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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年12月

2012年12月25日 14:49

安倍新政権発足、円安は続くか、悪い円安は来ないか 

(2012年12月25日筆)

 12月26日から3日間の特別国会で安倍晋三氏が首班に指名され第2次安倍内閣がスタートする。自らの発言を機に発生した円安株高で有頂天になった感がある安倍新総理だが、このまま円安基調が続くか、「悪い円安」は来ないのか、2013年の年初から新内閣を政策が試されることになる。


ヘッジファンドは円売りポジションを手仕舞う円買い戻し(円高)も
日米金利差、貿易収支のファンダメンタルズは円安方向を向いている

 新内閣が試される第1は、日銀に「大胆な金融緩和」を迫るという安倍自民党総裁の口先介入で始まった円安が今後も続くかどうかである。

 衆院解散決定以来の円安は外国の短期投機筋であるヘッジファンド主導の円売りによるものだった。ヘッジファンドは利益を確定するために円売りのポジションをいったん手仕舞うことになる。年内から年始に掛けて円売りポジションを手仕舞うための円の買い戻しで円高への揺り戻しが起きることも予想される。問題は、その揺り戻しの後、再び円安に戻りそれが定着するかどうかだ。

 為替をめぐるファンダメンタルズ(基礎的条件)は円安方向を向いている。米国景気は回復基調を強め米金利が上昇、新年には日米金利差が拡大すると見られ、対ドルではドル買い円売り(円安)の方向にある。欧州では欧州中央銀行(ECB)による無制限国債購入や欧州安定化メカニズム(ESM)の発足などで欧州金融不安は一段落、円が避難先通貨の役割を終えユーロが買い戻され始めている。対ユーロでもユーロ買い円売り(円安)の方向が見えてきた。

 問題は貿易収支、ひいては経常収支というもう一つの重要なファンダメンタルズの行方だ。日本の貿易収支は2011年、12年と赤字幅を拡大した。その結果、経常収支の黒字幅も急速に縮小している。貿易決済などに伴う円ドルの実際の需給面でも円買い需要が縮小し、円高傾向に歯止めが掛かりつつある。

 市場は日本の経常赤字への転落を円安への本格転換のメルクマールとしているが、その時期が早まるかどうかは貿易収支の動向に掛かる。日本の2年連続の赤字は原発の稼動停止による天然ガスなど化石燃料輸入の急増と中国の成長鈍化と尖閣国有化から発生した反日不買による輸出減少が原因だった。


安倍新政権の政策次第では貿易収支が改善するが、円高再燃の矛盾も
かぎ握る原発再稼動による燃料輸入減と対中関係改善による対中輸出回復

 安倍政権が早期に遭遇する第2の課題は、化石燃料の輸入急増と対中輸出の減少による貿易収支の赤字問題だろう。幸か不幸か、いずれも安倍新政権の政策次第で良い変化を起こしうるテーマだ。

 例えば、化石燃料輸入の急増問題だが、これは原子力発電所の再稼動をどのようなテンポで認めていくかに掛かる。自民党の公約では「すべての原発について再稼動の可否を3年以内に結論を出す」としている。来夏までに作成される原子力規制委員会の新安全基準を待って、徐々に再稼動が始まることになるが、そのスピードが速まれれば燃料輸入の急増問題は解決に向かうはずだ。

 ただ、安倍自民党は7月の参議院選挙を前に票を失うことを嫌って再稼動の先送りを打ち出す可能性がある。しかし、原発停止が長期化する中で円安基調が続けば、円安分だけ化石燃料輸入額がさらに拡大し貿易赤字を膨らませる危険がある。化石燃料の輸入増は電力料金の値上げをもたらし日本の家計、産業にはコスト負担増になる。一方、天然ガスなど資源輸出国には所得の流入増になる。つまり日本の貿易赤字拡大は所得の海外流出拡大による日本のGDP(国内総生産)を縮小させる。原発再稼動の遅れは安倍政権の円安政策の足枷になる恐れがある。

