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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年11月

2012年11月26日 00:00

「悪い円安」を呼ぶ? 安倍氏の「トークダウン」

(2012年11月26日筆)

 安倍晋三自民党総裁の「大胆な金融緩和」トーク(発言)の結果、約1週間で円は対ドルで4.2%、対ユーロで6.6%も値下がりした。「建設国債の日銀引き受け」という禁じ手まで繰り出した効果なのだろうか。

 自国通貨の引き上げを狙った口先介入をトークアップ、自国通貨の引き下げを狙った口先介入をトークダウンという。近い将来の「総理」と目される安倍氏の口先介入は、結果として自国通貨の下落を狙ったトークダウンという性格を持ったようだ。安倍氏はそのトークダウンの成果を無邪気に自画自賛している。

 しかし、口先介入が効き目のある時は、為替相場を動かす貿易収支や経常収支、内外金利差、インフレ率、通貨への信認などのファンダメンタルズ(基礎的条件)の変化が口先介入の方向に向かっている時に限るというのが為替市場の常識だ。その市場の常識からいえば、安倍氏のトークダウンはファンダメンタルズが自国通貨の下落、つまり円安の方向を指し示していたから成果を上げたということになる。そうだとすれば、たまたま方向が合致しただけで、安倍総裁はトークダウンの成功に有頂天になってばかりはいられない。


円高要因だった経常黒字は赤字転落、内外金利差の縮小も限界に逢着
実需も投機も円安、市場は「弱い日本は売り」の姿勢を示し始めた?

 実際、ファンダメンタルズには円安方向へのシグナルが点滅している。為替を決めるファンダメンタルズの一つ、日本の貿易収支は昨年度から赤字に転落、この10月には経常収支(季節調整済み)も赤字となった。

 日本は海外からの金利配当収入が大きく所得収支は大幅黒字だ。多少の貿易赤字では経常収支が赤字に転落するとは思われていなかった。しかしそれが一時的にでも経常収支赤字に転じたのだから市場はショックだったようだ。経常収支赤字は為替の実需給面では円売り需要の超過となる。日本では「実需の円安」ともいうべきファンダメンタルズの変化が起きたと市場は驚いたのだ。

 円高をもたらした内外金利差にも変化が生じている。投資・投機筋は米国の金利が日本の金利より高くさらに金利差が拡大すると見込まれれば円を売ってドルを買い金利の高いドル資産へ投資する。内外金利差の拡大は円安要因だ。逆に内外金利差が縮小すると見込まれればドル資産に投じても儲からない。そのため金利差目的のドル買い需要が縮小、円資金は円のまま国内に滞留する。したがって内外金利差の縮小は円高要因となる。

 投資・投機筋を動かす日米金利差の代表指数は2年物国債の利回り格差だが、FRBと日銀が量的金融緩和競争を繰り返した結果、この利回り格差は著しく縮小している。2011年5月頃の日米利回り格差は0.570%程度だったが、1年半後の11月23日現在、格差は0.175%に縮小している。

 FRBの量的緩和の金利引き下げ効果はすでに大きく低下しており0.175%という日米の利回り格差がさらに縮小するとは思えない。多少縮小したとしても0.17%前後の利回り格差では、投資・投機筋は為替変動のリスクを冒してまでドルを買って日米金利差を取りに行くとは思えない。

 すでに円高要因であった日米金利差の縮小は限界に達している。かりに米国が景気の悪化をもたらす「財政の崖」の処理に成功し景気回復が本格化すれば米国の2年物国債利回りは反転上昇、日米金利差の拡大で投資・投機筋は円売りドル買いに走る。内外金利差が縮小から拡大の転換点に差し掛かるというファンダメンタルズの変化が生じ、「投機の円安」が始まるのかもしれない。

 「実需の円安」は日本の国際収支の悪化という負の側面の反映だ。「投機の円安」は米国景気の回復による金利上昇(日本は景気停滞による金利低迷)を予兆させる動きだ。そうだとすれば安倍氏のトークダウンの成功は、日本経済の衰退を見越した円売り、日本売りに過ぎないということになる。


