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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年8月

2012年8月27日 00:31

「近いうち」の総選挙――第3極へ群がる政治家をまず疑え

(2012年8月27日筆)

 野田総理と谷垣総裁の間で「近いうちに信を問う」という約束が交わされましたが、その「近いうち解散・総選挙」がいつになるのでしょうか。

 いま有力となっている見方は「10月解散、11月総選挙」説です。その根拠は10月9日から14日まで東京で開催される国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会にあります。この総会には世界各国の財務省や中央銀行総裁が参加し200もの会議や行事が開かれ世界から総勢2万人が出席するといいます。


大事な国際外交や予算編成の合間を縫って決まる解散日程
「10月30日告示、11月11日投票」が囁かれる根拠


 しかも「東日本大震災からの再出発を期して政府が招致した通貨外交の一大イベント」(「日経ヴェリタス」8月26日~9月1日号)です。通貨・金融のオリンピックとも言える年次総会の最中、それを招致したホスト国の総理、財務大臣が自らの当落もわからぬ選挙中だというのでは日本は世界の笑いもの、国際的な信用を失ってしまいます。

 したがって野田政権はIMF・世銀年次総会を終えた翌日の10月15日に臨時国会を開きその冒頭で衆議院を解散、手続きにのっとり「10月30日告示、11月11日投票」という段取りになるそうです。それまでに違憲状態にある衆議院の「一票の格差」解消法案と赤字国債発行法案は成立させていなければならないでしょう。選挙は無効、国家歳出は困難という状態になりかねないからです。そう考えると今国会会期末の9月8日までに両法案を成立させるか、10月15日の臨時国会冒頭で両法案を成立させるしかないのですが、解散に追い込むのを使命とする谷垣自民党総裁は両方案の成立をどう処理するつもりなのでしょうか。

 この時期をやり過ごすと11月18日~20日にはカンボジアのプノンペンで東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス日中韓の首脳会合が待っています。成長アジアの先行きに対する日中韓の影響力が試されるこの会合は、出来れば選挙後に誕生する新しい総理に出席してもらいたいと思うのが普通ではないでしょうか。選挙が先延ばしされるとこの会合にレームダック(死に体)の野田総理が出席することになります(韓国の李明博大統領も死に体ですので会合は共産党政権で一貫する中国にリードされかねません)。

 もう一つ、2013年度の予算編成です。すでに野田政権の「日本再生戦略」を組み込んだ概算要求の枠組み、歳出の上限71兆円、国債発行の上限44兆円という財政フレームができ上りつつあります。それに沿って10月からは本格的な予算編成が12月末策定に向かって動き出します。総選挙によって新政権が誕生すれば野田政権下で進めていた予算編成は大幅に修正されます。麻生政権で編成されていた予算案が鳩山政権の誕生で大きく修正されたのを思い出しますが、予算案の修正を障害なく進める(越年を避ける)には11月半ばには新政権が誕生していることが望ましいということになります。

 選挙の実施や政権選択という「政局」の行方は、政治家たちの権力抗争(権謀、力関係)の結果決まるというものではないことを改めて知らされたように思います。選挙日程は、外交や予算編成などの政策決定に絡む日程(スケジュール)に支配されているのです。また外交や予算編成という日本の国益や国民の利益に直結する日程が自分の選挙のことしか考えてない政治家の都合で混乱することには大きな疑問があります。


「友愛」の鳩山側近から「競争」の橋下維新に鞍替えする変節漢
大阪維新の会の「新保守主義」「新自由主義」の本家は小泉純一郎


 もう一つ、「近いうち解散・総選挙」について気になることがあります。国民人気の高い橋下徹大阪市長の「大阪維新の会」を民主、自民とは異なる第3極というそうですが、既成政党、既成政治家たちがこの第3極に色目を使い群れ集い始めています。この恥知らずでうっとうしい政治家の有様はいったい何なのでしょか。

 国政を預かる政治家とは、大義、信念、政策の旗の下に政党に集い、その旗を国民に問うて政権を得て、これを予算編成などの政策に落とし込み国家(時には世界)と国民の利益を実現する人々を指すのではないでしょうか。

 思想、政策の是非、実現可能性などに大いなる疑問がありますが、「大阪維新の会」には「新保守主義」「新自由主義」というアメリカの共和党に似た「旗」が明確に存在します。ところでいま維新の会に群れ集い始めた既成の政治家たちにもこれまで掲げてきた「旗」があったはずです。これまで掲げてきたその「旗」はどうなったのでしょうか、どうでもよいのでしょうか。