 もう一つの対中輸出が回復するかどうか、それは第一義的には中国の景気改善が本物になるかどうかに依存する。しかし、かりに予想される中国の景気改善が本物だとしても尖閣国有化以来悪化した対中関係が好転しなければ、それが日本の対中輸出の回復には繫がらない。

 安倍氏は、2月22日に政府主催で「竹島の日」を催すとする自民党公約を見送ることで朴槿恵新大統領下の対韓関係の改善を図るという策をとるようだ。同じように安倍氏は、習近平体制下の中国に対して公務員を配置するなど尖閣諸島の実効支配を強化するとする公約を棚上げする策に出る可能性もある、そうなると対中関係の改善が図られ対中輸出が回復に向かうことになりそうだ。

 ただそうなると為替に関しては皮肉なことが起きそうだ。安倍氏が原発再稼動を進めエネルギー問題の解決に踏み出し、対中関係の改善に成功すれば貿易赤字が解消、経常収支の赤字転落が遠いて円高に逆戻りすることになる。さらに予想に反して米国が「財政の崖」を克服できず景気後退に転じ米FRBの追加金融緩和がさらに大きくと日米金利差が縮小しドル安円高がぶり返す。2月のイタリア総選挙で財政緊縮反対派が勢力を増すようなことになれば再びユーロ安円高に戻るリスクが出てくることになる。

 いくら安倍新政権が、日銀法改正をちらつかせて日本銀行を脅し、量的緩和拡大やインフレ目標の導入を急がせても、為替を巡る経常収支、日米金利差などファンダメンタルズが円安方向に向いていなければ円安にはならないのだ。


財政の膨張、新規国債発行枠の拡充による財政規律の喪失が気掛かり
対ドル、対ユーロで円の信認が崩れ、「悪い円安」が発生するリスクも

 ファンダメンタルズに沿った円安は理屈に適った円安である。しかし、対ドル、対ユーロで円の信認が崩れた結果から生じる円安は「悪い円安」である。

 安倍新政権が直面する第3の課題は10兆円規模とされる大型補正予算とそれに続く2013年度予算の作成だ。特に財政規律を失わない予算作成をどう進めるかが大きな課題になる。円の信認と日本国債の信認はコインの裏表の関係にある。日本政府の財政規律が疑われ日本国債が市場の信認を失えば、円の不信認が広がり円売りを浴びる。そうなると「悪い円安」になる。

 2月成立が予想される大型補正予算の財源は国債費など予算の使い残しなどをかき集めても足りず、6兆円前後は追加国債発行(借金の積み増し)に頼らざるを得ない。続く2013年予算も、高速道路、新幹線の増強、防災・減災など公共事業、農業や防衛予算の拡大など自公政権の選挙公約を上乗せして大きく膨張することは必至だ。

 民主党政権下では本予算には国債費を除く一般歳出を72兆円程度、新規国債発行44兆円程度という「中期財政フレーム」の上限枠が設定されていた。デフレ脱却のためなら何でもありという安倍新政権のことだから、民主党政権下の「中期財政フレーム」を反故にしてしまいそうだ。一般歳出枠も新規国債発行枠も大幅に引き上げられることになりそうだ。

 安倍政権が新年度予算編成に当たり44兆円の新規国債発行枠を50兆円以上に拡大する可能性は大いにある。こうなると補正予算の追加国債6兆円と本予算での発行拡大分6兆円をあわせ12兆円もの国債が増発されることになる。

 日銀は銀行経由だが年間40兆円を上回るペースで国債を購入、2012年9月末現在105兆円の国債をすでに保有している(名目GDP比22%)。一方、民間銀行の国債吸収余力は徐々に縮小しているし日本国債保有への警戒感も強まっている。今後、安倍氏が「新規発行の建設国債すべてを日銀に買ってもらう」という発言が現実のものになり、国債増発分すべてが結果的に日銀引き受けとなるとなれば、格付機関を含む市場は日銀の実質的な財政赤字補填、つまり「財政ファイナンス」が始まったと判断する公算が大だ。