欧米の復調で円は「避難先通貨」から「忌避・逃避通貨」に変じる?
異常な政策の結果生じる行過ぎた円安は「悪い円安」に繫がる

 もう一つ心配なのは、今回の円安が円という通貨の信認低下の結果という側面があるかもしれないという点だ。

 リーマンショック後の円高には、各国中央銀行や金融機関による緊急避難的な円買いという要素もあった。特にギリシャなど南欧諸国の政府債務不安によって生じたユーロ危機の一時避難先として円が買われ、ユーロ安円高が急速に進んだ。ギリシャ危機が表面化した2011年4月から今年7月までの1年3カ月間で円は対ユーロで約22%も上昇した。

 確かにユーロ危機の克服は容易ではない。しかし、牛歩の如くだが、EUと欧州中央銀行、IMFによる金融不安の克服、ユーロ防衛への歩みは着実に進んできている。米国も「財政の崖」さえ乗り越えれば景気回復は確かになるしQE3で量的緩和は打ち止めになる。とすれば、ユーロとドルの「一時避難先」としての円の役割は低下し円は売り戻されることになると思われる。

 注意しておきたいのは、「避難先通貨」の役割を終えた円に対して海外の投資家たちがどのような評価を下すかである。よく観察すれば日本は貿易収支と経常収支、内外金利差というファンダメンタルズは円売り方向に悪化している。投資家の判断次第で、円は、「避難先通貨」の役割を終えた途端、そのファンダメンタルズの悪さから「忌避・逃避通貨」に成り下がるリスクもあるのだ。

 日本の次の総理は日銀に国債を引き受けさせ、紙幣を刷りまくってでもインフレ率を高めるといっている。各国間のインフレ率格差が長期的な為替レートを決める要因だとされるから、日本のインフレ率が上昇すれば他国とインフレ率格差が縮まり円安がさらに加速すると予想される。その円安は原燃料から衣服雑貨まで輸入依存度が高まった日本経済に輸入インフレを呼び込みインフレ率を加速させかねない。

 一方で、インフレ率の上昇は国債の償還価値の目減りをもたらし国債売りに繫がるリスクを内包している。日本は1000兆円もの政府債務を抱えているがその買入れ能力を支える経常収支黒字が消滅しようとしている。経常収支黒字の消滅は民間企業の貯蓄を原資とする国債の買い余力の消滅を意味する。そうなれば日本国債は外国勢に買ってもらわねばない。インフレで減価するような日本国債を低金利で引き受けるお人よしの外国人などいない。

償還能力(格付)に見合わない日本の国債利回り(単位%)
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(注)GDPの政府債務比率は2012年予想、OECD調べ。利回りは11月23日現在

 日本国債の利回りはその償還能力(格付)に比べ異常に低い(上表)。国債のほとんどを国内で消化しているためだが、国内の買い余力が消滅し外国人に買ってもらうようになれば、国債の発行利回りは引き上げざるを得なくなり長期金利は急上昇する。長期金利が急上昇すれば、国債の金利支払いが累増、財政破綻に直結する。

 それを知ってか知らずか、次の総理は「日銀に紙幣をどんどん刷らせ国債を無制限に買わせる」と言ってのけたのだから始末が悪い。「国債の日銀引き受け」によって、国債が輪転機を回して刷った単なる紙屑(日銀紙幣)と引き換えに発行されるようになれば、日本円という通貨の信用はガタ落ちになる。確かに円安にはなるが、そんな円安が望ましいはずがない。

 円の信認が低下すれば日本国債は直ちに売られ、日本国債が売られればこれを大量に保有している銀行も郵貯、生損保、年金も国債値下がり損で危殆に瀕することになる。日銀試算によれば、国債の利回りが1%上昇すれば、日本の銀行は8.3兆円の国債評価損が発生するという。利回りが韓国並みの3%に上昇すれば20兆円近い評価損が出る計算だ。

 行過ぎた円安は過度なインフレをもたらし過度なインフレは国債売りをもたらす。国債売りは金融機関の危機を招き金融機関の国債売りを加速させる。行過ぎた円安は「悪い円安」に化ける危険があるのだ。 

