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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年10月

2012年10月29日 15:38

維新の「リセット」と石原の「シャッフル」に惑う若者たち

(2012年10月29日筆)

 今朝読んだ日経新聞(10月29日朝刊)の世論調査結果に軽い衝撃を受けました。野田内閣の支持率が13%下落して20%になり政権維持が危うくなる危険水域に近づいたことに衝撃を受けたのではありません。他媒体の世論調査ではすでに20%を下回っているので意外感はないからです。選挙に負けるのを怖がって解散を先延ばししている姿が見苦しいと思われたからでしょう。


「維新」や石原新党への「期待」が異常に高い20歳代、30歳代
石原新党には20歳代の74%、30歳代の55%が期待、大丈夫か


 衝撃を受けたのは「第3極」への若年層の期待感の強さです。年齢別で見ると「日本維新の会」に「期待する」と答えたのは20歳代で59%、30歳代では67%を占めたといいます。維新に「期待する」と答えたのは全体では53%ですから若年層者の「維新」への期待が飛び抜けて高くなっています。

 田中真紀子文部科学大臣が「暴走老人」と揶揄した石原慎太郎氏の「石原新党」に「期待する」と答えたのは全体で46%でしたが、石原新党に「期待する」と答えた人を年齢別に見ると20歳代で74%、30歳代で55%が石原新党に「期待する」と答えていたのには、驚きを隠せないどころか不安すら感じました。

 20歳代、30歳代の若者たちは大変な困難に遭遇しています。2012年8月の日本の完全失業率は4.2%ですが15~24歳の失業率は7.8%、25歳~34歳は5.5%にもなります。働きたくても働く場がありません。働く場があっても非正規雇用比率は34.5%(平成24年4~6月期)、3人に1人は年収200万円に満たない非正規労働者です。しかも、彼らと彼らの子どもたちには前世代が残した1000兆円にものぼる政府債務の支払いを背負わされるのです。

 若者たちには、現在も将来も暗澹たるものだと思えるのも仕方がないと思います。この酷い現実、暗澹たる将来への不安が、既成政党ではない「第3極」、維新の会や石原新党への強烈な期待へ転化していったものと想像されます。

 しかし、ちょっと腑に落ちないのは、維新の会と政治理念・政策がいちばん近い「みんなの党」への若者の期待が高まらないことです。「みんなの党」は鮮度が落ち既成政党と見られているからでしょう。そして若者たちには「アジェンダ」(みんなの党の公約)などという理屈っぽい言葉より「リセット」「シャッフル」などという過激な用語のほうが今の感情にフィットするのでしょうね。


社会システムを「リセット」、官僚制度を「シャッフル」するという
だが、「リセット」後、「シャッフル」後の日本社会はどうなるのか


 日本維新の会の「維新八策」の冒頭には「これまでの社会システムをリセット、再構築」と書かれています。「リセット」とはコンピュータ用語で「初期化」を意味しますが、「一からやりなおす」というぐらいの意味でしょう。若者たちには大人の仲間入りの最初の段階から過去の大人たちに比べ酷い悪条件が待ち構えていたのです。この悪条件を「リセット」してくれる「維新の会」に期待が集まって当然かもしれません。

 石原慎太郎氏は、知事辞職の記者会見で「シャッフル」という言葉を使いました。「明治以来続いている官僚制度をここらへんでもう1回シャッフルしなかったら国民が報われない」と。「シャッフルする」とは「ごちゃ混ぜにする」とか「ランダム(でたらめ)に並び替える」という意味ですが、石原氏は「官僚制度を一からやり直す」という意味で使っているのでしょう。「シャッフル」ということばも悪条件に取り囲まれた若者たちの破壊本能を刺激したようです。

 しかし維新が「リセット」し石原新党が「シャッフル」した後の日本社会がどういう姿であるのか、維新や石原新党に期待する若者たちには想像が付いているのでしょうか。そこが実は、大いに不安なのです。

 維新の会は、「(競争に耐える)自立した個人」を盛んに主張しています。前号の本ブログでも指摘したように自助、共助、公助の範囲と役割を明確にする一方で、自助のウエートを高める米国の共和党と似た「小さな政府」(自助、競争重視)派です。若者たちは、維新が勝利し日本社会が「リセット」された後、日本は共助、公助の薄い社会に転じ、個人にはひたすら「自立」が求められる競争社会が訪れることを想定していないのではないでしょうか。

 石原慎太郎氏が「シャッフルしたい」する官僚制度は、「世界で最も成功した社会主義国――ニッポン」とも評された平等な社会を築いた立役者でした。

 官僚たちは、不況といえば地方に公共事業をばら撒き、競争から落ちこぼれたといえば過剰ともいえる生活保護制度で人々を救い、毎年多額の政府支出を行って兼業のコメ農家の所得を嵩上げし、国民皆保険を維持すると言って日本医師会を保護し、安全安心を確保するために様々な社会的規制を張り巡らし(結果、産業活動を規制し)、教育機会の平等を保障し落ちこぼれ児童対策にいそしむ、などなどの政策を与野党の政治家を抱き込んで実施してきました。

 その結果が「最も成功した社会主義国」だった。付け加えれば、その結果が官僚の天下り先の量産であり、1000兆円もの政府債務残高だったのです。

 官僚制度をシャッフルすれば、これらのかなり歪んだ「平等社会の装置」は崩されるでしょうが、はたして「平等社会の装置」を外され既得権益を失った人々の生存権は保障されるのでしょうか。