 その判断が成り立てば日本国債の格下げが現実のものになる。その時、預金1210兆円の半分近い582兆円(12円9月末)を国債に運用している金融仲介機関(銀行、保険、ゆうちょなど)がどのような行動をとるだろうか。

 銀行がわれ先に日本国債を売れば日本国債は急落、金融機関や年金基金に含み損が積み上がる金融危機になる。105兆円の国債を抱える「銀行の銀行」の日銀の経営も危うくなり円の信認が大きく崩れる恐れがある。安部財政のいたずらな膨張は円の信認を低下させ日本経済の命取りになりかねないのだ。

2012年12月18日 15:17

「改憲新保守」を圧勝させた小選挙区制の怖さ

(2012年12月18日筆)

 2012年衆議院選挙は自民党が294議席(議席比率61%)を獲得して大勝した。当面は公明党との連立政権となるが、それも来年夏の参議院選挙までの連立にとどまると思われる。その先は分からない。

 安倍自民党と公明党の間では、社会保障政策での自助か公助か、改憲か護憲か、国防軍か自衛隊か、政策理念は大きく異なる。安倍自民党から改憲や国防軍論議が持ち出される参議選後は連立の組み換えが行われる可能性がある。

 将来の連立の組み合わせは改憲か護憲か、自助か公助か、成長か分配か(競争か平等か)、原発再稼動か原発ゼロか、政策理念によって新に決まってくると思われる。改憲、自助、成長(競争)、原発再稼動を進める勢力を「改憲新保守」と名付ければ「改憲新保守」には自民党、日本維新の会、みんなの党が属するだろう。

 一方、「護憲勢力」は消費増税による社会保障を進め、成長(競争)にも理解がある「護憲中道リベラル」、さらに消費増税反対、公助重視、原発ゼロの「護憲左派リベラル」に分かれる。「護憲中道リベラル」は民主党、公明党、「護憲左派リベラル」は日本未来の党、共産党、社民党となる。誤解を恐れず以上のように各党派を整理したうえで今回の総選挙を分析してみよう。


「改憲新保守」勢力の議席比率は76%、連立すれば独裁政権並み議席に
「護憲中道リベラル」の議席比率は18%、「護憲左派リベラル」は惨敗


 自民・維新・みんなの「改憲新保守」の獲得議席数は366議席に達し、議席比率は3分の2を大きく超え4分の3以上の76%にもなる。三つの「改憲新保守」勢力が連立を組めば、日銀法改正、集団自衛権、国防軍創設など、どんな法案も成立させることができ、独裁政権に近い議席数を持ったことになる。

2012年総選挙の各党派の獲得議席数(総数480議席)
hyo1.PNG これに対して民主、公明の「護憲中道リベラル」の獲得議席数は88議席(議席比率18%)、「護憲左派リベラル」は新党大地の1議席を含め20議席(議席比率4%)に過ぎません。護憲左派の議会での影響力は消滅したに等しいようにすら思える。

 しかし前回2009年の総選挙では「護憲中道リベラル」の民主党だけで308議席(議席比率64%)を占めた。護憲左派の共産・社民の16議席を加えると「護憲リベラル」の議席数は3分の2を上回る324議席にのぼった。前回の総選挙では今回の総選挙で「改憲新保守」が獲得した議席数と同じ議席数「護憲リベラル」は獲得していたのだ。

 前回の総選挙から3年4ヶ月しかたっていない。わずか3年4ヶ月のあいだに国民の選択が「護憲リベラル」から「改憲新保守」へ大転換するなど想像もつかない出来事だ。小生の観察では日本国民の意見は「護憲リベラル」と「改憲新保守」とは半々、拮抗しているように思える。「新保守」に括られる国民の中にも小生のような「護憲自由主義」も少なくない。これを加えれば国民の過半は「護憲」派かもしれない。


