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大西良雄ニュースの背後を読む

2013年5月 7日

2013年5月 7日 00:28

「消費増税先送り」が語られ始めた2つの理由

(2013年5月7日筆)

 所得税の累進税率引き上げなど平成25年度税制改正や「消費税還元セール禁止」法案といった消費税率引き上げを前提にした議論は着々と進んでいる。しかし肝心の消費増税が2014年4月3%、2015年10月2%の2段階で予定どおり引き上げられるかどうか、まだ予断を許さない。

 政府要人からは消費増税先送りを匂わす発言が次々に出始めている。安倍総理の経済政策ブレーンの浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は通信社とのインタビューで「来年4月に消費税を引き上げても大丈夫かは今後を見てみないと分からない。安全策として1年ぐらい延ばすのもいいのではないか」(ロイター電子版4月9日付)と発言した。

 浜田参与は、消費増税の実施によって「せっかく上がりかけた景気がぽしゃり税収の増加を止めてしまっては何のための消費増税か分からなくなる」ことを消費税先送りの理由の一つに挙げていた。

 浜田発言に歩調を合わせるかのように消費増税の責任者である麻生財務大臣も「来年4月に予定している消費税引き上げについて今年10月に判断したいと考えているが、引き上げの状況とならなければ(増税時期を)延ばさざるを得ないということが十分にあり得る」と4月23日の参院予算委員会で答えている(ロイター電子版4月23日付)。


2013年4~6月期GDPは3%を上回る勢い
アベノミクスで消費増税実施の景気条件は整ったが...


 政府は2014年4月から消費増税を実施するかどうかは、2013年4~6月期のGDP(国内総生産)統計を見て判断するといってきた。「社会保障と税の一体改革法」では名目GDP3%、実質GDP2%の達成が一応の目安となっている。10兆円補正予算に伴う公共投資の増加、対中、対欧を除く輸出の回復、住宅など消費増税前の駆け込み需要、それにアベノミクスに伴う急速な株高による国内消費の増加が重なり、2013年4~6月期の実質GDPの伸びは消費増税の目安となる伸び率を上回る勢いにあると予想されている。

 民間調査機関の予測(4月「ESPフォーキャスト調査」)では日本の実質GDPは昨年10~12月期からプラスに転じ今年1~3月期は2.54%に拡大、4~6月期3.04%(年率換算)に達するとしている。5月「フォーキャスト調査」は5月14日に発表されるが、さらに上方修正されると思われる。

 9月9日に内閣府から発表される2013年4~6月期実質GDP伸び率の確報値も3%を上回る可能性が高く消費増税のためのGDP伸び率の目安をクリヤーしそうだ。となると常識的に言って10月には消費増税実施の判断が下されてもおかしくない。アベノミクスの当面の成功が消費増税実施の決断につながるのだから上出来という評価があって不思議ではない。


浜田参与は増税による景気腰折れ、税収増加の頓挫を懸念
消費増税は2015年10月に一括して先送りする案も


 にもかかわらず浜田参与も麻生財務相も「消費増税先送り」を匂わせた。政府部内では2014年4月の3%消費増税は見送り、その代わり2015年10月に一括して消費税を5%引き上げるという案も検討されていると噂されている。なぜ彼らは消費増税を先送りすると言うのか。

 増税先送りを匂わす理由の一つは、浜田参与が指摘している「消費増税が景気を腰折れさせ税収の増加を止めてしまう」という懸念だ。

 フォーキャスト調査の予測では2013年1~3月期の実質GDPは消費増税を控えた住宅や高額な耐久消費財の駆け込み需要が盛り上がりプラス4.20%(年率換算)まで跳ね上がる。しかし消費増税後の2014年4~6月期の実質GDPは駆け込み需要の反動減などでマイナス5.71%に急降下する。通年で見れば2014年度の実質成長率は0.33%(2013年度2.31%)に再低下するという予測となっている。

 消費増税後に景気が悪化し0%台の成長率に戻ったのでは、アベノミクス成功による税収増加など泡と消え、5%増税で13.5兆円と見込まれる消費税収の増加すら危ぶまれる事態になる。そうなると「基礎的財政赤字を2015年度までに名目GDP比で半減させる」とする国際公約が達成できなくなる。

 この国際公約を実現するには17兆円以上の基礎的財政収支の改善が必要になるとされている。5%消費税引き上げが成功し13.5兆円の税収増を首尾よく実現したとしても17兆円以上の収支改善にはまだ足りない。なのに、消費増税で景気が急悪化すれば13.5兆円の税収増すらおぼつかない。ましてやGDP比で赤字半減という国際公約の実現など絵に描いた餅になりかねない。

 しかし、4月19日のG20では参加国から日銀の大規模緩和に対しする「円安誘導」批判こそ出なかったが、財政赤字については声明文の中で「日本は信頼できる中期的財政赤字を策定すべき」と名指しで注文がつけられた。浜田参与も麻生財務相も基礎的財政赤字半減の国際公約をホゴにすれば、国際的非難が集まる日本国債への信頼が失われることを懸念しているのかもしれない。

 G20で念押しされた形の財政再建への公約を遵守するには、景気を悪化させる2014年4月からの消費増税は間違いなく邪魔者になる。だから2014年4月からの増税を15年10月まで先送りして13年度、14年度、15年度半ばまで約2年半の間、税収の底上げをはかる。そのうえで2015年度以降に国際公約を実現する道筋を付けるという算段なのだろう。


2%インフレ目標の達成にとっても消費増税は邪魔者
消費増税による需給ギャップ拡大は避けたい黒田日銀


 もう一つの増税先送りの理由は、黒田日銀が新たに設定した「2015年度の早いうちか前半に消費者物価上昇率2%を実現する」とするインフレ目標と関係がありそうだ。消費増税を実施すれば駆け込み需要の反動減と消費増税による可処分所得の減少によってGDPは落ち込む。その結果、需給ギャップが広がって物価が再下落、インフレ目標を達成できなくなる恐れがあるからだ。

 日銀がいう消費者物価2%は消費増税転嫁分の2%を除いた上昇率だ。需給ギャップを抱えたまま15年度の早期に消費増税転嫁分を除いて2%の消費者物価上昇率を達成するなど至難の業だろう。円が対ドル130円台へ下落すれば、輸入物価の上昇に伴う消費財やエネルギーの「円安値上げ」が進み消費増税分を除く消費者物価2%の目標は実現できるかもしれない。しかし大幅賃上げなしのまま消費増税に円安値上げが重なれば国民の不満は爆発するだろう。

 黒田日銀が2015年度早期の2%インフレ目標達成の公約を実現するためにも、やはり2014年4月以降の消費増税による需給ギャップ拡大は避けて通りたいところだろう。

 こうして消費増税は税収、インフレ目標の両面から邪魔者扱いされ「消費増税先送り」につながるわけ。しかしその「消費増税先送り」の議論が市場から「財政再建先送り」と見透かされると事態は日本国債売りという予期せぬ方向に向かいかねない。アベノミクスは消費増税実施の可否を判断する2013年10月には大きなジレンマに直面することになる。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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