 例に挙げて申し訳ないのですが、鳩山由紀夫元総理の側近で次の選挙では「維新の会」から立候補しようとしているといわれる松野頼久議員(民主党。熊本1区選出)のケースです。このケースは橋下氏らに群がる議員の中でも、民主党からの離党議員、民主党に残る反野田議員に共通するように思います。

 松野議員が入れあげた鳩山由紀夫氏の政治哲学は「友愛」と「共生」ですから橋下氏の「自立」と「競争」の哲学とは真反対です。そして松野議員は農業県でもある熊本選出だからでしょうか、民主党内に作られた「TPPを慎重に考える会」の幹事長におさまっていたはずです。「自立」と「競争」を重んじる橋下氏の「大阪維新の会」がTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を表明しているのは当然至極で分かりやすいのですが、TPP反対の松野氏はその従来の主張を捨てて維新の会から立候補するのでしょうか。

 橋下氏らがよって立つ「新保守」「新自由」の本家は小泉純一郎元総理の政権で、その残党である中川秀直、塩崎恭久、菅義偉、小泉進次郎の各氏(わが埼玉8区選出の柴山昌彦議員も同列のようですね)、あるいは小泉政権の後継を担った安倍晋三元総理が「大阪維新の会」に合流しても不思議ではありません。

 「みんなの党」は「大阪維新の会」と政策、理念が殆んど同じ、政策ブレーンも共通のようですから合流しても不都合はないはずです。ですが、合流に積極的な渡辺喜美代表と消極的な議員との間で内紛が発生しているようですから、「旗」が同じでも政治家には醜い主導権争いはつきものなのですね。クワバラ、クワバラ...。


「選挙に勝つためなら」の小沢一郎氏は、新自由主義へ再変節するのか
単なる頭数――小泉チルドレン、小沢ガールズの再生産はごめんだ


 「国民の生活が第一」の小沢一郎氏も橋下氏を気に入っているようですが、まさか合流するなどといわないでしょうね。あなたには清算すべき過去があります。小沢氏が清算すべき過去の一つは陸山会事件(政治とカネ)問題ですが、それ以上に清算すべきは政治理念の変節問題です。

 著書『日本改造計画』に明らかのように、小沢氏の自民党離党後、新生党当時の政治理念は、いまの橋下氏と共通する「新保守主義」「新自由主義」でした。それが民主党との合流を機にこれまで敵だったはずの日教組、自治労、連合と手を組み、いつの間にか「社会民主主義、反自由主義」に転じたのです。日教組出身の参議院議員輿石東氏(現・民主党幹事長)、自治労出身の高島良充氏(引退、元民主党筆頭副幹事長)が小沢氏の子分だったことは記憶に新しいところです。

 その社民主義、反自由主義の名ごりは「国民の生活が第一」という新党名にも色濃く残っています。小沢さん、小泉総理に対抗するために捨て去った「新保守」「新自由」の旗を再び立てる気なのですか。TPP反対の一族郎党議員は切り捨てるのでしょうか。選挙(小泉から権力を奪う)のために変節し、今度は橋下氏らに同調して選挙で生き残るために再変節する。こんな所業は「信念を曲げない」のが売りの小沢氏にはふさわしくありません。

 まだ橋下氏らの選挙公約(マニフェスト?)となる完成された「維新八策」は公表されていません。しかし、まもなく公表する「維新八策」に合意するかどうか、橋下氏らはそれを選挙目当てに群がる既成政治家を振り落とす「踏み絵」にするそうです。その橋下氏の考え方は立派だと思います。

 既成の政治家だけでなく、本心では議員職を新しい就職先の一つであるかのよう考えている維新塾の塾生にも厳しく適用してください。そうしなければ維新塾出身の当選議員は、政策も理念もない風に乗って当選しただけの小泉チルドレン、小沢ガールズと同じです。たんなる頭数に過ぎない素人の政治家集団を再生産してボスが権力を振るうというような有様は見たくありませんから。

2012年8月20日 14:04

日中、日韓関係の「大局的な判断」を大切にすべし

(2012年8月20日筆)

 今日からまた国会が再開されますが、今度は韓国の李明博大統領の竹島上陸と中国の活動家の尖閣諸島(魚釣島)上陸をめぐって政府・民主党の「外交上の不手際」や「弱腰外交」を口汚く罵る野党の追及が始まります。青筋を立てて野田総理を罵る谷垣自民党総裁の姿を思い浮かべるだけで、イライラしますし不愉快です。気が滅入ります。