小選挙区制がもたらした「護憲リベラル」から「改憲新保守」へ急シフト
死票が3730万票、小選挙区の「死票率」は実に56%に達した


 にもかかわらず、なぜ「護憲リベラル」から「改憲新保守」へ政策理念の大転換が起きてしまったのか。その原因の第一は、1つの選挙区で獲得票数が1票でも多くトップになれば議席を独占できるという小選挙区制にある。


自民は43%の得票率で79%の議席を獲得、死票率は実に56%
hyo2.PNG この小選挙区制のせいで、自民党は43%の得票率で79%の議席を獲得してしまった。小選挙区で落選候補に投じられ有権者の票数は3730万票(死票)にのぼり、全得票に占める「死票率」は実に56%に達した。この56%の死票の中に「護憲リベラル」勢力の票が多く存在していたはずだ。

 前回総選挙の「死票率」は46.3%だったから、今回は前回に比べ9.7%も「死票率」は悪化している。日本維新の会や日本未来の党など新党の参入で12党が選挙を戦ったことが影響した。小選挙区で候補者が増えれば票が分散して当選ラインが下がる一方、落選候補者の合計得票数が増えるからだ。

 12党乱立の原因を作ったのは政権与党の民主党だった。民主党から分派した一派は日本未来の党(みどりの党含む)、新党大地へ、一派は日本維新の党へ流れた。民主党が綱領もなく政権を奪取するためだけ野合政党、選挙互助政党であったことの付けが回ってきたわけだ。自業自得といえばそれまでだが、しかしその12党乱立が漁夫の利となり、安倍自民党に法外の議席を与える結果になった。そして「護憲リベラル」勢力の法外な没落に繫がったのだ。

 今回の小選挙区での自民党の大勝が民意からかけ離れたものであることは比例区の得票数、得票率を見ればよく分かる。

 自民党の比例区得票数は、小泉総理の郵政解散選挙で大勝ちした05年選挙の2588万票がピーク、大敗した09年総選挙でも1881万票を獲得した。しかし今回の得票数はそれを下回る1662万票にとどまった。しかも今回の比例区得票率は27.6%で前回の26.7%とあまり変わらない。自民党は比例区得票率を見る限り、民意の4分の1程度を代表する政党に過ぎない。


前回の投票率は小選挙区制導入後で最高だったが、今回は最低の59.3%
前回に比べ投票者が1095万人も減少、自民党はその「声なき声」も聞け


 もう一つ見逃せないのは、今回の総選挙の投票率が59.3%と小選挙区比例代表制が導入されて以降で最低となったことだ。09年の政権交代選挙の投票率は69.3%と制度導入以来の最高だった。前回に比べ実に10%も投票率が下がったことになる。投票者数で言えば前回選挙に比べ1095万人もの人が投票しなかったのだ。

 この投票しなかった1095万人の「声なき声」はどういう民意を内包していたのだろうか。もちろん師走選挙で選挙など行っている暇はないという人もいただろう。その一方、12党が乱立し、しかもほんの少ししか差がない政策を争っている。そこから一党を選ぶのはむずかしい。人物で選ぼうにも、自民、民主の過去を見れば、そう簡単に政治家を信じられことも出来ない。新党も党の正体も人物も定かではない。だから今回は投票に行かないという人が多かったのではないだろうか。

 国民は、投票の結果、「改憲新保守」の勢力が独裁を振るうことができるほどの議席数をもつとはよもや思わなかったのではないだろうか。民主党を「懲らしめる」だけだった投票行動が、民意の過半を占めるかもしれない「護憲リベラル」勢力を極度に弱体化させてしまった。