 制度の変更は、いつも既得権益者の没落をもたらします。たとえば、維新もみんなの党も揃って主張する「歳入庁」が創設されるとどうなるでしょう。所得税並みに社会保険料を厳しく取り立てられることになる中小・零細企業という既得権者は保険料負担に耐えられずばたばた潰れるでしょう。保険料を支払わなくて済むように週20時間以下の従業員を増やすことになり不正規雇用の労働条件がさらに劣化します。「歳入庁」は消費税に代わる増税装置なのです。若者たちは「シャッフル」された後のこんな社会を想像しているのでしょうか。


若者は平和憲法を破棄し導入された徴兵制のもとで中国と戦う気はあるのか
保守の品揃えは進んだが、「リベラル×小さな政府」の選択肢もほしい


 連携が予定されている「維新の会」や「みんなの党」もさすがに石原氏の「日本国憲法の破棄」、「徴兵制の導入」、「核武装」、「シナ退治」の妄想にまで付き合っていられないでしょう。近年、厳しい所得環境の中で、若者に勇ましいナショナリズムが芽生えていることは承知していますが、彼らが、経済成長の元になった平和憲法を破棄し徴兵制を受け入れて、いざとなったらお国のためだといって尖閣諸島や竹島周辺での戦さに赴くとは到底思えません。

 日本国憲法の第9条第1項には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書かれています。石原氏が弱腰といって攻撃してやまない外務官僚は、憲法のこの条項に非常に忠実だといえます。粘り強い外交交渉こそ唯一の紛争解決手段だという外務官僚のほうが石原氏よりに国民の願いに適合しているのはないでしょうか。

 中国や韓国は「日本は軍国主義だ」といっていまだに理解してくれていないようですが、世界の他の多くの国々の、平和主義国家ニッポンへの信頼は依然として高いものがあります。だからこそ、アメリカの知性を代表するワシントンポスト紙(9月21日電子版)は、「(日本は)徐々にだが、右傾化への重大な変化の真っ只中にある」と警告を発したのでしょう。

 実際の外交を預かる玄葉光一郎外務大臣は、「知事時代の言動や振る舞いをかりに国家のトップに置き換えた場合、不適切な部分がある」と石原氏の国政進出について痛烈に批判しています。石原氏は都庁を軍隊の真似事のような敬礼をして歩き、中国を「シナ」と呼び捨ててはばからない(中国人が蔑称として嫌がっています)。そんな石原氏が総理になれば、日中外交など成立しないでしょう。その一方で石原氏は、アメリカには従属しないと言っています。彼が主張する日本軍の強化、核武装はアメリカにとっても脅威です。石原氏はアメリカが日本の参加を熱望しているTPP(環太平洋経済連携協定)にも反対しているのですから、対米外交も日米安保も成立しません。

 小生、「みんなの党」や「維新の会」が展開する「小さな政府」論や自助論には賛同する部分も少なくありません。若者たちが自分たちの将来を若いリーダーを頼んで切り開いていくことにも大賛成です。しかし彼らが、石原氏の憲法破棄論や核武装論、「シナ」退治論を背景に「偏狭なナショナリズム」を推し進める勢力の一部になることを恐れます。多くの日本国民は、「暴走右翼老人」の石原氏と若い橋下氏や渡辺喜美氏が組むことを望んでいるとは思えません。

 朝日新聞の「天声人語」(10月27日付)は、「安倍さん率いる自民党など保守の品揃えに比べ、反対側、『リベラル×小さな政府』の選択肢が寂しい」と書いています。共助、公助にも優しく平和主義(国際協調主義)に徹したリベラルと効率的な政府運営の組み合わせが求められています。民主党の出番です。

2012年10月22日 13:31

議会に「妥協」を求める「ノー・レーベルズ」に学べ

(2012年10月22日筆)

 「決められない政治」は日本だけの専売特許ではありません。アメリカも事情は同じで、「朝日新聞」がその実態を「決められない2大政党」(10月22日朝刊)と題して伝えています。


2年前に中間選挙から始まったアメリカの「決められない政治」
議会紛糾の果てに連邦政府デフォルトの危機、米国債格下げに


 アメリカでは2010年の中間選挙で政権与党の民主党が敗北、共和党が下院の過半数を占めたことから上院の多数派は民主党、下院の多数派が共和党というぐあいに議会がねじれ状態に入りました。その結果、オバマ民主党政権下での法案審議はたびたび下院で紛糾、「決められない政治」に陥りました。

 昨年は、政府債務(国債などの借金)の上限を引き上げるための「債務上限法案」が政争の具に供せられました。その結果、連邦政府は借金ができず債務不履行(デフォルト)寸前の危機に直面しました。結局、法案が成立し事なきを得ましたが、格付機関は民主、共和両党の政争によって起きたデフォルトリスクを見逃しませんでした。格付機関は米国債の格下げを実施、その結果、米国債は長年続けた最高級のトリプルA格付を失ってしまったのです。