 現総理であれ次の総理であれ、日本国債の信認ひいては円の信認を低下させるようなトーク(発言)は厳に慎むべきだ。

 幸い自民党の衆院選公約では、過度なインフレに繫がりかねない3%のインフレ目標を2%に引き下げ、「建設国債の日銀引き受け」という表現も落とすなど現実的な内容にまとまった。紙幣を刷りまくって円安にしようなどという威勢の良い「次の総理」の「トークダウン」に歯止めが掛かったのは結構なことだと思う。

2012年11月19日 14:34

突如の円安株高――市場の安倍新総理期待は正しいのか

(2012年11月19日筆)

 衆院解散が決まった14日から円安株高が一気に進んだ。16日までの2日間で円は対ドルで2円弱下落し81円台前半へ、日経平均株価は360円(4.1%)上昇し9000円台を回復した。この突如の円安ドル高は、総選挙で「大胆な金融緩和」論者の安倍晋三自民党総裁が新総理に就任することへの市場の期待が高まったためだという。このはしゃぎ過ぎとも思える市場の期待が「ぬか喜び」に終わる可能性もある。吟味が必要だ。


「無制限の量的緩和」「マイナス金利」「国債の日銀引き受け」を提案
いまや政治家の財政ばら撒きを防ぐ最後の砦となった「日銀の独立性」

 安倍自民党総裁は「大胆な金融緩和」について以下3つの方策を主張している。
第一、消費者物価2~3%を目標とするインフレ目標政策の導入とそれを達成するための無制限の量的緩和を行う。
第二、日銀への銀行準備預金の預金金利をゼロないしマイナスにする。
第三、日銀は政府が発行する建設国債を全額引き受ける。

 まず注意すべきは、これらの安倍提案が金融政策運営に関して日銀の「政府からの独立性」を保証する日銀法を脅かすものである点だ。

 特に第三の主張は問題だ。「日銀の独立性」は政府の圧力による際限なき通貨発行によって通貨価値の安定が脅かされ異常なインフレが発生することを防ぐのが究極の目的だ。安倍氏の主張する第三の「建設国債の日銀による全額引き受け」は財政ファイナンスそのものであり「日銀の独立性」に強く背反する。これへの日銀の抵抗は強烈になるだろうし、抵抗するその姿勢は正しい。安易な赤字国債発行を抑制するための「特例公債法」が3年間凍結された現在、「日銀の独立性」がいまや政治家による財政ばら撒きに対する最後の砦となっている。

 安倍氏は「日銀の独立性」を緩める日銀法の再改正も主張している。日銀再改正について各政党がどのような見解を持っているかよく分からないが、日本維新の党、みんなの党は改正積極派、民主党、公明党は改正慎重派と推測される。自民党の中にも慎重派と積極派が分かれるだろう。選挙の結果、自民党が単独過半数を獲得することがないとすれば、自公か、自公民か、自公維新か、連立の組み方次第では日銀法改正への姿勢は大きく異なると思われる。市場が期待するように安倍総裁の日銀法再改正がすぐに実現するとは思えない。


インフレ目標を達成しても、ユーロ圏では「不況下の物価高」に
日銀が資金供給しても貸出は増えない。国債の再購入に走る銀行

 第一と第二の安倍提案は日銀法を改正しなくても日銀の協力さえ得られればすぐにでも実現できる。しかし、その安倍提案が安倍氏の主張するような効果をもたらすかどうかについては疑問が残っている。

 まずインフレ目標だが、これはすでに導入されている。安倍氏は消費者物価1%という現在の目標値を2~3%に引き上げると主張している。米FRB、欧ECB、英イングランド銀行など先進国中央銀行の目標値は2%だから、日銀がそれに合わせてもなんら不都合ではない。

 しかしこれだけで日本経済がデフレから脱却できることにはならない。インフレ期待が高まり物価が上がっても物やサービスなど実物経済が盛り上がらなければ、今ユーロ圏で起きているような「不況下の物価高」(スタグフレーション)が発生することになるだけだ。

 安倍総裁が唱える「無制限の量的緩和」はたぶん金融機関が保有する日本国債を無制限に購入し市場に無制限に資金を供給するという意味だろう。しかしこれ以上、銀行から国債を買い上げ銀行に資金供給してもそれが貸出に回り投資や消費を活発化させ景気を盛り上げることができるかは、大いに疑問だ。