 参院選挙後に本格化するかもしれない、行き過ぎた「改憲新保守」に直面した時、これに抵抗するための多様な民意を反映できなかった小選挙区制の恐ろしさをわれわれは改めて知ることになる。

2012年12月10日 11:47

田舎暮らしという「夢」を楽しむ旅に出たい

(2012年12月8日筆)

 さしたる仕事はないのですが、何かと気ぜわしい師走ということで早々に期日前投票を済ませてきました。

 これで「国会という就職先」に再就職するためなら君子豹変、どんな公約にも従うという野合新党の候補者たちの空しい演説に付き合わなくてよくなりました。財源はなんぼでもあるといって離党、すでに破綻したばら撒き公約に原発ゼロという目玉商品を付け相変わらずのポピュリズムに走る政党を軽蔑する必要もなくなりました。

 心を騒がせた選挙という憑き物が落ちそっと窓の外を見ると、庭木の枯れ葉が降り積もっているではありませんか。玄関前の道路沿いには風に吹き寄せられた近くの公園の落ち葉が積もっています。この原稿が仕上がれば庭と道路の落ち葉を掃き清めたいと思っているところです。


澄み切った青空の下、柚子や柿の実を見るたび「田舎暮らし」を思う
20年前、屋久島での田舎暮らしを思いつき、家内に笑われました


 殆んど葉が落ちさびしくなった庭ですが、柚子の木は今年もたわわに実を付け枝が重そうに垂れ下がっています。

 今冬は夏みかんの木にも一つだけ実が付きました。家内に聞くとこの夏みかんの木は植えてから25年目になるそうです。あまりにも長く実が付かなかったので切り倒そうと相談していたのですが、その相談の会話が聞こえたのか、「切り倒さないでくれ」といって一つだけ実をつけたようです。来年こそ夏みかんがたわわに実るはずですから、たくさん取れたら夏みかんが大好きな友人に贈ろうと思っています。

 秋から冬にかけて広がる澄み切った青空の下で、黄色に輝く柚子や夏みかん、それに柿色に輝く柿の実(小宅の柿の木はまだ若く実をつけていませんが)を眺めていると、子どもの頃に眺めた稲を刈り取った後の里山の風景を思い出します。そしてなぜか、「田舎暮らし」をしてみたいという夢にうなされるのです。

 このブログでも書きましたが、今から20年以上前、バブルが燃え去っていた頃、「田舎暮らし」を実践しようと夫婦で屋久島に出かけたことがあります。地元の不動産屋に田舎暮らし用の農地付き分譲地を案内されました。そこからは広大な海が望め、敷地の脇には沢が流れ、一角にはガジュマルの木のような南国の樹木が植わっていました。小生、吟味もせずすぐ感動するタイプです。即座に「買っちゃおうかな」と思ったほどの土地でした。

 その案内の帰り道、道路わきの排水路にしゃがみこみ土の付いたニンジンなど野菜を洗っている50歳前後の男の人に出会い、話し掛けました。彼は口少ない人でしたが、ようやく空けた口から皮肉を込めた言葉が出てきました。彼は、「最近、田舎暮らし業者の口車に乗せられ都会から訪れる人が多いがここに夢など落ちていないよ」と不機嫌そうにいったのです。

 この言葉を聴いて小生、急に冷静になりました。買おうと考えた分譲地はかつてパイナップル畑でしたが傾斜地で農業には不適、しかもかなりの高額でした。近くにスーパーも病院も職場もありません。

 そのうえ羽田から鹿児島、そして屋久島と飛行機を乗り継ぎ、往復の航空運賃と一泊2日の宿賃合わせて夫婦二人で20万円以上にもなりました。子ども2人を抱えまだ定年まで20年もある時でした。ここで暮らせるわけがありません。そう家内に言うと、家内は「買っちゃおうかな」と言った、小生の思慮の浅さに開いた口がふさがらないというような表情で何も答えませんでした。