 日本でも衆参のねじれ国会を背景に野党の自民党が特例公債法案(赤字国債発行法案)を人質にとって解散を迫るという政争が続いています。38兆円の赤字国債を発行できなければ11月末にも日本政府が債務不履行(デフォルト)状態に陥るというではありませんか。デフォルト寸前まで特例公債法案が成立しないようなことになると、世界の格付機関は、昨年のアメリカと同じように、日本国債を現在AAマイナス(上から4番目、S&P、ムーディーズ)、A+(上から5番目、フィッチ)からさらに格下げすることになりかねません。日本国債は消費増税法案の成立でようやく格下げを免れたのに、です。

 政府は「つなぎ資金」として短期の財務省証券を発行ができるからデフォルトは発生しないと主張する政治家もいます(財務省は財務省証券発行を財政法違反と主張)。しかし、国民生活に直結する予算執行の裏付けになる特例公債法案を政党が解散に追い込む手段に用いること自体が許されません。不謹慎なことです。かりに財務省証券が発行できても、格付機関はくだらない政争の果てに「つなぎ資金」でデフォルトを糊塗したと判断して日本国債の評価を引き下げることになるでしょう。


共和党と民主党に「妥協」を促す米国の「ノー・レーベルズ」運動
予算や特例公債法案が成立しない場合、罰として議員の給与は支払わない


 「朝日新聞」の「決められない2大政党」の記事の中では、アメリカでは「ノー・レーベルズ(党派のレベルを張らない)」という新しい政治運動が始まっているとも伝えています。この運動は、アメリカよりはるかに質の悪い「決められない政治」に陥っている日本にも大いに参考になる運動だと思います。

 記事によると「ノー・レーベルズ」運動は、2年前の中間選挙後に始まり、現在、ブルンバーグNY市長、ハンツマン元ユタ州知事など「超党派の政治家や学者らも参加し会員が全米で60万人近くにのぼる」(朝日新聞10月22日朝刊)運動になっているといいます。

 この会は、「妥協を促す会に60万人」と記事タイトルにあるように、民主、協和の党派対立を改善しようとすることを目的としています。具体的には「米議会で民主、共和両党の指導部が超党派の委員会を作って調整に当ること、党派対立で予算が成立しない場合は議員の給与を受け取らないことなど12項目の提言」(朝日新聞)をするなどの運動を展開しています。

 日本でも党派対立で予算(及び特例公債法案)の成立がいたずらに先延ばしされたり成立が危ぶまれた場合、ペナルティとして議員歳費を支給しないようないますぐにでもルールを作成し、国家議員に適用してもらいたいですね。

 これも朝日新聞からの引用で恐縮ですが、ノー・レーベルズの共同設立者で米ブルッキングス研究所(アメリカ最高の民間シンクタンク、筆者注)のビル・ギャルストン上級研究員(公共政策)は「2大政党の協力がなくては米国の政治システムは動かない。両党が協力できる条件を整え動機付けをするのがわれわれの会の目的だ」と話しているそうです。


日本は議席を持つ政党が15もあり、民意は多様化、細分化している
自助指向が極端な政党、公助指向が極端な政党に日本人の民意は宿るか


 日本では議会に議席を持つ政党(党派)は実に15の多きを数えます。民意を反映するのが党派だとすれば、日本には15を数える民意が存在することになります。ただ単に政党内の主導権争いや些細な政策の違い、選挙に勝てるかどうかなどの判断から分裂に分裂を重ねてきた結果ですから、そんなにたくさん民意があるはずがありません。それでも、民意が2つ(2大政党)や3つ(第3極)に集約されるほど纏まっているとは思えません。2大政党を指向した小選挙区制のもとで日本の民意はどんどん多様化しているのが現状です。

 誤解を恐れず日本の15もの政党(党派)を、「大きな政府」(公助、平等)を指向する米共和党、「小さな政府」(自助、競争)を指向する米民主党になぞらえて、公助指向ないし自助指向が強い順に左から順に並べてみると以下のようになります。
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 公助指向が極端な日本共産党と社民党の対極に自助指向が極端な日本維新の会とみんなの党があります。彼らが民主党や自民党など中核政党の失敗から生じた風に乗って議席を一時的に獲得することがあるかもしれません。しかしこの両極の政党が日本の民意を代表することにはならないでしょう。日本人の多くは公助、自助に加え共助(民間の助け合い)がバランスよく配置された政治を求めていると思うからです。


強力なリーダーシップで強引に民意を一つに集約するのは危険だ
熟議を尽くし多数派と少数派が「妥協」して国民のために合意する

 また民意が多様化し細分化している現状で、「強力なリーダーシップ」によって強引に「決める政治」を断行するのは危険です。風に乗って生まれた「強いリーダーシップ」で様々な意見を強引に一つの方向に持っていくことは多様化した民意を否定することになるからです。民主主義に反します。

 発達した民主主義においては議会の多数派が最終的には政策の決定権を持ちますが、少数派の意見や権利を擁護し取り入れるというのが原則になっています。例えば選挙で100の議席のうち51議席を得て多数派となった政党が49議席で少数派となった政党を全否定することは明らかに間違いです。選挙に勝ったからといって49の民意をないがしろにしてはいけません。

 民主主義における政策決定は議会の少数派との協議(最近のことばで言えば熟議)が前提になります。議会制民主主義では熟議を尽くして、最後は多数派と少数派が妥協して国民のために合意に達することが予定されているはずです。このことは衆参がねじれていてもいなくても同じです。