 すでに日銀は11月13日現在で今年度当初の普通国債発行残高709兆円の15%にあたる約108兆円もの国債を金融機関から購入している。このほかに日銀は0.1%の低利で銀行に約33兆円を貸し付けている。合計で141兆円もの巨額な資金を日銀は供給していることになり市中には十分過ぎるほどの資金が供給されている。しかし、銀行貸出は増えない。

 その証拠はマネタリーベースの伸び率が年率10%にもなるのにマネーストックの伸び率が2~3%でほとんど変わらないという形で示されている。詳細な説明は省くが、ごく単純化して言えばマネタリーベース(旧ハイパワードマネー)は日銀の民間銀行への資金供給量の増減を表し、マネーストック(旧マネーサプライ)は銀行貸出の増減を反映した数字である。確かに日銀は国債購入(量的緩和)などでマネタリーベースを大きく増やしているが、銀行貸出の増減を反映するマネーストックの伸びは殆んど変わらない状態に陥っている。

 ちなみに、銀行の預金残高と貸出残高の割合、いわゆる預貸比率が70%にとどまる。都銀、地銀、第2地銀など3業態の10月の実質預金+CD(譲渡性預金)残高が568兆円であるのに対して貸出平均残高は399兆円に過ぎない。預貸残高の差額である169兆円もの資金が余っており、その余裕資金は国債の再購入などに向けられている。


超過準備預金への「マイナス金利」の導入でも貸出は増えない
問題は1%の投資収益率も期待できない、稼げない日本にある

 日銀はこの事態を打開し貸出を増やすための仕掛けも用意している。これまで日銀は銀行の「成長基盤強化融資」を支援するための0.1%の低利融資を行ってきた。10月の金融緩和ではこれに加え銀行の貸出増加額の全額を0.1%の金利で銀行に資金供給するという「貸出支援基金」も打ち出した。この基金の供給額は「無制限」だ。日銀の対銀行無制限貸出がはじまるのだ。

 安倍提案の第三の「マイナス金利」の導入も銀行貸出の増加を促すためのものだ。日銀にある銀行当座預金のうち法定準備を上回る超過準備預金には0.1%の金利が付いている。いまは銀行は日銀から供給を受けた資金を当座預金に置いておくだけで0.1%の金利収入が得られる。しかしこの超過準備預金に付く金利をマイナスにすれば、銀行は金利を支払ってまで日銀に預けるよりその資金を金利が得られる貸出に回すようになるだろう、と考えたのだ。

 しかし、安倍提案の「マイナス金利」も日銀の「貸出支援基金」も、銀行から資金を借り入れたいと思う企業や事業家が出てこなければ貸し出されない。

 調べてみて驚いたのだが、今年8月には銀行の貸出約定平均金利が短期貸出で0.902%、長期貸出で0.989%といずれも1%を割り込んでいたことだ。1%を下回るこんなに低い貸出金利なのに借りる人がなく銀行貸出が増えないのである。つまり企業や事業家は国内では1%の資金コストを支払うだけの事業収益を上げる自信がないということになる。

 デフレ不況の原因は、日銀による思い切った資金供給拡大という「大胆な金融緩和」をサボったためではなく、年間1%以下の金利負担に耐えられない、つまり1%以下という低い投資収益率も期待できないような事業環境に日本国内が陥ったことにある。眼を転ずればアジア太平洋地域には投資収益率が10%に迫る国が多々あり、事業家はそこに投資したほうがはるかに稼げるのだ。稼げない国になってしまった日本にこそデフレの原因がある。日本を投資に値する国に仕立て直すための規制撤廃や税制改革による構造改革こそ「安倍新総理」が第一に主張すべきことかもしれない。

 もし安倍氏の「大胆な金融緩和」に反応して資金をかりに来る借り手が現れるとすれば、収益率が高い外国へ投資しようとする投資家であろう。ソフトバンクのように外国企業の買収のために借入れをおこす企業家もあろう。一方、借り放題で超低金利の円資金を借りて外国に投資する投資家もいる。いわゆる「円キャリートレード」の復活だが、これが円売りドル買いをもたらし円安を実現させることになる。

