QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2013年5月

2013年5月27日 10:56

「5.23株価急落」で部分バブルを清算?

(2013年5月27日)

 昨年11月13日の底値以来、押し目らしい押し目もなく上げ続けてきたアベノミクス相場だが、先週の5月23日、初めて大きな下げを記録、翌24日も株価の乱高下を続けた。この株価の急落、乱高下はバブル崩壊の序章なのか、過熱相場の単なる一時的な調整に終わるのかが問われるが、兜町の専門家のほとんどすべてが「一時的な調整」と見ているようだ。

 兜町は、そもそも現状の株価水準が理屈を超えた株価水準、つまり「バブル株価」であるどうかについて否定的だ。現状がバブル株価でなければバブル崩壊という判断はそもそも成り立たない。そういう認識では兜町と株高の仕掛け人でもある黒田日銀総裁の間に大きな差はない。


戦後2度のバブル相場に比べればバブル度は低い
ただ短期的な相場過熱度は過去のバブル相場を上回る


 確かに、今回のアベノミクス相場と1980年代後半に発生したバブル相場、1990年代後半に発生したITバブル相場の戦後2度のバブル相場を比較してみると、今回の場合、まだバブル度は低い(下表参照)ようだ。

過去のバブル相場とアベノミクス相場の比較(出所は「日経ヴェリタス」など)
hyo1.PNG(注1)    PER、PBRは東証1部全銘柄平均、80年代は実績ベース、他は予想ベース。
(注2)    移動平均乖離率(1)は25日移動平均線、(2)は200日移動平均線からの上方乖離率。

 株価指標のPER(株価収益率)は利益に対して株価が何倍か、倍率が高くなれば利益に比べ株価は高くなり過ぎていると判断される。PBR(株価純資産倍率)は会社の解散価値(1株当たり純資産)に対して株価が何倍か、倍率が高くなればなるほど株価は高くなりすぎていると判断される。いずれも株価のバブル度を測る有力な尺度とされている。

 上表は、2度のバブル相場時のピーク株価時と今回のアベノミクス相場急落前(5月22日)高値時のPER、PBRを比べたものだ。今回のPERは17.9倍だが80年代バブル相場時には57.2倍、ITバブル相場時には77.0倍ととんでもない高さのPER倍率に跳ね上がっている。

 現在の国際標準のPERから見た日本株のPER17.9倍はどうか。米NYダウ、英FTSE、仏CAC、独DAXなど先進国の平均株価に対するPERは12倍~13倍だ。これに比べれば日本株のPERは高い。ただ、円安の進行に伴う輸出企業の利益上方修正の可能性を加味すれば、先進国のPER水準に比べて高いというほどのPER水準ではないといえるかもしれない。

 PBRは今回1.4倍にとどまるが80年代は5.1倍にも跳ね上がった。確かに過去2度のバブル相場に比べればPER、PBRともかなり低い。PBRでは日本の過去の水準、欧米の水準いずれからみてもまだ低くバブル感はない。株価が会社の解散価値を下回る0.8倍台に低下した昨年11月のアベノミクス相場スタート前のPBR水準のほうがむしろ異常だったといえる。

 一方、相場の過熱度を表す移動平均線からの上方乖離率は2度のバブル相場より今回のほうがかなり高い。25日移動平均線からの上方乖離率は4%以上になると過熱と判断されるが今回は10%を上回り株価の短期的過熱度はきわめて強かった。より長期の移動平均線である200日移動平均線からの上方乖離率は47%に達し過去2度のバブル期に比べ異常な上方乖離となっている。

 結論を言えば、アベノミクス相場で付けた直近高値水準はまだ「バブル株価」といえる水準ではない。ただ短期的な相場過熱度は著しく株価は行き過ぎており、調整場面が必要だった(この急落で25日移動平均線からの下方乖離率は1%台まで下がり過熱感は一気に薄らいだ)。専門家のほとんどすべてが、今回の急落を過熱解消のための「一時的な調整」と見ていることに異論はない。


不動産関連株、ゲーム・バイオ関連新興株はバブル化
「部分バブル」の調整で「全般バブル」移行への芽を摘む


 相場全体で言えば「バブル崩壊ではなく一時的な調整」という結論になるが、部分的に見ればPER水準が50倍を越す異常なバブル株価に達した銘柄も少なくなかった。それが急落したという意味で今回の急落には「部分バブル」を解消するという好ましい要素もあった。