 議会は熟議の結果、妥協して国民のために政策を決定するというルールや慣行を確立する必要があります。震災基本法や消費増税をめぐる民主、自民、公明の3党合意は、熟議の度合いや妥協内容に問題はありますが、熟議の末に妥協する政治の走りでした。「妥協する政治」のルールや慣行が確立されないまま、醜い主導権(政権)争いを繰り返した結果、強力なリーダーシップを呼号して極端な自助に走る政党が風に乗ってのし上がっているのです。これは危険です。

 日本にもアメリカで発生した「ノー・レーベルズ」、つまり党派対立を乗り越える「妥協を促す会」の運動が必要だと思うのですが、いかがでしょうか。橋下大阪市長がブルンバーグNY市長にならって日本で「ノー・レーベルズ」運動の先頭を走ってくれれば小生も応援したいと思います。


※過去の関連記事はこちらです。
2012年3月 2日筆「与野党議員は「妥協の作法」を身に付けよ」

2012年10月15日 11:31

ノーベル賞山中教授は苦労してチーム研究を支えた

(2012年10月15日筆)

 前評判が高かった村上春樹氏がノーベル文学賞を受賞できなかったのは残念でした。代わりに中国の莫言氏が受賞すると聞いてなんだか悔しい気持ちがしたのは、尖閣問題から生じた小生の偏狭なナショナリズムのせいでしょう。オリンピックのメダル競争と同じでノーベル賞と聞くと変に愛国心が高まるのに苦笑を禁じ得ません。

 一方、まだ50歳の現役研究者、山中伸弥京大教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されたという報道を聞いて単なる愛国心からではない大きな感動を受けました。小生の次男坊は脳科学の研究者として日夜、実験と論文書きに明け暮れています。そのような息子を持つ親としては、iPS細胞が何たるものかについてはさておき、山中教授がノーベル賞受賞に至るまでに過酷な道のりを歩まれたこと知り大きな同情と共感を覚えたからです。


「米国とは正反対の窮屈な研究環境」がこたえウツ状態
山中教授を救った奈良先端科学技術大学院大学の仕組み


 山中教授は米国留学から帰国後についた大阪市大の助手当時、実験動物のネズミの世話に明け暮れ、「米国とは正反対の窮屈な研究環境がこたえ」(日経新聞10月9日付)ウツ状態に陥ったといいます。日本の大学に特有な、教授、助教授(07年度からは准教授)、助手(07年度から助教と助手に分化)というピラミッド型講座制に根強くある閉鎖的な支配関係に山中助手(当時)は押し潰されそうになっていたようです(ご本人は上下関係などまったく触れていませんが、小生は大変だったろうなと推測しています)。

 この「窮屈な研究環境」に押し潰されていたら山中教授のノーベル賞はなかったに違いありません。潰されそうになっていた山中さんを救ったのは1991年に創設された新しい大学である奈良先端科学技術大学院大学でした。山中さんはこの大学院大学の公募に応じ助教授に採用され、留学先の米グラッドストーン研究所で手掛かりを掴んだiPS細胞の研究を本格化させたのです。

 若い、新しい大学だからこそ、全く実績はなく無名だが、どこか好感が持て何がしかの可能性を秘めていると思える山中さんを助教授に採用できたのでしょう。しかも奈良先端科学技術大学院大学は「創立当初から助教授は教授から独立したポストで自分の裁量で研究を進められるのが特徴」でした。山中さんは、他の講座制の大学のような教授の単なる手下である助教授「アシスタント(補助)・プロフェッサー」ではなく、研究面では教授と同等の資格を持つアメリカ流の准教授「アソシエート(共同)・プロフェッサー」になりました。

 ですから山中助教授はただちに一家を張ってラボ(研究室)を起こし、そのラボに修士課程に入学したばかりの若い研究者を自ら採用することができました。その時採用された若い研究者たちが山中教授とともに奈良先端科学技術大学院大学から京都大学に移籍し、山中教授を助けマウスのiPS細胞作製(06年)に成功しました。それがノーベル賞受賞のきっかけとなったのです。


ノーベル賞の共同受賞に匹敵する貢献をした高橋和利講師
山中教授は高橋講師にiPS細胞実験を任せ、生活支援に奔走


 小生、この過程での山中教授の弟子への思いやりに大きな感銘を受けました。山中教授はノーベル賞受賞後の記者会見で京都大学の高橋和利講師(小生の次男坊と同じ34歳)に対して繰り返し感謝の意を述べておられました。高橋さんは山中助教授(当時)が奈良先端科学技術大学院大学の自らのラボ(研究室)に最初に採用した修士入学者の1人でした。後に山中教授と一緒に京都大学に移り、iPS細胞の作製のためのアイデアを出し実際に実験を担当して成功させた研究者でした。高橋さんはノーベル賞を共同受賞しても不思議はないほどの貢献をしたそうです。

 しかし、研究成果を独り占めしたい研究者が多い中で、高橋講師は山中教授に感謝しこそすれ自らの手柄を誇るような様子は全くありませんでした。高橋講師は山中教授の受賞を受け「偉大な研究者の指導を直接受けられたこと、革新的な研究を最も間近で見られたことを幸せに感じております。先生からご指導いただいたこと、先生と分かち合った感動を後輩に伝えられるよう精進致します」とコメントを発表(「朝日新聞」10月9日付)しています。