 しかし、不況に苦しむ欧州も米国も、そして新興国も、一斉に金融緩和(利下げ)に踏み切り、輸出振興のための「通貨安政策」に転じている。戦前の為替切り下げ競争を彷彿とさせる事態が世界的に進行しているわけで、安倍自民党総裁の提案は日本もその為替切り下げ競争に大々的に参入したいと言っているようなものだ。そういう状況下だから安倍氏の「大胆な金融緩和」という口先介入による円安株高も短時日で終わるリスクもある。日本の「大胆な金融緩和」が、米FRBなど他国の対抗措置(為替切り下げ政策)を導き出し再び円高に転じることも考えられるからだ。

2012年11月12日 15:56

決める独裁政治か、決められない民主政治か

(2012年11月12日筆)

 米国の大統領選挙が終わりオバマ大統領に再選されることが確定した日(10月8日)、中国では次の10年間の国家リーダーが決まる第18回中国共産党大会が北京で開かれました。

 OECD(経済協力開発機構)の予測では中国のGDPは早ければ4年後の2016年にはアメリカを追い越し世界一になるそうです。ちょっとこの予測は疑わしいのですが、今後10年以上、世界はアメリカと中国が2つの超大国となって世界に大きな影響力を及ぼすことになりそうです。

 その2つの超大国の国家リーダーが10月8日を挟んで決定されたのですから、この日は予定された日とはいえ歴史的な1日ということになります。そして、この二つの超大国のリーダー選出劇は、いつものこととはいえ、ひどく対照的なものでした。


米大統領選は国民総出演の、明るく開かれた騒々しいリーダー選び
中国では表面静かだが、閉ざされた、暗い密室で後継者を選ぶ


 米国のリーダー選出劇は、共和党、民主党の大統領候補選出から始まって本番の大統領選挙まで1年半もの長丁場でした。国民総出演の開かれた、明るく騒々しいリーダーの選出劇といえるでしょう。

 結果を見てみましょう。オバマ氏が獲得した選挙人数は総数538名中の332名(ロムニー氏206名)でしたから、選挙人の獲得率は61.7%でした。一方、獲得票数はオバマ氏6171万票に対してロムニー氏5850万票でしたからオバマ氏の得票率は51.3%でした。

 選挙人の獲得率ではオバマ氏はロムニー氏に大きな差をつけましたが、民意を正しく反映する得票率ではオバマ氏とロムニー氏の僅差だったといえるでしょう。得票率で言えばアメリカの民意は「大きな政府(平等派)」と「小さな政府(効率派)」に2分されているといえます。

 同時に行われた下院選挙ではオバマ氏の民主党と敵対する共和党が過半数を制止し議席シェアは56%になります。民主党が過半数を制する上院と共和党が過半数を握る下院の「ねじれ現象」も続きます。2010年11月中間選挙で民主党が大敗、下院で共和党が過半数を支配して以来、法案の成立率は4%前後と惨憺たるものとなっています。オバマ再選後も、「小さな政府」を信奉する共和党と「大きな政府」のオバマ民主党政権との間で「熟議の末の妥協」が得られなければ、アメリカの「決められない政治」は続きます。

 一方の、中国のリーダー選出劇はいつ始まったかよく分かりません。たぶん習近平氏が胡錦濤氏の後継者に指名された4年前の2008年第11期全国人民代表大会以前から続いているのでしょうが、それはほんの一握りの政治家による、閉ざされた、表面静かだが怨念さえ入り混じった暗い選出劇だと言えるでしょう。

 そのおぞましさは、第18回中国共産党大会の初日に胡錦濤現総書記のとなりに、昨年亡くなったと噂された87歳の江沢民前総書記がどんと据わっていたことで頂点に達したように思えます。江沢民氏はいったい何の資格で、何の肩書に従って大会に出席したのでしょうか、よく分かりません。江沢民氏は次期トップの習近平氏の後見人だといわれていますが...。


共産党員は中国総人口の約6%、ピラミッドの頂上に「チャイナ・ナイン」
米国では国民の1億1192万人が投票、約39%が大統領選びに参加


 中国の統治機構を数字で押さえておきましょう。中国の総人口は13億4735万人(2011年)です。このうち中国を統治する中国共産党員は8260万人(11年末)だそうです。中国は一党独裁ですから、総人口の約6%に当たる「中国共産党員」という一握りのエリートが残り94%の中国人民を支配していることになります。