 5月23日~24日の東証一部銘柄「下落率ランキング」上位30位のうち20銘柄が不動産・金融株だった。中でも不動産関連株の下げが目立った。下落率1位のケネディックス、5位ヒューリック、6位NTT都市開発、7位野村不動産と不動産株は下落率上位を占めた。17位に含み資産株の三菱倉庫が入っている(「日経ヴェリタス」5月26日~6月1日号)。

 大きく下げた三菱地所など不動産株、ケネディクス、いちごHDなど不動産ファンド株、ヒューリック、三菱倉庫など含み資産株の中にはPERが30倍を大きく上回る銘柄も少なくなかった。不動産関連は、黒田日銀による異次元緩和による地価の先高やビル賃貸料上昇への期待や長期金利下落による調達資金コスト低下の期待から買われ、株価は「バブル水準」まで駆け上がった。さすがに投資家もアベノミクス相場で生じた不動産関連の異常高を警戒、5月23日急落前から売りに転じていたようだ。

 ジャスダック市場や東証マザーズ市場に上場しているゲーム関連、バイオ関連(iPS細胞関連)など一部の新興株は、不動産関連株以上に株価が高騰乱舞していた。その株価は「バブル株価」を通り越し異常高というべき段階にあったが、大型株で構成される日経平均株価が急落する8日営業日前の5月13日頃から下げに転じ、異常高の解消段階に入った。

 先に調整したといっても新興株の急落後のPERはまだ異常に高い。昨年末から株価が19倍に化け時価総額1兆円を越えジャスダック上場のガンホー(携帯ゲーム関連)のPERは急落後でも62倍、時価総額が親会社の宝ホールディングの1.5倍近くになったタカラバイオ(iPS細胞関連)PERは264倍だ。話題の微細藻「ミドリムシ」の事業化を狙うユーグレナのPERも急落後で269倍だ。新興株は「夢を買う」というが「買い過ぎ」だ。

 株式市場は「全般バブル」にはまだ至っていないが、不動産関連や新興株の一部で「部分バブル」が発生していた。しかし80年代後半のバブル相場、ITバブル相場でバブル崩壊後の悲惨を経験した投資家は馬鹿ではない。不動産関連や新興株の「部分バブル」が崩壊して大怪我をする前に売り逃げようとしたということになる。

 しかしそれが結果として「部分バブル」の解消となり「全般バブル」移行への芽を摘んだことになるとすれば、今回の急落もムダではなかったことになる。

2013年5月20日 14:38

日米同盟を揺るがす安倍総理の「侵略の定義」発言

(2013年5月20日筆)
 
 なぜ今頃、「日本維新の会」の共同代表・橋下徹大阪市長は、「従軍慰安婦は必要だった」「沖縄の米軍兵士は風俗を活用せよ」など同盟国であるアメリカの国務省、議会からも「言語道断、侮辱的だ」と言わしめる愚にもつかない発言をやってしまったのか。

 「日本維新の会」は昨年12月の衆院選挙で衆院第2党の議席を獲得したがその後泣かず飛ばず、橋下代表がニュースで取り上げられる回数もめっきり減って支持率がどんどん低下している。橋下共同代表自ら「このままでは維新の会は年内消滅」というほどだから、参議院選挙を控え再び「維新の会」に振り向かせるための「話題づくり」だったのだろうか。


「侵略という定義は定まっていない」と総理が持論展開
橋下、高市発言は安倍総理の歴史認識への援護射撃?