 高橋講師は工学部出身で奈良先端科学技術大学院大学では山中助教授にペピット(液体の計量器具)の握り方から教わったといいます。受賞後、彼のことを山中教授は「プロジェクトを高橋君に任せたのは実験が好きで上手だったから。成果が出なくてもよいと声をかけた。『俺が生きている限り雇ってやるから好きにやれ』と言ったら、高橋君は目を輝かせて、『そうですか。分かりました』と。そうしたらあっという間にiPS細胞ができた」と語っています(日経新聞10月11日付)。

 仄聞するところによると、山中教授は、受賞するずっと前から高橋講師ら自分の研究を分担してくれた若い研究者らの功績を学者、研究者仲間に触れ回っていたそうです。しかも、山中教授は身を粉にして資金を集め、高橋さんのような何の身分保障もないポスト・ドクター(博士号取得後の若手研究者)の生活を全面的に支援していたとも言います。

 こんな情のこもった師匠に弓を引く弟子など出るはずがありません。高橋講師が山中教授の指導を受けて歴史的な研究成果をあげ「先生と分かち合った感動」を後輩に伝えたいというのは本心でしょう。高橋さん、素晴らしい先生にめぐり合えましたね。


京大iPS細胞研究所の教職者200人の9割は非正規雇用
「博士卒(ポスドク)」の悲惨は山中教授の仲間たちだけではない


 山中教授は現在でも京都から東京に足しげく通い、資金集めに奔走しているそうです。教授が所長を勤める京都大学iPS細胞研究所にはiPS細胞の基礎研究、応用研究を行う研究者など200名の教職員がいるといいます。そのうち9割が研究者を支えるプログラマーやデータ解析者、特許申請の専門人材で契約は長くて5年の有期契約、言ってみれば低い賃金と不安定な雇用(ポスト)に脅える非正規社員のような扱いの職員たちだといいます。博士号を持った研究者でも有期契約ですから雇用が安定しているわけではありません。

 山中教授は「米国では研究者に憧れる人が多い。日本も若者が憧れる格好いい研究者をどう増やすか。魅力的な仕事でないと優秀な人材は集まらない。待遇にも魅力が必要だ。低賃金では数年は気持ちで頑張れるが、それ以上は難しい。iPS細胞研究所ではまず仕組みを変えたい」(日経新聞10月11日付)と述べておられます。山中教授の発言を聞く限り、日本の若手研究者(及びこれを支える専門人材)の待遇は本ブログの「『博士卒』の悲惨」(2007年5月10日筆)で触れた当時となんら変わらない状態にあることが分かりました。

 自らマラソン大会に出て民間から寄付を集め研究資金(若手研究者、支援専門家の生活支援の一助になるのか)とする山中教授のご苦労を見ているといたたまれなくなります。幸い、ノーベル賞受賞を機にiPS細胞に絡む研究には10年間で200~300億円の公的研究費が投じられるそうです。山中先生の資金集めのご苦労の幾分かは軽減されるでしょう。

 しかし、山中教授のほかにも若い研究者を奮い立たせる素質を持った素晴らしい研究者、指導者はたくさんいらっしゃると思います。その指導者に従って昼夜を分かたず実験、解析、論文執筆に励む高橋講師のような若手研究者も多くいるはずです。それを支える専門人材も少なくありません。現代の研究は個人の才能だけでは十分な成果を上げられません。山中教授が苦心して実践しておられるように多方面から専門人材を集めて行うチーム研究が成果をもたらす時代になっています。

 復興予算を横流ししてコンクリートを作ることに悪知恵を働かせるより、これらノーベル賞を生み日本の成長に大きく貢献する多くの若い人材たちが力を十全に発揮できる環境をどう作るかを懸命に考えるのが政府・官僚の仕事ではないでしょうか。

2012年10月 8日 10:07

シロアリ官僚が屁理屈をこね、19兆円復興予算を横流し

(2012年10月9日筆)

 1カ月ほど前になりますが、9月9日にNHKで『追跡 復興予算19兆円』という番組が放映されました。これは秀逸な報道番組でした。マスコミは問題が発生すれば一斉に報道合戦を繰り広げますが、問題がいったん落着すればそれでお終いです。その後どうなったのか、事後検証が全くなされません。しかしこの番組は他のマスコミがやらなかった事後検証を徹底的に行いました。

 なお復興予算の使途をめぐる事後検証報道では『週刊ポスト』8月10日号が先駆していたこと付記しておきます。新聞の検証報道はずいぶん遅れました。

 NHKの事後検証番組では、19兆円の復興予算のうち2兆円以上が被災地復興以外に使われていたと指摘していました。復興予算に計上された5000事業のうち488事業が被災地以外の事業だったといいます。番組は、なぜ被災地復興以外の事業に復興予算が付いたのか、いくつも事例を取り上げていました。そのうち印象に強く残った、首を傾げるような事例を挙げます。


なぜ東北被災地のための復興予算が沖縄国頭村の道路予算に化けたのか
地震に対する防災、減災の名目さえ付けばどこでも使える「復興予算」


 まず、復興予算が沖縄県国頭村の国道58号線ののり面(切土、盛土で造る人工的斜面)工事(5億円)に使われていたケースです。現場では8年前から台風などに備えた護岸工事、トンネル工事等が行われていましたが、その国道工事の一部に復興予算が充てられていると聞いて住民はびっくりしていました。