 この8260万人の共産党員のうえに、下から167人の中央委員候補、204人の中央委員、その上位に中央委員会で選ばれた25人の政治局員がのっかるというビラミッド組織です。ビラミッドの頂上には政治局員から選ばれた「チャイナ・ナイン」と称される9名の政治局常務委員(総書記は常務委員から選出)がいて、この9名が最高意思決定者として13億人の人民のうえに君臨しているのです。

 胡氏の後継総書記の習近平氏は江沢民派、温家宝首相の後継者に内定している李克強氏は胡錦濤派とされます。「チャイナ・ナイン」が「チャイナ・セブン」に2名減員されるという報道もありますが、「チャイナ・ナイン」のままであれば総書記と総理を除く残りの7名の常務委員の人選結果は11月15日の第18期中央委員で決まり、それまでは誰が選ばれか分からないといいます。

 こうした共産党内のピラミッド型人選は党員選挙によって行われていますがそれは形式的で実際は上司や上位共産党員の引き、つまり人選は人的コネクションによるというのが正確でしょう。前任社長や前々社長である会長、相談役などによる地位禅譲という日本企業の社長選びとそっくりです。中国では胡氏という前任社長と江沢民という前々社長が密室で覇を競って後継者選びを行っているのです。

 アメリカでは、オバマ氏、ロムニー氏の得票数を合計すると1億2021万人が大統領選びに参加しました。アメリカの総人口は3億1195万人(2011年)ですからその38.6%の国民が大統領選びに参加したことになります。これに対して中国では、総人口の6%の共産党員の中の、多くて十数人の支配者、老幹部が密室でこそこそと次のリーダーを選んでいることになります。


一党独裁で「決められる政治」を推し進めた中国で巨大な矛盾が蓄積
ねじれ議会でも熟議と妥協の政治を断行、民主主義国家の優位を示せ


 一党独裁のうえ、「チャナ・ナイン」の9名で意思決定をするのですから中国に「決められない政治」など発生しようがありません。しかし、頭(あたま)は社会主義でも身体(からだ)は何でもありの資本主義のもと、一党独裁下、「決める政治」が実現した中国の姿は矛盾に満ちたものになってしまいました。

 10年前に同じような方式で江沢民の後継者に選ばれた胡錦濤氏は、それまで「改革開放路線」から生じた矛盾(官僚や党員の腐敗、階層間や利息間の貧富の格差、環境の著しい汚染など)を克服する「和諧社会」を提唱しました。しかし10年たった現在でも、「群体性」事件と呼ばれる官僚や共産党組織に対する集団抗議事件が年間20万件以上発生しているというではありませんか。

 官僚や党員の汚職腐敗は絶えず、重慶市党書記で政治局員だった薄煕来氏や政治局常務委員で総理の温家宝氏という最高級党員の不正蓄財疑惑へと深まってきました。共産党や官僚の腐敗は底無しの状態です。

 国民間の所得格差の度合いを示すジニ係数(1に近づくほど格差が大きい)は、北京国際都市発展研究院(民間)の調べによると1980年代初めの0.28から2010年には0.44に広がったといいます(「朝日新聞」11月9日)。日本のジニ係数は0.2%台、格差が大きい米国でも0.3%台といいますから、中国の貧富の差はどんどん広がっているといえます、

 こうした状態では社会主義、平等社会を標榜する中国共産党の国民統治の正当性が疑われます。この状態に憤って94%の中国国民が文化大革命当時の言葉でいえば「造反有理」に走ってなんら不思議はないのです。

 アメリカも日本も民主主義選挙の結果、政権与党が米国では下院、日本では参議員で野党が過半数を支配するというねじれ状態に陥りました。その結果、日米の政権は何も決まらない、決められない政治に陥ってしまいました。一方、民主主義のかけらもない中国では「決める政治」がどんどん進められましたが、その結果、共産党統治の正当性が疑われるほどの巨大な矛盾を蓄積させました。