 かりに選挙対策の発言だったとしたら大失敗だ。選挙民の半分は女性だ。橋下発言で女性は「男性の性的エネルギーの単なるはけ口」と言われたと感じた女性票の多くが「維新の会」から逃げてしまったに違いない。女性の反発、憤りを計算できなかったとすれば「選挙屋」として失格だ。いや、ご本人は選挙目当ての政治家を「選挙屋」と呼んで常々軽蔑している。橋本氏の信念に従えば選挙用の「話題づくり」ではなかったかも知れない。であるなら、いったい彼の発言は誰に向けての発言だったのか。

 橋下氏の発言は、安倍総理への援護射撃だったのではないだろうか。安倍総理は、麻生副総理など閣僚の靖国神社参拝への中韓からの批判に対抗するかのように「安倍内閣としてそのまま村山談話を継承しているわけではない」(4月22日参院予算委員会)、「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まってはいない」(4月23日参院予算委員会)と発言している。

 「村山談話」とは戦後50年目の終戦日となる1995年8月15日に出された村山富市首相(当時は自民・社会・さきがけ連立政権)が出した談話だ。 

 村山談話では「我が国は国策を誤り、植民地支配と侵略によって、とりわけアジアの人々に多大の損害と苦痛を与えました。痛切な反省の意を表し心からお詫びの気持ちを表明します」と述べている。安倍総理は村山談話にある「植民地支配と侵略によって」という表現に対し「侵略という定義は定まっていない」として疑問を呈する一方、「内閣としてこの村山談話を継承しているわけではない」といったのである。

 この安倍発言に対して日本に侵略され多大な損害を受けた中国や韓国から猛烈な反発が出た。それは当然として同盟国アメリカからも「日本が韓国や中国を侵略したのは疑いのない事実だ」(「ワシントンポスト」電子版4月23日社説)、「中国や韓国の敵対心を無謀に煽っているように見える」(ニューヨークタイムズ4月24日社説)とする批判が出た(以上「東京新聞」4月28日―「共同通信」ワシントン電)。


米議会調査局が安倍総理の歴史認識を痛烈批判
舌の根も乾かぬうちに「村山談話を受け継ぐ」と修正


 アメリカの世論を代表する両紙だけでなく米議会からも安倍総理の発言に反発が強まった。米議会調査局は、5月8日、安倍総理は「強固なナショナリスト(国粋主義者)」として知られ、その歴史認識は「帝国主義日本の侵略やアジアの犠牲を否定する歴史修正主義にくみしている」「東アジア地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を害する恐れがある」とする報告書を提出している。

 こうした流れの中から5月13日の「従軍慰安婦は必要だった」とする橋下発言が飛び出した。橋下氏にすれば敬愛する安倍総理への援護射撃のつもりだったに違いない。その前日の5月12日、高市早苗自民党政調会長からも「私自身は侵略という文言を入れている村山談話にしっくりきていない」という援護射撃が飛び出した。しかし彼らの援護射撃は安倍総理にはどうやら「ありがた迷惑」だったようだ。

 アメリカを筆頭に国際的な批判を受けたことから、安倍総理は舌の根も乾かぬうちに「安倍内閣も村山談話を全体として受け継いでゆく」「私は日本が侵略しなかったといったことは一度もない」「歴史認識は歴史家に任せるべきだ」(5月15日参院予算委員会)と発言内容を大幅に修正した。そのうえで、高市政調会長に対し高村副総裁、石破茂幹事長から「発言に注意するように」と注文が付けられた。橋下発言に対しては安倍総理自ら「安倍内閣、自民党の立場と全く違う発言だ」(15日参院予算委員会)と斬って捨てた。

 安倍総理が以前から歴史認識において「太平洋戦争は侵略戦争ではなく自衛の戦争だった」「従軍慰安婦の強制連行はない」「南京大虐殺はなかった」などと主張する「強固な国粋主義者」であることは疑いないところだ。安倍総理に喜んでもらえると信じて応援にはせ参じた高市氏も橋下氏も、はしごを外されて茫然自失といったところだろう。


米中韓は「日本の侵略」という歴史認識では同一歩調
安倍総理が東アジアの混乱を引き起こし日米同盟揺るがす


 それはさておき、米議会調査局報告書の激しい対日批判は安倍総理にショックを与えたに違いない。ショックの第一は、報告書が「帝国主義日本の侵略」と書き、改めて太平洋戦争の原因が日本のアジア侵略にあると断言したことだ。