 ことは領土という国家主権に関わる外交問題です。しかも関係当事国である日中韓いずれも一歩も譲歩することのない、ナショナリズムが絡む頑固きわまる問題なのです。日本の政治家たちが罵り合って四分五裂していれば、相手国には思う壺、彼らは日本の足元の混乱に乗じて、竹島、尖閣諸島に対する日本の領土主権を奪う地歩をどんどん固めてくるに違いありません。政治家は領土という国益のために争わず小異を捨て、共同歩調をとるべきでしょう。

 もし自分の党が政権の座にあれば日本の領土主権を回復できるなどと主張するものがあるとすれば、それは国民を欺く主張です。自民党であれ、今人気の橋下新党であれ、どの政党が政権をとっても、「韓国が竹島を日本に返還する」「中国が領有権の主張を放棄する」というような根本的解決が得られる問題ではないのです。強くでれば中韓との紛争は激化し、融和的に振舞えば中韓が付け込んでくるという厄介な代物です。選挙に勝つための道具として竹島や尖閣問題を扱う政党があるとすれば、それこそ亡国の政党というほかありません。


小泉総理にならい「大局的な判断」からと野田総理も言うべき
日中韓経済の密接な相互依存関係を崩さないのが「大局的な判断」


 小泉純一郎総理当時の2004年、今回と同じように活動家7人が魚釣島へ不法上陸する事件が起きました。しかし日本政府は、逮捕された活動家たちを送検せず2日後には全員中国に強制送還しました。なぜ送検せず強制送還にとどめたか、その理由を「日中関係に悪影響を与えない大局的な判断からである」と説明しました。日中関係の悪化、つまり大局など気にせず靖国参拝を続けた小泉総理が「大局的な判断」を口にする滑稽さは隠せませんが、魚釣島上陸事件をめぐる小泉氏の「大局的な判断」そのものは大いに評価されるものでした。

 野田総理も日本政府の代表者として小泉総理にならい「日中関係の大局的な判断から強制送還にとどめた」と日本国民に向け表明して欲しいと思います。

 「大局的な判断」とは何でしょうか。ひとつは日中韓3国の経済をめぐる密接な相互依存関係を崩さないという判断でしょう。これについては、朝日新聞8月19日付の「上陸の波紋」という1面コラム記事が分かり易い数字を上げていますので紹介します。

 日中韓と全世界との貿易のうち、3カ国での取引が占める割合を示す「域内貿易比率」は1990年に12.3%だったが、2011年には21.3%と倍増した。3カ国の国内総生産(GDP)は欧州連合に並ぶ規模だ――。

 日本にとって中国は輸出、現地進出のいずれの面でももはや欠くことのできない存在です。一方、日本へ大量に輸入されている中国製品は日本人の生活になくてはならないものになっています。日本にとって韓国はアジアでは中国に次ぐ輸出先になっているのです。観光客など日韓の人的交流は年間500万人にも達しています。韓国も日本には不可欠な存在です。

 日中、日韓の経済関係は今や日本の生命線です。中国、韓国にとっても同様でしょう。日中韓経済の相互依存関係は領土紛争によって突きくずすことができない段階に達していることを自覚すべきでしょう。さらに、日中韓経済は欧米、アジア経済と密接につながり、世界経済にも大きく貢献しています。日中韓経済、ひいては世界経済を壊してはならないとするのが、日本政府が下す「大局的な判断」の第一でしょう、


ナショナリズムをかきたて、抜き差しならない状況に追い込まれる
あってはならない戦争という手段での領土紛争の解決


 もう一つの「大局的な判断」は、領土をめぐる細かい対立・抗争の繰り返しが双方国民のナショナリズムをかきたて、当事国政府を「抜き差しならぬ状況」に追い込むリスクを回避するという判断でしょう。

 「抜き差しならぬ状況」とは、あってはならないことですが、戦争という手段を用いた領土問題の解決です。日本が自衛隊を使って竹島を武力で奪還するとすれば日韓は交戦状態に入らざるを得ません。日本国憲法では「国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄する」と謳っていますから自衛隊の武力行使は明らかな憲法違反です。

 また日韓が交戦しても共に死者を出して憎しみを重ね、ナショナリズムを高揚させるだけです。何の解決にもなりません。交戦で日韓が疲弊すれば、中国、ロシア、北朝鮮など日韓両国の「潜在敵国」を喜ばせるだけです。

