率2.5%という2つの条件をクリアーするまでにはまだ時間がかかるとする見方が有力だ。ゼロ金利解除は2015年後半になるとする観測もある。

 ただしFRBの量的緩和打ち止めはゼロ金利解除の数値条件には縛られない。そのためヘッジファンドなど市場は2つの条件のうちの一つ、失業率が6.5%を下回り雇用改善(景気改善)が実現された段階で量的緩和停止が実施されると予想する。その時期は2014年1-3月期だと予測する調査機関も少なくない。

 しかしヘッジファンドなどが期待(予想)するように景気改善が持続するかどうか、まだ不確定な要素が多々ある。一つは緩和マネー縮小の予想が強まった結果、株価、住宅価格の上昇が止まり景気改善に歯止めが掛かりかねないことだ。もう一つは欧州の景気悪化や中国の景気減速が米国の景気改善に再び悪影響を与えるのではないかという点だ。

 ヘッジファンドの予想(期待)の変化から資産価格が上昇し景気改善が進んだという点では米国も日本も変わらない。この資産価格予想の変化による景気改善が消費や設備投資などの実態経済の改善につながるかどうか、まだ不透明だ。実体経済の改善の前に資産価格の上昇が反転、頓挫するリスクも十分ある。

 ヘッジファンドの予想(期待)に反応しやすい資産価格の上昇に依存した景気改善は脆いという点に十分注意を払う必要がありそうだ。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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