 米国は日本の過去の「植民地支配、中国侵略を否定する」という歴史認識を強固に保持している。日本は1931年満州事変を起こし中国侵略を始めたが、これに対し国際連盟は1933年、日本軍の満州から撤退を求める総会決議(賛成42カ国、反対1=日本、棄権1)をほぼ全会一致で可決している。この国際連盟決議ですでに米国を筆頭に当時の国際社会は一致して日本の中国侵略を批判している。日米開戦直前、米国国務省が日本に突きつけた「ハル・ノート」(1941年)では「満州国を含む支那大陸及び仏印からの日本の軍隊、警察の全面撤退」を主張、米国は日本の中国侵略を一貫して認めていない。

 米国は「侵略」に関する歴史認識に関する限り中国、韓国と同じ方向を向いている。米国は「侵略」を否定し戦後の世界秩序を混乱させる安倍総理を到底受け入れることは出来ない。安倍総理はそのアメリカの強い姿勢を米議会調査局の報告書で知らされ、太平洋戦争においては中国とアメリカが日本の侵略に抗する敵対国であったという事実を改めて認識せざるを得なかったのではないだろうか。

 第二は、報告書の「東アジア地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を害する恐れがある」という記述だ。東アジアでは東シナ海の南北で海洋覇権を求める中国、核とミサイルで脅威をもたらす北朝鮮という2つの紛争の種を抱えている。米国にとって中国と北朝鮮の脅威を前に同盟関係にある日韓両国が歴史認識をめぐって紛争関係を続けることは頭痛の種であるに違いない。

 その一方、安倍総理の日本は中国とも歴史認識をこじらせたうえ尖閣問題をめぐり交戦状態に入りかねない。日米安保の建前上、米国は尖閣防衛のため軍事介入せざるを得ない。結局、日本を挟んで米国は中国と不本意な戦争状態に入ることになる。中国との間で日本が尖閣問題や歴史問題で緊張関係を高めるようなことをしてほしくないというのが米国の本音だろう。

 いずれにせよ、報告書が指摘するとおり安倍総理の歴史認識は「米国の国益を害する」のだ。歴史認識で米国のご機嫌を損ね、日米同盟が揺らぐようになっては日本の危機でもある。そのことに気がつき安倍総理が歴史認識をめぐる発言内容を大幅に修正、橋下発言を切って捨てたとすれば、それはそれで結構なことではある。

 なお日本の植民地経営や侵略批判については早稲田大学初の総理大臣・石橋湛山の戦前論考が秀逸だ。本ブログ「靖国参拝より大切な日中友好」(2006年8月31日筆)、「抜き差しならぬ日中経済の相互依存」(2006年9月7日筆)で紹介している。

2013年5月13日 14:17

100円の壁突破、円安加速にどう対応するのか

(2013年5月13日筆)

 G7(先進国財務相・中央銀行総裁会議)が開催される前日の5月9日、円は壁だった対ドル100円を突破した。G7開催中の10日には円安は加速、101円台後半に下落した。

 今回のG7にはバーナンキ米FRB議長は講演のため欠席せず、共同声明も作成されず、ただ、「財政・金融政策は為替レートを目的としない」「通貨安競争を回避する」ことを口頭で再確認しただけで終わった。そんな有様だったから市場はG7を完全に無視、頑固だった1ドル100円の壁は突破された。


浜田教授の適正レート水準を突破、円高是正は終了?
FRB緩和打ち止め観測で円の先安感が強まる

 その結果、円の独歩安がさらに進んだ。下表は野田総理(当時)の衆院解散発言があった昨年11月13日(アベノミクス相場の始まり)以来の各国通貨の対円上昇率(円の下落率)だ。ユーロの30.9%が最も高い上昇率だが、最低でも韓国ウォンの26.4%という高い上昇率になった。景気回復に手間取っている中国の人民元も30%近い上昇率になっている。

各国の対円上昇率(昨年11月13日対直近高値比、単位%)
hyo1.PNG
(注)直近高値=豪州ドルは4月10日、その他は5月10日

 安倍総理の経済政策指南役の浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は以前、円の適正ゾーンは「95円~100円」と述べたことがある。IMF(国際通貨基金)は、円が対ドル80円前後だった昨秋、円の適正水準を95円と算定した。これらの説に従えば100円の壁突破ですでに円高の是正は終わったことになる。