 この巨大な矛盾は案外早いうちに破裂、暴発し中国経済が大混乱に見舞われるのではないかと思います。そうなれば、「早ければ2016年に中国のGDPがアメリカを上回る」というOECDの予測は間違うことになります。 

 かりに中国に何も起こらず2016年にアメリカのGDPを上回ることになるようだと、経済成長という評価基準に限っていえば、一党独裁という体制選択のほうが民主主義より正しかったということになりかねません。そうならないためにも、民主主義選挙の結果、「ねじれ議会」が常態化したとしても、政党が「熟議の末の妥協」によって一党独裁にまさる経済成長を実現できることを証明してみせる必要があります。日本やアメリカなど民主主義国の政治家の「妥協への覚悟」が問われるところですね。

2012年11月 5日 00:01

「減額補正」を通じて地方公務員給与を削減する

(2012年11月5日筆)

 ようやく特例公債法案(赤字国債発行法案)の審議が臨時国会で始まりました。自民党などは特例公債法案の成立の条件として平成24年度予算を減額するという「減額補正予算」を提案しています。減額対象として自民党は高校授業料の無償化予算や公務員給与などを挙げているようですが、小生は、他にも兼業農家への戸別所得補償予算や復興予算の流用予算なども減額対象にして欲しいものだと思っています。


地方公務員給与は国家公務員給与を6.9%上回った
財務省は地方公務員給与削減による地方交付税の「減額補正」を主張


 政府与党も「減額補正」に賛成しているようですが、注目すべきは財務省が地方交付税の減額を検討していることです。この地方交付税の減額案は地方公務員の給与を削減することを前提としていると思われます。

 その意図を財務省主計局が財政制度等審議会(2012年11月1日)に提出した資料から読み取ってみましょう。資料によれば平成24年度の地方自治体の歳出総額81.9兆円のうち21.0兆円(25%)が地方公務員の給与関係費に支出されています。これは、道路や橋など地方の公共事業費の2倍にあたります。

地方自治体歳出の25%を占める地方公務員給与関係費(平成24年度)
hyo1.PNG 対して歳入(下表)は地方税や地方債、国庫支出金(補助金)、その他合わせて60.6兆円にとどまり、残りの歳出歳入ギャップ21.3兆円は地方交付税17.5兆円と地方の借金(臨時財政対策債3.8兆円)で埋めていることになります。

地方自治体の歳出歳入のギャップ21.3兆円は交付税等で埋めている
hyo2.PNG 注目すべきは、歳出歳入ギャップの21.3兆円が地方公務員の給与関係費21兆円とほぼ同額であることが強調されている点です。財務省は赤字国債を発行してまで地方交付税をひねり出し歳出歳入ギャップを埋めているのだからせめて地方自治体はギャップの原因の一つである地方公務員の給与関係費を削減して赤字国債圧縮に協力してもらいたいと訴えているように思えます。

 資料では、財務省は地方公務員の給与が国家公務員の給与を上回っているとも主張しています。平成24年の4月から国家公務員は2年間の限定ですが、平均7.8%の給与削減が実施されました。その結果、国家公務員給与に比較した平成24年度の地方公務員給与(一般行政職)のラスパイレス指数は106.9程度になるというのです。かいつまんで言えば国家公務員より地方公務員の給料が6.9%高くなると財務省は指摘しています。

 地方自治体を統括する樽床伸二総務大臣はこの財務省試算に対して「権限のない役所が勝手な数字を出して世論をリードするのは甚だ不適切だ」と不快感を示した(日経新聞11月3日)と報じられています。財務省のラスパイレス指数の計算法が間違っているのかどうか総務省とすぐにでも調整すべきだと思いますが、たぶん財務省の計算は正しいと思います。

 財務省の計算によると、かりに国家公務員(給与カット率7.8%)並みに地方公務員給与を引き下げると1.2兆円(国民1人当たり年間約1万円)の歳出削減になります。この分だけでも「地方交付税を減額補正しよう」と財務省は提案するのかもしれません。大変結構な提案だと思います。


夕方5時にはさっさと店仕舞い、「5時から男」に変じる
地方公務員は権限委譲にふさわしい働きをしてくれるだろうか


 道州制を導入せよとか、消費税を地方税化せよとか、地方主権を叫ぶ政党・政治家が多くなりました。権限や財源を国から地方に移転すれば民意に近いところで公共事業や公共サービスが提供されるメリットがあります。その権限や財源の行使者も国家公務員から地方公務員に代わります。