 東北被災地のための復興予算が遠い沖縄県国頭村で使われているのですから、誰が聞いてもびっくりします。しかし、国道58号線ののり面工事に復興予算を付けた理由について、国土交通省の官僚は、「国道58号線は緊急輸送に使われる道路です。地震で斜面が崩壊すれば使用不能になりと住民が困ることになります。それをあらかじめ防ぐための工事ですから復興予算の目的に合致している」と臆面もなく説明していました。

 なぜ官僚にこんな説明が許されるのか。その理由は、昨年7月29日に東日本大震災対策本部(復興庁)が出した「東日本大震災からの復興の基本方針」にあります。この「復興の基本方針」に基づいて復興増税と復興国債を原資とする「東日本大震災復興特別会計」が設けられ、ここから「復興予算」が支出されています。ですから、この「基本方針」にこそ、官僚たちに「復興予算横流し」を正当化させる根拠があったのです。

 実は「復興の基本方針」には、復興を実現するために「実施する施策」の第3項目として「東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策」という記述が差し込まれていました。この記述に従えば、地震に対する防災、減災の名目さえつけば、沖縄県であれ全国どこであれ、復興予算を付けることができることになります。


被災地の公共施設建て替え予算はいろいろ注文を付けてたな晒し
被災以外の官庁施設工事は「全国防災対策費」に盛り込みすでに完成済み


 小泉改革以来、公共事業予算という大切な官庁の権限、縄張りを削られうらみ骨髄の官僚たちが、この「全国防災対策費」と呼ばれる基本方針の項目を見逃すはずがありません。番組では国頭村の国道52号線のほかに「国立競技場復旧事業(東京、文部科学省予算)3.3億円」も取り上げられましたが、これはまだ可愛いほうです。

 NHK番組をフォローした朝日新聞(10月6日付)によれば、中央合同庁舎4号館(東京)、荒川税務署(東京)、新発田税務署(新潟)、大阪第一合同庁舎(大阪)、海上保安大学校(広島)など全国約100ヵ所、120億円にのぼる官庁施設工事が耐震補強などの名目で復興予算の「全国防災対策費」から出されていました。

 津波で流された被災地自治体の庁舎や公共施設の建て替え、被災地小中学校の対震工事に対してはこまごま注文を付け復興予算がまだ付いていないようです。にもかかわらず被災地以外の官庁施設工事はどんどん進められているのです。腹立たしい限りですが、いまごろ国民が怒っても後の祭りです。

 この全国防災対策費は5年で1兆円という計画でしたが、官僚たちは今年の9月で1兆円すべて使い切ってしまったそうです。しかも国民が気付かないことを良いことに、官庁施設工事を管理する国土交通省は新年度の概算要求で新たにほぼ同額の9412億円を要求していると朝日新聞(9月13日付)は書いていました、自分たちのためならすぐやる、開いた口が塞がりません。


核融合の研究費用、シー・シェパード対策費、青少年交流費も「復興予算」
予算分捕り、権限拡大が命の官僚たちが考え出した、これだけの屁理屈


 他にも首を傾げる被災地以外の事業に付けられた復興予算が沢山ありますが、極めつけは、(1)独立行政法人「日本原子力研究開発機構」が進める「国際熱核実験炉計画(核融合炉の研究費用)」への42億円(文部科学省の管轄予算)、(2)鯨類捕獲調査安定化推進対策への22.8億円(農水省)、(3)「アジア太平洋、北米地域との青年交流」事業への74.5億円(外務省)です。

 いずれも行政事業仕分けの対象になりかねない事業ですが、これらの事業にも復興予算が付けられたのです。なぜこれらの事業が復興予算にふさわしいのか、その理由を担当官僚がNHKはじめマスコミになどに語っています。

 まず核融合炉の研究費用がなぜ復興予算なのか。文科省の担当官僚は「復興基本方針で、被災地域の産業の知見を活用し、技術開発の拠点機能を形成すると定めている。42億円は被災した青森、茨城両県に核融合に関する研究開発拠点を建設するためだ」(毎日新聞10月4日付)と説明していました。

 この官僚は、核融合研究に予算が付くならどんな屁理屈も付けて見せますという考えのようです。原発事故に見舞われた被災地・福島県では復興予算が機能せず四苦八苦しているのです。復興予算で核融合研究とはブラックユーモアです。自分のやっていることが、福島県で起きた原発事故の傷跡に塩を擦り込むようなことであることをこの官僚は全く分かっていないのです。

 「鯨類捕獲調査安定化」費用の中には、潰れかかっている、調査捕鯨を行う日本鯨類研究所への補助金18億円、反捕鯨団体「シー・シェパード」の妨害活動に対する安全対策費5億円が含まれています(朝日新聞10月8日付)。鯨研やシー・シェパードと復興予算はどう結びつくのでしょうか。

 農水省の担当官僚は「調査捕鯨が妨げられると鯨肉が手に入らず、被災した宮城県石巻市周辺の缶詰工場などの再興が滞る」(朝日新聞10月6日社説)と説明しています。官僚の頭にあるのは被災地ではなく調査捕鯨の継続だけのようですが、財源がないので復興予算に目を付け屁理屈をこねたようです。