 しかし理論的な円高是正は終わっても、市場の「円の先安感(ドルの先高感)」はさらに強まっているようだ。

 100円の壁突破は円安というよりドル高の結果だった。米国の失業保険の申請件数が予想をより減少、米FRB(連邦準備制度理事会)の量的緩和打ち止めが近いという観測からドルが買われたためだという。米FRBは量的緩和打ち止めの目安を物価上昇率2%(3月上昇率1.5%)への上昇、失業率6.5%(4月7.5%)への下落に置いている。失業保険の申請件数の減少は緩和打ち止めの目安である失業率の低下を予想させた。

 リフレ派の議論に従えば、日銀が「異次元」をうたう大規模な量的緩和を継続する一方、FRBが量的緩和を打ち止めすれば、マネタリーベース(当座預金残高+中央銀行券発行残高)の日米増加率が逆転しドル高円安がさらに進行するということになる。要するに今後はFRBより日銀のマネー供給のジャブジャブ度合いのほうがまさり(その結果、日米金利差が拡大し)、ドル高円安が一層進むというわけだ。

 これを受けリフレ派が支配する兜町では「年内対ドル110円が射程に入った」と囁き始めた。円売りを仕掛けた海外のヘッジファンド筋の中には1ドル120円を予測する向きもある。悪乗りした政府与党筋からは「まだ円高是正は終わっていない」という声が出ている。円の先安を見越したジャパンマネーの流出も始まったという。


日米欧の緩和マネー流入による通貨高で緩和競争に突入?
海外から円独歩安批判、国内から「円安インフレ」批判

 しかし、このような円安の加速は海外から受け入れられるだろうか。

 黒田日銀総裁が国際会議の場で「異次元緩和は15年間続いたデフレから脱却するため」であり「円安誘導の意図はない」と上手に説得できたとしても、自国通貨の急激な上昇で輸出にブレーキが掛かり景気後退に見舞われる国々が円独歩安を甘んじて受け入れ続ける保証はどこにもない。

 実際、自国通貨高に耐えかねたのか、5月に入りユーロ圏、インド、オーストラリア、韓国の中央銀行が相次いで政策金利を引き下げ金融緩和に踏み切った。日米欧の余剰マネーの流入による通貨高に見舞われたニュージーランドは為替介入に踏み切った。同じ事情の中国も人民元上昇への対応に迫られている。

 G7がいくら「通貨安競争の回避」をうたっても、自国通貨高を防ぎ通貨安に導くために各国は競って金融緩和に踏み出さざるを得ない。米欧は「金融緩和競争」に先駆し一時ドル安ユーロ安(円高)のメリットを享受した。黒田日銀がこれに追随し円安メリットを享受しようとしている。G7を構成する日米欧は金融緩和による「通貨安」では共犯者だ。共犯者の米欧が、新規に緩和競争に参入した黒田日銀を円安誘導だと批判できるはずがない。

 批判する資格があるのはG7諸国以外の新興・途上地域の国々だ。彼らは日米欧の緩和マネー流入で自国通貨高が進行し輸出停滞による景気悪化に見舞われている。そのうえ彼らは緩和マネーが原油や非鉄金属、穀物などの投機に向かえば物価が急騰、不況下の物価高に陥ることになるからだ。国際商品の最大需要先の中国の景気回復が本格化すれば投機需要も復活することになる。

 ちなみに日米欧の中央銀行が供給する緩和マネー(バランスシートベース)は、2014年末には日銀290兆円、FRB270兆円、ECB(欧州中央銀行)350兆円、合計910兆円(9兆ドル超)の巨額に膨れ上がる。これに緩和競争に新に参入する新興・途上国を加えれば世界の中央銀行のバランスシートは1000兆円(10兆ドル)にもなると想定される。この緩和マネーが投機に向かえば再び資産バブル、商品バブルを引き起こすことになる。

 こうした状況下で米FRBが量的緩和打ち止めに踏み切ればドル高が進行、これに連れユーロ高が進み円の独歩安が際立つことになる。そうなると米国への量的緩和批判は薄まる一方、日本の「異次元緩和」がもたらした円独歩安への中国、韓国、ブラジル、豪州など新興・途上地域からの批判が強まる。ドル高、ユーロ高による対日競争力低下問題がかねてから燻ぶっていた米欧も円独歩安批判の輪に加われば日本は孤立しかねない。