途中下車なしの各駅停車の旅の間中、田舎暮らしの楽しい夢を消費する
最近はネット上で「家賃3万円、温泉地の借家住まい」を楽しんでいます


 そんな失敗歴があるのに柚子や夏みかん、柿の実を見るとなぜか「田舎暮らし」という夢を見たいと思ってしまうのです。本当のことを言いますと、小生は田舎暮らしを実践する気はないのですが、田舎暮らしという「夢」を楽しむ、あるいは「楽しい夢」を消費するのが好きなだけなのかもしれません。

 今やその田舎暮らしの夢を楽しむという小生の消費行動は家内にも伝播したようです。

 昨年の梅雨時でしたか、家内と二人で日帰りの各駅停車の旅に出ました。西武線で所沢から東村山を経て国分寺に出て、JR中央線に乗り換え各駅停車の鈍行に揺られて小淵沢に到着しました。そこから「小海線」に乗って終点の小諸に至り「しなの鉄道」に乗り換えて軽井沢まで出ました。

 ここまでおよそ5時間はかかったでしょうか、一度も途中下車することはありませんでした。ただ電車の椅子に座ったまま車窓から野原や田んぼ、山々をながめ、時には居眠りをしたり時には家内と話をしたりして過ごすのです。旅の話題は決まって、八ヶ岳の麓には俳優の柳生博さん親子が暮らしているとか、小諸の近くに確かエッセイスト玉村豊男氏のハーブ園があるはずだとか、田舎暮らしに成功した有名人の話です。家内もその会話を楽しんでいました。

 数年前、広島県の尾道から船とバスを乗り継いで愛媛県の今治まで「しまなみ街道」を旅した時もそうでした。途中一回だけ乗り換えのために下車したのですが、その乗り換えのバス停近くに浮き橋ふうの船着場がありました。そこで釣り糸を垂れていた80歳近い老夫婦を見かけたのです。

 暑い夏の日でしたが、老夫婦は麦藁帽子に揃いの白いシャツを着て釣り糸を垂れ魚信をじっと待っていました。そんな老夫婦の後姿を見て「時間を忘れて暮らす小島での余生もいいもんだね」と家内と話をしたこともありました。

 最近はネット上で田舎暮らしの夢を楽しむ旅に出ています。海に近い温泉付きの田舎で3ヶ月ぐらい家を借りて住むという設定です。例えば小生の故郷の別府、幾度か訪れた熱海や伊豆熱川など条件に当てはまる街の賃貸物件をネットで検索するのです。

 検索すると2DKで月の家賃が3万円、4万円という格安の物件がたくさん出てきます。都会に比べれば田舎の生活費は安い。家賃が3~4万円なら夫婦の年金だけで豊かに暮らせます。熱海や熱川では温泉付きの中古リゾートマンションが350万円で売り出されているケースもあり、これを買って終の棲家にすることもできる......。ネット画面を覗き込んで夫婦でそんなたわいのない話をするようにもなりました。

 毎年、冬の3ヵ月だけ海に近い暖かい温泉地を住み歩く、そんな夢であれば夢にとどまらず実践できるかもしれません。屋久島移住に比べればはるかに実現可能な田舎暮らしの夢ではないかと言って、また画面を覗き込むのです。

 そんなことを言いながら家内はいつ実をつけるか分からない金柑やコーヒー、オリーブの苗木をわが庭に植えつけています。来年こそ熟れたザクロの実を収穫しザクロ酒を作ると意気込んでいます。小生も庭の無花果の木がカミキリムシに食い荒されずたくさんの実をつけることを願っている始末です。これでは所沢を離れるわけには行きません。

 考えてみれば小生の住む所沢近辺には里山の代名詞になった「トトロの森」があります。五代将軍綱吉の側用人・柳沢吉保が開いたとされる広大な「三富開墾地」がありサツマイモなどを栽培しています。所沢も十分田舎ですしわが家には狭いながらも庭地があります。寒い冬さえ我慢すれば田舎は身近にあります。というのがいつもの夫婦の結論です。