 領土問題のような国際紛争を解決するには、二国間交渉、国際司法裁判所などによる国際的調停がありますが、いずれも行き詰まっています。ただアーミテージ元米国務副長官らも提言していますが、アメリカを仲介者として歴史問題や竹島問題をめぐる日韓紛争を解決するという方法が残されています。

 北朝鮮の核兵器や中国の太平洋進出に神経を尖らすアメリカにとって、軍事同盟を結び自由主義という価値観を共有する日韓がいがみ合っている状態が好ましいはずがありません。アメリカが仲介者となって日韓がともに譲歩し歴史と領土をめぐる長年の紛争を「和解」に導くという方法は、検討に値するのではないでしょうか。


中国にとって尖閣諸島は核心的利益、「いつか奪い返す領土」
中国の武力行使を抑止するには日米軍事同盟の再強化しかない


 これに対し中国との尖閣諸島をめぐる紛争は厄介です。彼らの尖閣諸島領有の根拠は歴史的にも国際法上も根拠薄弱ですが、彼らはそんなことはお構いなしです。中国共産党は独立運動が盛んなチベット自治区や新彊ウイグル自治区、台湾と並んで尖閣諸島を含む東シナ海を「中国の核心的利益」としています。核心的利益とは、チベット、ウイグル、台湾は「どんなことがあっても手離さない領土」、尖閣諸島は「いつか奪い返す領土」であるという意味でしょう。

 中国当局は、石原都知事が尖閣諸島の購入、国有化を表明して以来、少し気になる言辞を弄し始めています。胡錦涛主席らの中国首脳の本意ではないでしょうから過剰な反応は禁物だと思いますが、やはり気になります。

 台湾の有力紙「聯合報」などが7月12日の電子版は、中国の国土資源省国家海洋局が所管し海洋権益における法執行を担う「海監総隊」の副総隊長が、「もし日本が釣魚島問題で挑発し続けるなら、一戦も辞さない」と発言したと報じました。現場が「一戦も辞さない」というのですから不測の事態も予想されます。

 もう一つは中国共産党の機関紙「人民日報」の7月13日付のコラム記事です。同紙は尖閣諸島の小島の命名や購入計画、視察などを列挙して「日本は中国を挑発することで自分に陶酔している」と断じ、そのうえで「国と国との関係は子供の遊びではない、挑発が度を越せば、釣魚島問題を制御できなくなる危険性がある」と強調、さらに「日本の政治家たちはその覚悟があるのか」と激しい口調で述べています。

 「人民日報」がいう「制御できなくなる危険性」とは、中国軍はいざとなれば武力行使も厭わないという意味だと解説してくれる専門家もいました。杞憂であれば良いのですが、専門家の中には、尖閣諸島の購入や国有化が実施される来年3月ごろ、中国軍は「日本の挑発が度を越した」と判断して武力上陸を仕掛ける危険を指摘する向きもあるそうです。これに対し日本が尖閣諸島防衛の自衛権を初動すれば、日中は武力衝突状態に入ることになります。

 中国が尖閣諸島で武力行使することを防ぐ方法は、一つしかないように思います。2010年の中国漁船衝突事件の際、クリントン米国務長官が「尖閣諸島は安保条約第5条の適用範囲に含まれる」と前原外相(当時)に約束してくれたことが重要です。尖閣諸島に中国軍が武力介入すれば米国の沖縄駐留の海兵隊が自衛隊と合同で防衛出動するかもしれないという想定こそ中国軍に対する最大の抑止力になるはずです。

 いま普天間基地に導入されようとしている新型輸送機「オスプレイ」は尖閣諸島に防衛出動する米海兵隊を運ぶ輸送機になります。その意味で「オスプレイ」の沖縄配置は、尖閣諸島、ひいては沖縄への中国の軍事的脅威に対する抑止力になります。

 日中韓にとって領土問題はのどに刺さった小骨ですが、この小骨は今後も容易に抜き去ることのできない小骨です。しかし、根本的解決が望めない以上、のどに刺さった小骨と騙し騙し付き合うほかはありません。しかし、日本は全政党挙げて日米同盟の再強化によって日韓関係の修正、中国に対する抑止力の強化を進めるという努力を怠るわけには行きません。そのような準備を整えながら、日中韓経済の相互依存関係を崩壊させないように問題解決の時を辛抱強く待つほかないでしょう。

2012年8月 6日 13:47

だれが「安全」の代償(コスト)を支払うのか

(2012年8月6日筆)