 しかし危惧されるのは、権限の行使者がいずれにせよ「公務員」である点です。権限や財源の周りには利権が必ず伴います。地方公務員に権限を移行すれば汚職が国家公務員時代より少なくなるとは思えません。普段接している地方公務員を見る限り、彼らが国家公務員以上に働いているとも到底思えません。小生が取材で知り得た国家公務員たちは、日中は陳情やマスコミ取材に追われほんらいの仕事は5時から始めていました。予算作成時は超繁忙となり、国会開会中は不勉強な国会議員のお世話で徹夜が続くのが当たり前でした。

 国家公務員は、地方公務員に対して権限や財源を移譲するに値する能力があるかどうかと、よく問います。小生は、国家公務員の優越感から発するその問いに同意する気は全くありません。しかし、納税者あるいは市民の多くは、地方公務員は権限や財源を委譲される前に自ら居ずまいを正すべき存在だと感じていると思います。

 地方公務員には、夕方5時には店仕舞い、「5時から男」に変じるという人も少なくありません。市民へのサービスが市民から見て満足できるものではない場合も少なくありません。その地方公務員の給与が午後8時、9時までの残業は当たり前、サービスも良好という民間従業員の給与に比べて際立って高いことに慄然とします。


地方公務員(一般職)の平均給与は民間給与の1.47倍
地方自治体の守衛職の給与は、民間の1.9倍、高すぎませんか


 総務省の「地方公務員給与実態調査」によると地方公務員(一般行政職)の平均給与月額(諸手当を含む)は42万8745円(平成23年4月1日現在)でした。これに対して国税庁の「民間給与実態統計調査」によると民間給与(月額給与と手当)は男子平均で35万6833円、男女全平均で29万1416万円です。男女平均で地方公務員の給与は民間給与の1.47倍になります。だから地方公務員に対する大卒の就職人気が高くなるのです。

 以上は一般行政職ですが、財政制度等審議会に提出された財務省資料には、地方公務員の中の「技能労務職」の給与を民間の類似職種と比較した数字が載っていました(下表)。地方自治体の守衛さんの給与は民間の1.95倍、電話交換手は1.80倍、用務員さんは1.78倍にもなります。

地方公務員(技能労務職)と民間類似職種の平均給与月額(万円)
hyo3.PNG 以前、学校給食の調理員さんの退職金が5000万円と聞かされ「まさか」と思いましたが、この比較表を見ると「さもありなん」と思います。公共サービスを丁寧に分け隔てなく、残業も厭わず提供してくれるのであれば給料が高くても許せます。地方自治体の総職員数は279万人ですが教員、警察官を除く一般職員は167万人です。この職員たちが民間より高い給与をもらうだけの仕事をしているか疑問が多いにあります。

 財務省が地方交付税の削減を通じた地方公務員給与削減の提案に対して、総務省は賛成するのですか反対するのですか。財務省が示した以上の資料を総務省は「不適切だ」というのですから、地方交付税の削減に反対なのでしょうね。

 総務省は地方公共団体が地方公務員給与を決めるという法制度になっており、国が給与削減を決める権利はないと主張するに違いありません。しかし、地方交付税のうち自動的に配分されることになる法定税率分以外の地方交付税は国会議決を経て国が削減することはできるのではないでしょうか(地方交付税17.5兆円のうち所得税や法人税、消費税など国税の3分の1程度が自動的に地方に配分される法定税率分は10.6兆円です。残る6.9兆円は国が赤字国債を発行して調達しています)。そのあと、削減された交付税分を地方公務員給与の削減で賄うのか、福祉サービスなど一般行政経費の削減で賄うのか、地方自治体の裁量に任せられるはずです。

 特例公債法案は、ほんらい月末に平成24年度予算案と同時に成立させなければならなかった法案です。国民無視の政争の末、ここまで伸びたその罪滅ぼしに与野党挙げて「減額補正」、とりわけ地方公務員給与削減を原資とする地方交付税の削減を実現させてもらいたいものです。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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