 結局、田舎暮らしという「夢」は楽しみとして消費されるだけで、実践されることは死ぬまでないということになりそうですね。

2012年12月 3日 14:12

笹子トンネル崩落事故で知る「社会インフラの老齢化」

(2012年12月3日筆)

 中央自動車道の笹子トンネルでコンクリート製の天井板が崩落、9名が下敷きになって死亡した。管理する中日本高速道路によると今年9~10月にグループ会社がトンネルを目視などで点検、その時は「異常はなかった」という。

 トンネル天井板の崩落は初めてだそうだが、笹子トンネルは開通から35年経過しており天井板の崩落は「経年劣化」、つまり老朽化が原因と見られている。


20年後には建設後50年以上経過した道路橋梁が5割に
人口老齢化の裏側で社会インフラの高齢化が猛スピードで進行

 国土交通省によると高速道路のトンネルは全国で1575本あり、このうち建設から30年以上経過したトンネルは23%にのぼる。道路橋梁の法定耐用年数は45年だが、建設後30年も経過すれば変形、劣化が始まり、30年~40年以上の橋梁は早急な補修が必要だという(「朝日新聞」12月3日朝刊)。

 建設後50年以上も経過すれば補修だけでは間に合わず取り壊して再構築する必要があるかもしれない。下表に見るように建設時が1990年以降に集中している下水道管渠はまだ新しい。しかし道路橋梁、河川管理施設(水門等)、港湾岸壁は1960年代頃から順次完工しており老朽化がどんどん進んでいる。


建設後50年以上経過したインフラの割合(「国土交通白書2012」)
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 20年後(平成42年度)には、道路橋梁の53%、河川管理施設の60%、港湾岸壁の53%が建設後50年以上経過することになる。言い換えればこれら社会資本の老齢化率は20年後には50%(2件に1件)にもなる。ちなみに20年後の平成42年(2030年)の65歳以上の老齢人口比率は31.8%(平成22年23.1%)に達し3人に1人はお年寄りという時代になる。人口の老齢化の裏側で社会インフラの老齢化が猛スピードで進行しているのだ。

 もうひとつ文部省が管轄する約3万の公立小中学校の校舎だが、このうち改修が必要な築後25年超の老朽校舎は床面積で全体の72%にのぼり、うち改修済みは1割に過ぎないという(日経新聞8月29日朝刊「老いる公共施設」)。

 1960年代以降、首都高速道路をはじめ東京オリンピックを挟む高度成長期に完成した社会インフラの多くはすでに老齢化している。老齢化を放置すれば笹子トンネルのように天井板が崩落し大事故になる。高架式の首都高速道路が崩落すれば、日本経済の心臓部が機能麻痺を起こすことになりかねない。


道路などインフラの更新費用190兆円、老朽校舎の更新費用38兆円
公共インフラの更新投資で手一杯、新幹線の新増設などもってのほかだ

 老齢化した社会インフラは、大地震の発生いかんに関わらず、補修によって長寿化するか、全面的に建て替えるか、あるいは除却(減築)するか、しなければならない。問題はこれら老齢化した社会インフラの更新費用だ。

 国土交通省は2060年度までの50年間に必要な所管社会資本(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)の維持管理・更新費を190兆円と試算している。文部科学省は老朽化校舎を築後50年で建て替えるなら今後30年間で38兆円必要になると試算(「学校施設老朽化対策ビジョン中間報告」)している。

 地方自治体にも、自らが管轄する学校、図書館、公民館、運動施設、高齢者施設、道路など公共建築物や道路、橋、上下水道など公共インフラの老齢化に対する維持・更新費用が大きくのしかかる。総務省の計算では、地方自治体が負担するこれら公共構築物や公共インフラの更新費用は今後50年間で400兆円を超える(日経8月27日「老いる公共施設」)という。