 外務省の「青少年交流事業」ですが、確か民主党の事業仕分けで予算縮減ないし廃止になった案件ではなかったでしょうか。外務省は一般会計での復活は困難と見て「復興特別会計」での予算復活をたくらんだに違いありません。

 外務省のホームページには「青少年交流」は「キズナ強化プロジェクト」と名を変えて「アジア大洋州地域及び北米地域の41の国・地域から青少年を我が国へ招へいし、交流プログラムや被災地視察、ボランティア活動等を実施するとともに、被災地の青少年をそれぞれの地域へ派遣することを通じて、日本再生に関する外国の理解増進を目的」とすると説明しています。外国人の若者を日本に招くに当って被災地視察を2日間だけ付け加えることで「青少年交流予算」を復興予算から捻出させたのです。


「復興予算」に群がり食い尽くしたシロアリ官僚
官僚も政治家も復興予算横流しの共犯者だった


 官僚たちは特別会計になり国民の監視から遠くなった「復興予算」にシロアリのように群がり、それを食い尽くしたのです。復興予算執行の責任者である平野達男復興大臣は10月7日のNHK『日曜討論』で「復興予算のすべてが被災地対策ではなく、日本経済の落ち込みを防ぐ経済対策あるいは全国防災という形で次の災害に備えるため予算も入っている」と述べ、官僚たちの復興予算横流しを最初から是認していたかのような発言をしています。

 官僚も政治家も復興予算横流しの共犯者だったわけです。予算要求を厳しく査定するのが仕事の財務官僚も消費税引き上げの環境を整えるため景気対策としてのバラ蒔きを許容し、意図的に復興予算の横流しを見過ごしたようです。

 すべての国民は東北被災地の復興のためなら、と考えて25年間にわたる所得税引き上げ、10年間の住民税引き上げなど総額10.5兆円もの復興臨時増税を認めたのです。しかしその増税分は被災地には十分届かず被災地以外にばら撒かれてしまいました。国民の尊い善意は、なんでもありの復興方針を定めた愚かな政治家と復興予算に食い付いたずるがしこい官僚たちによって無にされたに等しいといえます。

 国民を代表する国会議員は、与野党を問わず、議会において復興予算の使途について徹底的な事後検証を行う義務があります。事後検証の結果、復興予算として不当な歳出であれば担当政治家と官僚の責任を問うべきです。まだ予算が執行されていなければ予算を減額すべきでしょう。


※過去の関連記事はこちらです。
2012年7月2日筆「大盤振る舞い、バラマキの果てに予算使い残し」
2012年7月23日筆「補正、復興追加、防災・減災と予算膨張が続いてよいのか」

2012年10月 1日 15:06

若い中国人家族と一緒に銀杏の実を拾いました

(2012年10月1日)

 台風17号の強い風が寝室の窓を激しく叩きました。その音を聞いているうちに眠り込み、夢をいくつか見ているうちに眼が覚めました。時計を見ると午前3時過ぎでした。風は収まり庭では鈴虫がリイリイと鳴いています。

 朝刊をとりに玄関先に出ると庭の一角が光って見えました。風で飛んできたビニール袋でも落ちているのだろうと歩み寄ったのですが、光っているのは月の光を映した庭の敷石でした。台風で忘れていましたが、今夜は満月でした。

 夜空に浮かんだ満月を眺めているうちに、ふと、昨日の早朝、航空記念公園で出会った2~3歳の男の子を連れた若い中国人夫婦のことを思い出しました。


マウンテンバイク風の自転車に乗って「下腹へこませ運動」の途中でした

 話は少し外れますが、小生、つい最近、家内に高価な外国製の自転車を買ってもらいました。折り畳み式で車に積み込めるマウンテンバイク風の自転車です。4~5万円はするそうです。普段ならそんな高価なもの買ってもらえないのですが、実はこの自転車、家内が長年に渡って溜め込んだスーパーのポイントカードの交換商品だったのです。

 ポイントカードの交換商品であれ、家内が小生の出っ張った下腹を見て、自転車でも漕げばたるんだ下腹がへこむはずだと思いやって与えてくれた自転車です。小生、これに跨ればサドルが高くて足が地面に付かず股ズレ状態です。ハンドルが低くて下腹がつかえる姿勢で漕がねばならずたいそうきついのですが、家内の親切に応えないわけには行きません。

 最近は、暇を見つけては、自宅からおよそ1キロ離れた航空記念公園まで「下腹へこませ運動」に出掛けるようになりました。もちろんドン・キホーテで買った9500円の「ママチャリ」に乗った家内が同伴します。昨日の日曜日も「台風が来る前に一走りしよう」と家内にせかされて一緒に航空記念公園へ出掛けたわけですが、その園内でくだんの若い中国人家族に出会ったのです。

 男の子とご主人が見守る中、ふくよかで明るい感じの奥さんが地面に落ちている銀杏(ぎんなん)を拾っていました。


御堂筋のイチョウ並木で腰をかがめておばちゃんが銀杏の実拾い

 秋が深くなると、澄み切った青空の下で映える黄金色に変じたイチョウ並木がことのほかきれいです。そのいちょう並木の雌株に銀杏の実がたわわに実りますが、小生も家内も雌株に実った銀杏にいくつかの思い出があります。

