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大西良雄ニュースの背後を読む

2013年5月13日

2013年5月13日 14:17

100円の壁突破、円安加速にどう対応するのか

(2013年5月13日筆)

 G7(先進国財務相・中央銀行総裁会議)が開催される前日の5月9日、円は壁だった対ドル100円を突破した。G7開催中の10日には円安は加速、101円台後半に下落した。

 今回のG7にはバーナンキ米FRB議長は講演のため欠席せず、共同声明も作成されず、ただ、「財政・金融政策は為替レートを目的としない」「通貨安競争を回避する」ことを口頭で再確認しただけで終わった。そんな有様だったから市場はG7を完全に無視、頑固だった1ドル100円の壁は突破された。


浜田教授の適正レート水準を突破、円高是正は終了?
FRB緩和打ち止め観測で円の先安感が強まる

 その結果、円の独歩安がさらに進んだ。下表は野田総理(当時)の衆院解散発言があった昨年11月13日(アベノミクス相場の始まり)以来の各国通貨の対円上昇率(円の下落率)だ。ユーロの30.9%が最も高い上昇率だが、最低でも韓国ウォンの26.4%という高い上昇率になった。景気回復に手間取っている中国の人民元も30%近い上昇率になっている。

各国の対円上昇率(昨年11月13日対直近高値比、単位%)
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(注)直近高値=豪州ドルは4月10日、その他は5月10日

 安倍総理の経済政策指南役の浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は以前、円の適正ゾーンは「95円~100円」と述べたことがある。IMF(国際通貨基金)は、円が対ドル80円前後だった昨秋、円の適正水準を95円と算定した。これらの説に従えば100円の壁突破ですでに円高の是正は終わったことになる。

 しかし理論的な円高是正は終わっても、市場の「円の先安感(ドルの先高感)」はさらに強まっているようだ。

 100円の壁突破は円安というよりドル高の結果だった。米国の失業保険の申請件数が予想をより減少、米FRB(連邦準備制度理事会)の量的緩和打ち止めが近いという観測からドルが買われたためだという。米FRBは量的緩和打ち止めの目安を物価上昇率2%(3月上昇率1.5%)への上昇、失業率6.5%(4月7.5%)への下落に置いている。失業保険の申請件数の減少は緩和打ち止めの目安である失業率の低下を予想させた。

 リフレ派の議論に従えば、日銀が「異次元」をうたう大規模な量的緩和を継続する一方、FRBが量的緩和を打ち止めすれば、マネタリーベース(当座預金残高+中央銀行券発行残高)の日米増加率が逆転しドル高円安がさらに進行するということになる。要するに今後はFRBより日銀のマネー供給のジャブジャブ度合いのほうがまさり(その結果、日米金利差が拡大し)、ドル高円安が一層進むというわけだ。

 これを受けリフレ派が支配する兜町では「年内対ドル110円が射程に入った」と囁き始めた。円売りを仕掛けた海外のヘッジファンド筋の中には1ドル120円を予測する向きもある。悪乗りした政府与党筋からは「まだ円高是正は終わっていない」という声が出ている。円の先安を見越したジャパンマネーの流出も始まったという。


日米欧の緩和マネー流入による通貨高で緩和競争に突入?
海外から円独歩安批判、国内から「円安インフレ」批判

 しかし、このような円安の加速は海外から受け入れられるだろうか。

 黒田日銀総裁が国際会議の場で「異次元緩和は15年間続いたデフレから脱却するため」であり「円安誘導の意図はない」と上手に説得できたとしても、自国通貨の急激な上昇で輸出にブレーキが掛かり景気後退に見舞われる国々が円独歩安を甘んじて受け入れ続ける保証はどこにもない。

 実際、自国通貨高に耐えかねたのか、5月に入りユーロ圏、インド、オーストラリア、韓国の中央銀行が相次いで政策金利を引き下げ金融緩和に踏み切った。日米欧の余剰マネーの流入による通貨高に見舞われたニュージーランドは為替介入に踏み切った。同じ事情の中国も人民元上昇への対応に迫られている。

 G7がいくら「通貨安競争の回避」をうたっても、自国通貨高を防ぎ通貨安に導くために各国は競って金融緩和に踏み出さざるを得ない。米欧は「金融緩和競争」に先駆し一時ドル安ユーロ安(円高)のメリットを享受した。黒田日銀がこれに追随し円安メリットを享受しようとしている。G7を構成する日米欧は金融緩和による「通貨安」では共犯者だ。共犯者の米欧が、新規に緩和競争に参入した黒田日銀を円安誘導だと批判できるはずがない。

 批判する資格があるのはG7諸国以外の新興・途上地域の国々だ。彼らは日米欧の緩和マネー流入で自国通貨高が進行し輸出停滞による景気悪化に見舞われている。そのうえ彼らは緩和マネーが原油や非鉄金属、穀物などの投機に向かえば物価が急騰、不況下の物価高に陥ることになるからだ。国際商品の最大需要先の中国の景気回復が本格化すれば投機需要も復活することになる。

 ちなみに日米欧の中央銀行が供給する緩和マネー(バランスシートベース)は、2014年末には日銀290兆円、FRB270兆円、ECB(欧州中央銀行)350兆円、合計910兆円(9兆ドル超)の巨額に膨れ上がる。これに緩和競争に新に参入する新興・途上国を加えれば世界の中央銀行のバランスシートは1000兆円(10兆ドル)にもなると想定される。この緩和マネーが投機に向かえば再び資産バブル、商品バブルを引き起こすことになる。

 こうした状況下で米FRBが量的緩和打ち止めに踏み切ればドル高が進行、これに連れユーロ高が進み円の独歩安が際立つことになる。そうなると米国への量的緩和批判は薄まる一方、日本の「異次元緩和」がもたらした円独歩安への中国、韓国、ブラジル、豪州など新興・途上地域からの批判が強まる。ドル高、ユーロ高による対日競争力低下問題がかねてから燻ぶっていた米欧も円独歩安批判の輪に加われば日本は孤立しかねない。

 米国の量的緩和打ち止めによるマネタリーベース格差から円安がさらに加速すれば、国際的には「円独歩安」への批判が強まる。国内的には円安に伴う輸入エネルギーや食料など生活必需品価格が上がる「円安インフレ」への非難を引き起こしかねない。賃上げを伴わない円安インフレに消費増税が重なれば、資産を持たない一般国民は耐えられなくなる。

 浜田教授が言う適正レートの下限値、対ドル100円を突破した今、安倍総理・黒田総裁は内外で副作用が拡大する110円、120円へと円安を加速させかねないヘッジファンドなど市場(マーケット)とどのように対話し折り合いをつけるつもりか、じっくり聞いてみたいところだ。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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