 実際、公共構築物や公共インフラの更新費用は国と地方自治体合わせてどれぐらいになるのか。政府は正確な数字をまとめ上げ毎年必要となる更新費用の総額を国民に提示して欲しい。そのうえで政府は、毎年の必要更新費用と国と地方自治体の公共事業予算を比べ、いつから必要更新費用が公共事業予算を上回るのかを示す必要がある。

 公共事業予算(平成24年度は国の公共事業費4.5兆円、地方自治体の投資的経費10.9兆円)が増えないとすれば、公共インフラの必要更新費用が増え続け、いずれは公共事業予算を上回ることになる。必要更新投資が公共事業予算を上回れば、更新投資を優先する限り、道路や鉄道、公共構築物など「ハコモノ」の新増設投資など出来ないということになる。その時期を国土交通省は15年後の2037年度としているが、地方自治体を含めればいつ頃になるのか示してもらいたい。

 歳入不足で新規国債発行が毎年50兆円にも達する日本の厳しい財政事情だ。笹子トンネル事故を繰り返さないという判断を重視すれば、限られた公共事業予算を公共インフラの更新投資に充てるとするのが正解だろう。最初から赤字になるような高速道路や新幹線の新増設などもってのほかということになる。


自民党「国土強靭化計画」は田中角栄元総理の「日本列島改造」の焼き直し?
「防災減災総点検」は評価できる――公明党の「防災減災ニューディール

 そこで触れておきたいのは、次期政権を担うと思われる自民党の「国土強靭化計画」と公明党の「防災・減災ニューディール」の問題だ。いずれも東日本大震災の発生によって急浮上した公共事業再拡大計画だが、笹子トンネル事故がこの再拡大計画を後押しすることになるに違いない。

 まず自民党の「国土強靭化計画」の事業規模は、「3年間で15兆円」(「10年間で200兆円」という声も党内にある)という大きさだ。この中には上述の公共インフラの更新投資も含まれているのだろうが、それ以上に大きいのは公共インフラの新増設投資ではないかと思われる。

 その証拠は「国土強靭化基本法案」に示された「多極分散型の国家形成」や「複数の国土軸の形成」、「国土の均衡ある発展」など田中角栄元総理の「日本列島改造」を思わせる表現だ。具体的には高速道路や新幹線などの高速交通網、日本海側と太平洋側を繋ぐ道路を新増設するという国主導の旧来型公共投資がずらりと並んでいる。

 これら旧来型公共投資の乗数効果(生産への波及効果)はきわめて低くばら撒きによる一時的な景気効果を期待した愚策だといえる。そんなばら撒きの財源を建設国債に求めるというのだが、誰がそのツケを支払うのか。

 公明党の「防災・減災ニューディール」も「10年で100兆円」という大きな事業規模だ。その原資に復興債を応用した「ニューディール債」を充て、これを呼び水として防災減災のための民間投資を導き出すという。ただ新幹線や高速道路網を新増設する点や財源として新規国債を積み上げることでは自民党案と大差はない。

 自民党案より公明党案が多少優れているとすれば、「全国の公共インフラを対象に防災・減災総点検を実施し優先順位を決めて取り組む」としていることだ。この総点検によって人口減少で利用度が低下した公共施設の縮減や統廃合などがインフラの合理化が実現されるかもしれない。活用される公共インフラについては防災減災投資が更新投資を兼ねる形で投資が実施される可能性もある。

 公明党の「公共インフラ総点検」の考え方を活かして、 第1に乗数効果の低いばら撒き型の新増設投資を排除し、 第2に利用度の低い無駄な公共施設を廃止ないし縮減(減築)する、 そして第3に、防災減災が更新を兼ねる公共投資を優先して実施する――。自公の予想される新政権は、こういう形で笹子トンネルの崩落事故の教訓を活かすべきだと思うが、どうだろうか。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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