 小生が大阪駅前・東梅田にあった関西支社に転勤していた頃、たぶん日本最長だと思いますが御堂筋の見事なイチョウ並木を家族連れで歩いたことがあります。その時、イチョウの木の下におばちゃん、おじちゃんたちが腰をかがめて何か拾っている姿を見つけました。おばちゃんたちは落ちている銀杏の実を拾っていたのです。

 銀杏の実は、外側の果肉は触るとかぶれますし腐ったような嫌な匂いがします。しかしその果肉を取り去り水洗いすれば白色の殻に守られた種が出てきます。殻を割って取り出した実を焼いて食せば、少し苦味があるのですが酒の肴に最適、極めて美味です。市場で買えばそれなりの値段です。ですから、小生も家内も来年の秋には御堂筋のイチョウ並木の下で銀杏拾いに精出そうと思っていたのですが、秋が来る前に東京本社に戻されてしまいました。

 所沢の自宅に戻ってから銀杏拾いのことなどはすっかり忘れていたのですが、航空記念公園に散歩に出掛けるようになってから銀杏拾いのことを思い出しました。所沢の航空記念公園は、米軍の所沢通信基地(旧陸軍所沢飛行場)が返還された跡地に作られました。広さが日比谷公園の3個分もある埼玉県内最大の県営公園です。そんな広大な公園内を自転車でめぐっているうちに銀杏の実をつけるイチョウの木が植わっている場所が3~4箇所もあることに気付き、御堂筋の銀杏拾いを思い出したのです。

 今度こそ銀杏拾いを実行すると家内ともども決意を固めたのですが、以来20年余、若い中国人家族に出会う昨日まで銀杏拾いは実行されませんでした。銀杏の実をつけている木を確かめ次の休日の朝には必ず手袋とビニール袋をもって銀杏拾いに出掛けようと思うのですが、休日を迎えると何かの用事が出来て出掛けられなかったり、すっかり忘れてしまったりで実行されませんでした。


子ども連れの若い中国人夫婦と一緒に銀杏の実を拾いました

 昨日の朝、公園の中心部に植わっているイチョウの木の下を自転車で通り過ぎようとしたのですが、地面に銀杏の実がたくさん落ちていたのを発見しました。踏みつけられて果肉が地面にへばりついている銀杏もありました。そこに男の子を連れた中国人夫婦がいて、奥さんが銀杏の実を拾っていたのです。

 家内も銀杏の実に気をとられママチャリを止めたのですが、そこへ銀杏を拾っていた奥さんが近づいてきて「これはどのように調理すれば食べられるのですか」と聞いてきたそうです。家内は果肉を取り去り洗って殻から実を取り出し...と説明していました。小生も同じことを若いご主人に説明したのですが、ご夫妻のことばは日本語でしたが日本人の日本語ではありませんでした。

 家内が調理法を説明するついでにお聞きしたところ、航空公園のすぐ傍の団地に住んで6年になる中国人だそうです。その近辺には「中国帰国者定着促進センター」がありますので中国残留邦人の子弟なのではないかと小生は推測したのですが、家内はこれも近接する防衛医大病院に勤める中国人医師の家族ではなかろうかというのです(本当かどうか、定かではありません)。

 時は、尖閣国有化に憤慨して中国の若者が反日デモで大暴れした直後です。中国に住む親が日本で学ぶ中国人留学生の息子や娘が日本人から危害を加えられていないか、心配して電話をよこしているような状況です。池袋では狭量な日本人の一部が中国人経営の店舗に向かって報復デモを仕掛けているというニュースもありました。

 小生も家内も、高ぶり、ささくれ立ったそんな両国民の感情を憂えていたのでしょうか、気が付いたら中国人の奥さんと一緒になって銀杏の実を拾っていました。小生と家内は、かぶれることなどすっかり忘れ、腰をかがめて銀杏の実を拾い、拾った実を中国人の奥さんにせっせと渡していたのです。奥さんは恐縮して、拾った銀杏の実の半分を小生夫婦に差し出しお礼を言ってくれました。

 ほんの10分程度の偶然の出会いでした。たぶんもう一生お会いすることのない中国人家族でしょうが、銀杏の実が取り持つ縁といいますか、ささやかですが日中の心の通いができたような気がして嬉しくなってしまいました。


「安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽る政治家や論者」に気を付けろ

 そして、ノーベル賞に最も近いといわれる小説家・村上春樹さんの尖閣領有権をめぐる日中国民の「国民感情」の高ぶりを戒める寄稿文(「朝日新聞」9月28日朝刊掲載)の一節を思い出しました。

 「それは安酒の酔いに似ている。安酒は数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる。論理は単純化され、自己反復的になる。しかし賑やかに騒いだあと、夜が明けてみれば、あとに残るのはいやな頭痛だけだ。」

 「そのような安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽るタイプの政治家や論客に対して、我々は注意深くならなくてはならない」

 尖閣紛争のきっかけを作った石原慎太郎都知事は「そっちがその気なら、こっちもやってやるぞ」「寄らば切るぞ」の精神を説いています(「WILL」12年11月号)。札付きの石原氏はいまさらどうしょうもないとは思いますが、石原氏に似た発想を持つ安倍晋三自民党新総裁が「安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽るタイプの政治家」にならないようを切にお願いしたいところです。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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