 今から42年前にもなりますか、1970年に刊行されたイザヤ・ベンダサン著『日本人とユダヤ人』(山本書店刊)は「日本人は水と安全はタダで手に入ると思っている」と指摘しました。

 乾燥地帯に住むユダヤ人は「水は高価なものだ」と思っているし、多民族から迫害され続けた歴史をもつユダヤ人は「安全に膨大なコスト」を掛けてきた。これに対して豊富な雨量に恵まれ周囲を海に囲まれた日本列島に住む日本人は「水と安全はタダで手に入る」と思っているという趣旨だったと思います。

 当時の日本人の多くは戦争放棄をうたった「日本国憲法」の信者であり「安全」を保証するコストである自衛軍の保有すら嫌悪していたように思います。これを読んだ小生を含む憲法の信者たちはイザヤ・ベンダサンの見方に強い抵抗感を持ったと記憶しています。

 しかし現在の日本人を観察していると、イザヤ・ベンダサンこと山本七平氏(刊行元の山本書店店主)が指摘した42年前とまったく変わらず依然として「安全はタダで手に入る」と思っているように見えてなりません。この現実を前にイザヤ・ベンダサンの見方に抵抗感を持ったわが不明を恥ずるばかりです。


化石燃料増による発電コスト、CO2排出のコストは国民が負担
再生可能エネルギーの買い取り総量増加に応じ電力料金負担も累増


 まず原発再稼動の問題です。「再稼動反対、原発ゼロ」を主張する方にお聞きしたいのですが、「安全はタダで手に入る」と思ってはいませんか。再稼動反対は結構ですが、原発不稼動に伴う「安全」の確保はタダでありません。

 すでに原発の稼動停止によって、旧式で非効率な火力発電所の稼動が再開されたうえ輸入する化石燃料費が急増、電力料金という生活の基礎コストの上昇(増税と同じです)が始まっています。このままだと電力会社の多くは蓄えを失い電力値上げを申請せざるを得なくなります。

 火力発電所、特に石炭、石油燃焼の火力発電の稼動拡大はCO2排出量を増やし地球温暖化というコストを支払うことになります。それを避けるため火力発電を増やさず原発の代替として太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの導入を急ぐとすればさらにコストが増えます。

 7月から始まった再生可能エネルギーの固定価格全量買い取り制度によって初年度の電力料金(一般家庭)は月平均87円上乗せされることになりました。月100円玉ひとつで「安全」な再生可能エネルギー電力を手に入れることができると思い込んでいるとすればそれは大いなる誤解です。

 上乗せされる電気料金は再生可能エネルギー発電の導入が進み買い取り総額が増えれば増えるほど増加します。初年度の買い取り総額は約2600億円程度ですが、現在の太陽光発電でいえば1kwhあたり42円というべらぼうに高い価格(太陽光発電の発電コストは中国製の低価格太陽光パネルを採用すれば30円まで下がるとされる)が続くとすれば、電力中央研究所の推計では買い取り総額は2015年1兆2600億円、17年3兆300億円に拡大する見通しです。

 買い取り総額が増えれば使用量に応じて所帯割で電気料金が上乗せされます。電力中央研究所の試算では一般家庭の月額負担額(上乗せ料金)は15年に約400円、17年には約1000円まで上昇する見通しだといいます。電力中央研究所は電力会社の身内だから再生可能エネルギーの普及にとって不利な試算を出したと非難する人もいるかもしれませんが、上乗せ電力料金を決める買い取り総額は再生可能エネルギーの普及によって自動的に増えるものですから、前提さえはっきりしておけば試算に裁量が入る余地はありません。

 誤解がないように申し上げますが、小生もいずれ日本は原発ゼロに向かわざるを得ないと覚悟を決めています。しかしその一方で化石燃料費の増加と再生可能エネルギーの導入費用の両方が電力料金に上乗せされても仕方がない、少ない年金収入の中から上乗せ電気料金を支払わざるを得ないと覚悟を決めています。発送電を分離すれば効率化され電力料金が下がるなどと根拠に乏しい期待などもっていません。


オスプレイにも「787」にも「絶対安全」はない、あるのは事故発生確率
中国、北朝鮮の軍事的脅威にオスプレイ、米海兵隊の抑止力は必要ないのか


 他にも「安全はタダで手に入る」と思っている事象があります。例の新型輸送機「オスプレイ」の普天間基地配備の問題です。オスプレイの配備に反対する人々はオスプレイが過去3回事故を起こした危ない軍用機だから配備には反対だと主張しています。政府も「オスプレイの安全性が確認されるまで日本国内では飛行させない」と「安全」の確認に躍起です。