 米国の量的緩和打ち止めによるマネタリーベース格差から円安がさらに加速すれば、国際的には「円独歩安」への批判が強まる。国内的には円安に伴う輸入エネルギーや食料など生活必需品価格が上がる「円安インフレ」への非難を引き起こしかねない。賃上げを伴わない円安インフレに消費増税が重なれば、資産を持たない一般国民は耐えられなくなる。

 浜田教授が言う適正レートの下限値、対ドル100円を突破した今、安倍総理・黒田総裁は内外で副作用が拡大する110円、120円へと円安を加速させかねないヘッジファンドなど市場(マーケット)とどのように対話し折り合いをつけるつもりか、じっくり聞いてみたいところだ。

2013年5月 7日 00:28

「消費増税先送り」が語られ始めた2つの理由

(2013年5月7日筆)

 所得税の累進税率引き上げなど平成25年度税制改正や「消費税還元セール禁止」法案といった消費税率引き上げを前提にした議論は着々と進んでいる。しかし肝心の消費増税が2014年4月3%、2015年10月2%の2段階で予定どおり引き上げられるかどうか、まだ予断を許さない。

 政府要人からは消費増税先送りを匂わす発言が次々に出始めている。安倍総理の経済政策ブレーンの浜田宏一内閣官房参与(エール大学名誉教授)は通信社とのインタビューで「来年4月に消費税を引き上げても大丈夫かは今後を見てみないと分からない。安全策として1年ぐらい延ばすのもいいのではないか」(ロイター電子版4月9日付)と発言した。

 浜田参与は、消費増税の実施によって「せっかく上がりかけた景気がぽしゃり税収の増加を止めてしまっては何のための消費増税か分からなくなる」ことを消費税先送りの理由の一つに挙げていた。

 浜田発言に歩調を合わせるかのように消費増税の責任者である麻生財務大臣も「来年4月に予定している消費税引き上げについて今年10月に判断したいと考えているが、引き上げの状況とならなければ(増税時期を)延ばさざるを得ないということが十分にあり得る」と4月23日の参院予算委員会で答えている(ロイター電子版4月23日付)。


2013年4~6月期GDPは3%を上回る勢い
アベノミクスで消費増税実施の景気条件は整ったが...


 政府は2014年4月から消費増税を実施するかどうかは、2013年4~6月期のGDP(国内総生産)統計を見て判断するといってきた。「社会保障と税の一体改革法」では名目GDP3%、実質GDP2%の達成が一応の目安となっている。10兆円補正予算に伴う公共投資の増加、対中、対欧を除く輸出の回復、住宅など消費増税前の駆け込み需要、それにアベノミクスに伴う急速な株高による国内消費の増加が重なり、2013年4~6月期の実質GDPの伸びは消費増税の目安となる伸び率を上回る勢いにあると予想されている。

 民間調査機関の予測(4月「ESPフォーキャスト調査」)では日本の実質GDPは昨年10~12月期からプラスに転じ今年1~3月期は2.54%に拡大、4~6月期3.04%(年率換算)に達するとしている。5月「フォーキャスト調査」は5月14日に発表されるが、さらに上方修正されると思われる。

 9月9日に内閣府から発表される2013年4~6月期実質GDP伸び率の確報値も3%を上回る可能性が高く消費増税のためのGDP伸び率の目安をクリヤーしそうだ。となると常識的に言って10月には消費増税実施の判断が下されてもおかしくない。アベノミクスの当面の成功が消費増税実施の決断につながるのだから上出来という評価があって不思議ではない。


浜田参与は増税による景気腰折れ、税収増加の頓挫を懸念
消費増税は2015年10月に一括して先送りする案も


 にもかかわらず浜田参与も麻生財務相も「消費増税先送り」を匂わせた。政府部内では2014年4月の3%消費増税は見送り、その代わり2015年10月に一括して消費税を5%引き上げるという案も検討されていると噂されている。なぜ彼らは消費増税を先送りすると言うのか。