 しかし、今大売り出し中の最新の民間旅客機ボーイング「787」、エアバス「A380」、さらに国産ジェット機「MRJ」は「事故率ゼロ、絶対安全」なのでしょか。防衛庁が次期主力戦闘機として米国防省から購入する予定の「F35」戦闘機は決して事故で落ちることはないのでしょうか。航空機など大型技術に「事故率ゼロ、絶対安全」などありえません。

 事故率は確率の世界です。例えば普天間基地に現在配備されている「CH46」(オスプレイ配備でリタイヤーの予定)はすでに40年以上も使用してきた老朽機です。「CH46」の事故発生確率はオスプレイの事故発生確率より低いのでしょうか。あるいは「787」「A380」「MRJ」「F35」の事故発生確率と比べてどうなのか、比較の問題でしょう。オスプレイ以外の航空機の導入に反対しないのはなぜなのでしょうか。

 かりに「オスプレイの事故発生確率がきわめて低い」と日米当局が調査結果を発表しても、オスプレイ配備に反対している人々が賛成に転じる見込みは殆んどありません。反対の本当の理由が他にあるからです。オスプレイが配置される予定の普天間基地の移転・移設問題がいまだ解決されず、日本の安全保障の沖縄依存が縮まっていないからでしょう。沖縄の人々がオスプレイの配備を「安全」をタテに反対する心情は良く理解できます。

 しかし他の日本人が「事故ゼロ、絶対安全」を求めてオスプレイの配備に反対しているのには首を傾げざるをえません。日本は北には北朝鮮、南には中国という「安全への脅威」を抱えています。特に中国海軍の太平洋進出は異常です。中国が尖閣諸島の領有をめぐって不測の軍事的事態を引き起こす危険すらあります。沖縄に配備されるオスプレイとそれを駆使する米軍海兵隊の存在は中国の軍事的脅威に対する強力な抑止力になるはずです。

 中国や北朝鮮の軍事的脅威が実在する以上、オスプレイの配備は日本全体の「安全」にとって不可欠だといえると思います。オスプレイ配備に反対する沖縄以外の日本人は中国などの軍事的脅威から身を守るという「安全」のコストどのように支払うつもりなのでしょうか。


オスプレイもいや、思いやり予算もいや,TPPもいやでは...
結局、「安全のコスト負担はいや」、「安全はタダ乗りするもの」なのか


 まさか、「行動範囲が格段に広がるオスプレイなら海兵隊と一緒に米国のグアム基地に配備すればよい」などというのではないでしょうね。オスプレイは一機6227万ドル(約50億円)だそうです。それに海兵隊の配備経費が加わりますからグアム基地への移転は米国の負担を大きくします(海兵隊の軍事展開上も問題がある)。米国軍は日米安保条約にもとづいて日本を助けてくれるようですが、日本の自衛隊は憲法の建前から米国を守ることできません。そんな片務条約のうえに「思いやり予算」は削れ、「グアムに海兵隊を」、さらには「米国主導のTPPはいやだ」といわれては、お人好しの米国人でも怒りがこみ上げてくるはずです。

 オスプレイの「絶対安全」を求める沖縄以外の日本人は。結局、米国の安全保障に「タダ乗り」しようとしていることになりますからね。イザヤ・ベンダサンがいう「安全はタダで手に入ると思っている」どころか「日本人は米国人という他人が提供する安全にただ乗りしようと思っているのか」といわれても文句は言えないでしょうね(米国の対日担当官の多くはそう思っています)。

 日本の国論は、オスプレイの配備、原発再稼動、消費増税をめぐって二分、三分して纏まる気配がありません。これらの反対者は同一人物であることが少なくありません。紙幅がないので詳しくは触れませんが、消費増税反対も「社会保障という安全網へのタダ乗り」「財政破綻という近い将来のリスクからの逃避(安全の無視によるコスト負担の拒否)」を主張しているように小生には見えます。その意味で、安全保障にタダ乗りするオスプレイ反対論者、安全のコストである電力料金負担を嫌う原発再稼動反対論者と根っ子では一致しています。

 反対するのは大いに結構ですが、「安全」には代償が付き物、コスト負担なしの「安全」はありえないことを忘れないで下さい。今はあの世で日本人をじっくり観察しているベンダサンこと山本七平さんに笑われないように。


※次週(8/13)は休載いたします。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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