 増税先送りを匂わす理由の一つは、浜田参与が指摘している「消費増税が景気を腰折れさせ税収の増加を止めてしまう」という懸念だ。

 フォーキャスト調査の予測では2013年1~3月期の実質GDPは消費増税を控えた住宅や高額な耐久消費財の駆け込み需要が盛り上がりプラス4.20%(年率換算)まで跳ね上がる。しかし消費増税後の2014年4~6月期の実質GDPは駆け込み需要の反動減などでマイナス5.71%に急降下する。通年で見れば2014年度の実質成長率は0.33%(2013年度2.31%)に再低下するという予測となっている。

 消費増税後に景気が悪化し0%台の成長率に戻ったのでは、アベノミクス成功による税収増加など泡と消え、5%増税で13.5兆円と見込まれる消費税収の増加すら危ぶまれる事態になる。そうなると「基礎的財政赤字を2015年度までに名目GDP比で半減させる」とする国際公約が達成できなくなる。

 この国際公約を実現するには17兆円以上の基礎的財政収支の改善が必要になるとされている。5%消費税引き上げが成功し13.5兆円の税収増を首尾よく実現したとしても17兆円以上の収支改善にはまだ足りない。なのに、消費増税で景気が急悪化すれば13.5兆円の税収増すらおぼつかない。ましてやGDP比で赤字半減という国際公約の実現など絵に描いた餅になりかねない。

 しかし、4月19日のG20では参加国から日銀の大規模緩和に対しする「円安誘導」批判こそ出なかったが、財政赤字については声明文の中で「日本は信頼できる中期的財政赤字を策定すべき」と名指しで注文がつけられた。浜田参与も麻生財務相も基礎的財政赤字半減の国際公約をホゴにすれば、国際的非難が集まる日本国債への信頼が失われることを懸念しているのかもしれない。

 G20で念押しされた形の財政再建への公約を遵守するには、景気を悪化させる2014年4月からの消費増税は間違いなく邪魔者になる。だから2014年4月からの増税を15年10月まで先送りして13年度、14年度、15年度半ばまで約2年半の間、税収の底上げをはかる。そのうえで2015年度以降に国際公約を実現する道筋を付けるという算段なのだろう。


2%インフレ目標の達成にとっても消費増税は邪魔者
消費増税による需給ギャップ拡大は避けたい黒田日銀


 もう一つの増税先送りの理由は、黒田日銀が新たに設定した「2015年度の早いうちか前半に消費者物価上昇率2%を実現する」とするインフレ目標と関係がありそうだ。消費増税を実施すれば駆け込み需要の反動減と消費増税による可処分所得の減少によってGDPは落ち込む。その結果、需給ギャップが広がって物価が再下落、インフレ目標を達成できなくなる恐れがあるからだ。

 日銀がいう消費者物価2%は消費増税転嫁分の2%を除いた上昇率だ。需給ギャップを抱えたまま15年度の早期に消費増税転嫁分を除いて2%の消費者物価上昇率を達成するなど至難の業だろう。円が対ドル130円台へ下落すれば、輸入物価の上昇に伴う消費財やエネルギーの「円安値上げ」が進み消費増税分を除く消費者物価2%の目標は実現できるかもしれない。しかし大幅賃上げなしのまま消費増税に円安値上げが重なれば国民の不満は爆発するだろう。

 黒田日銀が2015年度早期の2%インフレ目標達成の公約を実現するためにも、やはり2014年4月以降の消費増税による需給ギャップ拡大は避けて通りたいところだろう。

 こうして消費増税は税収、インフレ目標の両面から邪魔者扱いされ「消費増税先送り」につながるわけ。しかしその「消費増税先送り」の議論が市場から「財政再建先送り」と見透かされると事態は日本国債売りという予期せぬ方向に向かいかねない。アベノミクスは消費増税実施の可否を判断する2013年10月には大きなジレンマに直面することになる。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2015年04月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最新記事
「免疫力を高める散歩」考
中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕
「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か
圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない
最新コメント
ありがとうございます...
Posted by Anonymous
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
大西先生にお願い:弱...
Posted by Anonymous
北は朝鮮半島統一を目...
Posted by kodera etuko
日本のシェクスピァ今...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】「免疫力を高める散歩」考
from QuonNetコミュニティ
【記事】中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕
from QuonNetコミュニティ
【記事】「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
from QuonNetコミュニティ
【記事】求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か
from QuonNetコミュニティ
【記事】圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない
from QuonNetコミュニティ